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第08章 テレスフィリア魔王国
08 言語習得魔法
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他人に言語を習得させる魔法、他言語習得に苦労している人からしたら、まさに夢のような魔法だ。俺だって前世でほしかったよ。英語苦手だったし。とまぁ、それはいいとして、伯母さんに問われてこれがどういうものか説明をすることになった。
「まさか、そのような魔法があるなんて」
「信じられませんね」
説明を聞いても2人はそう簡単には信じないようだ。
「だったら、試してみればいいと思う」
伯母さんに向けてそう言ってみた。
「そ、そうですね。確かにそれが一番いいかもしれませんね」
「はい、ではわたくしが試してみましょう、スニル君お願いできる」
「わかっ……」
「お待ちください」
伯母さんが受けるというので了承しようとしたところで、枢機卿の背後でずっと立っていた修道士が
待ったをかけた。
「どうしました?」
「お話し中に割り込み申し訳ありません。ですがそちらの子、方が使うという魔法がどうのようなものかわかりません。また、他人に言語を習得させるなど何か副作用が生じる恐れがあります」
修道士が言うことは尤もで、俺みたいな子供が使う魔法は信用できないのだろう。
「なるほど、スニルバルドさん。その魔法を使った場合の副作用はありますか?」
修道士の言葉を聞いた枢機卿が俺に向き直って聞いてきたので、特に隠すことでもないので正直に答える。
「1言語といってもその情報量は膨大です、それを一気に脳内に流し込むのでひどい頭痛を引き起こします」
「ず、頭痛、ですか?」
「はい」
「スニル君、それはどのくらいの頭痛なの?」
伯母さんも心配になったのか聞いてきた。
「すぐ収まるけどかなりみたい。シュンナとダンクスでも悲鳴を上げるから」
この魔法は国を移るたび2人にかけていたんだけど、そのたびに襲われる頭痛にさすがの2人も受けるときにかなり嫌がっていた。
「フェリシアその方々は?」
おっと、そういえば伯母さんは2人のことを知っているが枢機卿は知らないんだった。
「シュンナさんはかわいらしい女性ですが、ダンクスさんはとても大きな屈強な男性です。また、お2人ともとてもお強いそうですよ」
「そのような方々でも悲鳴、ですか。そうなるとそれはよほどということですね」
「は、はい」
伯母さんと枢機卿はさすがにビビっている。それはそうだろう誰だって頭痛は感じたくない。
「何も、伯母さんや猊下が受ける必要はないんじゃ?」
「そうです。他のものが受ければよろしいかと」
修道士も俺に言葉に同意した。
「しかし、神の御言葉となるとこの目で読み解きたいというのがありますし」
「ええ、そうですね。このような機会があるというのにほかの方にというわけにはいきません」
伯母さんと枢機卿の信仰心が天元突破しているようで、頭痛を受けてでもハッシュテル語を習得したいという。
「し、しかし」
修道士としてはさすがにこれは看過できず反論しようとしている。
「そ、そうです。その魔法を受けたとして、それが正しいとは限りません」
修道士は尤もなことを言ったが、残念ながら俺が習得する言語は”メティスル”の権能の言語理解によるものだから、間違いはない。というかハッシュテル語に関しては神様から直接教わったものみたいあものだからまず間違いない。
「なるほど、確かにそれは言えてますが」
「猊下それは……」
伯母さんも擁護しようとしているが、それができずにいるようだ。
「それなら、別の言語例えば聖教国の言葉とかはどう?」
「聖教国、聖句のことですね」
「聖句?」
「聖教国の言葉のことを聖句というのよ」
ああ、そういうことか、まぁとにかくそれなら正しいか判断できると思う。とはいえ確認は必要だな。
「ええと、伯母さんと猊下は?」
「聖句ですか、もちろん習得しております」
「ええ、私も司教になる前に聖教国へ修行に行ったからそこで学んだわ」
やはり枢機卿や司教となるとしっかり習得しているようだ。だったら、
「なら猊下、この教会にその聖句? を習得していない人は?」
「ええ、それは多くいます。そちらのブロウスも習得はまだでしたね」
「は、はい」
「つまり、その習得していない人にスニル君が魔法を使って聖句を習得させるというわけね」
「うん、それで2人が確認すれば」
「なるほど、確かにそれなら正しいかどうかの判別はできます」
「そういうことならその方法で行きましょう。ではブロウス」
「かしこまりました」
そう言ってブロウスは部屋を飛び出していった。って、ブロウスが受けるんじゃないんかい!
