37 / 132
第03章 コルマベイント王国
01 初めての……
しおりを挟む
カリブリンを旅立って翌日。
俺はテントにて目覚めのいい朝を迎えていた。
テントで、目覚めがいいというのもなんか変な気がするが、事実だからしょうがない。
なにせ、俺のテントは一見すると使い古したものだがその中身は全くの別物だからだ。
村を旅立つとき、空間魔法を駆使して魔道具化し六畳間ほどの部屋を作っていたが、ダンクスとシュンナという2人が加わり3人となったことで、これじゃちょっと手狭となったために、さらに手を加えたわけだ。
その内容はというと、まず入り口から入るとそこは八畳間ぐらいに広げたリビングがあり、ここで3人のんびりしたり飯を食ったりする。
また、入口正面には2つのドアが新たに設置され、右側がダンクスの部屋で左側がシュンナの部屋となっている。
さらに、入口から左手側にもドアを設置しており、そこが俺の部屋というわけだ。
これまで俺たち3人は同じ部屋で寝泊まりしていたわけだが、本来なら狭いはずのテント内でそれぞれの個室を手に入れたというわけだ。
そんな俺の部屋は実家から持ってきたベッドと箪笥を並べ、床の間のような場所を作りそこに刀を安置している。
まぁ、特に代わり映えのしない普通の部屋だと思う。
ダンクスの部屋も俺と同じようにシンプルでカリブリンで新たに買い足した巨大な特注ベッドと箪笥、壁には武器類を飾れるようになっており、そこに大剣や片手剣などを飾っておくようだ。
最後にシュンナの部屋はというと、それに関してはよくは分からない、俺たちと同じようにベッドと箪笥があるのは一緒に家具を買いに行ったから知っているが、それからどんな内装にしたかは入っていないのでわからない。
一応というかシュンナは女だからな、当然といえば当然だろう、いくら俺の見た目が幼くとも実年齢は12歳であり、精神年齢は40ほどのおっさんだからな。
余談だがこのテント内の内装は、俺が魔法で作ったわけではなく魔法で広い空間を作り、そこにダンクスが1人で作ってくれた。
もちろん、設計は3人で相談して決めたけどな。
「おう、スニル起きたか」
「ああ、ダンクスは相変わらず早いな」
俺がリビングへと行くとダンクスがすでに起きてくつろいでいた。
「日課だったからな、そう簡単には治せねぇよ」
ダンクスは騎士団時代に早朝訓練を行っていた。その癖が今も治っていないという。
「しかし、ほんとこのテントは快適だな。まぁ、これをテントといっていいのか疑問だが」
「まぁ、暇に飽かしてかなりいじったからな」
「おはよ。2人とも早いわね」
「俺も今起きたとこだよ」
「そう、それにしても見張りがいらないっていうのはほんと楽でいいわよね。おかげでぐっすり眠れたわよ」
「確かに、それは言えてるな」
「そうだな」
本来夜営をする場合、盗賊や魔物を警戒して見張りを1人以上はおいておくのがセオリーとなるが、俺のテントには一度設置すると外からは見えないように結界が張ってある上に、物理や魔法などあらゆる結界を幾重にもかけているので、見張りをする意味がない。
その後、朝食を食べてから支度を整えて出発することとなった。
てくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくふぅてくてくてくてくてくてくてく
それから歩くこと3時間ほどだろうか、そろそろ昼頃になろうかという時間。
「スニルもだいぶ歩けるようになったね」
「確かに、前は数分歩いただけで息切れ起こしてたのにな」
「そりゃぁ、結構走りこんだからな。といっても、まだまだだろ」
まだ、1時間ごとに休憩がいる。それに対してシュンナとダンクスはというといまだ息一つ乱していない。
というか、この2人が息を乱しているところを今まで見たことがないんだけど。
「んっ、待て!」
「囲まれてるね」
ふとダンクスとシュンナが同時にそう言って立ち止まったわけだが、俺にはいまだそういうのが分からないんだよな。
というわけで、俺は”探知”を使う。
すると、”マップ”にいくつかの赤表示が出た。
それを見ると、確かに囲まれているな。
「盗賊か?」
「多分な」
「どうする?」
「そりゃぁ、相手次第だろ」
