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2nd season 第三章
142 シリア暗殺計画(5)
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基幹プロジェクトの破綻というカードを武器に、納期の延長を認めさせられた上、追加料金まで巻き上げられる大企業が如く、各国首脳陣が会議室でカインに丸め込まれているその頃、ラティアの元に一通の投書が届けられた。
今や神殿配達人は上級神官よりもエリートであることが広く認知されているが、それでも外から入ってきた配達人にとって、ロックハウス家の面々は天上人、シリアや白の騎士を探して投書を手渡すのは腰が引ける、そこで白羽の矢が立ったのが、いつも食堂でニコニコしているラティア親子だった。
食堂ならば気負いなく行けるし、カウンター越しに声をかけることも比較的ハードルが低い。
ロックハウス家の女達は、その日だれが何処で何をしているのか、互いに把握し合うようにしている。
カインの身に何かあった際に、必ず連絡が取れるよう考えているのだ。
「シリアさん、カイン様にお知らせするべきかしら?」
「うーん、微妙ね?アイツ、今回の首脳会議は真剣白刃の大博打だって言ってたし、なるべく邪魔したくないわ?配達人からは何か聞いた?」
「ええ。住民五十人のほのぼのとした村で、とてもそんな事をする職員には見えなかったと」
「差出人のミランダ?って人については?」
「速達が届くような土地じゃないらしくて、よくわからないそうよ」
南方の小国ホンジュラス。
同じような小国同士で小競り合いを続ける不安定な国家だ。
そのホンジュラスに、何故かポツリとある聖教国の荘園、ガザル村。
ミランダからの訴えは、禁止されたはずの『初夜税』が続いているというもの。
皆、昔からのしきたりで、神官様には逆らえないと諦めているが、明日、自分は同じ村のカールに嫁ぐ。
神官様にバレればどんな仕打ちが待っているか恐ろしいが、それでも、愛する夫に全てを捧げたいと、救けを求める内容だった。
「これまでも目安箱の投書は真実が殆どだった。手遅れになる前に我らが解決すべきだろう?」
「アベルさん、あたしもそう思うわ・・・そうね?明日みんなで・・・はマズイわね?首脳会議妨害の陽動だったら問題・・・少数で乗り込んで確かめましょう?」
相手は地方の神官一人。
戦力的には、例えアリスが一人でもお釣りが来る。
だが、不意の襲撃を考えればユリアを連れて行くべきだろう。
カインの為に残すべきは誰か?
もしも首脳会議が襲われるなら、大軍相手に有利なリシェルさん、気球を飛ばせるミランさん、ホントはヒーラーとしてアベルさんを置いて行きたいけど、絶対に付いてくるわよね?
まっ、ヒーラーは神殿にも多いから大丈夫か。
あたしが行かないわけにはいかないし・・・エマさんは留守番組の指揮、スージーさんは文書室で待機・・・うわっ、ライザさんかぁ?村とか壊れちゃわないかしら?
「アベルさんとライザさん、あとはあたしとユリアね?ちょっとバランス悪いけど、会議の事も考えるとこの面子だわ」
カインズのレベルが上がった事で、主武装も進化している。
参式のコンパクトさはそのまままに、威力を更に上げた伍式、そして取り回しの悪い銃剣は廃止されていた。
身体能力が上がったことで、剣を持たずとも、接近戦ではボルトを短剣代わりに立ち回る方がスムースになったのだ。
一番レベルの低いアリスでさえ、握ったボルトをオークの頭蓋に突き刺す事ができる。
アベルとライザの脳筋ペアを前衛に、シリアがアタッカーを務め、ユリアをオールラウンダーに配置すれば存外バランスは悪く無い。
盾持ちが居なくともユリアの氷壁は人間に砕かれるほどヤワでは無いし、前衛の二人もレベルが上ったことで剣術ギフト持ちのアタッカー並みに立ち回れる。
だがカインが居ないフォーメーションは、どれも不安に感じてしまうのは仕方のないことだった。
~~~~~
『夏の首脳会議は三日も続く。猊下は議場を離れられないから、法母たるシリア様の護衛が心配だ』
団長のランバートが、騎士団内の主義者の前でこぼした愚痴ともつかぬ一言。
決行すべき日が決まったと、喜び勇んでユザールの元へ駆け込んだ聖騎士本人は、それが意図的に聞かされた言葉だと気付いていない。
「諸君っ!明日はいよいよあの化物女を処刑する事が出来るっ!今宵は前祝い。こんな森の中で申し訳ないが、存分に飲み、食べ、英気を養って欲しいっ!だが、くれぐれも、大きな音は立ててくれるな?距離があるとは言え、村に気づかれるわけにはいかぬゆえな?」
上機嫌の主義者達。
千人の傭兵達に熱は伝わらないが、呑めて食えれば文句など無い。
「ルカさん、なんでアイツらは亜人を化物って呼ぶっすか?」
「なんでだろ~ね~?こどものころに亜人のいじめっ子がいたとかかなぁ~?」
「しょぼっ!アイツらしょぼっ!」
差別の問題は根が深い。
一番の問題は、往々にして差別する側がソレを『差別』だとは思っていない事だ。
亜人は人間ではない、魔物の一種だ。
なのに何故皆、殺そうとしない?
