魔術師の少女が仕事にも恋愛にも全力でぶつかっていくお話。

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ライバルは、急に現れるものなのです。

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連続して続いていた遠征が終わり、報告書の作成も終わった午後。

お昼も食べ終わり、ポーションでも作成しようかな、と研究室に向かっていると、セシリー、と声を掛けられた。

この呼び方をするのは1人しかいない、と思いながら声がした方に振り向くと、案の定、ノア団長がいた。

「セシリー、今日はもうお仕事特にないでしょー?」

「そうですねー、報告書も終わって、今からポーション作ろうかなって思ってます。」

「そぉ、じゃぁ大丈夫だねー。」

何が大丈夫なのか。

首をかしげる私に、ふふっ、この間ぁ、王宮の植物園に行きたいって言ってたでしょー?と笑顔を向けられる。

「え、王宮の植物園に行けるんですか?」

「そーだよぉ。ちょうど王宮に行く用事があってねぇ。セシリーが見たいって言ってるって言ったらぁ、どうぞーって。」

ただぁ、今日も僕は王宮に用事があるからぁ、案内は別の人がしてくれるけどねぇ。とノア団長は言っているが、行けるだけでも嬉しい。

騎士団に与えられている植物園も相当な大きさであるが、王宮内にある植物園は、こことは違い、色取り取りな花たちが咲き乱れおり、美しいともっぱらの噂である。
また、あまり街で見かけることがない、国花であるヨシュリア の花が咲いているらしい。
ヨシュリア の花は、バラとダリアを足して二で割ったような見た目で、花の直径は10から15cmほど、高さは50から100cmほどになる。また、花びらの先に行くほど濃い色になっていく、とても美しい花である。
色は、白・赤・ピンク・青・紫・橙の6種類である。

以前、その花の話になり、王宮の植物園でいつでも咲いてるよぉ、とノア団長が教えてくれ、つい、行ってみたいなぁと言ってしまったのである。
遠征前の話であるし、私も忘れてしまっていたのだが、この兄は覚えていてくれたらしい。

うへへ、早く行きましょー!とノア団長の手を引くと、はいはい、そんなに焦らなくてもぉ、お花は逃げないよぉ、と手を握り返してくれる。

それを少し離れた場所で見ていたアリアは、やっぱあの2人仲良いわ、と研究所に向かった。






騎馬に乗り、王宮にたどり着く。

門の近くで馬を預け、歩いて行くと、じゃぁ僕こっちだから帰りに迎えに来るねぇ、と私とは別の方向に歩いて行く背を見送る。

ここで待ってたら案内人が来るからねぇ、と言われたので、大人しく待合場所である噴水の近くにあるベンチに座る。

植物園はどんなところだろうか、と噴水の水を眺めること数分。

ザッと足音がした。

「あなたは…!」

そこにいた人物に、昔、初めて会った時のことを思い出す。

そう、それは、私が初めて騎士団になって半年ほど経った時のことである_____。



セシリア16歳。
義務教育である15歳までが通う学校を卒業し、騎士団に入団して一年半。

ここでの生活も慣れた頃、ノア団長から収集がかかる。
急ぎノア団長の元に行くと、私の他にアリア副団長と同じ第4騎士団に勤める魔術師が4人集まっていた。

「急な話なんだけどぉ、明日から、僕含めたこの7人とー、第4師団の魔剣士10人にぃ、剣士18人、それにぃ、第1騎士団8人と一緒にぃ、遠征に向かいまーす。」

理由はぁ、第3王子がぁ、魔物討伐に行きたいと言ったためでーす。といつもの調子で言う。

第3王子は今年15になる少年だ。

剣術に長けていると噂で聞いているが、将来は騎士団でも目指しているのだろうか?
魔物討伐をしたいなんて物好きな、と、それを職業にしている自分が言うことでもないが、思ってしまう。