盗賊というのは魔物と一緒で見つけ次第討伐することが推奨されており、その盗賊がため込んだお宝(盗んだものやそれを売った金)は討伐したものがわがものとしていいという。
そのため、世の中には盗賊狩りという盗賊を討伐することを生業としている者たちもいるらしい。
なお、盗賊の討伐というのは何も相手を殺せばいいというものではない。
捕らえた場合、そいつらを近くの街まで連行し警備兵に突き出せば報奨金がもらえる。
報奨金の内訳としては、盗賊自身にかけられている賞金と、とらえた盗賊を奴隷として売った値段となっている。
つまり、その盗賊のお宝と報奨金が手に入るためにかなりのもうけになる。
とはいえ、盗賊を捕らえ連行するにしても盗賊の数にもよるが結構大変なことになるし、それに伴う出費もかさんでしまうし、なにより盗賊がおとなしく連行されるとは限らないし、何より盗賊を奴隷として売ったとしてもそれほどの高額になるわけではないという点から、ほとんどの場合討伐といえば殺すことになる。
とまぁ、そんなことを考えていると、ダンクスとシュンナはすでに武器を抜き放っていたので、俺もいつでも抜刀できるように手を当てる。
「出て来いよ。そこにいるのは分かってるんだぜ」
ダンクスが大きくはないがよく通る声で言った。
「へへっ、ばれちゃしょうがねぇな。おい、その女と金を置いていきな。へへへっ」
木陰から出てきた盗賊は出てくるなり、下衆な笑みを張りつけながらシュンナを横目にそう言った。
なるほど、どうやらこいつらの狙いはシュンナのようだ。
まぁ、予想通りだけどな、事前情報によればこの辺りは盗賊が多いが、その狙いは主に交易品だという。
だから、俺たちみたいな何も待たない旅人はそうそう狙われないとのことだった。
となると、もし狙われるとなるとシュンナだろうと考えてたわけだ。
なにせ、シュンナはスタイルもいい絶世の美少女だからな。
男なら、誰だって狙いたいだろうよ。まぁ、幼い見た目通り性欲のない俺には関係ないが。
「はぁ、ほんと、男ってみんな同じよね」
シュンナもまた予想通りのことにため息を吐いた。
「こんな奴らと一緒にするなよ」
そんなシュンナにダンクスが反論する。
ダンクスは見た目に反してかなりまじめだからな、たとえシュンナが相手でも自制できるし、何より惚れた相手以外には性的な興味はないらしい。
そんな俺たちだからこそシュンナは一緒にいるんだけどな。
「いいからとっとと、女と金を置いていきやがれ」
俺たちが漫才みたいなことをしていると、馬鹿にされたと思ったのか盗賊がそう言って怒鳴ってきた。
「答えるまでもないじゃない」
「だな、答えはノーだ。お前らこそ死にたくなかったらさっさと消えな」
「あっ、でも盗賊だし討伐したほうがいいのかな」
「そうだろうが、問答無用ってのは性に合わねぇよ」
「そう?」
こういった会話を盗賊の前でシュンナとダンクスが交わしているわけだが俺は参加していない、それというのも別に戦闘前で緊張しているからではなく、単純に話すことがないからだ。
「いいだろう。だったら死んでもらうぜ。お前ら、男とガキは殺せ、ただし女は殺すなよ。そいつは後でたっぷりとかわいがるんだからな」
「へい」
どうやら交渉は決裂、盗賊連中は俺たちと戦うつもりらしい。無謀だな。
「しゃぁねぇな。スニル、お前どうする」
さて、そろそろ盗賊と一戦といったところで、ダンクスが俺に背を向けながら聞いてきた。
「下がってる?」
今度はシュンナが同じく背を向けながら聞いてきた。
なぜ、2人が俺に背を向けているかというと俺のいる位置が2人の背後だからだ。
「いや、俺もやる。どうせそのうちやることになるだろうし、今のうちに経験しておいたほうがいいだろう」
この世界で旅をつづける以上いずれは人を殺さなければならない状況が必ずやってくる。
いざって時に怖くてできないじゃ、こちらが危なくなる。
だったら、早めに今のうちに経験しておいたほうがいい。
「そうか、無茶はするなよ」
「フォローはするから」
「ああ」
そんなわけで、俺もしっかりと構える。
「はんっ、おいてめぇはあのガキをやれ」
「へいっ」
先ほどからしゃべっているやつが1人の青年に指示を出す、多分こいつがこいつらの頭だろう、偉そうだし、んで、俺の相手はこの青年がしてくれるらしい。俺が子供ということで1人で十分と判断してくれたようだな。
