不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜兄弟の絆〜

忘れられない恋心

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 メルーサは長い髪をかき分けながらカイトを睨んでいた。ただ立っているだけなのに大人の色気が全身からにじみ出ているような印象を受けた。

「メルーサ隊長戻られたんですか?」

 ロイは驚いた表情でメルーサに聞いた。

「ああ。先日中央司令部から戻ったんだ」

「協力者って、メルーサ隊長だったんですか?」

「そうだよ」

 マチルダがリンに答えた。

「メルーサ隊長がなぜ? ティアラを匿うのを手伝ったんですか?」

 リンは納得ができないのかメルーサに事の真相を聞いた。

「た……ただの気まぐれだ……」

「ただの気まぐれ? 本当ですか?」

 リンは不思議そうに聞いた。

「わ……私はルーン大国以外の人間に対しておかしな感情は持っていない。デミタスと一緒にするな!」

「デミタス? 副隊長のデミタスさんですか?」

「ああ。あいつは全人類を目の敵にしているようなやつだからな」

 カイトはそれを聞いて、ガンドールでデミタスにティアラを始末したか執拗に聞かれたことを思い出した。

「なぜ? デミタスさんはそこまで人間を嫌うんですか?」

「人間を嫌うというよりは、聖女を嫌うと言ったほうが正しいな」

「聖女を? どうして?」

 リンの問いかけのあとメルーサはしばらく沈黙した。何やら言うかどうか躊躇しているようだった。少し間を置いてメルーサは話し始めた。

「ルーン大国が長年モンスターの襲撃に脅かされていることを知っているか?」

「ルーン大国が? いえ……初めて聞きました」

「モンスターがどこからともなく現れてその対処にかなりの戦力を消耗している」

「そんなことが……、知らなかったです」

「そうか。今から言うことはギルティーの上層部しか知らない情報だから他言無用にしてほしいのだが約束できるか?」

「ええ。もちろんですよ」

 その場の全員が納得しているのを表情で確認した後、彼女はゆっくりと口を開いた。

「そのモンスターの襲撃がなければギルティアはとうの昔にルーン大国に敗北している」

「なに!? それは本当ですか?」

 その場にいる全員が凍りついた。

「残念ながら本当だ。中央司令部の連中は言葉には出さないが、データーが戦力差を物語っている。上層部の中には敗戦後に疎開する土地を密かに購入している者もいるほどだ!」

「でも? それと聖女の存在がどう関係するのですか?」

「聖女はモンスターを滅ぼす力を持つとされている」

「え? 聖女にそんなことができるんですか?」

「ああ。聖女の祈りと言って、聖女の神格スキルを開眼すると使えるようになるらしい」

「それで、聖女にモンスターを全滅させられると、ギルティアが戦争で不利になるから聖女らしき人間を見つけては殺害しているのか?」

「そう言うことになるな」

「そうだったんですか」

「でも、あのデミタスの行動は異常に感じるところがある。まあ、なんにせよアスペルド教団の聖女様を守れてよかったよ」

 メルーサはそう言うと私に優しく微笑んだ。その笑顔は優しく、先程嫉妬の表情を向けた人とは思えない表情だった。

 その後しばらく料理を囲んで雑談を楽しんだ。メルーサはカイトと同じくギルティークラウンで、彼女は爆炎のスキル保持者ということが分かった。玄関ドアが粉々に吹き飛んだのは彼女が爆炎魔法を使用したそうだ。

 彼女は3日前に首都のガルダニアにある中央司令部から、この戦線の町ローゼンブルグに赴任してきた。

「どうして急に赴任が決まったのですか?」

「それが、ローゼンブルグ近郊のヒロタ川にルーン大国の軍勢が押し寄せつつあることを司令部が察知したんだ」

「え? 本当ですか?」

「ああ。それもどうやらルーンの将軍も布陣するつもりらしい」

「ルーンの将軍? あの夜叉神やしゃじんが来るのですか?」

「そうだ」

 メルーサがそう言うと全員が静まり返った。その光景を見るだけでその夜叉神という人物がどれだけの人物かが分かった。

「ま……まあ、今はそんなことはことは置いといて、せっかくティアラが無事に帰ってきたんだし、お祝いしましょう」

 リンがそう言うとみんなの張り詰めていた空気が和んだ。しばらくみんなで会食した後に私達は別れた。

 ロイとリンの夫婦とマチルダを玄関に送っている時、ふと視線をメルーサに向けるとカイトに詰め寄っていた。

「カイト。ちょっとお前の部屋で話せるか?」

 その言葉を聞いた瞬間凍りついた。カイトには嫌だ、と断ってほしかったが、カイトは私の思いとは裏腹にああ良いよ、と返事をすると二人でカイトの部屋に入って行った。

「ティアラ! ティアラ!」

「え? あ……はい……」

 気がつくとマチルダが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。二人のことが気になって話しかけられたことに気が付かなかった。

「どうしたの? 大丈夫?」

「え……ええ。大丈夫よ……、本当に一緒に連れてきてくれてありがとう」

「そんなこと気にしないで良いのよ!」

「うん。ありがとう」

「また今度会いましょうね」

 そう言うとマチルダは帰っていった。

 私は二人が入って行ったカイトの部屋が気になった。

(二人で何を話しているんだろう?)