「あらあら、別にブロウスが受けてもよかったのに」
そう言ってコロコロ笑う枢機卿であった。
それから少し待っているとブロウスが部屋に戻ってきた。
「失礼いたします。お呼びと聞き参上いたしました」
そう言ってブロウスの後に続いてやってきたのは1人の騎士、いや女性騎士であった。ていうか女性騎士っているんだな。コルマベイントでいくらか騎士は見たが女性は見たことがないので、この国でも女性は岸に慣れないものと思っていた。あっ、でも教会の騎士だからコルマベイントの騎士ではなく教会の聖騎士ということになるのか。
なんてことを考えている間に伯母さんと枢機卿が女性騎士にこれからのことを説明していったようだ。
そして、その説明を受けた女性騎士は願ってもないと快く俺の魔法を受けることを了承した。
「ひ、ひどい頭痛?」
伯母さんや枢機卿とは違い、なんというか凛とした雰囲気が話しかけずらく人見知りが激しく発動してしまった。
「問題ありません」
特に問題ないらしいので、女性騎士に向かい魔法を使うことにした。
「え、えっと、それじゃ、そこに、楽に」
「はい」
女性騎士には俺が伯母さんの甥であることは話してあるために、そこら辺の一般時よりは丁寧に扱ってくれたから俺もまた丁寧に魔法をかけることにした。
というわけで女性騎士に向かい手をかざして魔法を発動。
「”ランゲージ”」
これが言語習得の魔法、”洗脳”を参考に作ったもので、言語情報を脳に流し込むというある意味乱暴な魔法だ。それは仕方ないなにせこの魔法はシュンナとダンクスに言語を習得させるために思い付きで作ったものだからな。
さてそれはさておき、魔法を受けた女性騎士はというと……うん、思った通り頭を抱えながら悲鳴を上げているようだ。
しかしそれも数秒、すぐに収まったようで、息を荒げながらではあるが落ち着きを取り戻し始めている。
「だ、大丈夫ですか? マリー」
「は、はい問題ありません」
枢機卿から水の入ったコップを恐る恐る受け取りながらすっと姿勢を正す女性騎士。
「それでマリーさん、効果はいかがですか?」
ここで伯母さんが女性騎士マリーに魔法の効果をウキウキしながら尋ねている。
「はい、まだよくはわかりませんが」
これはシュンナやダンクスも言っていたが、魔法を受けただけでは習得できたという実感がわかない、しかし実際にその言葉を聞くことで習得したということを理解するらしい。
「伯母さん、話してみて」
「え、ええ、わかったわ。それじゃ、マリーさん聖句で話してみますね」
「は、はい、お願いします」
それから伯母さんと枢機卿を交えてマリーに様々なことを話している。もちろん使っている言語は聖教国の言葉聖句というものだ。
「……まさか、私がここまで聖句を話せるようになるとは……」
ある程度話し終わったところでマリーが体を震わせながら感動している。その姿をほほえましく見ている伯母さんと枢機卿であった。
「素晴らしいです。マリーの聖句は全く間違いなどはありませんでした。あの一瞬で習得してしまうとは」
「あの苦労が何だったのかと思ってしまいます」
「え、ええ」
あまりにもすぐにマリーが習得したために、苦労して聖教国の言葉を習得したという伯母さんと枢機卿はなんとも言えない状況となっている。
「ですが、これでスニルバルドさんの魔法が問題ないことが分かりました。ブロウスよろしいですね」
「わ、わかりました」
その後伯母さん、枢機卿と続いて”ランゲージ”を放って行ったわけだが、案の定2人が悲鳴を上げた。しかし事前にそうなることを扉の外にいる者たちに周知させていたこともあり何とか事なきを得て、2人は無事にハッシュテル語を取得したのだった。
そうして、さっそくといわんばかりに先ほどの日記を手に取り読みふけっている。