今の俺にとってはありがたい、いきなり複数と戦うのは危険だしな。
例えば、こいつをやった後に隙ができる可能性が高いしな。
そんなわけで、俺はいまだ抜いていない刀に手を置いたまま、青年と対峙する。
「ふんっ、ガキが相手かよ。まぁ、頭の命令じゃ仕方ねぇ。さっさと済ますか」
青年の言葉からやはり先ほどの男は頭だったらしい。
「おらっ、さっさと死になっと」
青年はあっさりと俺を倒せると思っているようで、剣を無造作に振り下ろした。
油断しすぎだな。
……
剣が迫っている中、俺は神経を集中させて抜刀。
俺が抜いた剣はそのまま剣を振り下ろそうとしている青年の腹部に、吸い込まれるように切り裂く。
「えっ!?」
何が起こったのかわからないまま青年の上半身は下半身と泣き別れした。
ドサッ
そんな音を立てて、青年の上半身だったものが落ちたのはそれから数秒後だった。
ふぅ、何とかやったな。
あまりいい感触じゃないな。
これが人を殺すという感触か。
刀を通してやってきた人を斬った感触、わら束なら幾度となく斬ったが、感触はまるで違うな。
なんていうか、心なしか気持ち悪い感触だ。
俺も魔物や動物なら何度か討伐してきたけど、その感触とは違うな。いや、肉を切るという意味では同じだが、なんていうか違うんだよなぁ。
時代劇なんかを見ていると、新しい刀の試し切りとして、辻斬りなんて言うことをする奴がいたが、こんな思いを積極的に感じていたんだな、ほんとありえないな。
それに、現代でも快楽を求めてやる奴なんてものがいるらしいが、ほんと意味が分からない。
「てめぇ、よくもジャックを~」
なんてことを考えていると、背後からそんな声とともに剣を振り上げる男が1人。
もちろん、俺も考えはしても油断しておらず、ちゃんとそれは把握していた。
でも、よけるにはちょっと時間が足りない。
そこで、脇差を素早く左の逆手で抜き放ち、そのまま背後に向かって突き出した。
「ぐわぁ」
どうやらうまくいったようで、背後にいた男は剣を振り下ろすことなく俺の脇差が刺さった。
そのすきに素早く地面を蹴って一旦その場を離れる。
そして、今度は身を低くしてから、長刀を男の心臓めがけて突き入れた。
そうして、男は絶命する。
ふぅ
「スニル、大丈夫?」
俺が何とか2人を始末したところで、シュンナがやって来て俺に声をかけた。
見ると、ダンクスが現在頭と思われる男と対峙している以外の盗賊はすべて倒れていた。
俺が2人を倒している時間はわずかだと思ったが、その間に2人はあっという間に盗賊を倒してしまっていたらしい。
「なんとかな。とりあえず吐くことはなさそうだよ」
俺はシュンナに答えつつ左手に持った脇差を準手に持ち替えてから軽く振り血を落としそのまま左手で左腰にある鞘に納め、続いて長刀をこれまた軽く振り、血を落とした後、鞘に納めた。
「そう、それはよかった」
「おう、こっちも終わったぜ。それにしても、その2本目、脇差だっけそういう使い方もあるんだな」
ダンクスは戦いながらもちゃんと俺のほうを見ていたらしく、俺が背後の男に脇差を刺し込んだことを言っている。
「いや、こういう使い方をするわけじゃないけどな。まぁ、今回は特殊だよ」
脇差を使った二刀流というものもある。かの剣豪宮本武蔵が考案したとされる二天一流がそれだが、今俺が使ったのは別にそういう技というわけではなく、単純に長刀では間に合わないと判断したから、脇差を抜いただけだ。
「それにしても、さすがだな。俺が2人倒している間に、2人はあっという間だったな」
「まぁ、慣れてるからね」
「スニルもこれぐらい簡単にできるようになるだろ」
「あんまり、慣れたいことじゃないけどな」
「そりゃぁそうだ。それで、どうだ。問題ないか」
今度はダンクスがそう言って尋ねてきた。
「ああ、何とかな。といってもあくまで今のところはってことだが」
今は戦闘の興奮で忘れているだけで、あとになってから襲ってくることもあるだろう。
「ああ、たまにいるわね。そういう人」
「いるな。騎士だったころも一人それでやめていったぜ」
「それは、あまり知りたくない情報だな。んで、この後はどうすんだ」
とまぁ、俺のことは今はいいとしてとりあえずこれからどうするのか、そのほうが重要だ。
「そうだな。一応盗賊がため込んだ宝は俺たちのもんにしてもいいからな」
