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第07章 魔王

06 レッサードラゴン

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 まったりとしていると突如やってきたレッサードラゴン、おかげで街は大パニックとなった。
 どうして急にやってきたのか、それについては全くわからないし、というかもっと早くに気が付かなかったのかとも思いたいが、これもどうしようもない。地球のようにレーダーがあるわけでもないし、いくら魔族が魔法に長けた種族だといっても、高速で飛ぶレッサードラゴンを見つけることは難しいだろう。まぁ、それでも少しは早めに気が付いたからこその警報だったのだろう。まぁ、それでも遅くすでにレッサードラゴンは街へと降り立ち、建物の屋上に鎮座していやがる。

「さて、どうしたものか」

 いまだ逃げきれていない人々やこのきれいな街並みを守るために立ち上がっては見たものの、どうやってこいつを倒そうかと考える。
 まず、敵を知るためにレッサードラゴンとはという基本情報からおさらいしてみよう。

 レッサードラゴンとは、簡潔に言えばドラゴンの亜種で、通常のドラゴンに比べると圧倒的に弱い存在となる。それでもワイバーンよりも強いという、人間では到底太刀打ちできない相手となることは先ほど話したと思う。それから、ドラゴンに比べると知能が低くのちに知ったことだが、ドラゴンとしてはレッサードラゴンがドラゴンの名がついていることが気に食わないらしい。まぁ、それでもドラゴンと比べたらということで、俺たち人間と比べると同等か少し高い程度はあるらしい。つまり、レッサードラゴンは魔物などと違い本能で戦うのではなくちゃんと経験から考えたうえで戦うわけだ。そう、レッサードラゴンとは、力だけではなく人間が魔物を相手にした場合の優位性である頭脳も持つ普通なら絶対に勝てない存在ということになる。

「こういうのを無理ゲーっていうんだろうな」

 この言葉、初めて使うがまさにこういうことを言うのだろう。

「どうすんだ。スニル、魔法をぶっ放すんだろ」

 ダンクスがそういうように俺がレッサードラゴンを倒す方法は魔法をぶつけることだ。ていうかそれしか方法はないといってもいいだろう、確かに俺の刀は神剣となっているためにレッサードラゴンにも通用するかもしれないが、俺の腕ではまだ当たらないと思うしな。

「そうだな。それしかないだろ、でも、問題もあるんだよなぁ」
「問題って?」

 俺の言葉にサーナを抱きなおしながら母さんが聞いてきた。

「あれを倒すための魔法がわからない」

 短くそう言ったら、4人は俺が何を言いたいのかすぐに理解したようで納得しているが、どういうことなのかというと、ここでちょっと魔法についても少し説明する必要があるだろう。

 魔法には初級と中級上級、といった階級があるわけだが、その威力は込める魔力によって変わる。だからたとえ初級の魔法でも盛大に魔力を込めれば上級魔法を凌駕することもある。
 そう聞くと俺の膨大な魔力を込めて何か魔法を打てばいいのではと思うかもしれないが、ことドラゴンと名の付く相手にはそうはいかない。というのもドラゴンのうろこは魔法防御力が高く、普通の魔法なら一切効かないからだ。そして、初級魔法というものはいくら魔力を込めて意力を増そうとも結局は初級魔法でしかないために、この防御によって防がれてしまう。そこで、このレッサードラゴンを討伐するには中級上位から上級魔法以上を使う必要がある。しかし、この魔法下手に魔力を込めるとあたり一面がひどいことになってしまう。つまり、下手をするとアベイルの街そのものが大ダメージを負い大災害だ。災害の多い国日本出身である俺としてはさすがに災害は最小限にしたい。そこで最低限の威力でレッサードラゴンを倒せる魔法を選択する必要がある。
 でも、俺はこれまでほとんど初級しか使ってきていない。それというのも今まで相手してきたのが盗賊や魔物といった初級でも全く問題ない連中ばかりだったからだ。それにまさか中級や上級といった派手な魔法をそこらで試すわけにもいかないしな。
 さて、そんなわけで俺はこれからこのレッサードラゴンに対して、中級からいろいろ試してみる必要があるわけだ。そんなことを簡単に説明してみる。