それからしばし、日記を読みふけっていた2人はふと顔を上げて俺が待っていることに気が付いた。
「あら、これは失礼しました」
「ごめんね。スニル君」
「いや、それよりどう」
「ええ、本当にすごいわ。まさか神の御言葉を読み解く日が来るなんて、しかもこれはスニル君が言った通り間違いなくキリエルタ様の日記よ。このような貴重なものが読めたことは一生涯忘れないわ」
「ええ、そうですね。本当に感謝いたします」
そう言って頭を下げる枢機卿であった。
さて、そろそろ本題に入りたいと思う。
「猊下先ほどの日記にあった記述ですが」
「はい、確認しております。あなた方がおっしゃる通りの記述がありました」
2人が言うにはどうやら日記の中に石碑と同じく他種族に関した記述があったようだ。それなら話が早いな。
「その事実を教会のもっと上に伝えて、教義を本来のものへとしてもらいたいんです」
「なるほど、確かにこの事実から考えるに我々が大いなる罪を負っていたということになります。わかりました即刻教皇へ書簡を送りましょう」
こうして無事何とか俺の願いを通すことができた。といっても実は俺としてはこれで無事教義が変更されるとは思ってはいない。ただ枢機卿がこの事実を知ったことが重要なんだ。
「ところでスニルバルドさん、1つ聞いてもよろしいでしょうか?」
話がまとまったところで枢機卿が何やら聞いてきた。
「?」
なんだろうかと頭をかしげてみたら、この短時間で俺があまりしゃべらないということが分かったようで、そのまま話し始めた。
「なぜスニルバルドさんはそこまで亜人、いえ他種族の方々のことを考えておられるのですか」
枢機卿の疑問はある意味で当然で予想はしていたものだ。いくらなんでも他種族のためにこうして伯母さんを通して枢機卿にあったりするのはおかしい。実際俺だって魔王じゃなかったらこんな面倒なことはしない。
「それは、俺の現在の立場が理由です」
これは事前に伯母さんとも話していて正直に話した方がいいだろうとなっている。
「立場、ですか」
「はい、先ほど俺の名を伯母が紹介した際、スニルバルド、としましたが、本来の俺の名はスニルバルド・ゾーリン・テレスフィリアといいます」
「……」
俺が改めて本名を名乗ると枢機卿の頭に疑問符が上がった。まぁ名前を聞いただけではわからないよな。
「スニルバルドはなでゾーリンは生まれた村の名です。そしてテレスフィリアは国名です」
「こ、国名、ですか。ですが、テレスフィリアという国は聞いた事がありません」
「それはそうです。この国は先ごろできたばかりですから、そして俺はそこテレスフィリア魔王国、魔王なんです」
「そうで!!!!!!」
俺の言葉に返事を仕掛けて、俺が魔王と名乗ったことで驚愕の表情で固まった。一方で女性騎士であるマリーはすぐに枢機卿の前に出ると腰の剣を抜き俺へと向けてきた。
「猊下、お下がりください」
魔王と聞いただけでこの反応はちょっと過剰な気がするが、それは俺が幼いころにおとぎ話として魔王の話を聞いた事がないからだろうか。シュンナやダンクスでさえ魔族を恐れていたし、俺が魔王になったときなんかかなり微妙な表情をしていた。なんというか怖いんだけど俺だから怖くないみたいなちょっとよくわからない感じだ。それは父さんと母さんも同様であった。
「フェ、フェリシア、あなたは知っていたのですか?」
ようやく起動した枢機卿はすかさず伯母さんへ鋭い視線を向けて尋ねた。
「はい、申し訳ありません猊下、ですがスニルバルドはかつてと違い邪悪な存在ではありません。それだけは間違いありません」
伯母さんは力強くそう言った。ていうか邪悪って、確かにかつて、というか先代魔王は邪悪としか言いようのないことをしたからな。
「……」
