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第06章 獣人の土地

07 集落の防衛

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 ダンクスが自らつけた奴隷の首輪をあっさりと外した。これにはその場にいたガルミドや族長を始め、こちらの様子をうかがっていた獣人たち全員が驚愕に目を見開いていた。

「とまぁ、こんな風にスニルなら簡単に外せるのよ。だから、まずはこの集落にいる首輪が付いている人たちの物を外しましょう。いいでしょスニル」
「ああ、問題ない」

 この集落で奴隷の首輪が付いている者は数人程度、それぐらいなら全く問題ない。

「ほ、本当にいいのか?」

 サンチュがこれまでと違い恐る恐る聞いてきた。

「もちろんよ。さっきも言ったけれどあたしたちも元奴隷で、奴隷の首輪が付いているつらさはよくわかるからね」

 シュンナがそう言うと父さんと母さんが顔をしかめた。2人は俺もまた元奴隷であることをダンクスたちから聞いて知っているからな。

「ま、待ってサンチュ、族長」

 今すぐにでも動き出そうとしたサンチュをクインが止めて、族長に意見を求めた。

「う、うむ、サンチュの気持ちはわかるが、果たして、いや、しかし」

 族長は悩んでいる。

「族長、私は彼らを信じてもいいと思うわ。なんといってもこの子が、あの子の子がこんなになついているんだもの」
「ミサ」
「あなた、覚えている。あの子、ニーナは幼いころ私たち家族にしかなつかなかったでしょう」
「ああ、そうだな。確かにニーナはそうだったな」

 ガルミドとミサがそう言って懐かしそうに、悲しそうにそんな会話をしている。へぇ、サーナの母親であるニーナは俺みたいに人見知りがあったんだな。でも、サーナは比較的誰にでもなつく気がするんだけどな。まぁ、それは言わないでおこう、するとまとまる話もまとまらなくなる可能性があるからな。

「族長、俺も彼らを信じてみようと思う。考えてみれば、ここは彼らにとっても敵地だ。そんな場所にわざわざニーナと、サーナを連れてきてくれた。これはそうそうできるものじゃない」
「そうね。彼らにとっても危険な行為よ。私たちに見つかれば殺されることだってあり得るわね」
「そうだ。少なくとも俺は最初そのつもりだった」

 俺たちがこの地へ足を踏み入れた時に接触してきた獣人族たちの中にいたからな。そして、ダンクスたちによると確かにあの時彼らからは強い殺気が放たれていたらしいし、まぁ俺にはその殺気は全くわからないんだけどね。

「ふむ、そうか、わかった。確かにお前たちの言う通り、なまなかにできることではないか。いいだろう、サンチュ、クイン、皆を集めてくれ」
「おう」
「はい」

 族長がサンチュとクインの2人に指示を出すと2人は勢い込んで集まって来ていた獣人たちの元へと向かって行った。なんだか、サンチュの奴が妙に気合が入っているように見えるんだけど、どういうことだろうか。

「済まぬな。サンチュの妻は以前奴らにつかまってな。何とか助けることはできたのだが……」

 不思議そうにしている俺たちに対して族長が説明してくれたが、なんでも数か月前サンチュの奥さんがハンターにつかまり奴隷の首輪をハメられてしまった。その時は何とかサンチュを始め仲間たちの健闘により無事に救出することはできたが首輪を外すことができない状態であったという。こうしたことはあり、俺たちもハンターギルドや船で出会ったあの連中からも聞かされていた。首輪をつけても油断するなと、取り返しに来る奴がおり、ハンターの中にはそれで命を落とした奴らもいるという。だから船着き場までは警戒を怠るなと言われた。だからこそ俺たちもこの集落に入った時首輪がはめられているであろう人たちがいることが分かったというわけだ。

「そう、それは必至になるわよね」
「そうだな。大事な人ならなおだな」

 父さんと母さんがそうつぶやきながら俺を見た。

 それから少しして5人の男女がサンチュとクインに連れられてやって来た。

「族長、一体何なんだ」
「サンチュから聞いたけれど、本当なの」
「そいつら信用できんのかよ」
「それは分からぬ。しかし、事実として忌々しい首輪を外せるのは確かだ。我らもそれを実際に見ている。そうだなクイン」
「ええ、それは間違いないよ。私も鑑定スキルで確認したから」

 鑑定スキルを持つクインが言うのならと集まってきた人たちが納得したところで、族長が俺を見た。

「それでは、頼めるか」
「わかった”解呪”」

 族長に言われた後、集まった彼らを確認しつつ指をぱちりと鳴らしつつ発動させた。それにより、集まった5人の首に嵌められていた奴隷の首輪がポロリとはずれたのであった。

「えっ!」
「あっ!」
「うそっ!」

 突然首輪がはずれたものだから少し間の抜けた表情をしている獣人族たち、しかし、恐る恐る自身の首に首輪がないことと、地面に落ちている首輪を見てようやく首輪がはずれたという事実に気が付いたようだ。

