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第2章 影太くん前世を知る
影太くんの結婚
しおりを挟む家に帰ると母親がスゥを笑顔で出迎えてくれた。「馬鹿な息子で本当にごめんなさいね」と謝罪されたスゥは何のことかわからないと言った風だった。
「えーたママ、ボクえーたとケッコンしたの♡」
え……今それ言っちゃうの?
母親も何を言われているのかわからない風だった。ケーキの箱を抱えて帰ってきた父親とも遭遇する。あとから来た父親は玄関の謎の空気にも動じず俺たちが動くのを待っている。会話が止まったので、台所にぞろぞろ移動して食卓の各々の席に着いた。
「それで……結婚って何? どういうことなの……?」
テーブルにはいっぱいのご馳走が用意されていた。予備校へ行く前に夕方スゥと帰ることをメッセージアプリで伝えていたから、スゥを歓迎するつもりだったのかも。父親もケーキまで用意してるし……。コロモの件でスゥとの同居が反対されるかもと構えていたけど考えすぎだったみたいだ。よかった……。それでも今後のことも考えて、両親にはきちんと話した方がよさそうだなと思った。
「えっとその……実はスゥは地球の人間じゃなくてですね……」
突然息子が頭のおかしなことを話しだしたと思うでしょう。しかしちゃんと話すならこの辺は知っておいてほしい部分だ。俺の夫は異世界人なんです。厳密には宇宙人じゃない異星人……この《世界》のしくみと特殊な意味をもつ単語がわからないと言葉すら伝わりにくい。
まだ実感の伴わない結婚なので、親に話すのはもう少し待ってほしかったな~とは思います。この国の正式な届出とは一切無関係の、たんに自分たちの中で決めたことだし……。こちらは本気でも周りから見れば正式な結婚とは受け取ってもらえないと思う。けど、俺にとっては遊びじゃないんだってことを両親だけには理解してほしい。
いつか話さなければならないと思っていたことを、両親に長い時間をかけて説明した。スゥの擬態を解いて髪と瞳の本来の色を二人に見せてあげたり、懐から出て来たイタチのコロモが人型になってくれたことで話に真実味が出たようで、両親も困惑しつつ概ね理解してくれたようだった。
「つまり……影太とスゥちゃんは昔別の世界で結婚してて、この世界でまた結婚したってことね?」
俺の人格のことや《世界》と《星》の違いについてまでは説明できませんでした。でも今はそんな感じでいいと思う。その辺の言葉は今後会話のニュアンスで少しずつ理解してもらいたい。俺もそこまでしっかり理解できてないし。
「俺の年齢は日本の法律だとまだ少し足りないけど、スゥは中学生じゃないし、俺の寿命を考えたら時間も惜しいので、この印をもって正式な結婚って考えようと思うんだ。でもちゃんと進学はするし、普通に就職もしたいって思ってます」
今後の進路などについても予定を話して安心させることにする。父親は「いいんじゃないか」と納得してくれて、母親もまだ半信半疑と言った顔で「反対する理由もないものね」と頷いてくれた。
「じゃあ……改めて、おめでとう影太……」
「まだしばらくお世話になります」
よろしくお願いしますと頭を下げると、スゥも一緒にペコリとお辞儀した。
「実は私たちからも報告があるのよね……」
母親が俺たちを見ながら恥ずかしそうに切り出した。父親が咳払いをしてケーキの箱を食卓の中央に置く。有名パティシエのちょっとお高いケーキだった。よく見たら果物のソースで大きく『寿』と書かれている。俺の結婚は知らなかったはずだし、何のお祝いだろう……
「あのね……実はね、お母さん……赤ちゃんができたの……♡」
◇◆◇◆◇◆◇◆
『これが何を意味するのか、あんたにはまだわからないでしょうけどね……』
姉が言っていたのはこのことだったのか……。俺たちのエッチの音漏れが……シナジーの影響とかもあるのかも。俺たちが作ってしまった子供と言えなくもない。震える。やたら母親を気遣っていたコロモは最初から気付いてたみたいだ。教えてよ。大したことはできないけど、俺だってもう少し気遣ったのに……
母親は妊娠三か月でした。
気まずい空気の夕食になってしまった。懐妊祝いに張り切ってご馳走を用意していたところに息子の突然の結婚発表……。それも『結婚しました』という事後報告です。お互いに祝いたい気持ちはあるのに、どこか複雑な気分で臼井家の三人は黙々と食事を終えました。スゥとコロモは元気にモリモリ食べていた。
食事のあとにシャワーを浴びて、自室の座卓に突っ伏していた。俺の弟か妹ができてしまった……
「えーた……」
ベッドの縁に座って少し不満気にスゥが見ている。……そうですね、新婚初夜という一大イベントですよね。スゥの中にそういう記念イベントの意識はなさそうだけど、『結婚した』という感覚はあるっぽいし。しかしこの心の乱れように加えてコロモもいる。マレさんの豪邸の部屋ならホテルみたいだし、それっぽいムードも作れたんだろうな。でもここは俺の部屋です。スゥのとなりに腰を下ろして肩に寄りかかる。溜め息がこぼれた。
そもそも俺にとって《結婚》って何だろう。目に見える契約も届出もない、気持ちだけで決めた俺たちの結婚に何か意味があるのかな……
アチェの結婚には大きな意味があった。男娼の自分に後ろめたさを感じていたアチェは、スゥと恋人という関係は望めなかったと思う。『奴隷にすればいい』と言ってたくらいだし。野営で子育てを続ける彼をお屋敷に招き入れるのに、《結婚》という言葉の契約には十分な効果があった。意味のある結婚だった。
俺はスゥと一生一緒にいるつもりだったけど、前世で結婚したのに今世ではしないというのも何かやだし。俺にとっての結婚は、《パートナー》であるという認識を強く感じるための……何かそういうちょっとしたことのための縛りになるんでしょうか。スゥのことを説明する場面で「この人は俺の夫です」と言えば、だいたい理解してもらえそうだし、関係性を示すカテゴリーに属しておくのは何かと便利かもしれない。スゥに今後誰かが求婚するかもしれないし、そういう不安が減るのもいい。『既婚』という防壁が俺たちの関係を守ってくれるのかもしれない。……うん、俺にとっても十分意味はありますね!