枢機卿は伯母さんの言葉を受けて俺を観察しながらじっくり考えている。その間もマリーは抜いた剣をどうするべきかと迷っている。いや、そのまま収めてくれると助かるんだけどなぁ。
「そ、そうですね。マリー剣を納めなさい」
「げ、猊下しかし」
枢機卿は考えた挙句マリーへ剣を納めるようにと指示を出した。
「さて、スニルバルドさん改めて聞きますが、あなたは我々に仇をな存在ではないのですね」
「それはありえません。というか俺は魔王ではあっても人族ですし、そもそもこの国の出身、そんなところに喧嘩を売るつもりはありません。尤もそちらが手を出した場合こちらも相応の対応をしなくてはなりませんが」
こればかりは譲れない。俺としても同族と争うつもりは毛頭ないが、攻撃をされてただ黙っているつもりはない。それはこれまでもそうだったようにたとえ魔王になってもそれは同じだ。
「そうですか、わかりました。しかし、なぜ魔王なのでしょうか? スニルバルドさんも魔王についてはご存じだとは思いますが」
「ああええと」
「猊下横から失礼しますが、スニルバルドはその、幼いころに両親を亡くしており、そういった教育を受けてはいないのです。ですからたとえ存じていたとしても最近知ったものと」
伯母さんがかなり言いづらそうにまた同時に悔しそうにそう言った。
「えっ! そ、そうでしたか申し訳ありません」
親を亡くしているということを聞いて申し訳なさそうに頭を下げる枢機卿。
「いえ、それで魔王になった経緯ですけど……」
それから俺は枢機卿に魔王になった経緯を話すことになった。それは奴隷狩りに始まるちょっと長い話となってしまったが……
「まさか、そのような魔法があるなんて」
「信じられませんね」
説明を聞いても2人はそう簡単には信じないようだ。
「だったら、試してみればいいと思う」
伯母さんに向けてそう言ってみた。
「そ、そうですね。確かにそれが一番いいかもしれませんね」
「はい、ではわたくしが試してみましょう、スニル君お願いできる」
「わかっ……」
「お待ちください」
伯母さんが受けるというので了承しようとしたところで、枢機卿の背後でずっと立っていた修道士が
待ったをかけた。
「どうしました?」
「お話し中に割り込み申し訳ありません。ですがそちらの子、方が使うという魔法がどうのようなものかわかりません。また、他人に言語を習得させるなど何か副作用が生じる恐れがあります」
修道士が言うことは尤もで、俺みたいな子供が使う魔法は信用できないのだろう。
「なるほど、スニルバルドさん。その魔法を使った場合の副作用はありますか?」
修道士の言葉を聞いた枢機卿が俺に向き直って聞いてきたので、特に隠すことでもないので正直に答える。
「1言語といってもその情報量は膨大です、それを一気に脳内に流し込むのでひどい頭痛を引き起こします」
「ず、頭痛、ですか?」
「はい」
「スニル君、それはどのくらいの頭痛なの?」
伯母さんも心配になったのか聞いてきた。
「すぐ収まるけどかなりみたい。シュンナとダンクスでも悲鳴を上げるから」
この魔法は国を移るたび2人にかけていたんだけど、そのたびに襲われる頭痛にさすがの2人も受けるときにかなり嫌がっていた。
「フェリシアその方々は?」
おっと、そういえば伯母さんは2人のことを知っているが枢機卿は知らないんだった。
「シュンナさんはかわいらしい女性ですが、ダンクスさんはとても大きな屈強な男性です。また、お2人ともとてもお強いそうですよ」
「そのような方々でも悲鳴、ですか。そうなるとそれはよほどということですね」
「は、はい」
伯母さんと枢機卿はさすがにビビっている。それはそうだろう誰だって頭痛は感じたくない。
「何も、伯母さんや猊下が受ける必要はないんじゃ?」
「そうです。他のものが受ければよろしいかと」