「そっ、だからこれから盗賊のアジトに向かうのよ。そこでお宝を物色するのが普通なんだけど、スニルの”収納”があれば、全部持ってこれるわね」
シュンナのいう通り、俺の”収納”があればどれだけ宝があっても持ち出すことができ、それらを残らず手に入れることができる。
「そうだな。それで、そのアジトはどこなんだ?」
肝心なアジトの場所が分からなければ意味がない。
「それなら、1人生かしておいたから大丈夫よ。ダンクスお願い」
「俺がか? まぁ、いいか、ちょっと待ってろ」
アジトの場所を聞き出すには踊るのが一番早い、でも俺はガキ過ぎるしシュンナは若く美少女、迫力に欠ける。
それに対して、ダンクスはただ黙って立っているだけで十分な脅しになるからな。まぁ、適材適所だな。
そんなわけで、ダンクスは生かしておいた盗賊からアジトの場所を聞き出した。
それによると、少し離れた場所にあるらしい。
ああ、ちなみにだがアジトの場所を聞き出した盗賊はダンクスがその場で始末したそうだ。
非道じゃないかと思うかもしれないが、こいつら盗賊というのはもっと非道なことを平然と行う連中で、正義感の強いダンクスですら盗賊を殺すことにためらいがない。
この世界の人間にとって、本当に盗賊は魔物と一緒ということだろう。
さて、それはともかく今は盗賊のアジトに向かおう。
というわけで、アジトへ向かっている。
道なき森の中を進んでいるので、足元が悪く歩きずらい、ていうか疲れたんだけど……ふぅ。
俺のペースに合わせて2人も歩き、何とかアジトにたどり着いた。
「どうやら、嘘じゃなかったみたいだな。スニル、どのくらいいる」
ダンクスは盗賊のアジトに人の気配は読めても正確な人数は分からない、そこで”探知”が使える俺に聞いてきた。
「そうだな。5人ってとこか」
アジトは洞窟タイプで入口に2人が見張りをしていて、中に3人思っていたより少ないな。
「よしっ、それじゃ、まずはあの見張りをやるわけだが、どうする?」
「そうね。左はあたしがやるわ。右は……」
「俺がやるよ。ダンクスじゃ目立つし」
「そうか、なら任せる」
「おう」
そんなわけで、俺は右側にいる見張りを始末することにしたわけだが、さてどうやってやるか、シュンナは持ち前の素早さで一瞬で敵の背後に回るつもりのようだし、俺にはそこまでの素早い行動は無理だ。なら、魔法だな。
というわけで、シュンナの動きに合わせて、タイミングよく大地魔法の”アースニードル”を発動。
すると、見張りの背後かの壁から土の杭が出てきて見張りを貫いた。
「すげぇな」
俺の魔法を見たダンクスがそう言って感嘆の声を上げた。
それから、洞窟の中に入っていくわけだが、あとの3人は洞窟の奥に固まっているために一気に攻め込むことにした。
「なんだ!」
「侵入者か!」
「あいつら何してやがる!」
盗賊の3人はくつろいでいたようで、慌てて近場の武器を手に取ろうとしたが、俺たちのほうが早かった。
まさにあっという間に3人ともその人生を終えたのだった。
「終わったな。ふぅ」
盗賊討伐が終わったことでようやく一息ついたわけだが、ここで意外にも大丈夫そうな自分がいた。
「スニル?」
「ああ、いや、思ったより大丈夫そうだったからな、驚いたところだ」
「そう、ならよかった。それじゃ、とにかくお宝を”収納”に入れていくよ」
「ああ」
ということで、俺たち3人は手分けして置いてあった宝を俺は”収納”に直接、シュンナとダンクスは”収納”と繋がっているマジックバックに収めていった。
そうして、すっかり何もなくなった盗賊の宝物庫を眺めてから、その場を後にしたのだった。
ちなみに、盗賊の死体は一応適当に穴を掘って埋めておいた。
別にアンデットとなるわけでもないので放置でもいいんだけど、俺の気分の問題だな。
それで、初めて人を殺したことでの俺の精神はというと、正直なんともなかった。
もしかしたら、神様が何かしてくれたのか、それともやはり記憶を取り戻す12年の間に精神が変わっちまったのか、そのどちらかだろう、前世のままだったら間違いなく精神をやられていたと思う。
前世の俺はかなり怖がりだったからな。
こうして、俺にとって初めての盗賊討伐は終わったのだった。
俺はテントにて目覚めのいい朝を迎えていた。
