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第06章 獣人の土地
06 お願い
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サーナの母親であるニーナの両親、ガルミドとミサへの説明をしたわけだが、これには2人とも怒りをあらわにしている。それはそうだろう、娘の最期があまりにもひどかったんだからな。赤の他人である俺たちだってあの時は怒りで爆発しそうになった。俺たちが爆発しなかったのは弱っていたサーナがおり、サーナを助けなければという思いがあったからに他ならない。
「これが、あたしたちがニーナさんを発見し、サーナを保護した経緯よ」
シュンナがそう説明しているが、果たして今目の前の2人は聞いているのかは怪しい。ガルミドは怒りに震え、ミサは哀しみに大粒の涙を浮かべている。俺には前世も含めて子供はいない。というか前世の俺はどちらかというと子供はあまり好きではなかった。そんな俺でも子供は宝でありそれをないがしろにすることは、未来をないがしろにしする行為という考えから、子供を邪険にするということはしなかった。ましてや生まれたばかりの子供の首に奴隷の首輪をつけるような外道はしない。なんか、考えているとまた腹が立ってきたな。
「…………」
ガルミドたちが黙っているので俺たちもまた黙っていた。
「……1つ、聞きたい」
ようやくガルミドが言葉を絞り出した。
「なに?」
「なぜ、サーナと」
ガルミドが聞きたいのはサーナの名の由来だろう。
「古い言葉よ。ここにいるスニルが付けたのだけれど、はるか昔まだ人間が生まれて間もないころ、神様が人間に与えた言語があるわ。いうなれば、あたしたち人族はもちろんあなたたちが使う言葉の元になった言葉ね。その中にサーナトゥという言葉あって」
「サーナトゥ?」
「そう、今の言葉にすると”幸せ”、あの子は不幸な生まれ方をしてしまった。だから、幸せになってほしいって意味を込めた名前なの。でしょ、スニル」
シュンナが説明してから、俺に確認した。まぁ、つけたのは俺だからな。
「ああ、俺の故郷では子供の名前に願いを込めるだから、でも、人族の言葉でつけるのは違うと思ったんだ。ニーナだっけ、サーナの母親が受けたことを思えば、それは憚れた。だからとって俺には獣人族の言葉は当時は分からなかったから、なら最初の言葉を使おうと思ったんだ」
俺にしては珍しく長文を話してしまったが、これが俺の想いでもある。
「そうか、古い言葉、幸せ。感謝する」
「……」
ガルミドがそう言って俺に対して感謝を述べたわけだが、これには俺も驚いた。何度も言うが彼らにとって俺たち人族は長年の敵、そんな俺に対して感謝を述べる。これがいかなことか、短い言葉にガルミドの本心が伝わってくる気がする。一方で、ミサは終始泣き続けていたが、俺がサーナの由来を話しているときは静かに聞き、最後はさらに涙を流したのだった。
「いえ、気にしないで、あたしたちの方こそ、勝手に名前を付けたことは謝らなきゃ」
そうだよな。由来はともかく敵である俺たちが付けた名だからね。
「……思うところがないわけではない。しかし、我等への気遣いが見える。人族にもお前たちのようなものがいるのだな」
「ええ、まぁね」
こうして、俺たちは何とか話を終えたのであった。なんというか妙に緊張したから疲れた。
話を終えてガルミドたちの家を出た俺たちの目に、何やらもめている様子が飛び込んできた。
「何があったんだ」
みんながいる場所に着くなり尋ねてみた。
「お話は終わったのね」
「一応ね」
俺の姿を見た母さんがそう聞いてきたが俺としてはもめている状況が聞きたい。
「ニーナをどう埋葬するかでな。あのままやるか、この地のやり方にするか」
「多くがやっぱりこの地でって言っているけれど」