修道士も俺に言葉に同意した。
「しかし、神の御言葉となるとこの目で読み解きたいというのがありますし」
「ええ、そうですね。このような機会があるというのにほかの方にというわけにはいきません」
伯母さんと枢機卿の信仰心が天元突破しているようで、頭痛を受けてでもハッシュテル語を習得したいという。
「し、しかし」
修道士としてはさすがにこれは看過できず反論しようとしている。
「そ、そうです。その魔法を受けたとして、それが正しいとは限りません」
修道士は尤もなことを言ったが、残念ながら俺が習得する言語は”メティスル”の権能の言語理解によるものだから、間違いはない。というかハッシュテル語に関しては神様から直接教わったものみたいあものだからまず間違いない。
「なるほど、確かにそれは言えてますが」
「猊下それは……」
伯母さんも擁護しようとしているが、それができずにいるようだ。
「それなら、別の言語例えば聖教国の言葉とかはどう?」
「聖教国、聖句のことですね」
「聖句?」
「聖教国の言葉のことを聖句というのよ」
ああ、そういうことか、まぁとにかくそれなら正しいか判断できると思う。とはいえ確認は必要だな。
「ええと、伯母さんと猊下は?」
「聖句ですか、もちろん習得しております」
「ええ、私も司教になる前に聖教国へ修行に行ったからそこで学んだわ」
やはり枢機卿や司教となるとしっかり習得しているようだ。だったら、
「なら猊下、この教会にその聖句? を習得していない人は?」
「ええ、それは多くいます。そちらのブロウスも習得はまだでしたね」
「は、はい」
「つまり、その習得していない人にスニル君が魔法を使って聖句を習得させるというわけね」
「うん、それで2人が確認すれば」
「なるほど、確かにそれなら正しいかどうかの判別はできます」
「そういうことならその方法で行きましょう。ではブロウス」
「かしこまりました」
そう言ってブロウスは部屋を飛び出していった。って、ブロウスが受けるんじゃないんかい!
「あらあら、別にブロウスが受けてもよかったのに」
そう言ってコロコロ笑う枢機卿であった。
それから少し待っているとブロウスが部屋に戻ってきた。
「失礼いたします。お呼びと聞き参上いたしました」
そう言ってブロウスの後に続いてやってきたのは1人の騎士、いや女性騎士であった。ていうか女性騎士っているんだな。コルマベイントでいくらか騎士は見たが女性は見たことがないので、この国でも女性は岸に慣れないものと思っていた。あっ、でも教会の騎士だからコルマベイントの騎士ではなく教会の聖騎士ということになるのか。
なんてことを考えている間に伯母さんと枢機卿が女性騎士にこれからのことを説明していったようだ。
そして、その説明を受けた女性騎士は願ってもないと快く俺の魔法を受けることを了承した。
「ひ、ひどい頭痛?」
伯母さんや枢機卿とは違い、なんというか凛とした雰囲気が話しかけずらく人見知りが激しく発動してしまった。
「問題ありません」
特に問題ないらしいので、女性騎士に向かい魔法を使うことにした。
「え、えっと、それじゃ、そこに、楽に」
「はい」
女性騎士には俺が伯母さんの甥であることは話してあるために、そこら辺の一般時よりは丁寧に扱ってくれたから俺もまた丁寧に魔法をかけることにした。
というわけで女性騎士に向かい手をかざして魔法を発動。
「”ランゲージ”」
これが言語習得の魔法、”洗脳”を参考に作ったもので、言語情報を脳に流し込むというある意味乱暴な魔法だ。それは仕方ないなにせこの魔法はシュンナとダンクスに言語を習得させるために思い付きで作ったものだからな。
さてそれはさておき、魔法を受けた女性騎士はというと……うん、思った通り頭を抱えながら悲鳴を上げているようだ。
