澤村通雄 短編ショートショート集

澤村 通雄

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影武者

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江戸の城下町で、行商を営む与太郎という男がいた。
与太郎は、ガマの油売りであったが、根っからの博打好きで、酒も女も好きな男であった。
ある日、日ごろの行いから、盗みを働いてしまう。
与太郎は、あっけなく御用。
時の将軍、徳川光忠の前に晒されることに。
将軍光忠は、奉行職も兼任した稀なお人であった。
光忠の前に連れてこられた与太郎を見て、光忠はびっくりした。
与太郎自身も腰を抜かした。
何故なら、2人は瓜二つ。
まるで双子のようであったのだ。
奉行所まで連行した役人たちも、何かおかしいと思っていたところだ。
江戸では、盗っ人は、片腕を切られる決まりだ。
光忠は、思った。
うーん、惜しいな。
何かの役に立ちそうだ。

これ、与太郎。
我の影武者にならぬか。
そうすれば、罰は見逃してせんずるぞ。

与太郎。
は、はー。
おおせのままに。

暫くして、光忠は隠居生活に入り、贅の限りを尽くした。

一方、与太郎は、何故か奉行職を行う羽目に。

始めは、取り巻きの力を借りて、役務を果たしたが、次第にもともと心持ちの優しかった性分がこうじて、周りの者や罪人たちからの評価が集まった。

光忠は、遊びほうけるうちに、周りからの信頼が薄れていき、次第に与太郎と比べられはじめた。

それに嫉妬した将軍光忠は、与太郎を殺そうと考えはじめる。

役人のひとりが、与太郎に光忠の暗黙を伝えた。

与太郎、苦難の挙句。
私は殺されるべきか、将軍を消して自分が将軍になるべきか、周りの家臣に耳をかたむけた。

家来のひとりが、宵の刻、光忠の首を取る。

与太郎様、貴方は今から本当の徳川光忠将軍になり申したのでございます。 

ふむ、わかった。

こうして、与太郎という行商であった男は消え去り、本物の徳川光忠になった。

それからの、光忠は世の為、人の為に政事を一生懸命行った。

子を沢山もうけ。
代々続いた、徳川幕府の功労者になりました。


       fin
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