「なるほどな。それじゃ、俺たちはそれをやるための隙を作れってわけだな」
「そういうこった。任せる」
「まっ、仕方ないか、任せて」

 ダンクスとシュンナがそれぞれ頷いた。

「父さんと母さんはサーナを頼む」
「ええ、大丈夫よ」
「できれば俺たちも参戦したいところだが、サーナがいる以上そうもいかないな」
「ええ、それに私たちじゃまだできることはないわ。それならシュンナとダンクスに任せたほうがいいわよ」
「悔しいところだがそうだな」

 父さんと母さんは前世に比べたらかなり強くなっている。しかしそれでもシュンナとダンクスには及ばないし、何より2人はまだ12歳と子供だから余計に十全な力が出せないでいる。そのため今回はサーナのお守りやくを頼むことにした。

「そんじゃ、いっちょやるか」
「ええ」
「2人とも気を付けてね」

 母さんの言葉を受けてシュンナとダンクスは颯爽とレッサードラゴンに向かい走り出す。

「それじゃ、俺もいくかな」
「スニル、気を付けてな」
「ああ」
「無茶はしないようにね」
「わかってるよ。母さん、そっちもサーナを頼むよ」
「ええ、任せて頂戴」
「任せろ」

 というわけで俺もまた両親に見送られてレッサードラゴンが見える適当な位置へと向かったのだった。


 そうしてやってきましたレッサードラゴンが鎮座する建物から、少し離れたところに建つ建物の屋上。

「おっと、さっそく2人もやってるな」

 見てみるとシュンナとダンクスがすでにレッサードラゴンと肉薄しそれぞれが攻撃を入れている。しかし、さすがはドラゴンと名がつくだけあってそのうろこは頑丈、2人の攻撃をうっとうしそうにしつつも全く聞いていない。

「さすがの2人も攻めあぐねてるな。仕方ないこれじゃ隙も何も無いからな。”強化”」

 指をぱちりと鳴らす、これは無属性魔法で自身の強化しかできない”身体強化”に対して術者が対象としたものの身体や魔力など一切合切を強化する魔法となる。しかし、この魔法は通常”身体強化”と競合してしまうためにそれが使えないものに対して行われる魔法となる。そう考えると自力で”身体強化”できる2人に使うは問題ではと思うだろうが、もちろん俺がそんなことを考えていないわけではなく、しっかりと競合しないように調整している。だから、いま2人はそれぞれが使っている”身体強化”に俺が重ねがけした”強化”が働きその強化率はおよそ元の10倍近くとなっている。ちなみに”身体強化”のみの強化率はおよそ3倍程度であることを考えると、今の2人がどれほど強化されているのがわかるだろ。それと、この強化率だが、俺が魔力をもっと込めて行えばどこまでも上げることが可能だ。しかし、あまりあげすぎると今度は2人の肉体が持たないし、突如そんな強化をされても2人でもその力を扱いきれなくなってしまう。だから、この10倍程度がちょうどいいというわけだ。

「これなら2人の攻撃を通るようになるだろ」

 俺の狙いはまさにこれで、今までは全く2人の攻撃が意味をなさずレッサードラゴンの意識を2人に向けることすらできなかった。いうなれば周りを飛ぶ蚊のようなものだった。しかし今、俺が行った”強化”によりその攻撃はレッサードラゴンも無視はできなくなったわけだ。尤も、それで倒せるかというと疑問が出てしまうんだけどな。だからこその俺、俺が魔法をぶっ放す隙を2人に作ってもらう必要がある。

「おしっ、いまだ!」

 2人の戦いを見ていると、うまく隙を作ってくれたようでまさに絶好のタイミングが生まれた。そこでまずは小手調べということで、火炎魔法中級魔法である”フレイムランス”これは読んで字のごとくフレイムでできた槍、とはいえ本当に槍みたいなものではなくどちらかというと棒かな。これを叩き込んでみた。

