I.B.（そこそこリアルな冒険者の性春事情！）

1st season 第四章

082 フライヤー

「で、この裏返しに文字を彫った木の板に、こういやってインクを塗るだろ？で、この板を紙の上にのせて～、剥がすとあ～ら不思議っ！」

「「「「「おおおっ！」」」」」

「これが基礎理論な？ナルドさんOK？」
「・・・おう。一回彫れば何度でも同じ字が紙に写せるのか・・・すげーけど、俺の仕事じゃねーだろ？」
「はいじゃあ次のステップね？今度はこの2cm角の木材に、一文字ずつ彫っていきます・・・ナルドさんも手伝ってよ」
「あー、なんて彫りゃいいんだ？」
「じゃ、『J』『U』『L』を裏返しでお願いします」

サクサク　サクサク

「おう、出来たぞ？」
「はい・・・こっちも出来たと。じゃまずは俺の彫った5個の角材を、バラけないように紐で縛って、インクをつけます。で、ペタコンっと」

S　Y　R　I　Aシリア

「あたしの名前っ！」
「そそ、で今度はこの三本をナルドさんが彫ったのと交換して、再びペタコンっ！」

J　U　L　I　Aユリア

「わたしの名前に変わりましたっ！」
「と、いうわけで、この文字・・・活字って言うんだけど、金属製のこれを、大量に作るのがナルドさんの最初の仕事です」
「なるほどな・・・同じサイズの金属棒に彫っておいて、並べ替えて使うのか・・・ってーと、この棒を挿す枠とかも欲しくなんな」
「はい、そっちは木製でいいんで俺がやっときますが、出来たら文字の方は1cm×1cmで、高さは・・・8cmにしましょうか？」
「任せなっ！同じもの複製するなら金属魔法でいくらでも行けっから、最初の原型作っちまえばすぐ出来るぜ！」
「宜しくお願いします～。俺は小道具関係作っとくんで」

「ねぇ？あたしらは何すればいいの？」
「そうだな、無料開放日のお知らせだから、文章考えといてくれ。と、その前に、皆で紙とインク買ってきてくれる？1万枚くらい？質は悪いのでいいから」
「質が悪いって言ったって、結構な額よ？そもそもそんなに無いんじゃない？」
「あー、その辺は任せる。バラ撒く為のチラシだから、安ければ安いほどいい。でも最低でも1000枚は欲しい」
「わかった・・・行ってくるわ」

俺が作るのは印刷機・・・と言っても、活字を並べる木箱に、プレス用の蓋が蝶番でくっつくだけ。
チラシはA6サイズあたりで充分だけど、絵本用のA4サイズも量産しておこう。

ギコギコ　ザリザリ　カンカン　ギコギコ

あ、インク皿とローラーも欲しいな。

ギコギコ　ザリザリ　カンカン　ギコギコ

「買ってきたわよっ！」
「・・・ビキニじゃない・・・」
「当たり前でしょっ！あんなので外出られるワケないじゃないっ！」
「・・・あとで、また着てくれる？」
「っ！・・・まぁ、いいわよ・・・あとでね？」

「イヤッホゥ！、ナルドさん、こっち出来ました！」
「あー、こっちは20セット？くらいは出来てんな」
「じゃ、引き続きお願いします。あ、文字の無い『空白』と『.』と『,』もお願いします。俺ら文章考えちゃいますんで」
「おう」

「よしっ、じゃ文章決めるぞ。うーん、折角だから『神じん理教会』名義で炊き出しもやるか」
「いいわねっ！どうせならトコトンやりましょっ！」

####　　白兎亭　スパリゾート無料開放のお知らせ　　####
日頃銅貨一枚2千円でご利用いただいている、白兎亭のスパリゾートを、毎月1日、11時より20時まで無料開放いたします。
スラムの住人や孤児達も大歓迎。
さっぱりと全身キレイになって、一ヶ月の疲れを癒やしましょう。
尚、当日は神じん理教会から、食事の振る舞いもあります。
但し、他のお客様に迷惑をかける人はお断りしますよ？
施設の入り口で洗浄出来るので、汚れたままでも大丈夫。
当日は水着も無料貸し出しです。
ご質問は白兎亭か神じん理教会まで。
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「どうだろうか？」
「いいわねっ！」
「おう、じゃ、活字並べよう・・・ユリア、やってみて」
「はっ、はいっ！」

「字が逆で・・・順番も逆なので難しいです・・・」
「うん。俺もやったことないからコツとかわからんっ！」
「あんた・・・」
「しょうがないじゃん？前世でももう使われてなかった技術なんだよっ！」

「なのに知ってるの？」
「あー、そういう古い資料が結構あるんだ。でも、使い方までは知らない。っていうかこの世界にもハンコはあるんだから、俺がやらなくても誰かがそのうち思いついただろ？」
「で、できました？」
「じゃ、試し刷りするぞ。まずはインク皿にインクを出して～、ローラーで活字に塗っていきます。アベル、やってみて」
「わ、わたしか？やったことないぞ？」
「この世界ではまだ誰もやったことないから。ユリアが世界で初めて活字を並べて、アベルが世界で初めてインクを塗る、そしてシリアが世界で初めて印刷をする」
「・・・き、緊張するな。塗るぞ？」
「おう」

べちょ　塗り塗り

「こ、こんなものか？」
「あー、いいんじゃないか？じゃ、シリア、その蓋の上に紙置いて。四箇所留め金で固定する」
「・・・こんな感じ？」
「よし。あとは蓋を閉じて、少し押し付けてから蓋を開けるだけ」
「やるわよ？」

パタンっ！・・・・・・・パカッ！

「「「「「おーっ！」」」」」

「ちょ、俺にもやらせろや！」

パタンっ！・・・・・・・パカッ！

「「「「「おおーっ！」」」」」

「じゃ、この調子で千枚ほど刷っちゃおうか」
「これ、楽しいわねっ？」
「まっ、最初だけだな。すぐに飽きるだろ」

パタンっ！・・・・・・・パカッ！
パタンっ！・・・・・・・パカッ！
パタンっ！・・・・・・・パカッ！
パタンっ！・・・・・・・パカッ！
パタンっ！・・・・・・・パカッ！

「不思議です・・・同じ紙がどんどん出来てく・・・」
「『カイン・ローテ(仮)』作った時にこれがあれば・・・9枚でも結構大変だったわ」

パタンっ！・・・・・・・パカッ！
パタンっ！・・・・・・・パカッ！
パタンっ！・・・・・・・パカッ！
パタンっ！・・・・・・・パカッ！
パタンっ！・・・・・・・パカッ！

「ちょっと飽きてきたわね・・・みんな呼んできてやらせるわっ！」

タッタッタッタ

「ほれ、ライザ、これ、蓋閉じてみ」
「あ？こうか？」

パタン

「で、開けてみ？」
「・・・何の意味があるんだ？」

パカッ

「おぁっ！文字が浮かんだ！？」
「こっちの新しい紙と替えて、もっかいやってみ」

パタンっ！・・・・・・・パカッ！

「おぁぁぁぁっ！？なんじゃこりゃー！？」
「うん、その調子。飽きるまで頑張れ」

こうして、異世界初の印刷技術は、ちょーショボい活版印刷機によってその産声をあげたのだった。