「中には、あのままでいいのではないかと言い始めたんだ」
ダンクス、母さんと父さんが順に説明してくれたが、なるほど確かにもめ事の中心にあるのはニーナの棺桶。
「スニルがやったあれは、女性陣から人気があるからね」
シュンナが言うようにニーナに施した方法は、日本式で寝るタイプの棺桶に死装束を着せて収めた後、大量の花を引き詰めるというものだ。というか俺はこの方法しか知らないからな。この方法の起源とかは知らないが、多分西洋あたりから伝わったものだとは思う。それはともかく、花で彩ったスタイルが女性に綺麗だと人気があった。
「最期までやっぱり綺麗でいたいものね。私はどうだったかしら」
母さんがそんなこと言ったが、それにこたえることができるものは残念ながらここにはいない。母さんがオークと戦い倒れた時、俺はまだ小さく記憶がないからわからない。
「おっ、決まったみたいだぜ」
俺たちが話をしている間にどうやら、話し合いに決着がついたようだ。
「どうするのかしらね」
「どうやら、移し替えるみたいだな」
見ていると、俺たちが持ってきた棺桶からニーナを取り出してその隣に用意された桶のようなものに収められた。そういえば昔時代劇を見ていた時に見たことがある江戸時代の棺桶が確かあんな感じだったと思う。そこに収めているようだ。
「あらっ、お花も移すのね」
「そうみたいね」
母さんとシュンナが話しているように彼らは俺たちが用意した棺桶から花を取り出し、先ほどの桶へと移している。また、若い女性たちが追加の花をもってそれを桶へと収めている。
「もしかして、彼らもお花を?」
その様子から母さんがそう推測した。
「我らにそのような風習はない」
俺たちをいまだ警戒して武器を向けている男がそう言った。
「そう、それじゃぁ今回は特別なのね」
「そうだ」
「そっか、まぁそりゃぁ花がないよりあったほうがいいものね」
そうしてニーナの移し替えが終わりつつがなくニーナの葬儀が行われたが、俺たちは当然ながら参加はしていない。集落の端でその様子を眺めているだけだった。しかし、サーナだけは祖母であるミサに抱かれて参加している。まぁ、実の母親の葬儀だから当たり前だな。
「待たせたようだな」
葬儀が終わったところで、この集落の長族長と言われていた爺さんとガルミドが俺たちの元へとやって来た。
「気にしないで頂戴」
「それで、話があるとのことだが」
そう言って族長は警戒心をあらわにしている。ちなみに話というのは、俺とシュンナがニーナの最期について話をしている間に、ダンクスがシュンナの代わりに交渉したものだ。
「ええ、ちょっと頼みがあってね」
「頼み? 本来なら断るところだが、お前たちはニーナとその娘を連れてきてくれた恩がる。聞けるものならば聞こう」
「ありがと」
というわけで、この場で俺たちと族長との話し合いが始まった。
「それで、頼みというのは?」
「あたしたちをこの集落に住まわせてほしいのだけれど」
「なにっ!」
「馬鹿なっ!」
「き、きさまぁ!!」
俺たちの頼みというのは、シュンナが言ったようにこの集落にすること、もちろん彼らの反応からわかる通り、それが受け入れられるとは思ってはいない。
「すまないが、それを受け入れるわけにはいかない。おぬしたちは人族、そうである以上はな」
「もちろん、それは分かってるわ。あたしたち人族があなたたちにしたことを思えば当然よ。でも、あたしたちもそうしたい理由があるの」
「理由だと!」
「ええ、サーナよ。あたしたちはこの一年と少しサーナを育ててきた」
「う、うむ」
「それは、感謝する」
シュンナの言葉に族長とガルミドが感謝の意を表した。
「あたしたちも最初は、あなたたちにサーナを返して旅を続けるつもりだった。あたしたちは旅をして世界を見て回りたかったから」
