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第02章 旅立ちと出会い

20 再びの旅立ち

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 孤児院の収穫祭が滞りなく終わり、子供たちは昼寝、残された俺たちは後片付けをしていた。

「そういえば、スニル、また、旅立つんだよね」

 ポリーが寂しそうにそういった。

「ああ、予定では明日な」
「そっか、寂しくなるね」
「まぁ、いざとなれば転移で帰ってくるけどな」
「そうか、そうだよね。あと、ちゃんとお手紙書いてよ。私も書くからね」
「おう、わかってる。ポリーも召喚魔法は大丈夫か」
「うん、ばっちり」

 この世界で手紙を出す場合、商人に金を出して頼むか、冒険者に頼むという方法しかない。
 しかも、この方法だと紛失する可能性のほうが高くなってしまう上に、途中で読まれてしまうリスクもある。
 しかし、特殊な方法として召喚魔法で鳥型の魔物を呼び出して運んでもらうというものがある。
 ポリーにはその召喚魔法の適性があったために、時間があるときに教えたというわけだ。
 これにより、誰に読まれることもなく確実に相手に届くわけだ。

「リーフなら、すぐにスニルのところに届けてくれるんでしょ」
「ああ、リーフはサンダーバードだからな、こことゾーリン村だったら、1分もあればつけるからな」

 サンダーバードというのは、雷属性の魔物でその飛行速度は雷並みに早いといわれている。
 それで、リーフという名はポリーが初めて召喚した際に名づけを行ったからだ。
 それによって、リーフはポリー専用のサンダーバードということになったわけだ。
 ちなみに俺も同じくサンダーバードを召喚でき、名前は疾風ハヤテとした。

「ほんと、すごいよね。あっという間で」

 ポリーがこう言うのは、以前試したことがありゾーリン村から孤児院まで飛ばしたことがある。
 その時、ポリーはゾーリン村でリーフを飛ばしてから孤児院へ転移門でやってきたところ、少し待っただけですぐにリーフがポリーの元までやってきたのだった。

「だからといって、そうそう手紙ばかり書いてられないけどな」
「うん、わかってる。でもなるべく出してよね。私が出したら必ず返事を出すこといい」
「お、おう、わかった」
「あっ、でも返事だけはだめだからね」
「ああ、わかったって」

 こうして、俺は旅をしながらポリーに手紙を書くこととなった。



 そうして翌日。



 俺たちは朝孤児院へとやって来ていた。
 ここに来た理由は、孤児院の面々とゾーリン村の面々から見送られるためだ。
 なにせ、彼らはここから外に出ることができないからだ。
 だからこうして、俺たちがやってきたというわけだ。

「スニル元気でな」
「ちゃんと2人のいうことを聞くのよ」
「しっかりな」
「お2人とも、スニルをよろしくお願いしますね」
「頑張るんだよ」

 集まった村人たちから口々にそう言われた。

「スニル君、お手紙待ってるからね」
「うむ、気をつけてな」
「たまには帰ってくるんだよ」
「手紙出すからね」

 村長一家からも再三手紙を出すようにと言われたよ。これは面倒がって出さなかったらあとで怖そうだな。

「わかってる。出すよ」
「うむ、ダンクス君とシュンナさん、スニルをよろしく頼みましたぞ」
「おう、任せてくれ」
「ええ、もちろん、でもまぁ、どちらかというとお世話になるのはあたしたちのほうのような気がするけどね」
「確かにな」

 こうして、ゾーリン村との別れを済ませた次は孤児院である。

「スニル君、なにからなにまで本当にありがとう、この恩は忘れないわ」

 院長がそう言ったが、俺は首を横に振りながら言った。

「いや、俺は恩を返しただけだよ院長先生、院長先生が父さんを育ててくれたから俺がこうしているから、もちろんこれで全部返せたとは思ってないしね」

 この街にきて2か月余り、俺も院長相手にちゃんと話せるようになっていた。

「それでも、本当にありがとう」
「スニル、お前の恩があるのは院長先生だろ、それなのに俺たちにここまでしてくれたんだ。俺たちは一生忘れないぜ」

 院長に続いてそういったのは、俺と同い年の少年でプッケという奴だ。
 こいつは、元は孤児院を出ていたが、新しくなったことで戻ってきて、今は孤児院で将来のために勉強しながら小さい子供たちの面倒を見ている。
 ちなみに、そのプッケが世話になっていた卒院生もまた孤児院に戻って院長のサポートをしている。

