魔術師の少女が仕事にも恋愛にも全力でぶつかっていくお話。

imu

文字の大きさ
45 / 53

私は、貴方の優しさに甘え過ぎていたのでしょう。ろく。

しおりを挟む
びくりと体を揺らし、あたりを確認すれば、何の気配もない。

良かったと、小さく息を吐けば木々が揺れる音がした。

一瞬にして現れる気配に、恐怖が襲う。

西の森の遠征が終わってからの、初めての外での仕事。

すでにひと月は経っているし、森の中で一人で討伐なんて、遠征先ではよくある事だ。

それに、自分はあの頃の力のない子供ではない。

……分かってる。

分かっているはずなのに、体が動かないのだ。


「ぃゃ…、」

フラッシュバックのような光景が目の前に広がる。

生き絶えた魔物に、気絶する少年、そして、



______背中から血を流す、動かない兄。



「おに……ちゃん……?」

これは違うと、頭では分かっているのに、私の目はバカになっているようで、その光景幻想から目が離せない。

「やだよ…ねぇ……。」

現実では、魔物が近づいてくる気配がする。



___怖い。



私は、目だけじゃなく、体までどうにかしてしまったようだ。

恐怖で、指一本動かせない。

魔物の気配は10匹もいない。

あの森の時よりは、怪我を負っていたとしても簡単なはずだ。

……いや、簡単だろうか?

そう思って、倒したと思って、兄に怪我をさせたのは、……この私じゃないか。


___こわい。


私に倒せるだろうか。


___怖い。


またあの時みたいに、目の前のみたいに、


___恐い。


誰かが怪我を負って、それで……っ!


「……けて……、」

暗い、暗い、森の中。

「たす、けて……おに、ちゃ……っ、」

魔物の、息遣いが聞こえる。

「…おねが、…す、けて……っ、」

いつもそうだ。

私は非力で、いつも誰かに助けてもらっている。

だから、そう。

だから、シャロン様も、私が嫌になった。

いつももらってばかりの私は、何もできることがなくて。

何も、返すことをしなくて。

それで……。

「……ヒック、ごめっ、なさ、」

でも、

「シャロ、様、…ごめん、なさ…っ、」

今は、

「おねが、い、…シャロン、様……っ、」

初めて会った時の様に、

「シャロン様ぁ…っ!」

私の王子様に、なってくれませんか……?







「相変わらず泣き虫だな。セシリア。」







そう言って、魔物を一瞬で倒す姿に、先ほどとは違う意味で涙が溢れる。

その後ろ姿は、12年前と変わらない。


「シャロン、様……。」

「この位、お前一人でも倒せただろう?」

そう言って、私に手を差し伸べてくれる姿さえ、あの頃と全く一緒だった。




足を捻った私は、シャロン様に背負われて森の中を進む。

あまりに近過ぎる距離に、自分の鼓動が早くなるのがわかる。

お互いが何も話さない状況が続き、森の入り口まで来た。

「シャロン、副、団長……。」

何か話さなければ、と口を開けば、シャロン様の足が止まった。

森の入り口にある切り株の上に降ろされ、私は失敗したと思った。

助けにきてくれたとは言え、私は、シャロン様に嫌われているのだ。

ここまでしてくれた事に感謝をしなければならないのに……。と、思った時、シャロン様が私の目の前に跪いた。

「もう、その名で呼ぶな。」

「……え?」

「だから、副団長と、呼ぶな。セシリア。」

……どう言うことだろうか?

これは、お前には名前をどんな形であろうと呼ばれたくない、とのことだろうか?

そう結論が出て、青くなる私に、シャロン様はため息をついた。

それにびくりと体を揺らせば、苦笑するシャロン様を見る。

「……俺が言うことでもないが、前みたいに呼んでくれないか?」

そう言って、私を見つめる紫の瞳を見れば、月明かりに照らされ、銀の輝きが見えた。

「シャロン、様…?」

おずおすとそう呼べば、あぁ。と返事が来て、シャロン様が顔を伏せた。

どうしたのかと、心配気に見れば、シャロン様の声が聞こえた。

「セシリア。この間は、すまなかった。」

そう言って、上を向いたシャロン様と目が合う。

その瞳は、不安気に揺れていた。

シャロン様は悪くない。と、口を開こうとすれば、シャロン様が口を開くのが先だった。

「あの時俺、聞いたんだ。ルシヨンが前からお前の事を好きだとは知っていた。それで、ルシヨンが告白したと言うのも、2人の様子を見ていれば、すぐに分かった。それから、何度か2人が一緒にいるのを見かけた。セシリアは俺が好きなんじゃないのかと、お前に対して憤りを覚えた。」

そう言って、シャロン様は一旦言葉を切る。

私はなんと言って良いか分からず、シャロン様を見つめた。

「そんな時だ。セシリアがルシヨンに好きだと言っているのを聞いたのは。」

「シャロン様、それは…っ!」

「あぁ。今思えば、あの時盗み聞きしていた俺も悪かったと思う。それに、本当は最後まで聞いていた。だから、セシリアのルシヨンへの好きが、恋愛感情じゃないことも分かっていた。…だが、俺は許せなかった。他の男に好きだと言うセシリアも、そんなお前に、ちゃんとした言葉が言えない自分自身にも。」

月明かりが陰り、シャロン様の手が私の頬に伝った涙の跡を撫でる。

「なぁ、セシリア。もしかしたら今更かもしれないけど言わせてくれ。俺は_______、」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...