シュンナの言う通り、俺たちは最初本当にそう思っていた。獣人族であるサーナは人族の世界ではきっと幸せになれない。常に変装の魔道具を身に着け、自身を偽って生きなければならないから。だから、身内かどうかはともかく獣人族にサーナを預けようと思っていた。まぁ、まさか最初に身内に会えるとは思わなかったけど。
「でも、今までずっとサーナと過ごしてきてサーナの成長を見てきた。初めて言葉を発した時、初めて立ち上がって歩いた時、あたしたちは自分たちで思っていた以上にうれしかった。苦労も多くあったけれど、本当に楽しかったの」
シュンナの言葉に父さんと母さんがうなずく。2人はたぶん俺のことを思い出しているんだろう。
「確かに、その気持ちはわかる。俺も2人の子持ちだ」
これにはガルミドも同意し、族長もうなづいている。シュンナの気持ちはまさに親の気持ち、2人とも親だからこそわかってくれている。
「しかし、それとこれは別」
「うむ、だからと言ってお前たちを受け入れるというわけにはいかない」
取り付く島もないとはまさにこのこと、と言わんばかりに拒絶された。
「そこを何とかならないかな。あたしたち、サーナと別れるなんてしたくないし、それにサーナだってあたしたちになついてくれてる」
「だな、特に一番世話をしているシュンナには特になついているからな。もし、俺たちがここで去れば間違いなくサーナは泣くぜ」
「うっ」
ダンクスがそう言うようにこれは間違いない。実は以前試したことがあった。それは、ほんの一瞬だったが俺たち全員がサーナの視界から出たことがあった。
すると、サーナ周囲を見たのち大泣きを始めた。もちろん慌てて駆け寄り抱き上げたけどね。それで、なんでこんなことしたのか俺たちは全力で反省したものだ。ちなみに、俺たちのうちだれか1人でも側にいればサーナは落ち着いている。まぁ、一応いなくなった奴を探すけどね。
「ふんっ、そんなこといずれ忘れる。貴様たちが気にすることでもないだろう」
そう言ったのは俺たちにいまだ武器を向けている男だが、まぁ、確かにそれは街がないことかもしれないが、それでも、サーナは俺たちに置いて行かれたと傷つくかもしれない。それが後々尾を引いたら最悪だ。
「そうかしら、サーナちゃんはきっと傷つくわ」
ここでサーナを抱いたミサがやって来てそういった。まさか俺たちを擁護してくれるとは思わずびっくりした。
「ミサ、そうは言うがその子はまだ幼い。成長すれば忘れるだろう。実際俺もこのように小さいときのことなっか忘れている」
「うむ、その通りだ」
ガルミドと族長はミサに反論したが、確かに俺だってサーナぐらいのころの記憶なんてものはない。あれば、両親のことだって覚えているはずだ。
「確かにその通りではあるけれど、それでも今のサーナちゃんが傷つくのは確かでしょ」
「つまり、ミサお前はこいつらがここに住むのを良しとするつもりか」
「ちょっといい」
なんというかガルミドと族長、ミサに3人が少し険悪になってきたので、シュンナがここで待ったをかけた。
「なんだ?」
「あたしたちは何もあなたたちの間にいさかいを起こそうとしているわけではないの。でも、ここに住んでサーナの世話を続けたいという気持ちは本当。そこで提案なんだけれど、あたしたちがここに住む代わりと言っちゃぁなんだけれど、ハンターたちからの防衛に協力させてもらいたいのよ」
「なにっ?」
「強力だとっ」
「ふざけるなっ、何が協力だ。人族の強力なんかいらねぇ」
シュンナの提案に族長とガルミドが驚愕し、今だ俺たちに武器を向けている男が怒鳴った。
「ふぎゃぁ、ぎゃぁ、ふぎゃぁ」
「ああ、よしよし、怖かったねぇ。大丈夫よ。おー、よしよし」
怒鳴り声のせいでサーナが泣き出し、抱いていたミサが必死になだめ始めた。
「サンチュ、大声を出すな」
「うっ、す、すまない」
武器を向けている男、サンチュにガルミドが責めるように言った。
「それで、お前たちは何をしようとしている」