右耳のピアスに触れる。スゥの耳のお揃いの飾りを見て少し胸が温かくなった。お揃いのものを身につけるのって、ちょっと嬉しいんですね。スゥの左耳にキスをする。地球の存在をうっすらと感じる……
「ねぇコロモ、少しだけ二人きりにさせてもらえないかな……?」
ベッドで丸くなっていた人型のコロモが起き上がってコクコク頷いた。
「ん! 屋敷戻る。エイタとスゥ番う、僕も祝福♡」
コロモは俺とスゥの耳の飾りにそれぞれキスをして部屋を出て行った。コロモが帰るのを見届けて、しっかり部屋の鍵をかける。
どうしよう……。スゥはまだアソコが定着してないし、ここは俺の部屋だからマットレスが一瞬でキレイになったりはしない。寝る前だし、じっくり抱き合うとかはやめた方がいいと思う。大事な夜にビショビショのお布団で寝るのはやだし。
羽毛布団をたたんで寄せて、マットレスに大きめのタオルを敷いた。新しいシーツも用意しておく。スゥは服を脱いでワクワクした目を俺に向けていた。期待されてる……
「こんやはトクベツなエッチでしょ?」
スゥにもその意識があったらしい。エッチに関するイベントだからなのかも。
「頑張ってみるけど、この部屋でできる範囲で、だからね」
スゥのお尻の下が気になって、タオルの上に座ってもらった。興奮回数を極力減らしてゴールしなければ……。終わったあとに敷布団を床に敷いて寝る、という選択肢も頭に入れておく。床で致すのは俺たちには向いていない。まったく動けないスゥにとって、技術の乏しい俺にとって、マットレスさんのスプリングはかなり重要なアイテムだった。
「トイレに行くから、ちょっと時間がかかるけど……おとなしく待っててください」
「ダメ♡」
「いやでも……行かなきゃできないし……」
スマホを手にドアに向かう俺を、スゥはニコニコしながら引きとめる。
「こんやはボクからはなれちゃダメ!」
何でッ?
「オシッコはいいよね?」
「だってオシッコじゃないでしょ? ウフ♡ えーた、コレ見て?」
股を広げたスゥが陰嚢を持ち上げると、蕾から白い紐が伸びていた。ちょ……え……そんなとこに何入れてるの……?!
「えーたママにもらったの♡」
父親の職業柄、医薬品やドラッグストア関連の日用雑貨についての知識が豊富な臼井家です。父親の持ち帰る販促品やサンプル、期限間近の買取品のおかげで幼い頃から俺もそこそこ知識を増やしてきました。なのでソレが何であるのか、『母親に貰った』ことで理解した。使ってる状態を見るのは初めてだけど多分ソレだ。
なるほど……いやしかし……
◇◆◇◆◇◆◇◆
ベッドの上に全裸で正座をして、スゥと向かい合っていた。膝の前に両手をついてスゥの顔を真剣に見つめる。
「一生涯をかけてスゥを幸せにしま……」
「いっしょにシアワセになろーね♡」
顔がグイッと目の前にきて、大事なセリフを言い終える前に、唇に唇を優しくあてられた。誓いの言葉とか、スゥには無意味なのかもしれない。
そのまま抱き寄せて唇を吸い、スゥの開かれた口に舌を入れる。ゴールせねばという焦りでまったく気持ちが乗ってこないけど頑張ってキスを続けた。スゥは困った顔でそんな俺を見ている。何か言いたげなので唇を離した。
「ねぇえーた、ボクにおなにー見せて?」
あれこれと必死に考えていたので固まる。え……何を見せろと?
「えーたのおなにー」
「何で?」
「さっきトイレでするつもりだったんでしょ?」
そうです。達する寸前まで『えーたのおかず』で持って行こうと思っていました……
「アチェはよく見せてくれたよ? すっごくえっちだった♡」
中出し禁止の時にそんなプレイをやっていたよね。……あれを俺にやれと?
スゥに期待の眼差しを向けられて俺は目をつむった。確かにトイレからベッドまでの距離を考えるとここでする方が行為に直ぐ持って行けそうではある。寸前の状態で廊下を歩くのはつらそうだし。でもオナニーじゃなくても、スゥが唇とかでやってくれた方が早くないかな。母親のアイテムで洪水は回避できてるし、少しくらいスゥから刺激や興奮を得てもよくないですか?
「ボクだけのえーたを見せて♡」
「ぐ……」
今日は一大イベントですからね!
応援ありがとうございます!
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