オークを殺すのは良くてエルフはダメなのか?
獣人やドワーフなんて見た目からして魔物の方が近いだろう?
こう考えている者に『人種差別は良くない』などと言ってみてもなんの意味もない。
平成日本においても、実に多くの差別が存在する。
一つ例を挙げるなら、とりわけ多数がその思想に染まっており、かつ自覚が無いのが中国の人々に対する差別だ。
大多数の日本人が『中国人は信用ならない』と考えている。
それだけならまだしも『中国にはトイレが無い』『中国人は赤ん坊を食べる』などという話を本気で信じている者まで実際に居るから驚きだ。
だが、一体どれほどの日本人が、彼らの本質を知っているだろうか?
実際に身近に生活し、信頼関係が築かれたなら、少なくとも現代の日本人よりも余程、義に厚く、情に深い人たちが多い事がわかるだろう。
無論、彼らの文化には日本人の感覚から言えば『嘘つき』と呼ばれて致し方ない常識がそこかしこにある。
平然と偽物を売り捌き、観光地でのマナーも酷い。
だがその一面だけを汲み上げて、日本人は彼らを貶める。
そこに『差別』という自覚はない。
『だってアイツラは嘘つきだ!』
『だってアイツラはバケモノだ!』
その一言で充分なのである。
「でもぉ~、アイツラの方があたしらよりマシじゃない?あたしら、殺すのによりごのみなんてしないしぃ~、うらみとかねたみとかぁ~、そーゆーの、あるほうがマシでしょぉ~?」
「あー、そうかもしんないっすねー、反省したほうがいいっすかねー?」
「んー、あっ!ひらめいたっ!あたしらわるくないよー♪」
「わるくないっすか?」
「あたしらが殺すとお金になるじゃない?そのお金でゴハン食べるじゃない?りょうしさんがビックボア殺してゴハン食べるのと一緒じゃない?」
「ルカさんあったまいー!」
「でしょでしょぉ~?じゃ、あしたもはりきって殺してこー!」
「うーっす!」
今や神殿配達人は上級神官よりもエリートであることが広く認知されているが、それでも外から入ってきた配達人にとって、ロックハウス家の面々は天上人、シリアや白の騎士を探して投書を手渡すのは腰が引ける、そこで白羽の矢が立ったのが、いつも食堂でニコニコしているラティア親子だった。
食堂ならば気負いなく行けるし、カウンター越しに声をかけることも比較的ハードルが低い。
ロックハウス家の女達は、その日だれが何処で何をしているのか、互いに把握し合うようにしている。
カインの身に何かあった際に、必ず連絡が取れるよう考えているのだ。
「シリアさん、カイン様にお知らせするべきかしら?」
「うーん、微妙ね?アイツ、今回の首脳会議は真剣白刃の大博打だって言ってたし、なるべく邪魔したくないわ?配達人からは何か聞いた?」
「ええ。住民五十人のほのぼのとした村で、とてもそんな事をする職員には見えなかったと」
「差出人のミランダ?って人については?」
「速達が届くような土地じゃないらしくて、よくわからないそうよ」
南方の小国ホンジュラス。
同じような小国同士で小競り合いを続ける不安定な国家だ。
そのホンジュラスに、何故かポツリとある聖教国の荘園、ガザル村。
ミランダからの訴えは、禁止されたはずの『初夜税』が続いているというもの。
皆、昔からのしきたりで、神官様には逆らえないと諦めているが、明日、自分は同じ村のカールに嫁ぐ。
神官様にバレればどんな仕打ちが待っているか恐ろしいが、それでも、愛する夫に全てを捧げたいと、救けを求める内容だった。
「これまでも目安箱の投書は真実が殆どだった。手遅れになる前に我らが解決すべきだろう?」
「アベルさん、あたしもそう思うわ・・・そうね?明日みんなで・・・はマズイわね?首脳会議妨害の陽動だったら問題・・・少数で乗り込んで確かめましょう?」
相手は地方の神官一人。
戦力的には、例えアリスが一人でもお釣りが来る。
だが、不意の襲撃を考えればユリアを連れて行くべきだろう。
カインの為に残すべきは誰か?