ガルミドが俺たちに尋ねてきた。といっても、一応聞いてやるという風にである。
「そうね。まずは、決壊かしらスニル」
「そうだな。結界でこの集落を覆えばこの集落に対して悪意ある奴は入れないし、ここを見つけることすらできなくなる。設置型にすれば定期的に魔石に魔力を供給すれば問題ないだろう」
「結界だとっ、それにそんなもの聞いたことないぞ。お前たちにそんなことができるのか」
「できる。こんな風に」
そう言って俺は、すぐさま自分に対して結界を張った。
「なっ、見えない。どうなっているっ」
「何を言っておる、ちゃんとそこにいるだろう」
結界を張ったことで俺の姿はガルミドからは見えていないが族長には見えているままだ。
「今、ガルミドだけが見えないようにしたんだ。今度は族長だけにする」
そう言って、今度は逆にガルミドからは見えるが族長は見えないようにした。
「なっ、馬鹿なっ」
「スニルは、色々特殊だからね。こんな結界を張ることは朝飯前なのよ。それに、スニルなら奴隷の首輪を外すことだってできるわ。いるんでしょここにも、隠しているようだけれどあたしたちにはわかるわ」
この集落の中の住人の中には、その首に奴隷の首輪がはまっている者が数人いる。首に布を巻くなどして隠しているようだが、俺たち元奴隷からしたらすぐにわかる。というか俺の場合鑑定を使えばモロわかりだ。なにせ、真名がないんだからな。
「なぜそれを」
「あたしたちも一応元は奴隷だったからね。この首に同じものが付いていたのよ。まぁ、それもスニルが外してくれたのだけれどね」
「なっ!」
「馬鹿なっ!」
シュンナの言葉にガルミドたちは驚愕している。
「ほ、本当に外せるのか?」
族長にそう言われたので俺はうなづいておいた。
「信じられないのも無理ないからね。試してやってみる?」
「試しだと」
「ええ、ダンクスこれつけて」
「って、俺かよ」
シュンナが懐から取り出したものをダンクスへと渡したが、それは奴隷の首輪だった。俺たちはハンターとしてここにやって来たために当然この忌々しい首輪が配布されている。
「そ、それはっ」
もちろんシュンナがおもむろに取り出したものを見て、ガルミドたちは警戒を強めたけどね。
「大丈夫よ。ダンクス」
「たくっ、しょうがねぇな」
「なにっ!」
「馬鹿なっ!!」
ダンクスは仕方ないといい名がrシュンナから奴隷の首輪を受け取り自らそれを首に漬けたのであった。これにはガルミドたちは驚かずにはいられない。どこの世界に自ら奴隷の首輪をハメる奴がいるのかということだ。
「ふんっ、そんな偽物をどうしようというのだ」
サンチュがそう言ってあの首輪が偽物だと断じたが、残念ながらあれは本物だ。その証拠に今現在ダンクスの真名がはく奪されている。
「偽物じゃないわよ。何なら確認してみたら」
シュンナがそう言ったのでサンチュも確かめるためにダンクスへと近づいていった。
「ふんっ、いいだろう。おーいクイン、こっち来てくれ」
サンチュがそう言って叫んだ。どうやら、誰かを呼んだようだ。
「なによ。サンチュ」
「こいつを鑑定してみてくれ」
「鑑定? いいけれど、なに」
やって気のは1人の女性で、いぶかしむようにダンクスを鑑定した。どうやらこの女性は鑑定スキルを持っているようだ。
「鑑定スキル? ずいぶんと珍しいものを持っているわね」
「そういうことだ、これが偽物だとすぐにわかる。残念だったな。それで、どうだクイン」
「え、ええと、なんとなく話は分かったけれど、それ、本物よ」
「えっ?」
「その人の首についているのって奴隷の首輪、名前も出ないし、装備として首輪が書かれているわ」
女性も驚いているが、それ以上にサンチュやガルミドたちも驚いていた。
「わかったでしょ」
「お、お前たちは馬鹿か」
「一体、何を考えて」
「言ったでしょ。スニルお願い」
「わかった。”解呪”」