「うぉぉぉう!!」
「は、はずれたー!」
「は、はずれたわ。はずれたわ。サンチュ」
「アウリ!!」

 彼らはそれぞれに歓声を上げて喜んでいる。いやぁ、良かったよかった。

「よかったわね」
「だな」

 そんな様子を見ているダンクスとシュンナも安堵した様子だ。

「さて、それで皆に言っておくことがある」

 ここで族長が集まって来ていた集落の獣人たちに向けてそう言いだした。

「お前たちも見ていたようにここにいる者たち、確かに彼らは我らの不倶戴天の敵である人族、しかし我が同胞のため危険を冒しここまで来てくれた。それだけでなくお前たちの首輪まで外してくれた。そんな彼らの願いはこの集落に住み、連れてきた我らが同胞、サーナの世話を続けること。どうだろうか、その願い受け入れたいと思う、反対の者はいるか」

 族長は俺たちの願いを受け入れるといってくれた。それに対しての集落の意見を聞いている。

「俺は賛成だ」
「あたしも」
「俺もだ」

 賛成を口にするものがいる一方で

「反対だ」
「人族なんて信用できるのか」

 そんな反対意見も出たが、聞く限り賛成派のほうが多いように見える。しかも賛成派は反対派に対して説得までしてくれた。その結果として全員一致で賛成となったのであった。

 こうして俺たちはこの集落、サーナの母親であるニーナの故郷においてサーナの成長を見守る権利を獲得できたのであった。


「まさか、受け入れられるとはね」
「思わなかったわね」
「そうだな、普通に反対されるかと思ってたからな」
「だよな」
「追い出されるかと思ってからなぁ」

 今回の獣人族の決定に一番驚いていたのは実は俺たちだった。何度も言うように彼ら獣人族にとって人族は敵以外の何物でもない、そんな奴らを集落に住まわせるなんてのは無茶な願いだということは分かっていたからだ。しかし、彼らの決定は拒否ではなく了承だった。
 そんな俺たちはというと、集落から少し外れた場所にテントを設置してその中で一休みしている。

「サーナは大丈夫かしら」
「心配よね」
「ええ」

 シュンナと母さんが心配している理由は、現在サーナはガルミドとミサの祖父母とともに過ごしており、ここにはいないからだ。

「大丈夫だろ、確かこのぐらいならサーナも俺たちの存在は分かるんだろ」
「らしいな」
「それなら、きっと大丈夫だな」

 一方で俺たち男は特に心配はしていない。というのも俺たちがテントを設置した場所からガルミドの家まではそれほど離れていない。このぐらいの距離ならば俺たちのにおいがサーナに届いているからだ。獣人族というものは人族と違い非常に鼻がいい。そのため、獣人族は目よりも鼻でものを認識しているらしい。

「まっ、なんにせよ。もし何かあれば来るだろ」

 ダンクスがそう言ったが、確かにもしサーナがぐずってもそう離れた場所ではないから来るだろう。

「そうね。そうよね」
「ええ、そうね」
「だな。それで、スニルこの後はどうするのか決めているのか?」

 父さんが今後の予定を聞いてきた。

「そうだなぁ。一応族長には結界を張るって言ったし、その結界を張る魔道具でも作ろうかと思ってるけど、ただ、それに使えそうな魔石がもうあまりないんだよな」
「なんだよ。それじゃ、俺がサクッと狩って来てやろうか」

 ここで狩るという発想になるあたりさすがはダンクスって気がする。

「それはいいけど、問題は俺たちがそう好き勝手に動いていい物なのか」

 父さんがそう言った懸念を言ったわけだが、全くその通りで人族である俺たちが好き勝手に歩き回るわけにはいかない気がする。

「それがあったか、まっそれなら族長あたりにでも聞いてみるか」
「そうだな。頼む」
「おう任せろ、行ってくるぜ」

 ダンクスはそう言ってテントを出ていった。

 それから数分後ダンクスが戻ってきた。

「どうだった?」
「おとなしくしてろってよ」
「まぁ、そうだろうな」
「それじゃ、どうするの。魔石ってここにはないのかな」
「それも聞いてきたけどよ。確かにある程度はあるらしいけどよ。スニルが求めるような大きさのものはないそうだ」
「そうか、となるとどっかで狩ってくるしかないか」
「そうね。それほどの大きさだと買うってわけにもいかない物ね」
「そうなんだよなぁ」

 結界の魔道具を作るにはまず中心に基盤となる魔道具を設置し、集落の周囲に六ケ所六芒星の頂点となるような場所に別の魔道具を設置するというものだが。六ケ所に使う魔石は俺の手持ちにで十分間に合うが、中心に使う魔石は少々大きいものを使う必要があるわけだが、残念ながら手持ちにないんだよな。