もしも首脳会議が襲われるなら、大軍相手に有利なリシェルさん、気球を飛ばせるミランさん、ホントはヒーラーとしてアベルさんを置いて行きたいけど、絶対に付いてくるわよね?
まっ、ヒーラーは神殿にも多いから大丈夫か。
あたしが行かないわけにはいかないし・・・エマさんは留守番組の指揮、スージーさんは文書室で待機・・・うわっ、ライザさんかぁ?村とか壊れちゃわないかしら?
「アベルさんとライザさん、あとはあたしとユリアね?ちょっとバランス悪いけど、会議の事も考えるとこの面子だわ」
カインズのレベルが上がった事で、主武装も進化している。
参式のコンパクトさはそのまままに、威力を更に上げた伍式、そして取り回しの悪い銃剣は廃止されていた。
身体能力が上がったことで、剣を持たずとも、接近戦ではボルトを短剣代わりに立ち回る方がスムースになったのだ。
一番レベルの低いアリスでさえ、握ったボルトをオークの頭蓋に突き刺す事ができる。
アベルとライザの脳筋ペアを前衛に、シリアがアタッカーを務め、ユリアをオールラウンダーに配置すれば存外バランスは悪く無い。
盾持ちが居なくともユリアの氷壁は人間に砕かれるほどヤワでは無いし、前衛の二人もレベルが上ったことで剣術ギフト持ちのアタッカー並みに立ち回れる。
だがカインが居ないフォーメーションは、どれも不安に感じてしまうのは仕方のないことだった。
~~~~~
『夏の首脳会議は三日も続く。猊下は議場を離れられないから、法母たるシリア様の護衛が心配だ』
団長のランバートが、騎士団内の主義者の前でこぼした愚痴ともつかぬ一言。
決行すべき日が決まったと、喜び勇んでユザールの元へ駆け込んだ聖騎士本人は、それが意図的に聞かされた言葉だと気付いていない。
「諸君っ!明日はいよいよあの化物女を処刑する事が出来るっ!今宵は前祝い。こんな森の中で申し訳ないが、存分に飲み、食べ、英気を養って欲しいっ!だが、くれぐれも、大きな音は立ててくれるな?距離があるとは言え、村に気づかれるわけにはいかぬゆえな?」
上機嫌の主義者達。
千人の傭兵達に熱は伝わらないが、呑めて食えれば文句など無い。
「ルカさん、なんでアイツらは亜人を化物って呼ぶっすか?」
「なんでだろ~ね~?こどものころに亜人のいじめっ子がいたとかかなぁ~?」
「しょぼっ!アイツらしょぼっ!」
差別の問題は根が深い。
一番の問題は、往々にして差別する側がソレを『差別』だとは思っていない事だ。
亜人は人間ではない、魔物の一種だ。
なのに何故皆、殺そうとしない?
オークを殺すのは良くてエルフはダメなのか?
獣人やドワーフなんて見た目からして魔物の方が近いだろう?
こう考えている者に『人種差別は良くない』などと言ってみてもなんの意味もない。
平成日本においても、実に多くの差別が存在する。
一つ例を挙げるなら、とりわけ多数がその思想に染まっており、かつ自覚が無いのが中国の人々に対する差別だ。
大多数の日本人が『中国人は信用ならない』と考えている。
それだけならまだしも『中国にはトイレが無い』『中国人は赤ん坊を食べる』などという話を本気で信じている者まで実際に居るから驚きだ。
だが、一体どれほどの日本人が、彼らの本質を知っているだろうか?
実際に身近に生活し、信頼関係が築かれたなら、少なくとも現代の日本人よりも余程、義に厚く、情に深い人たちが多い事がわかるだろう。
無論、彼らの文化には日本人の感覚から言えば『嘘つき』と呼ばれて致し方ない常識がそこかしこにある。
平然と偽物を売り捌き、観光地でのマナーも酷い。
だがその一面だけを汲み上げて、日本人は彼らを貶める。
そこに『差別』という自覚はない。
『だってアイツラは嘘つきだ!』
『だってアイツラはバケモノだ!』
その一言で充分なのである。
「でもぉ~、アイツラの方があたしらよりマシじゃない?あたしら、殺すのによりごのみなんてしないしぃ~、うらみとかねたみとかぁ~、そーゆーの、あるほうがマシでしょぉ~?」
「あー、そうかもしんないっすねー、反省したほうがいいっすかねー?」
「んー、あっ!ひらめいたっ!あたしらわるくないよー♪」
「わるくないっすか?」
「あたしらが殺すとお金になるじゃない?そのお金でゴハン食べるじゃない?りょうしさんがビックボア殺してゴハン食べるのと一緒じゃない?」
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