テントで、目覚めがいいというのもなんか変な気がするが、事実だからしょうがない。
なにせ、俺のテントは一見すると使い古したものだがその中身は全くの別物だからだ。
村を旅立つとき、空間魔法を駆使して魔道具化し六畳間ほどの部屋を作っていたが、ダンクスとシュンナという2人が加わり3人となったことで、これじゃちょっと手狭となったために、さらに手を加えたわけだ。
その内容はというと、まず入り口から入るとそこは八畳間ぐらいに広げたリビングがあり、ここで3人のんびりしたり飯を食ったりする。
また、入口正面には2つのドアが新たに設置され、右側がダンクスの部屋で左側がシュンナの部屋となっている。
さらに、入口から左手側にもドアを設置しており、そこが俺の部屋というわけだ。
これまで俺たち3人は同じ部屋で寝泊まりしていたわけだが、本来なら狭いはずのテント内でそれぞれの個室を手に入れたというわけだ。
そんな俺の部屋は実家から持ってきたベッドと箪笥を並べ、床の間のような場所を作りそこに刀を安置している。
まぁ、特に代わり映えのしない普通の部屋だと思う。
ダンクスの部屋も俺と同じようにシンプルでカリブリンで新たに買い足した巨大な特注ベッドと箪笥、壁には武器類を飾れるようになっており、そこに大剣や片手剣などを飾っておくようだ。
最後にシュンナの部屋はというと、それに関してはよくは分からない、俺たちと同じようにベッドと箪笥があるのは一緒に家具を買いに行ったから知っているが、それからどんな内装にしたかは入っていないのでわからない。
一応というかシュンナは女だからな、当然といえば当然だろう、いくら俺の見た目が幼くとも実年齢は12歳であり、精神年齢は40ほどのおっさんだからな。
余談だがこのテント内の内装は、俺が魔法で作ったわけではなく魔法で広い空間を作り、そこにダンクスが1人で作ってくれた。
もちろん、設計は3人で相談して決めたけどな。
「おう、スニル起きたか」
「ああ、ダンクスは相変わらず早いな」
俺がリビングへと行くとダンクスがすでに起きてくつろいでいた。
「日課だったからな、そう簡単には治せねぇよ」
ダンクスは騎士団時代に早朝訓練を行っていた。その癖が今も治っていないという。
「しかし、ほんとこのテントは快適だな。まぁ、これをテントといっていいのか疑問だが」
「まぁ、暇に飽かしてかなりいじったからな」
「おはよ。2人とも早いわね」
「俺も今起きたとこだよ」
「そう、それにしても見張りがいらないっていうのはほんと楽でいいわよね。おかげでぐっすり眠れたわよ」
「確かに、それは言えてるな」
「そうだな」
本来夜営をする場合、盗賊や魔物を警戒して見張りを1人以上はおいておくのがセオリーとなるが、俺のテントには一度設置すると外からは見えないように結界が張ってある上に、物理や魔法などあらゆる結界を幾重にもかけているので、見張りをする意味がない。
その後、朝食を食べてから支度を整えて出発することとなった。
てくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくふぅてくてくてくてくてくてくてく
それから歩くこと3時間ほどだろうか、そろそろ昼頃になろうかという時間。
「スニルもだいぶ歩けるようになったね」
「確かに、前は数分歩いただけで息切れ起こしてたのにな」
「そりゃぁ、結構走りこんだからな。といっても、まだまだだろ」
まだ、1時間ごとに休憩がいる。それに対してシュンナとダンクスはというといまだ息一つ乱していない。
というか、この2人が息を乱しているところを今まで見たことがないんだけど。
「んっ、待て!」
「囲まれてるね」
ふとダンクスとシュンナが同時にそう言って立ち止まったわけだが、俺にはいまだそういうのが分からないんだよな。
というわけで、俺は”探知”を使う。
すると、”マップ”にいくつかの赤表示が出た。
それを見ると、確かに囲まれているな。
「盗賊か?」
「多分な」
「どうする?」
「そりゃぁ、相手次第だろ」
盗賊というのは魔物と一緒で見つけ次第討伐することが推奨されており、その盗賊がため込んだお宝(盗んだものやそれを売った金)は討伐したものがわがものとしていいという。
そのため、世の中には盗賊狩りという盗賊を討伐することを生業としている者たちもいるらしい。
