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17. 招かれざる客
しおりを挟む祝賀会の体を保っていたのは最初だけで、先程から既に酔っ払いと化した前二人がわいわいと騒いでいる。
酒に飲まれた大人。悪い見本の典型だ。
……個室でよかった。
「きょーはぁ朝までコース!」
「二次会か! よぉーし、俺のとっておきの店を紹介しよう!」
盛り上がった二人と対照的に、テーブルを挟んだこちら側は白い目で駄目な大人の鑑賞会だ。
絡まれないように視線は皿へ、会話は極力小さな声でと暗黙のルールが布かれる中、気まずげな表情の店員が顔を覗かせた。
「お騒がせしてしまいすみません。もう出ますので」
「いえ、それは構わないのですが、お会いしたいという方が……」
「え?」
騒いだことに対する苦情かと思いきや違うらしく、対応していたアリアナ先輩が困惑の色を浮かべて振り返った。
わたしは勿論、クリストファーさんも思い当たらないらしく首を傾げている様子に、ますます困惑は深まる。
誰かは分からないけど、このままだと店員さんを困らせてしまうから連れて来てもらうことにした。
しばらくして現れたのは、脂ののった中年男性だった。脂なのか汗なのか、テカテカとおでこが光っていて、自然と視線がそっちに引き寄せられる。
少し視線を下げてみたけれど見知った顔じゃなくて、わたしが小首を傾げたのとアリアナ先輩が驚いた声を上げたのは同時だった。
「ミーンソー卿!」
「いや、知った声が聞こえたからね。お祝いの言葉を伝えに来たんだが、私が参加したら水を差すかね?」
「い、いえ。もちろん、歓迎いたしますわ」
アリアナ先輩の様子に驚いてちらっと振り向いてみると、クリストファーさんも複雑な表情で頭を下げていた。
この人が何をする人なのかは分からないけど、どうやら偉い人らしい。二人に倣ってとりあえず頭を下げておくことにしたわたしに、ミーンソー卿が苦笑を浮かべた。
「カティといったか。今日は君のお祝いだ。そう畏まらずともよい」
「えっ、あ、はい!」
「先日の報告会でも紹介があったと思うが、私はバッカス・ミーンソー。久しぶりにエクソシストになる者が現れたと聞いて驚いていたのだが、会ってみて更に驚いたよ。こんなに可愛い子だったとは」
「ええ? はぁ、そうですか……?」
報告会で会ったってことは、お偉いさん達の中にいたんだと思う。全く覚えてないけど。
なんだかよく分からないけど褒めてくれているらしいミーンソー卿は、愛想笑いを浮かべたわたしに気分をよくしたのか、大きな身振りで一度天を仰ぐとガシッと手を握ってきた。
「聞くところによると、君は孤児院育ちとか。そこでどうだろう。家に養子にこないか?」
「よ、養子!?」
「お待ち下さい! カティはまだエクソシストになったばかりで不慣れなことも多く、今伯爵家に入るとなるとミーンソー卿にご迷惑をおかけすることになるかと」
養子ってだけでも驚くのに、フォローしてくれたクリストファーさんの言葉に更にびっくりする。
伯爵って貴族のことだよね? 孤児院育ちのわたしとは天と地の差がある貴族様が、なんで急に……
困惑してとっさに向かい側を見ると、さっきまであれだけ騒いでいたボブ室長は口を開けて寝ていて、隣のジーナさんは机に突っ伏していた。
ボブ室長は完全に寝ていると思うけど、ジーナさんは狸寝入りだろう。腕の隙間からちらちら視線を感じる。
クリストファーさんのやんわりとした抗議にミーンソー卿はふむと頷くと、柔らかく微笑みを浮かべた。
「貴族の作法については娘になってからゆっくり学んでくれればいいと考えている。ただ、急な話だから考える時間が必要だろう。すぐにとは言わないが、返事は一月以内には欲しい。ランドには私から話をしておくから、あとは君の気持ち次第だ」
「は、はい。……んん?」
わたしの気持ち次第と言いながら、ランド課長に話をするってことは断れない雰囲気になるんじゃないのか。
そう気付いて口を開こうとしたわたしを遮るように、ミーンソー卿は立ち上がると「よりいい返事を期待しているよ」と去っていった。
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