本来なら別に言葉にする必要はないが、わかりやすくするためにダンクスへ向けて”解呪”魔法を発動した。
その結果、ダンクスが先ほど自らハメた奴隷の首輪はポロっとすぐに外れたのであった。
「なっ!」
「嘘だろっ!」
「あ、あり得ない!」
目の前で起きた出来事にガルミドたちは驚愕に目を見開いた。
「これが、あたしたちがニーナさんを発見し、サーナを保護した経緯よ」
シュンナがそう説明しているが、果たして今目の前の2人は聞いているのかは怪しい。ガルミドは怒りに震え、ミサは哀しみに大粒の涙を浮かべている。俺には前世も含めて子供はいない。というか前世の俺はどちらかというと子供はあまり好きではなかった。そんな俺でも子供は宝でありそれをないがしろにすることは、未来をないがしろにしする行為という考えから、子供を邪険にするということはしなかった。ましてや生まれたばかりの子供の首に奴隷の首輪をつけるような外道はしない。なんか、考えているとまた腹が立ってきたな。
「…………」
ガルミドたちが黙っているので俺たちもまた黙っていた。
「……1つ、聞きたい」
ようやくガルミドが言葉を絞り出した。
「なに?」
「なぜ、サーナと」
ガルミドが聞きたいのはサーナの名の由来だろう。
「古い言葉よ。ここにいるスニルが付けたのだけれど、はるか昔まだ人間が生まれて間もないころ、神様が人間に与えた言語があるわ。いうなれば、あたしたち人族はもちろんあなたたちが使う言葉の元になった言葉ね。その中にサーナトゥという言葉あって」
「サーナトゥ?」
「そう、今の言葉にすると”幸せ”、あの子は不幸な生まれ方をしてしまった。だから、幸せになってほしいって意味を込めた名前なの。でしょ、スニル」
シュンナが説明してから、俺に確認した。まぁ、つけたのは俺だからな。
「ああ、俺の故郷では子供の名前に願いを込めるだから、でも、人族の言葉でつけるのは違うと思ったんだ。ニーナだっけ、サーナの母親が受けたことを思えば、それは憚れた。だからとって俺には獣人族の言葉は当時は分からなかったから、なら最初の言葉を使おうと思ったんだ」
俺にしては珍しく長文を話してしまったが、これが俺の想いでもある。
「そうか、古い言葉、幸せ。感謝する」
「……」
ガルミドがそう言って俺に対して感謝を述べたわけだが、これには俺も驚いた。何度も言うが彼らにとって俺たち人族は長年の敵、そんな俺に対して感謝を述べる。これがいかなことか、短い言葉にガルミドの本心が伝わってくる気がする。一方で、ミサは終始泣き続けていたが、俺がサーナの由来を話しているときは静かに聞き、最後はさらに涙を流したのだった。
「いえ、気にしないで、あたしたちの方こそ、勝手に名前を付けたことは謝らなきゃ」
そうだよな。由来はともかく敵である俺たちが付けた名だからね。
「……思うところがないわけではない。しかし、我等への気遣いが見える。人族にもお前たちのようなものがいるのだな」
「ええ、まぁね」
こうして、俺たちは何とか話を終えたのであった。なんというか妙に緊張したから疲れた。
話を終えてガルミドたちの家を出た俺たちの目に、何やらもめている様子が飛び込んできた。
「何があったんだ」
みんながいる場所に着くなり尋ねてみた。
「お話は終わったのね」
「一応ね」
俺の姿を見た母さんがそう聞いてきたが俺としてはもめている状況が聞きたい。
「ニーナをどう埋葬するかでな。あのままやるか、この地のやり方にするか」
「多くがやっぱりこの地でって言っているけれど」
「中には、あのままでいいのではないかと言い始めたんだ」
ダンクス、母さんと父さんが順に説明してくれたが、なるほど確かにもめ事の中心にあるのはニーナの棺桶。
「スニルがやったあれは、女性陣から人気があるからね」