なお、盗賊の討伐というのは何も相手を殺せばいいというものではない。
捕らえた場合、そいつらを近くの街まで連行し警備兵に突き出せば報奨金がもらえる。
報奨金の内訳としては、盗賊自身にかけられている賞金と、とらえた盗賊を奴隷として売った値段となっている。
つまり、その盗賊のお宝と報奨金が手に入るためにかなりのもうけになる。
とはいえ、盗賊を捕らえ連行するにしても盗賊の数にもよるが結構大変なことになるし、それに伴う出費もかさんでしまうし、なにより盗賊がおとなしく連行されるとは限らないし、何より盗賊を奴隷として売ったとしてもそれほどの高額になるわけではないという点から、ほとんどの場合討伐といえば殺すことになる。
とまぁ、そんなことを考えていると、ダンクスとシュンナはすでに武器を抜き放っていたので、俺もいつでも抜刀できるように手を当てる。
「出て来いよ。そこにいるのは分かってるんだぜ」
ダンクスが大きくはないがよく通る声で言った。
「へへっ、ばれちゃしょうがねぇな。おい、その女と金を置いていきな。へへへっ」
木陰から出てきた盗賊は出てくるなり、下衆な笑みを張りつけながらシュンナを横目にそう言った。
なるほど、どうやらこいつらの狙いはシュンナのようだ。
まぁ、予想通りだけどな、事前情報によればこの辺りは盗賊が多いが、その狙いは主に交易品だという。
だから、俺たちみたいな何も待たない旅人はそうそう狙われないとのことだった。
となると、もし狙われるとなるとシュンナだろうと考えてたわけだ。
なにせ、シュンナはスタイルもいい絶世の美少女だからな。
男なら、誰だって狙いたいだろうよ。まぁ、幼い見た目通り性欲のない俺には関係ないが。
「はぁ、ほんと、男ってみんな同じよね」
シュンナもまた予想通りのことにため息を吐いた。
「こんな奴らと一緒にするなよ」
そんなシュンナにダンクスが反論する。
ダンクスは見た目に反してかなりまじめだからな、たとえシュンナが相手でも自制できるし、何より惚れた相手以外には性的な興味はないらしい。
そんな俺たちだからこそシュンナは一緒にいるんだけどな。
「いいからとっとと、女と金を置いていきやがれ」
俺たちが漫才みたいなことをしていると、馬鹿にされたと思ったのか盗賊がそう言って怒鳴ってきた。
「答えるまでもないじゃない」
「だな、答えはノーだ。お前らこそ死にたくなかったらさっさと消えな」
「あっ、でも盗賊だし討伐したほうがいいのかな」
「そうだろうが、問答無用ってのは性に合わねぇよ」
「そう?」
こういった会話を盗賊の前でシュンナとダンクスが交わしているわけだが俺は参加していない、それというのも別に戦闘前で緊張しているからではなく、単純に話すことがないからだ。
「いいだろう。だったら死んでもらうぜ。お前ら、男とガキは殺せ、ただし女は殺すなよ。そいつは後でたっぷりとかわいがるんだからな」
「へい」
どうやら交渉は決裂、盗賊連中は俺たちと戦うつもりらしい。無謀だな。
「しゃぁねぇな。スニル、お前どうする」
さて、そろそろ盗賊と一戦といったところで、ダンクスが俺に背を向けながら聞いてきた。
「下がってる?」
今度はシュンナが同じく背を向けながら聞いてきた。
なぜ、2人が俺に背を向けているかというと俺のいる位置が2人の背後だからだ。
「いや、俺もやる。どうせそのうちやることになるだろうし、今のうちに経験しておいたほうがいいだろう」
この世界で旅をつづける以上いずれは人を殺さなければならない状況が必ずやってくる。
いざって時に怖くてできないじゃ、こちらが危なくなる。
だったら、早めに今のうちに経験しておいたほうがいい。
「そうか、無茶はするなよ」
「フォローはするから」
「ああ」
そんなわけで、俺もしっかりと構える。
「はんっ、おいてめぇはあのガキをやれ」
「へいっ」
先ほどからしゃべっているやつが1人の青年に指示を出す、多分こいつがこいつらの頭だろう、偉そうだし、んで、俺の相手はこの青年がしてくれるらしい。俺が子供ということで1人で十分と判断してくれたようだな。
今の俺にとってはありがたい、いきなり複数と戦うのは危険だしな。
例えば、こいつをやった後に隙ができる可能性が高いしな。
そんなわけで、俺はいまだ抜いていない刀に手を置いたまま、青年と対峙する。
