澤村通雄 短編ショートショート集

澤村 通雄

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紅の紋章

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メトロポリタン王国は、100年の歴史を持つ。
王であるゼファーは、隣接している他の国々とも良い関係を築いている。
ゼファーは国民からの信頼も厚く、王の中の王である。
そんな王も65歳。
国民の平均寿命をとうに越えている。
そんな王ゼファーには、弟のディポがいて、王位第一継承者であり59歳である。
子供の居ないゼファーとは違い、ディポには2人の子供がいる。
長男のヤシャ、20歳。
長女のニータ、18歳である。
ヤシャはまだ若いが、王位第二継承者である。
王ゼファーには妻がいたが、20年前に亡くなった。
王には子供が授からず、それでも妻を溺愛していたので、妻の死後も後妻を貰わなかった。
王ゼファーは、継承者はディポの息子、ヤシャに譲りたいと強く願っていた。
そんな中、ディポは自分が元気なうちに、なんとか国王になりたくて、現王の暗殺を試みる。
暗殺計画を察したヤシャは、父であるディポの目論みを王ゼファーに告げることに。
王を守ることと、父ディポを裏切ることに強く葛藤し、悩んだヤシャは、王であるゼファーの護衛隊長を担うことに。
そんな時、妹のニータがディポの妻になることに。
親子から夫婦の関係になったディポとニータは、だんだん勢力をもつことに。
国の軍隊の女司令官まで登りついたニータは、王ゼファーを討つべく、クーデターを図ることに。
王ゼファーの護衛隊はわずか500名。
一方、ニータ率いる反乱軍は5000名。
王ゼファーと弟ディポの代理戦争が勃発。
ヤシャ対ニータの兄弟対決に。
数で圧倒的に不利なヤシャだが。
メトロポリタン王国、建国以来初めての歴史的戦いが今始まる。
果たして国の運命は。


国王が居る城が静まりかえる夜中。
ニータ率いる反乱軍は、城壁を突破して城の内部に突入した。
その数2500名。
軍の半分の兵士たちだ。
王室で眠る王ゼファーの周りには、50名の護衛隊。
城内には、計500名の護衛隊の新鋭たちが控えている。
門の管制塔に常勤する、門番が事態を察知して、ほら貝と鐘の音で緊急事態を知らせた。
王ゼファーの向かいの部屋で、仮眠をとっていたヤシャ。
ほら貝と鐘の音で目を覚まし、すぐに鎧を身に着けた。
城内に突入したニータ率いる反乱軍は、護衛隊と血で血を争う骨肉の戦いになった。
ヤシャは、王ゼファーを起こし、地下にある秘密の脱出口へ護衛隊50名を引き連れて足を急いだ。
一方、城の脱出口の出口にはディポ率いる反乱軍100名が待ち構えていた。
城内で、数で上回るニータ率いる反乱軍は、500名の護衛隊に圧勝。
城内に火を放った。
黒い煙と炎が燃え盛るなか、城内からは女子供が、火の手に追われ城の外に逃げていく。
城内に攻め込んだ反乱軍の、残りの2500名の兵士たちは、逃げ惑う女子供を皆殺しにした。
一方、脱出口から出た、王ゼファーとヤシャ率いる護衛隊の精鋭50名の部隊は、
ディポ率いる100名の反乱軍と死闘になる。
数で上回る反乱軍を、選ばれた護衛隊の精鋭は圧制した。
その時、ディポが国王に一対一の戦いを挑む。
65歳になる国王を咎めて、ヤシャが父であるディポに戦いを挑む。
裏切ったな、ヤシャ。
ディポが息子を叱咤する。
父上こそ、国王を裏切りましたね。
ヤシャはディポの懐に飛び込んだ。
その時、ディポの反乱軍が一斉に国王に弓を引いた。

ヤシャ、あとは頼んだぞ!
国王ゼファーの身体は、ハリネズミのように串刺しになり、地面に崩れ落ちた。

引けー!
ディポの掛け声で、反乱軍は一斉に暗闇の中に消えていった。

ヤシャは国王のもとへ駆け寄り、国王の身体を抱き上げた。
ヤシャ、お前に託すぞ。
国王は最後の力を振り絞って、メトロポリタン王国の王である証、紋章の入った首飾りをヤシャに渡した。
王様っ!王様っ!!
王ゼファーは、息を引き取った。
ヤシャの手に握られた紋章は、紅に染まっていた。