シュンナが言うようにニーナに施した方法は、日本式で寝るタイプの棺桶に死装束を着せて収めた後、大量の花を引き詰めるというものだ。というか俺はこの方法しか知らないからな。この方法の起源とかは知らないが、多分西洋あたりから伝わったものだとは思う。それはともかく、花で彩ったスタイルが女性に綺麗だと人気があった。
「最期までやっぱり綺麗でいたいものね。私はどうだったかしら」
母さんがそんなこと言ったが、それにこたえることができるものは残念ながらここにはいない。母さんがオークと戦い倒れた時、俺はまだ小さく記憶がないからわからない。
「おっ、決まったみたいだぜ」
俺たちが話をしている間にどうやら、話し合いに決着がついたようだ。
「どうするのかしらね」
「どうやら、移し替えるみたいだな」
見ていると、俺たちが持ってきた棺桶からニーナを取り出してその隣に用意された桶のようなものに収められた。そういえば昔時代劇を見ていた時に見たことがある江戸時代の棺桶が確かあんな感じだったと思う。そこに収めているようだ。
「あらっ、お花も移すのね」
「そうみたいね」
母さんとシュンナが話しているように彼らは俺たちが用意した棺桶から花を取り出し、先ほどの桶へと移している。また、若い女性たちが追加の花をもってそれを桶へと収めている。
「もしかして、彼らもお花を?」
その様子から母さんがそう推測した。
「我らにそのような風習はない」
俺たちをいまだ警戒して武器を向けている男がそう言った。
「そう、それじゃぁ今回は特別なのね」
「そうだ」
「そっか、まぁそりゃぁ花がないよりあったほうがいいものね」
そうしてニーナの移し替えが終わりつつがなくニーナの葬儀が行われたが、俺たちは当然ながら参加はしていない。集落の端でその様子を眺めているだけだった。しかし、サーナだけは祖母であるミサに抱かれて参加している。まぁ、実の母親の葬儀だから当たり前だな。
「待たせたようだな」
葬儀が終わったところで、この集落の長族長と言われていた爺さんとガルミドが俺たちの元へとやって来た。
「気にしないで頂戴」
「それで、話があるとのことだが」
そう言って族長は警戒心をあらわにしている。ちなみに話というのは、俺とシュンナがニーナの最期について話をしている間に、ダンクスがシュンナの代わりに交渉したものだ。
「ええ、ちょっと頼みがあってね」
「頼み? 本来なら断るところだが、お前たちはニーナとその娘を連れてきてくれた恩がる。聞けるものならば聞こう」
「ありがと」
というわけで、この場で俺たちと族長との話し合いが始まった。
「それで、頼みというのは?」
「あたしたちをこの集落に住まわせてほしいのだけれど」
「なにっ!」
「馬鹿なっ!」
「き、きさまぁ!!」
俺たちの頼みというのは、シュンナが言ったようにこの集落にすること、もちろん彼らの反応からわかる通り、それが受け入れられるとは思ってはいない。
「すまないが、それを受け入れるわけにはいかない。おぬしたちは人族、そうである以上はな」
「もちろん、それは分かってるわ。あたしたち人族があなたたちにしたことを思えば当然よ。でも、あたしたちもそうしたい理由があるの」
「理由だと!」
「ええ、サーナよ。あたしたちはこの一年と少しサーナを育ててきた」
「う、うむ」
「それは、感謝する」
シュンナの言葉に族長とガルミドが感謝の意を表した。
「あたしたちも最初は、あなたたちにサーナを返して旅を続けるつもりだった。あたしたちは旅をして世界を見て回りたかったから」
シュンナの言う通り、俺たちは最初本当にそう思っていた。獣人族であるサーナは人族の世界ではきっと幸せになれない。常に変装の魔道具を身に着け、自身を偽って生きなければならないから。だから、身内かどうかはともかく獣人族にサーナを預けようと思っていた。まぁ、まさか最初に身内に会えるとは思わなかったけど。
「でも、今までずっとサーナと過ごしてきてサーナの成長を見てきた。初めて言葉を発した時、初めて立ち上がって歩いた時、あたしたちは自分たちで思っていた以上にうれしかった。苦労も多くあったけれど、本当に楽しかったの」