「ふんっ、ガキが相手かよ。まぁ、頭の命令じゃ仕方ねぇ。さっさと済ますか」
青年の言葉からやはり先ほどの男は頭だったらしい。
「おらっ、さっさと死になっと」
青年はあっさりと俺を倒せると思っているようで、剣を無造作に振り下ろした。
油断しすぎだな。
……
剣が迫っている中、俺は神経を集中させて抜刀。
俺が抜いた剣はそのまま剣を振り下ろそうとしている青年の腹部に、吸い込まれるように切り裂く。
「えっ!?」
何が起こったのかわからないまま青年の上半身は下半身と泣き別れした。
ドサッ
そんな音を立てて、青年の上半身だったものが落ちたのはそれから数秒後だった。
ふぅ、何とかやったな。
あまりいい感触じゃないな。
これが人を殺すという感触か。
刀を通してやってきた人を斬った感触、わら束なら幾度となく斬ったが、感触はまるで違うな。
なんていうか、心なしか気持ち悪い感触だ。
俺も魔物や動物なら何度か討伐してきたけど、その感触とは違うな。いや、肉を切るという意味では同じだが、なんていうか違うんだよなぁ。
時代劇なんかを見ていると、新しい刀の試し切りとして、辻斬りなんて言うことをする奴がいたが、こんな思いを積極的に感じていたんだな、ほんとありえないな。
それに、現代でも快楽を求めてやる奴なんてものがいるらしいが、ほんと意味が分からない。
「てめぇ、よくもジャックを~」
なんてことを考えていると、背後からそんな声とともに剣を振り上げる男が1人。
もちろん、俺も考えはしても油断しておらず、ちゃんとそれは把握していた。
でも、よけるにはちょっと時間が足りない。
そこで、脇差を素早く左の逆手で抜き放ち、そのまま背後に向かって突き出した。
「ぐわぁ」
どうやらうまくいったようで、背後にいた男は剣を振り下ろすことなく俺の脇差が刺さった。
そのすきに素早く地面を蹴って一旦その場を離れる。
そして、今度は身を低くしてから、長刀を男の心臓めがけて突き入れた。
そうして、男は絶命する。
ふぅ
「スニル、大丈夫?」
俺が何とか2人を始末したところで、シュンナがやって来て俺に声をかけた。
見ると、ダンクスが現在頭と思われる男と対峙している以外の盗賊はすべて倒れていた。
俺が2人を倒している時間はわずかだと思ったが、その間に2人はあっという間に盗賊を倒してしまっていたらしい。
「なんとかな。とりあえず吐くことはなさそうだよ」
俺はシュンナに答えつつ左手に持った脇差を準手に持ち替えてから軽く振り血を落としそのまま左手で左腰にある鞘に納め、続いて長刀をこれまた軽く振り、血を落とした後、鞘に納めた。
「そう、それはよかった」
「おう、こっちも終わったぜ。それにしても、その2本目、脇差だっけそういう使い方もあるんだな」
ダンクスは戦いながらもちゃんと俺のほうを見ていたらしく、俺が背後の男に脇差を刺し込んだことを言っている。
「いや、こういう使い方をするわけじゃないけどな。まぁ、今回は特殊だよ」
脇差を使った二刀流というものもある。かの剣豪宮本武蔵が考案したとされる二天一流がそれだが、今俺が使ったのは別にそういう技というわけではなく、単純に長刀では間に合わないと判断したから、脇差を抜いただけだ。
「それにしても、さすがだな。俺が2人倒している間に、2人はあっという間だったな」
「まぁ、慣れてるからね」
「スニルもこれぐらい簡単にできるようになるだろ」
「あんまり、慣れたいことじゃないけどな」
「そりゃぁそうだ。それで、どうだ。問題ないか」
今度はダンクスがそう言って尋ねてきた。
「ああ、何とかな。といってもあくまで今のところはってことだが」
今は戦闘の興奮で忘れているだけで、あとになってから襲ってくることもあるだろう。
「ああ、たまにいるわね。そういう人」
「いるな。騎士だったころも一人それでやめていったぜ」
「それは、あまり知りたくない情報だな。んで、この後はどうすんだ」
とまぁ、俺のことは今はいいとしてとりあえずこれからどうするのか、そのほうが重要だ。
「そうだな。一応盗賊がため込んだ宝は俺たちのもんにしてもいいからな」
「そっ、だからこれから盗賊のアジトに向かうのよ。そこでお宝を物色するのが普通なんだけど、スニルの”収納”があれば、全部持ってこれるわね」
