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第1章
美しき聖の使い手は唯我独尊
しおりを挟む朝の日が射し込むリビングのダイニングテーブルに、教会から訪れた三人とリーフ、シオン、アミナは向かい合わせで座っていた。
窓を背にした教会の三人は三者三様の表情を浮かべていた。ジャクソンは目の前に座るリーフを睨み付けているし、オリビアは仕事があるからとそそくさと退散したアイリスの後を今にも追いかけて行きそうで、その横でディーノは必死にオリビアを止めていた。
「この狸じじい。司祭である儂よりも市民の信頼を得ておると、今日も儂を見下しおって」
「ほほほ。お主の被害妄想には付き合いきれんわい。営業妨害じゃ。さっさと帰ってくれんかのう」
ジャクソンとリーフの仲は悪そうだ。リーフも顔は笑っているが、ジャクソンを歓迎している様子ではない。
アミナはいつも温厚なリーフの冷たい態度を初めて目の当たりにして目を泳がせた。
いつも優しいリーフにこれ程疎まれるなんて...ジャクソンさんって一体何者....?
オリビアは自身を抑えるディーノを鬱陶しく払うと目の前に座るシオンに腕組をして問いかけた。
「さて。お前の仮面は誰が外したんだ?」
オリビアの言葉にその場にいる全員がシオンに集中した。シオンも腕を組んで顎を上げ、猫のような大きな目でオリビアを見た。
「知らん。いきなり外れたんや」
シオンの生意気な態度にアミナはひやひやするが、オリビアは「......ふ」と小さく笑った。
彼女はテーブルの上にある仮面を顎で指し、さも面白そうに言う。
「この仮面にかけられていた闇の言望葉は聖の言望葉使いの力でしか対処できない。お前は誰かを庇いたいようだが、無駄だ。私でさえこの仮面を外す言望葉が分からなかったというのに、たった一晩で仮面を外すことができるほどの力。周りが放っておいてはくれないだろうよ」
「この国でも指折りの聖の言望葉使いであるオリビア様よりも、強い力を持つ者がまだこの国にいる、と.....?」
ディーノは信じられないとでも言うようにオリビアの横顔を凝視した。
「ところで、お前」
オリビアはシオンからアミナに視線を移した。まさか自分が話かけられると思っていなかったアミナは驚いて肩を揺らす。
「は、はい」
「お前の顔を、私は知っている。そう、この国の城で…だいぶ昔だが見たことがある。なぜこんな所にいるのかは分からんが、お前は王族だろう?」
「.........っ」
アミナの喉がひゅっと嫌な音をたてた。目を左右に泳がし、体を震わせる。
昔の私を見たことが、ある....?
どうしよう。リーフ達が私を匿っていると知られたら、大変なことになるんじゃ...?もし、お父様に私が生きていると知られたら?
一族の恥だと城から追い出された私が、まだこの国にいると知られたら......。
私のことを知っている人がお城の外にいたなんて…。
背中にうすら寒いものが伝い走り、いつの間にか握り込んでいた拳がぶるぶると震えていた。
「左様。彼女はこの国の元王族であった」
リーフの平らかな声がリビングに響いた。アミナは動揺し、リーフを揺れる瞳で見つめた。
「彼女を引き取り、ここで育てることはすでに国王様には報告済みじゃ。市長やそこにいるジャクソンにも話しておる」
「あったあった。そんなこと」
ジャクソンが面倒そうに頷いた。
その言葉を聞き、アミナの体からふっと力が抜け、脱力した。横から視線を感じ、見てみるとリーフが「じゃから、安心せえ」と微笑んでいた。アミナも眉を下げ微笑んで頷き、心の中でリーフに感謝した。
「そんなことはどうでもいいんだが....。王族なら、聖の言望葉を扱えるだろう?」
オリビアがアミナを真っ直ぐ見つめる。ディーノは「お、王族....この子が…」とアミナを見て息を呑んだ。
「確かに王族は聖の力を受け継ぐ血統です。それならば、オリビア様より強い力を持っている可能性も……」
アミナは困り、眉を下げた。
言望葉、使えないんだけどな....。
オリビアさんは知らないんだ。
私の存在は母様が亡くなってからすぐに隠されてしまったからなのかもしれない。
「...えと」
「お前の姉のビオラも相当な使い手だと聞く。あいつは確か、光の言望葉も扱えるんだったか...?二つ以上の属性を扱える奴は私以外に数人くらいしか聞いたことがない。相当優秀なのだろうな。私のように」
真顔で淡々と話すオリビアにディーノはこっそりとため息を吐き、「これ本心から言ってるんだもんなあ。羨ましい性格だ...」と呟いた。
「姉と同じように、お前も聖の言望葉が扱えるんだろう?王族には聖の言望葉の力が脈々と受け継がれているのだから」
「私、...使えません....」
アミナは情けなさに声を震わせた。城にいた時の自分を取り巻く大人達のがっかりとした顔を思い出す。
使用人達が囁く。
王族なのに、言望葉が使えないなんて...。
ありえるのかしら?