シュンナの言葉に父さんと母さんがうなずく。2人はたぶん俺のことを思い出しているんだろう。
「確かに、その気持ちはわかる。俺も2人の子持ちだ」
これにはガルミドも同意し、族長もうなづいている。シュンナの気持ちはまさに親の気持ち、2人とも親だからこそわかってくれている。
「しかし、それとこれは別」
「うむ、だからと言ってお前たちを受け入れるというわけにはいかない」
取り付く島もないとはまさにこのこと、と言わんばかりに拒絶された。
「そこを何とかならないかな。あたしたち、サーナと別れるなんてしたくないし、それにサーナだってあたしたちになついてくれてる」
「だな、特に一番世話をしているシュンナには特になついているからな。もし、俺たちがここで去れば間違いなくサーナは泣くぜ」
「うっ」
ダンクスがそう言うようにこれは間違いない。実は以前試したことがあった。それは、ほんの一瞬だったが俺たち全員がサーナの視界から出たことがあった。
すると、サーナ周囲を見たのち大泣きを始めた。もちろん慌てて駆け寄り抱き上げたけどね。それで、なんでこんなことしたのか俺たちは全力で反省したものだ。ちなみに、俺たちのうちだれか1人でも側にいればサーナは落ち着いている。まぁ、一応いなくなった奴を探すけどね。
「ふんっ、そんなこといずれ忘れる。貴様たちが気にすることでもないだろう」
そう言ったのは俺たちにいまだ武器を向けている男だが、まぁ、確かにそれは街がないことかもしれないが、それでも、サーナは俺たちに置いて行かれたと傷つくかもしれない。それが後々尾を引いたら最悪だ。
「そうかしら、サーナちゃんはきっと傷つくわ」
ここでサーナを抱いたミサがやって来てそういった。まさか俺たちを擁護してくれるとは思わずびっくりした。
「ミサ、そうは言うがその子はまだ幼い。成長すれば忘れるだろう。実際俺もこのように小さいときのことなっか忘れている」
「うむ、その通りだ」
ガルミドと族長はミサに反論したが、確かに俺だってサーナぐらいのころの記憶なんてものはない。あれば、両親のことだって覚えているはずだ。
「確かにその通りではあるけれど、それでも今のサーナちゃんが傷つくのは確かでしょ」
「つまり、ミサお前はこいつらがここに住むのを良しとするつもりか」
「ちょっといい」
なんというかガルミドと族長、ミサに3人が少し険悪になってきたので、シュンナがここで待ったをかけた。
「なんだ?」
「あたしたちは何もあなたたちの間にいさかいを起こそうとしているわけではないの。でも、ここに住んでサーナの世話を続けたいという気持ちは本当。そこで提案なんだけれど、あたしたちがここに住む代わりと言っちゃぁなんだけれど、ハンターたちからの防衛に協力させてもらいたいのよ」
「なにっ?」
「強力だとっ」
「ふざけるなっ、何が協力だ。人族の強力なんかいらねぇ」
シュンナの提案に族長とガルミドが驚愕し、今だ俺たちに武器を向けている男が怒鳴った。
「ふぎゃぁ、ぎゃぁ、ふぎゃぁ」
「ああ、よしよし、怖かったねぇ。大丈夫よ。おー、よしよし」
怒鳴り声のせいでサーナが泣き出し、抱いていたミサが必死になだめ始めた。
「サンチュ、大声を出すな」
「うっ、す、すまない」
武器を向けている男、サンチュにガルミドが責めるように言った。
「それで、お前たちは何をしようとしている」
ガルミドが俺たちに尋ねてきた。といっても、一応聞いてやるという風にである。
「そうね。まずは、決壊かしらスニル」
「そうだな。結界でこの集落を覆えばこの集落に対して悪意ある奴は入れないし、ここを見つけることすらできなくなる。設置型にすれば定期的に魔石に魔力を供給すれば問題ないだろう」
「結界だとっ、それにそんなもの聞いたことないぞ。お前たちにそんなことができるのか」