シュンナのいう通り、俺の”収納”があればどれだけ宝があっても持ち出すことができ、それらを残らず手に入れることができる。
「そうだな。それで、そのアジトはどこなんだ?」
肝心なアジトの場所が分からなければ意味がない。
「それなら、1人生かしておいたから大丈夫よ。ダンクスお願い」
「俺がか? まぁ、いいか、ちょっと待ってろ」
アジトの場所を聞き出すには踊るのが一番早い、でも俺はガキ過ぎるしシュンナは若く美少女、迫力に欠ける。
それに対して、ダンクスはただ黙って立っているだけで十分な脅しになるからな。まぁ、適材適所だな。
そんなわけで、ダンクスは生かしておいた盗賊からアジトの場所を聞き出した。
それによると、少し離れた場所にあるらしい。
ああ、ちなみにだがアジトの場所を聞き出した盗賊はダンクスがその場で始末したそうだ。
非道じゃないかと思うかもしれないが、こいつら盗賊というのはもっと非道なことを平然と行う連中で、正義感の強いダンクスですら盗賊を殺すことにためらいがない。
この世界の人間にとって、本当に盗賊は魔物と一緒ということだろう。
さて、それはともかく今は盗賊のアジトに向かおう。
というわけで、アジトへ向かっている。
道なき森の中を進んでいるので、足元が悪く歩きずらい、ていうか疲れたんだけど……ふぅ。
俺のペースに合わせて2人も歩き、何とかアジトにたどり着いた。
「どうやら、嘘じゃなかったみたいだな。スニル、どのくらいいる」
ダンクスは盗賊のアジトに人の気配は読めても正確な人数は分からない、そこで”探知”が使える俺に聞いてきた。
「そうだな。5人ってとこか」
アジトは洞窟タイプで入口に2人が見張りをしていて、中に3人思っていたより少ないな。
「よしっ、それじゃ、まずはあの見張りをやるわけだが、どうする?」
「そうね。左はあたしがやるわ。右は……」
「俺がやるよ。ダンクスじゃ目立つし」
「そうか、なら任せる」
「おう」
そんなわけで、俺は右側にいる見張りを始末することにしたわけだが、さてどうやってやるか、シュンナは持ち前の素早さで一瞬で敵の背後に回るつもりのようだし、俺にはそこまでの素早い行動は無理だ。なら、魔法だな。
というわけで、シュンナの動きに合わせて、タイミングよく大地魔法の”アースニードル”を発動。
すると、見張りの背後かの壁から土の杭が出てきて見張りを貫いた。
「すげぇな」
俺の魔法を見たダンクスがそう言って感嘆の声を上げた。
それから、洞窟の中に入っていくわけだが、あとの3人は洞窟の奥に固まっているために一気に攻め込むことにした。
「なんだ!」
「侵入者か!」
「あいつら何してやがる!」
盗賊の3人はくつろいでいたようで、慌てて近場の武器を手に取ろうとしたが、俺たちのほうが早かった。
まさにあっという間に3人ともその人生を終えたのだった。
「終わったな。ふぅ」
盗賊討伐が終わったことでようやく一息ついたわけだが、ここで意外にも大丈夫そうな自分がいた。
「スニル?」
「ああ、いや、思ったより大丈夫そうだったからな、驚いたところだ」
「そう、ならよかった。それじゃ、とにかくお宝を”収納”に入れていくよ」
「ああ」
ということで、俺たち3人は手分けして置いてあった宝を俺は”収納”に直接、シュンナとダンクスは”収納”と繋がっているマジックバックに収めていった。
そうして、すっかり何もなくなった盗賊の宝物庫を眺めてから、その場を後にしたのだった。
ちなみに、盗賊の死体は一応適当に穴を掘って埋めておいた。
別にアンデットとなるわけでもないので放置でもいいんだけど、俺の気分の問題だな。
それで、初めて人を殺したことでの俺の精神はというと、正直なんともなかった。
もしかしたら、神様が何かしてくれたのか、それともやはり記憶を取り戻す12年の間に精神が変わっちまったのか、そのどちらかだろう、前世のままだったら間違いなく精神をやられていたと思う。
前世の俺はかなり怖がりだったからな。
こうして、俺にとって初めての盗賊討伐は終わったのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
45
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる