魔術師の少女が仕事にも恋愛にも全力でぶつかっていくお話。

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私の家族は、この人だけなんです。よん。

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「セシリア、貴方も休みなさい。」

「……。」

「貴方も疲れているでしょう?怪我も完治してないわ。」

「……。」

「…はぁ。分かったわ。何かあったら呼びにきなさい。」


森の中での治療が終わり、野営地に戻る。

アレクサンダー団長ともう1人の魔剣士の人が、兄の着替えをしてくれ、私もアリア副団長に付き添われ、服を着替えた。

兄が寝ているテントに入れば、先程より血色が良くなった顔で寝ていた。

アリア副団長には、体力と魔力回復をする為に、寝るようにすすめられたが、兄の付き添いをしたいと申し出た。

それにあまり良い顔をしなかったアリア副団長は、私の無言の抵抗にしびれを切らし、テントを出ていった。



パラパラと雨がテントを打つ音だけが聞こえる。

兄の寝息は小さすぎて、息をしているのか何度も確かめた。

兄の隣に座り、白銀の髪を梳く。

所々泥で汚れており、それを指で取っていく。

カチッ、と指があたる感覚に、そこの髪を梳いてどかせば、綺麗な細工の施された、薄桃色のピアスが顔を覗かせた。

「綺麗…。」

その繊細なピアスに言ったのか、未だに眠り続ける兄の寝顔に言ったのか。

自分でもよく分からないまま、涙がポツリと、1つ流れた。

そこからは、ハラハラと流れる涙を止めることができず、床のマットに染み込んでいく。

何のために、ここ第4騎士団に入ったのか。

何のために、攻撃特化にしたのか。

何のために、この力光の魔術があるのか。

何のために、今まで努力してきたのか。

____全て、無駄だった。

私には、何もできなかった。


魔物を倒すことも。


兄を守ることも。


兄を救うことも。


何も、なにも、出来なかった。


____役立たずの、


兄から手を離し、自分を抱えるようにして泣けば、暗闇に、先程の光景が浮かんでは消えていくような気がした。







いったいどのくらいの時間そうしていたのか。

私の髪を梳く手の感触に沈んでいた意識が浮上した。

ハッとして顔を上げれば、少し上の位置に望んでいた光景が映る。

驚いて固まる私に、その人はいつもの綺麗な笑顔を浮かべた。

「お、に…ちゃ…っ、」

「うん、セシリー。」

「おに、ちゃんっ、」

「うん、うん、泣かないで、セシリー。」

名前を呼べば、私の目から流れる涙を綺麗な白い手ですくう。

その手を頬まで滑らせる兄に、また、涙が流れる。

「ごめん、なさ…ッ、ごめ、なさい…っ!」

「セシリーは何も悪くないよ。」

「だっ、て、私がちゃ、んと倒して、い、れば、お兄ちゃん、は…!」

「違うよ、セシリー。僕が警戒を怠ったんだ。」

頬にある手が動き、私の背に回る。

兄の鼓動が耳元で聞こえるその体勢に、止まらぬ涙が激しさを増す。

「ヒュドラを倒して、みんなの元に行けば、セシリーだけが見当たらなくて、ほとんど感じ取れない魔力を必死に辿れば、小さな子供を庇って魔物に襲われている僕の妹セシリーがいて、心臓が凍るかと思った。」

涙と嗚咽しか出ない私を優しく宥めるように背をさする。

その手の暖かさに、聞こえる鼓動に、彼が生きていると、私に伝えてくれる。

「君を囲んでいた魔物を倒して、油断したんだ。セシリーが無事で、凄く…安心した。……ねぇ、セシリー。これは、僕の不注意だ。団長として、君の上司として、兄として、僕が、僕の力に、驕ったせいだ。……だけど、お願い。お願いだから、もう、」



______あんな真似しないで……。




そう言って、背をさすっていた手と、頭に置かれていた手に力が入るのが分かった。

それは、とても悲痛な声色で、とても、とても小さかった。

耳元でなければ消えてしまいそうな、いつもの姿からは想像できない、とてもか細いものだった。


「しない…っ!もう、絶対に、しないっ!しないから…っ、だから、いなくならないで…。…セシリアを、独りにしないで……っ、」

おねがい、と、ごめんなさい、を続ける私に、兄は静かに抱き締めてくれていた。






side.ノア
_______________

腕の中で静かになる妹の薄桃色の髪を梳く。

所々今は乾いてしまった泥がついた箇所を払えば、サラサラと床に落ちていく。


初めてだった。

こんなに、必死になったのは。



産まれてすぐ、魔力の才能が高いと分かった僕は、この国の魔術教会に連れていかれた。

親である存在の2人は、たまに会いにきてくれたが、あの人達には僕の存在が邪魔だったのだろう。

抱きしめて欲しいと近づく僕に、ごめんなさいと言う母親

いつも手の届かない距離にいるあの人達の瞳には、恐怖が浮かんでいた。

僕は、この国に売られたのだと悟った。

それからはあの人達に会うこともなく、ただ、言われるままに過ごした。

10歳になり、この国始まって以来の才能を使って入った騎士団の遠征先で、居心地の良い、綺麗で、大きな魔力を感じた。

そこに向かえば、荒らされた村があって、村人は見るも無残な姿になっていて。

それらを全て無視して、その魔力の持ち主に近付けば、まだ、小さな子供だった。
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