本当は、王様の子供ではないのでは...?
だって、ほら......。
アミナは自分の動悸が速く鳴るのを感じた。
オリビアは方眉を上げると、首を振る。
「使えない?そんなわけがないだろう。確かにユリ様は王族の出ではないが、それでも聖の言望葉使いとしての力は王族にも引けをとらなかった」
アミナの顔がかあっと羞恥に染まる。
アミナ様はユリ様が王様以外の男と寝て出来た子じゃないかしら。
いつかの使用人の声が耳に蘇る。
自分のせいで、母親にまで言いがかりがつけられる。
それがどれ程、悔しいことか。
情けなくて悲しくて、申し訳なくて自分を許せないことか。
けれど母様は私に優しかった。
父様や使用人達の心ない言葉を投げつけられても、毅然としていた。
アミナの目の奥で生きていた頃の母親が優しく微笑む。自分と同じ髪の色の美しい人。
惜しみない愛をくれた人。
「なぜ使えないんだ?」
オリビアの真っ直ぐな疑問がアミナの胸に突き刺さる。
「.....そ、れは...」
額から冷たい汗がつう、と伝う。
そんなこと、私が一番知りたいのに。
バンッと大きい音が隣で鳴って、アミナは肩を揺らした。
「ええ加減にせえ!!」
シオンが拳をテーブルに振り下ろしたのだ。テーブルに拳サイズの穴が開いている。
シオンはオリビアに吠えた。
「こいつは言望葉が使えん言うとるやろ!!それが全てや!分かったらさっさと帰れや!!」
「それはできない」
オリビアは引かなかった。
「今日の夜は丁度よく三日月だ。幾つもある月夜のうち、一番言望葉の力を調べるのに向いている。今夜、言望葉の喚声式を行う」
「勝手に決めるなや!!」
シオンが青筋を立てて声を荒げる。アミナはおろおろとするばかりだ。そこで、静かな声が二人を止めた。
「喚声式とは昔から続いている儀式の呼び名じゃな」
リーフはオリビアとシオンの視線が自分に向いている事を確認すると、更に言葉を続けた。
「昔で言えば、その年に十歳を迎える子供達を城に集めて一斉に言望葉を扱う素質のある者を選抜する行事の事であった。しかし、現代のそれは年々言望葉を扱える者が減っていくと共に形を変えている。子供が十歳を迎える年に行うのは同じじゃが、場所はどこでも良いとされ、儀式の結果も国から送られてきた書類に記入して返送すれば良いということになっている」
リーフはひと口コーヒーをすすり、ゆっくりとまた口を開いた。
「人類の化学が進むにつれ、言望葉がそれほど重要視されなくなったのが原因じゃ。そして、今となっては他人が喚声式を強制できるのは、国の言望葉使いに関する事柄を管理する城の管轄である<言望葉管理局>から許可を得た者だけじゃ」
リーフはオリビアに向かって柔らかく微笑んだ。
「さて、ここで一つ教えてほしいのじゃが。お主は管理局から許可を取っておるのかのう?」
図書館を去る三人組はこれまた三者三様だった。
「やっぱり苦手だ……あのじいさん。さすがアイリスがついていくと決めた人だ」
と唸るオリビア。
「そうじゃろう!?あのじじいは融通もきかんし、人を小馬鹿にするのを喜びとして生きているんじゃ!」
と嬉しそうなジャクソン。
「いやいや、あのお方は真っ当な事を仰られただけです。まったくあなた方は……」
と疲れた顔でため息を吐くディーノ。
オリビアは振り返り、図書館を見上げた。
片頬を上げ、さも面白げに笑う。
「城を追い出された元お姫様と闇の言望葉使いに狙われている竜のガキ.....か。面白い組み合わせだ。お前がいくら庇おうと、そいつの力が本物なら、いずれ明白になる。.....その時、お前はどうする?」
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