「ワイバーンでも狩ってくるか」

 ワイバーンの魔石であれば十分すぎる大きさを持っている。そして、魔道具に使う魔石というものは大きければ大きいほど効果が高くなる。

「ワイバーンって、スニルさすがにそれは無理だろう」

 父さんが若干呆れたようにそう言った。まぁ、確かに父さんたちではワイバーンは無理だな。

「スニル、危険なことしちゃだめよ」

 続いて母さんに怒られた。

「いや、俺だったらホラ魔法で何とかできるから……」

 問題ないと言おうとしたところで母さんから敦を感じたためにその言葉を飲み込んだ。

「まったく、スニルの魔法がすごいのは分かるけれど、ワイバーンと戦うなんて危険なことを言わないで頂戴」
「わ、わかったって、それじゃ、どうする?」
「そこは、俺たちが行って探してくる。オーガあたりなら大丈夫だろ」
「ああ、そうだな。そのぐらいで問題ない」
「なら、あそこだな。確か前に見かけたろ、森の奥にいたから放置したけど」
「ああ、あれね」
「そうだな。確かにいたな」

 ダンクスが言っているあそこという場所はブリザリア王国の王都と聖教国への国境の中頃あたりのことで、当時はすでに父さんと母さんの2人とも合流していた場所である。ちなみに俺たちがそのオーガを放置した理由は簡単で、オーガという魔物はその強さの割に結構おとなしく人間を見てもめったに襲ってこない。そのためオーガを討伐する奴なんてものはほとんど今回の俺たちのように魔石が必要になったとか、何か特別な理由がある奴だけで、わざわざ討伐に向かうことはないそうだ。

「それじゃ、そのあたりに”転移”させるけど、誰が行くんだ」
「そうだなぁ。俺とシュンナ、ヒュリックがいれば問題ないだろ。ミリアはスニルを頼むぜ」
「それは任せて」

 というわけで、その3人でオーガ討伐に向かうことになったのであった。

「それじゃ、スニル頼むぜ」
「わかった」

 準備を整えた3人が集まったところで母さんを残して”転移”で目的の場所へと飛んだ。


「それじゃぁ、1時間後にまたここにな」
「おう」
「お願いね」
「行ってくる」

 そう言って3人は意気揚々とオーガを探しに向かい、それを見送った俺は集落へと戻ったのであった。

「おかえりスニル、それで、さっそく作るの?」
「ただいま。頂点の奴はすぐにできるからね」

 というわけで、俺はテントに戻るなりすぐに結界の魔道具作成に入ったのであった。


 それから1時間が経過し、ダンクスたちを迎えに行く時間となった。

「スニル、そろそろお父さんたちを迎えに行かないと」
「あれっ、もうそんな時間か、わかったすぐに行ってくるよ」

 母さんに言われるまで時間に気が付かなかった。それほど集中して魔道具を作っていたらしい。まぁ、それはともかくすぐに3人を迎えに行ったのであった。


「おう、来たか」
「悪い、遅れたか?」
「大丈夫よ」
「大体あってる」
「それで、どうだった?」

 成果を聞いてみた。討伐できたのだろうか?

「おう、出来たぜ」
「3匹いたからね。ほら、この通り」

 そう言ってシュンナがマジックバックから取り出した魔石は3つ、どれも問題ない大きさだった。ていうかオーガを3匹討伐ってさすがだよ。普通の冒険者ならい匹狩るだけでも一苦労なはずなんだけどな。というか父さんに至っては前世では確実に無理な相手だ。なにせ、オーガとオークではその力は圧倒的に違うから。まぁ、今なら問題ってことだな。

「そっか、それだけあれば十分だ。そんじゃ戻るか」

 というわけで、”転移”で集落へと戻った。


 集落に戻ったところでさっそく本格的に魔道具作成に入り、それからさらに2時間ほどかけてようやく魔道具を作り上げたのだった。

「できた。あとはこれを設置するだけだ」
「さすがスニルね」
「相変わらずすげぇな」
「自慢の息子だな」
「さっそく族長のところに行きましょ」

 そんなわけでさっそく俺たちは連れ立って族長の家へと向かったのだった。


「族長、居る?」
「ん、おお、お前たちか、何か用か?」

 若干距離を感じる対応だが、こればかりは仕方ないか。まだ彼らの俺たちに対する警戒心は解けていないからな。

「結界を張る魔道具ができたから、持ってきたのよ。さっそく設置したいのだけれどいいかしら」
「なにっ、もうできただと、馬鹿なっ」

 族長は信じられないという風に俺を見てきた。

「一応」

 そう短く行ってから”収納”に収めていた魔道具を取り出して見せた。

「こ、これが、本当に機能するのか?」
「問題ない、見ればわかる」
「ふ、ふむ、そうだな。それで、危険はないんだな」

 族長はこの魔道具の軌道に関しての危険性を聞いてきたが、これも仕方ないので簡潔に答えた。

「問題ない」
「スニルの話だと、これはあたしたちを除いた人族だけが通ることも認識することもできないようにする結界を張るものだそうよ。だから、一見すると今までと全く変わらないわね。確かめる方法としては実際に近くに人族に来てもらうしかないんだけど」

 シュンナが俺の代わりに説明してくれた。まさにその通りで、この装置は基本俺たち以外の人族に効果のあるものとなっている。そのため、この集落の獣人やほかの集落の獣人及びほかの種族にはこれまで全く変わらず、集落を認識できるし、入るくともできるというわけだ。

「な、なるほど……わかった。設置を頼めるか」
「わかった」

 族長の許可を得たところで俺はシュンナに手伝ってもらって結界の魔道具を設置して回ったのだった。
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