しかしそれも数秒、すぐに収まったようで、息を荒げながらではあるが落ち着きを取り戻し始めている。
「だ、大丈夫ですか? マリー」
「は、はい問題ありません」
枢機卿から水の入ったコップを恐る恐る受け取りながらすっと姿勢を正す女性騎士。
「それでマリーさん、効果はいかがですか?」
ここで伯母さんが女性騎士マリーに魔法の効果をウキウキしながら尋ねている。
「はい、まだよくはわかりませんが」
これはシュンナやダンクスも言っていたが、魔法を受けただけでは習得できたという実感がわかない、しかし実際にその言葉を聞くことで習得したということを理解するらしい。
「伯母さん、話してみて」
「え、ええ、わかったわ。それじゃ、マリーさん聖句で話してみますね」
「は、はい、お願いします」
それから伯母さんと枢機卿を交えてマリーに様々なことを話している。もちろん使っている言語は聖教国の言葉聖句というものだ。
「……まさか、私がここまで聖句を話せるようになるとは……」
ある程度話し終わったところでマリーが体を震わせながら感動している。その姿をほほえましく見ている伯母さんと枢機卿であった。
「素晴らしいです。マリーの聖句は全く間違いなどはありませんでした。あの一瞬で習得してしまうとは」
「あの苦労が何だったのかと思ってしまいます」
「え、ええ」
あまりにもすぐにマリーが習得したために、苦労して聖教国の言葉を習得したという伯母さんと枢機卿はなんとも言えない状況となっている。
「ですが、これでスニルバルドさんの魔法が問題ないことが分かりました。ブロウスよろしいですね」
「わ、わかりました」
その後伯母さん、枢機卿と続いて”ランゲージ”を放って行ったわけだが、案の定2人が悲鳴を上げた。しかし事前にそうなることを扉の外にいる者たちに周知させていたこともあり何とか事なきを得て、2人は無事にハッシュテル語を取得したのだった。
そうして、さっそくといわんばかりに先ほどの日記を手に取り読みふけっている。
それからしばし、日記を読みふけっていた2人はふと顔を上げて俺が待っていることに気が付いた。
「あら、これは失礼しました」
「ごめんね。スニル君」
「いや、それよりどう」
「ええ、本当にすごいわ。まさか神の御言葉を読み解く日が来るなんて、しかもこれはスニル君が言った通り間違いなくキリエルタ様の日記よ。このような貴重なものが読めたことは一生涯忘れないわ」
「ええ、そうですね。本当に感謝いたします」
そう言って頭を下げる枢機卿であった。
さて、そろそろ本題に入りたいと思う。
「猊下先ほどの日記にあった記述ですが」
「はい、確認しております。あなた方がおっしゃる通りの記述がありました」
2人が言うにはどうやら日記の中に石碑と同じく他種族に関した記述があったようだ。それなら話が早いな。
「その事実を教会のもっと上に伝えて、教義を本来のものへとしてもらいたいんです」
「なるほど、確かにこの事実から考えるに我々が大いなる罪を負っていたということになります。わかりました即刻教皇へ書簡を送りましょう」
こうして無事何とか俺の願いを通すことができた。といっても実は俺としてはこれで無事教義が変更されるとは思ってはいない。ただ枢機卿がこの事実を知ったことが重要なんだ。
「ところでスニルバルドさん、1つ聞いてもよろしいでしょうか?」
話がまとまったところで枢機卿が何やら聞いてきた。
「?」
なんだろうかと頭をかしげてみたら、この短時間で俺があまりしゃべらないということが分かったようで、そのまま話し始めた。
「なぜスニルバルドさんはそこまで亜人、いえ他種族の方々のことを考えておられるのですか」