国を追われたヤシャは、亡くなった国王の護衛隊約50名を引き連れて、隣国のアッパーニャ国に身を隠し、父であるディポと妹のニータを討つべく、時を待っていた。

ディポとニータは、今は滅亡したメトロポリタン王国とアッパーニャ王国から3里ほど離れた、広大な草原に新しく国を作り始めた。
それから15年の歳月が流れた。
アッパーニャ王国で来賓として生活していたヤシャの元に、父であり裏切り者のディポの悲報が届く。
74歳になったディポは、老衰だった。
時はきた。

15年間で1万の軍隊を作り上げたヤシャは、妹の居る大草原にあるゲシュタルト城に兵を挙げる。
ゲシュタルト城では、ニータが女帝として君臨していた。
いつか、ヤシャが復讐にくるのを見計らい、3万の兵を築き上げていた。
ゲシュタルト城の周りの国々は、ディポの在命時に吸収されていたのだった。
今、ここにゲシュタルト草原の戦いが始まろうとしている。



ヤシャ率いる1万の兵は、3里離れたゲシュタルト城に進軍した。

いち早く察知したニータ率いる3万の兵士たちは、ゲシュタルト城を固め、周りの草原にも兵を忍ばした。
剣や弓矢を用いたヤシャたちの騎馬隊に比べ、ゲシュタルト軍は最新の装備を用い、鉄砲隊や大砲を城壁に構えた。
ゲシュタルト城まで、あと1里の辺りで身を潜めていたニータ軍の鉄砲隊は3列に並び、ヤシャ軍に3段撃ちで攻撃した。
ヤシャ軍の先鋒隊2000名の兵達は、崩れ落ちた。
騎馬隊は合間をぬってゲシュタルト草原を駆け抜けた。
そこへ、ゲシュタルト城の城壁から大砲の嵐が飛んだ。
騎馬隊は、全滅。
残りは、しんがりのヤシャ達、約5000名ばかりか。
しんがり組の総攻撃で、鉄砲隊を潜り抜け、大砲の嵐をよけながら、約1000名ばかりのヤシャの兵達が、城門を破った。
もちろん、ヤシャもその中にいた。
城内での、剣と盾での斬り合いが始まった。
ニータは、鉄塔の上で戦局を眺めている。
ニータは鎧に身を包み、頭には鉄兜を被っている。
ニータの親衛隊も100名ほど鉄塔の麓に控えている。
ヤシャ達は、城の中央に聳え立つ鉄塔を目指した。
もう何人殺めたかなど、わからないくらいだ。
数で勝るニータ軍は、徐々にヤシャ達の兵を打ち崩す。
勝負あったかと、誰もが思いだしたその時。

大きな地震が。

鉄塔の麓で、ニータの親衛隊と剣を交えていた、ヤシャの首に巻かれた紋章が光った。

一筋の稲妻が鉄塔に向けて、落ちた。


ギャーーッ!!


ニータの鉄兜から身体の鎧にかけて、閃光が走った。

感電したニータの身体は、もろくも塔から落下した。

大地震によって、ゲシュタルト城が崩れていく。

退散だーっ!

ヤシャの一声で、両軍は散り散りに、散らばった。

ヤシャ軍、3000名。帰還。
ニータ軍、残党20000名。

ほとぼりが覚めた頃、アッパーニャ王国からの応援で、両軍の負傷者達が手厚い介護をうける。
残った20000名のニータ軍の残党も、ほぼ降伏する。

のちに、アッパーニャ王国のこの活動が赤十字といわれる活動団体に。

35歳になったヤシャは、この地方の共和国の大王となり。
約300年の間、平和に共存したとか。
紅の紋章は、ニータとディポの埋葬された墓地に納められたそうだ。

長い平和が続いた間、ヤシャは国を守る警察隊や消防団、裁判所など、現代の社会を創る礎を築いたそうだ。


     fin
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