青空のサンセット

大和 司

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第1章 いつもの日常

第03話 夜の儀式(1)

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 夜も更けてきた。周りは静かだ。山とそよ風と、時折聞こえる鳥の声。ぱちぱちと燃えるたき火の音。周りはオレンジ色。
 おもむろに立ち上がるエレノア。う~んと背伸び。アッシュの元に近づく。

「そろそれアレ、やろっか」
「あぁ、頼む」

 二人は茂みの奥へ…というのは夜の山ではちょっと危険なので、たき火の光が回り込まないテントの影へ。テントの影に入り、お互いの姿がうっすらとしか見えない状況。アッシュがエレノアに近づく。エレノアに対して90度ターンしてしゃがみ込むアッシュ。騎士が忠誠を示すかのような姿勢で頭を垂れる。
 エレノアはアッシュにゆっくりと近づき、そっと右手を額に当てる。そして左手を後頭部に当てる。両手でアッシュの頭を包み込む。そしてゆっくりと目を閉じ、深呼吸を開始。 



周りの空気が少しツンとなる。エレノアの体が青白く光り始めた。

 エレノアが魔法力を他者に供給するとき、エレノアの体が青白く発光する。この光は「慈悲の光」と呼ばれている。慈悲の光の到達距離は、エレノアが供給する魔法力の多さによって変化する。エレノアが他者にゆっくり少量の魔法力を供給する分には、ほとんど慈悲の光が見えない。一方、瞬間的に大量の魔法力を供給すると、慈悲の光の到達範囲は数十メートルから数百メートル、あるいは数キロに達することもある。もちろん可視光なので、いくらゆっくり丁寧にエレノアがアッシュに魔法力を供給しても、夜の闇には十分な明るさだ。

 たき火のオレンジ色と、慈悲の光の青色とのコントラストが幻想的。どちらもゆらゆらと空間を照らす。

 慈悲の光には特殊な性質がある。慈悲の光は、エレノアの体表面全体から放出される。慈悲の光は可視光なのだが、衣類はもちろんのこと、強度によっては金属さえも透過する。つまり、慈悲の光が放射されている間中、エレノアの体はまるで「裸同然」のように見えるのだ。



 今はゆっくりと魔法力をアッシュに供給しているので控えめだが、近くで見ると透けて見える。なのでテントの影に入ったわけだ。だってマックがいるからね。一応。

 慈悲の光により、その放射点にエレノアがいることが周囲の人間に伝わってしまうことが、後々の災いをもたらすことになる。これはエレノア自身の宿命とも言える。だからこそ、護衛役のアッシュがいるわけだが。

 エレノアから魔法力のチャージを受けるアッシュ。アッシュの額の奥には、実は小さな魔法石が埋め込まれている。額の皮膚と頭蓋骨の間に配置されており、頭蓋骨表面に固定されている。ぱっと見では分からないが。アッシュの記憶の維持のために魔法力が必要なのだ。詳細はまた今度。

 チャージ中はアッシュは決して目を開けない。そりゃあね、信頼関係って大切だもんね。そしてそんな破廉恥なことをアッシュがするはずもなく。
 エレノアの体の光が徐々に柔らかくなり、慈悲の光が完全に消えた。

「ほぃ、おしまい。今回はあまり減っていなかったみたいよ。少ししかチャージしてないもの」
「そうか、ありがとう」
 このときアッシュは、少しの微笑みと、わずかばかりの不安の色を見せる。いつも、である。エレノアはそれがいつも引っかかるのだが、聞けずにいた。多分これからも、聞けないのだろう。

 星空を見上げるアッシュ。色々あるんだろうね、複雑な思いが。

 夜の山からは星がよく見える。月明かりが山々を照らしている。
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