「できる。こんな風に」
そう言って俺は、すぐさま自分に対して結界を張った。
「なっ、見えない。どうなっているっ」
「何を言っておる、ちゃんとそこにいるだろう」
結界を張ったことで俺の姿はガルミドからは見えていないが族長には見えているままだ。
「今、ガルミドだけが見えないようにしたんだ。今度は族長だけにする」
そう言って、今度は逆にガルミドからは見えるが族長は見えないようにした。
「なっ、馬鹿なっ」
「スニルは、色々特殊だからね。こんな結界を張ることは朝飯前なのよ。それに、スニルなら奴隷の首輪を外すことだってできるわ。いるんでしょここにも、隠しているようだけれどあたしたちにはわかるわ」
この集落の中の住人の中には、その首に奴隷の首輪がはまっている者が数人いる。首に布を巻くなどして隠しているようだが、俺たち元奴隷からしたらすぐにわかる。というか俺の場合鑑定を使えばモロわかりだ。なにせ、真名がないんだからな。
「なぜそれを」
「あたしたちも一応元は奴隷だったからね。この首に同じものが付いていたのよ。まぁ、それもスニルが外してくれたのだけれどね」
「なっ!」
「馬鹿なっ!」
シュンナの言葉にガルミドたちは驚愕している。
「ほ、本当に外せるのか?」
族長にそう言われたので俺はうなづいておいた。
「信じられないのも無理ないからね。試してやってみる?」
「試しだと」
「ええ、ダンクスこれつけて」
「って、俺かよ」
シュンナが懐から取り出したものをダンクスへと渡したが、それは奴隷の首輪だった。俺たちはハンターとしてここにやって来たために当然この忌々しい首輪が配布されている。
「そ、それはっ」
もちろんシュンナがおもむろに取り出したものを見て、ガルミドたちは警戒を強めたけどね。
「大丈夫よ。ダンクス」
「たくっ、しょうがねぇな」
「なにっ!」
「馬鹿なっ!!」
ダンクスは仕方ないといい名がrシュンナから奴隷の首輪を受け取り自らそれを首に漬けたのであった。これにはガルミドたちは驚かずにはいられない。どこの世界に自ら奴隷の首輪をハメる奴がいるのかということだ。
「ふんっ、そんな偽物をどうしようというのだ」
サンチュがそう言ってあの首輪が偽物だと断じたが、残念ながらあれは本物だ。その証拠に今現在ダンクスの真名がはく奪されている。
「偽物じゃないわよ。何なら確認してみたら」
シュンナがそう言ったのでサンチュも確かめるためにダンクスへと近づいていった。
「ふんっ、いいだろう。おーいクイン、こっち来てくれ」
サンチュがそう言って叫んだ。どうやら、誰かを呼んだようだ。
「なによ。サンチュ」
「こいつを鑑定してみてくれ」
「鑑定? いいけれど、なに」
やって気のは1人の女性で、いぶかしむようにダンクスを鑑定した。どうやらこの女性は鑑定スキルを持っているようだ。
「鑑定スキル? ずいぶんと珍しいものを持っているわね」
「そういうことだ、これが偽物だとすぐにわかる。残念だったな。それで、どうだクイン」
「え、ええと、なんとなく話は分かったけれど、それ、本物よ」
「えっ?」
「その人の首についているのって奴隷の首輪、名前も出ないし、装備として首輪が書かれているわ」
女性も驚いているが、それ以上にサンチュやガルミドたちも驚いていた。
「わかったでしょ」
「お、お前たちは馬鹿か」
「一体、何を考えて」
「言ったでしょ。スニルお願い」
「わかった。”解呪”」
本来なら別に言葉にする必要はないが、わかりやすくするためにダンクスへ向けて”解呪”魔法を発動した。
その結果、ダンクスが先ほど自らハメた奴隷の首輪はポロっとすぐに外れたのであった。
「なっ!」
「嘘だろっ!」
「あ、あり得ない!」
目の前で起きた出来事にガルミドたちは驚愕に目を見開いた。
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