「とりあえずー、場所は王都近くの西の森でーす。3日ほどの遠征の予定なのでぇ、今日はみんな明日の準備をするようにぃ。」

いじょー!かいさーん!とお開きになる。

集まっていたものは、その言葉で急ぎ、遠征の準備にとりかかった。




ザシュッ、ザシュッ、と魔獣を切る音が響く。
遠征二日目になると、第3王子も戦う感覚を覚えたらしい。
援護、と言う形で配置されている私達魔術師の力もあまりいらないのでは?、というくらい、順調に進んでいく。

辺りが暗くなってきた頃、今日はもう終わりにしましょう、と第1騎士団の団長が王子に声を掛け、二日目が終了した。

森の拓けた場所にテントを張り、夕食の準備をする。
今日は、私の他に3人の人が夕食当番になっている。
鍋をかき混ぜていると、第1騎士団副団長であるルシヨン・カストューシュ様が近付いてきた。

180ある鍛えられた細身の体に、マゼンタ色の髪と髪より薄めの色した瞳、甘めな顔立ちをした彼は、若くして第1騎士団に入った実力者であり、その見た目から、女性に人気があると、昨日遠征先に向かいながら、同じ魔術師の女性が教えてくれた。

彼の方が私より年下だから狙わないけど、確か今、20歳のはずよ!貴方にはちょうど良い年齢じゃない?と彼女は言っていたが、私にはシャロン様がいますから、とお断りしておいた。

そんな、世の女性を虜にしてしまう彼が、どうしたのだろう、と鍋を挟んだ向かいに立った彼を見上げる。

あ、お腹空いてるのか、と思いいたり、もう少ししたら出来ますからねー!後ちょっとお待ちくださいね!と言うと、嫌、違うんだ、君に用があって、と言われた。

「え?私にですか?どうしました?」

この遠征で何かやらかしてしまっただろうか…。確かに、シャロン様がいないからやる気が出ていなかったが…まさかそれが理由か?と少し不安になる。

「あぁ、君は、シャロン・アストゥリアスと、その、付き合っているのか…?」

しかし、予想とは違う質問を投げ掛けられ、え?と声が出る。

「いえ、お付き合いはしていませんよ。」

そうです!と言いたいし、そうだったらどれだけ幸せだろうか、と思う。

だが、現実は残酷なもので、恋人どころか私の一方的な片想いである。

「そうか、良かった。…実は俺…。」

その時、強い風がザァァアと吹き、木々を揺らす。

ルシヨン副団長の言葉は、途切れ途切れに聞こえた。

実は俺…の後、この人はなんて言った?

すきなんだ、と聞こえた気がする。

え、すき?隙?鋤?…な分けないか。

誰が、誰を…?好き…?

…待って、その直前の言葉を思い出そう。

そう、シャロン様と付き合っているかと聞かれ、付き合っていないと答えた。
そしたら、良かった、と言っていた。
………と、言うことは…だ。
あの言葉の続きはもしかして…!

『実は俺…(もシャロンが)好きなんだ。』

こ う い う こ と か … !

まさか、こんな近くにライバルがいながら気付かなかったとは…!

「わかりました。ルシヨン・カストューシュ副団長。」

「えっ!?本当に!?」

「えぇ、私、セシリア・リューココリーネ・ルクレツィア、貴方をライバルと認め、その勝負、受けて立ちましょう!」

声高々、鼻息荒く、私はお玉をルシヨン副団長に向け、宣言したのだった。





____________________

「いや、あの、セシリア、俺の話聞いてたか?」

「えぇ、私、あなたの想い、しかと受け取りました!」

「受け取った反応じゃないから、それ!勘違いしてるから!」

「こうしちゃいられない!…アレクサンダー団長!私に剣を教えてください!」

「ん?別に良いが…どうしたんだ、いきなり?」

「負けられない戦いが、ここにあるのです…!」

「あははー!君もぉ、アホに恋しちゃってー、大変だねぇ。」
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