 ゆっくりとカイトの部屋の前に来ると話し声が聞こえないか耳を壁に近づけてみたが、何も聞こえなかった。

(ドアを開けたらどうなるかな?)

 私はドアを開けて部屋の中を確認したい気持ちでいっぱいだった。でも、そんなことをするとカイトに怒られるような気がした。

(二人で何をしているんだろう?)

 若い男女が一つの部屋ですることと言えば……、私の脳裏に抱き合っているカイトとメルーサが思い浮かんだ。

 気がつくとドアノブに手をかけようとしている自分が居た。その時『ガチャ』という音と共にメルーサが部屋から出てきた。

 ドアを開けたメルーサの顔を見るとどことなく悲しそうな表情をしているように思った。

「ん? どうした? 私の顔になにか付いているのか?」

 メルーサに聞かれて、い……いえ……、としか答えられなかった。

「邪魔したなカイト」

 そう言うとメルーサは帰って行った。


 その後家に残った私とカイトは食事の後片付けを二人で行っていた。私はメルーサとの関係を聞きたくてウズウズしていた。

「メルーサのことが気になるのか?」

「え?」

 ドキリとした。聞きたくてウズウズしていたのが分かったのだろう。

「は……はい。彼女は何者ですか?」

「メルーサは兄ちゃんと一緒にギルティーで仕事をしていた戦友だよ」

「え? お兄さんと?」

「ああ。まだ兄ちゃんがギルティークラウンに就任したばかりの時に同じくメルーサもクラウンになったと言っていた」

「あの……、マチルダが彼女とは因縁があるとか?」

「ああ。俺がギルティーに入団したのが15歳の時というのは前に話しただろ?」

「ええ。最年少記録だったとか?」

「そうだ。メルーサはその時に入団テストの試験官をやっていたんだ」

「彼女のおかげでギルティーに入団できた?」

「まあ、そういうことになるかな」

 その後、私はしばらく黙ってしまった。次の言葉を言うのを躊躇したが、カイトは不思議そうな顔でこちらを見てくるので思い切って聞いてみた。

「あの人はカイトのことが好きなんじゃないかな?」

 口に出してからもう少しやんわりとした聞き方をすればよかったと後悔して、慌てて口を抑えた。

「はあ? ははははーーー!」

 思いきり笑い飛ばした。私は顔を真赤にして怒った。

「本当ですよ! あの人が私達を見る視線は嫉妬のこもった目をしていました。私にはわかるんです!!」

「それは無いよ」

「え? なぜわかるんですか!?」

「メルーサが好きなのは兄ちゃんだったからだよ」

「え?」

「二人だけで部屋に入ったときも、聞かれたのは兄ちゃんのことだったよ。ルーン大国から連絡は無いか?、執拗に聞かれたよ」

「ルーン大国からって……あの人は……」

「そうだ、兄ちゃんがルーン大国に渡ったのを知っているのは俺達と、もうひとりいると言っただろ」

「メルーサさんが、そのもうひとり?」

「そうだよ。あの人は兄ちゃんが恋人のミラと一緒にルーン大国に渡ったことを知っている」

「それを知っててなぜ?……」

「忘れられない恋というのもあるんだろう……」

「忘れられない恋? でも、なぜ私達を見る時にあんなにも嫉妬のこもった目で見ていたの?」

「多分俺とティアラの姿が兄ちゃんとミラの姿に見えたんじゃないか?」

「ああ……」

 それを聞いて私はすごく納得した。私とミラは同じ人間種ということになり、カイトとお兄さんも同じエルフ種ということであれば、かぶらないようにしろ、というのは無理があるだろう。

 メルーサが恋敵じゃないとわかったことに少し安堵したのもつかの間、カイトは表情を固くした。

「ティアラ」

 カイトに真剣な表情で呼ばれて少しびっくりした。

「どうしたの? 真剣な顔して?」

「ギルティーの副隊長のデミタスを覚えているか?」

「あの~、ガンドールであなたと一緒にいたエルフですよね」

「そうだ」

「そのエルフがどうしたの?」

「メルーサが言うには、ティアラの存在に気がついた疑いがある」

「それって……、どういうことですか?」

「あいつは人間を……、特に聖女を排除することに全身全霊をかけている相手だ。見つかったらまずい」

「え……」

 その瞬間、私の背後にどす黒い何かが覆いかぶさってくるのを感じて、これからカイトと平穏な暮らしができると思っていた楽しい気分が削がれ、不安な気持ちが広がっていくのを感じた。 
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