 結果だが、どうやら込める魔力量が少なかったようで大したダメージを与えることができなかったようだ。
 しかし、この攻撃により奴に俺の存在が知られた。今も俺へ向かってブレスの態勢に入っている。

「とりあえず”結界”っと」

 攻撃ではどれだけ込めればちょうどいいのかがわからないが、防御に関してはどこまで込めても問題ない。だから、盛大に込めて”結界”を張った。そのおかげで俺はおろか俺の周囲の建物にも全く被害が及ぶことなく防ぐことができた。

「さすがだな」
「ほんとね。まさかあれを完全に防ぐなんてね」

 いつの間にか近くにいたシュンナとダンクスが感心したように言った。実は俺が張った結界はレッサードラゴンを取り囲むようにしたために2人もまた攻撃ができなくなっていた。

「さっきはちょっと弱かったみたいだからな。次はもうちょっと強めに行ってみるよ」
「あれも結構すごかったけどな」
「ほんとね。スニルは本当にすごいよね。この”強化”もすごいし」
「ははっ、んで、どうだ?」
「ああ、いいぜこの調子なら十分戦える」
「ええ、あとはスニルってとこね」
「それはまかせろ、あと何発かいるかもしれないが始末はつけるさ」
「おう」
「おっと、それじゃ二回戦と行くか」

 俺たちが話している間にレッサードラゴンの態勢が新たに整ったようなので、すかさず二回戦へと突入した。


 それから、数度ほど魔法をぶつけたわけだが、その間2度ほどよけられたり障壁で防がれたりしたが何度も”府ライムランス”を叩き込んだおかげでようやくどの程度で行けるかがわかってきた。

「シュンナ、ダンクス、そろそろ決めるぞ」

 準備が整ったと2人へ向かって叫んだ。

「おう」
「わかったわ」

 それに戦いながら答える2人だが、さすがに少々疲れが出てきているようだな。なにせ、先ほどからずっとレッサードラゴンに対して、攻撃を入れては大きくよけてを繰り返しているからな。それにしてもほんと2人は強い、というのも2人は一切攻撃は受けていない。まぁ、受けたら受けたらやばいんだが、それでも全く当たらず、それでも2人の攻撃はちゃんと当たる。本来なら圧倒的に戦力差があるってのに、本当にすごいと思う。さて、俺もそんな2人のためにもさっさと片づけてしまおう。

 というわけで、まず俺が行ったのは風魔法の中級”ウィンドインパルス”でもって上空へと打ち上げた。それというのも、今まで街中で戦っていたからもし俺がここでレッサードラゴンを倒せる魔法をぶっ放せば最悪町がひどいことになってしまう、一応これまでも何とか街の外に誘導はしてみたんだが、さすが人間並みかそれ以上の頭脳を持つだけあって俺たちの狙いがばっちりとばれていたために、全く乗ってくれなかったのだ。そこで、苦肉の策として上空に打ち上げてから倒そうというわけだ。ここで注意点として上空というのはまさにドラゴンの領域、そんなところに吹き飛ばしたところで無駄になる可能性があった。またこの”ウィンドインパルス”を離れた場所から撃っても結局余波で建物がいくらか壊れてしまう可能性があったから、”転移”で懐に飛び込む配慮は忘れていない。

「よっしゃ、あとはこいつで”インフェルノレーザー”」

 火炎魔法上級魔法”インフェルノレーザー”これもまた文字通り上級魔法である”インフェルノ”をまるでレーザーのように細く圧縮して一気に放つ魔法となる。これにより上空に打ち上げられたレッサードラゴンが体制を整える前にその脳天を打ち抜いた。
 それによりまさに一瞬で脳を貫き焼かれたレッサードラゴンは落下する。

「おっと、このままじゃまずいな”収納”っと」

 落下する前に飛び上がり”収納”魔法を発動しレッサードラゴンをしまい込んだのだった。
 俺の収納には生きたものは入れることができないのに、収まったということはそういうことである。

「ふぅ、終わったな」
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