枢機卿の疑問はある意味で当然で予想はしていたものだ。いくらなんでも他種族のためにこうして伯母さんを通して枢機卿にあったりするのはおかしい。実際俺だって魔王じゃなかったらこんな面倒なことはしない。
「それは、俺の現在の立場が理由です」
これは事前に伯母さんとも話していて正直に話した方がいいだろうとなっている。
「立場、ですか」
「はい、先ほど俺の名を伯母が紹介した際、スニルバルド、としましたが、本来の俺の名はスニルバルド・ゾーリン・テレスフィリアといいます」
「……」
俺が改めて本名を名乗ると枢機卿の頭に疑問符が上がった。まぁ名前を聞いただけではわからないよな。
「スニルバルドはなでゾーリンは生まれた村の名です。そしてテレスフィリアは国名です」
「こ、国名、ですか。ですが、テレスフィリアという国は聞いた事がありません」
「それはそうです。この国は先ごろできたばかりですから、そして俺はそこテレスフィリア魔王国、魔王なんです」
「そうで!!!!!!」
俺の言葉に返事を仕掛けて、俺が魔王と名乗ったことで驚愕の表情で固まった。一方で女性騎士であるマリーはすぐに枢機卿の前に出ると腰の剣を抜き俺へと向けてきた。
「猊下、お下がりください」
魔王と聞いただけでこの反応はちょっと過剰な気がするが、それは俺が幼いころにおとぎ話として魔王の話を聞いた事がないからだろうか。シュンナやダンクスでさえ魔族を恐れていたし、俺が魔王になったときなんかかなり微妙な表情をしていた。なんというか怖いんだけど俺だから怖くないみたいなちょっとよくわからない感じだ。それは父さんと母さんも同様であった。
「フェ、フェリシア、あなたは知っていたのですか?」
ようやく起動した枢機卿はすかさず伯母さんへ鋭い視線を向けて尋ねた。
「はい、申し訳ありません猊下、ですがスニルバルドはかつてと違い邪悪な存在ではありません。それだけは間違いありません」
伯母さんは力強くそう言った。ていうか邪悪って、確かにかつて、というか先代魔王は邪悪としか言いようのないことをしたからな。
「……」
枢機卿は伯母さんの言葉を受けて俺を観察しながらじっくり考えている。その間もマリーは抜いた剣をどうするべきかと迷っている。いや、そのまま収めてくれると助かるんだけどなぁ。
「そ、そうですね。マリー剣を納めなさい」
「げ、猊下しかし」
枢機卿は考えた挙句マリーへ剣を納めるようにと指示を出した。
「さて、スニルバルドさん改めて聞きますが、あなたは我々に仇をな存在ではないのですね」
「それはありえません。というか俺は魔王ではあっても人族ですし、そもそもこの国の出身、そんなところに喧嘩を売るつもりはありません。尤もそちらが手を出した場合こちらも相応の対応をしなくてはなりませんが」
こればかりは譲れない。俺としても同族と争うつもりは毛頭ないが、攻撃をされてただ黙っているつもりはない。それはこれまでもそうだったようにたとえ魔王になってもそれは同じだ。
「そうですか、わかりました。しかし、なぜ魔王なのでしょうか? スニルバルドさんも魔王についてはご存じだとは思いますが」
「ああええと」
「猊下横から失礼しますが、スニルバルドはその、幼いころに両親を亡くしており、そういった教育を受けてはいないのです。ですからたとえ存じていたとしても最近知ったものと」
伯母さんがかなり言いづらそうにまた同時に悔しそうにそう言った。
「えっ! そ、そうでしたか申し訳ありません」
親を亡くしているということを聞いて申し訳なさそうに頭を下げる枢機卿。
「いえ、それで魔王になった経緯ですけど……」
それから俺は枢機卿に魔王になった経緯を話すことになった。それは奴隷狩りに始まるちょっと長い話となってしまったが……
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