「ああ、孤児院を頼んだぞ」
「おう、任せろ」

 そう言って、俺とプッケはこぶしをぶつけあう。
 同い年というだけあり、俺とプッケはそれなりに仲良くなったからだ。

「スニル君、畑と子供たちのことは心配いらないわ」
「そうだな。あと温室のほうも任せておけ」

 今度はロッド、サリーム夫妻から言われたわけだが、ロッドのいう温室というのは、孤児院の一角に作ったもので、鏡張りの室内畑のことだ。
 なぜこれを作ったのかというと、冬になると作物が実らないため孤児院の収入がなくなってしまうからである。
 温室があれば冬でも作物を作ることができるからな。
 これをロッドたちや村長たちに話したとき、みんなかなり興奮していたのは今では笑い話だ。
 ああ、そうそう温室のガラスは大丈夫かという心配があると思うがこれは全く心配ない。
 温室周りには当然俺が何重にも結界を張っており、どんな攻撃を受けたとしても問題ないようにしてある。
 また、この温室は村にも数棟設置したのは言うまでもないだろう。

 ちなみに、なぜビニールハウスではないのかというと単純にビニールができないからで、ガラスなら土からケイ素を大地魔法の”抽出”で珪砂とソーダ灰、石灰石を取り出し、火炎魔法を使って超高温にしてやればガラスができる。
 というのを、俺自身がなんとなく知っていたので、実践したらできたわけだ。

「それじゃ、そろそろ行くよ」
「気を付けてね。行ってらっしゃい」
「おう、行ってきます」

 こうして、俺たちは孤児院から旅立った。

 孤児院を出て振り返れば、いまだに手を振っている子供たちや村の面々、それを見た俺たちもまた手を振ってから曲がり角を曲がったのだった。



 貧民街から出た俺たちが次にやってきたのはこれまでさんざん世話になったワイエノとシエリル夫婦の店。
 さっき出たばかりだが、今度はここで4人から見送られるというわけだ。
 本来なら門のところまで送りたいと4人は言ってくれたが、フリーズドライが思っていた以上に盛況で門まで言っている暇がないのでここで別れることになった。

「おう、孤児院の奴らとは終わったのか?」

 俺たちを見つけたワイエノがそう言った。

「はい」

 シュンナが代表して答えた。

「そうか、まぁなんだ、俺たちが言うことはすでに言ってあるからな。まぁ、気を付けていってこい」
「ああ、えっと、いろいろと世話になったよ。おじさん、おばさん」
「いいのよ。あなたがあの2人の子なら私たちにとっては甥っ子も同然だもの。それに助かったのは私たちのほうね」
「違いないな」
「スニル、今度会うときは俺のほうが強くなってるからな、覚悟しておけよ」
「ああ、それは俺もだ。もっと強くなってやるよ」
「いってろ」

 俺とウィルクの関係はまさにいとこといった感じになっていた。
 また、俺たちは早朝の訓練時に模擬戦をしていたわけだが、最初こそウィルクのほうが経験の差で勝っていたが、模擬戦を繰り返しているうちに俺も経験を積んでいき、すぐに俺のほうが強くなっていた。あの時のウィルクの悔しそうな顔を言ったらなかったな。
 でも、ウィルクのすごいところはそこで腐らず、より一層修行に励んだことだろう、多分ウィルクはよりもっと強くなると思う。
 これはダンクスも同意見だ。

「スニル君が言っちゃうとちょっと寂しいわね。それに、ダンクスさんもシュンナさんも、本当に楽しかったです」
「ええ、ルモアちゃんも元気でね」
「そんじゃ、いつまでいても商売の邪魔になるし行くか」
「だな」
「ええ」

 こうして、俺たちは店を後にして意気揚々とカリブリンの街を出たのであった。
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