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第09章 勇者召喚
01 王国訪問
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コルマベイントとの国交が成立してから2か月余りが経過した。
とはいえ、いまだ国交と呼べることは何もしていない。
それというのもやはり俺が魔王だからだろう。
テレスフィリア側としては俺の故国であり、俺が決めたことだからと俺に対する信用から交易がおこなわれた場合に備えてすでに話し合いが行われている。
しかし、コルマベイント側がかなりもめているらしい。まず相手が魔王を名乗る人物であり、それが魔族の王というのだからこれを問題視しない人族はいないだろう。人族にとって魔族というのはキリエルタ教以前から長らく悪魔的な存在であり、魔物の親戚、邪心が生み出したものというイメージが強くある。シュンナやダンクスですら最初はかなり怖がっていたことからもそれはよくわかるというものだ。ちなみに父さんと母さんも怖がっていたがやはり俺と同じで神様とあっていることと、俺から魔族の真実を聞いた事で比較的恐怖心は小さかったようだ。
それはともかく、そんな魔族と取引をするなどと、多くの貴族がコルマベイント王の正気を疑ったの言うまでもない。実際聞いた話だといくらかの貴族が結託し王を廃し、嫡男の王太子に新たな王となるように打診したという。尤も、その王太子も相手の魔王が俺、つまりスニルバルドの末裔であることや、伯母である枢機卿から俺に関すること魔王とは、魔族とは何ぞやということを聞いていたこともありその打診を一切効かなかったことでその帰属の計画はとん挫した。そこで終わればよかったんだが、ある貴族は何を思ったのか兵を挙げ打倒王家を掲げたというから驚いた。まぁ、それらはすぐに国軍により押さえつけられたみたいだけど……
というのがここ2か月のコルマベイントでの流れとなる。ほんと、これだけでも人族にとって魔族とはどうイメージしているのかがよくわかるというものだ。
そんな状態では国交どころではない。というかそれが決まらないと奴隷解放からの返還にたどり着けない。
そこで、コルマベイント王とのやり取りをしてあることを決めた。
ああ、コルマベイント王とのやり取り方法は、伯母さんに渡した転移門を使った転移装置、あれのちょっと小型版を作って渡してある。小型版にした理由は単純に手紙だけのやり取りができるようにだ。
閑話休題。
さて、決めたことだが、それは一度貴族たちに魔族とは何ぞやということを見せようというものだ。
そう、つまり今日、これから俺は魔族を数名引き連れてコルマベイント王の元へ向かおうというわけだ。
「ジマリート、準備はいいか?」
「は、はい問題ありません」
俺の問に若干緊張しているのは現議会議長のジマリートだ。ジマリートを選んだ理由は人族である俺を魔王にと推薦したことからわかるように、人族に対してあまり忌避感がないということと、何より議長という肩書が日本で言うところの総理大臣に位置しているからというのが大きい。
「お前たち、向こうについてもはしゃぐんじゃないぞ」
「はい」
「わかってます。お父様」
ジマリートの言葉に答えたのは緊張の面持ちを隠せていない魔族の若者。まっジマリートの子供たちなんだけどね。
「不安ねぇ」
「心配いらないわよ。何かあったらあたしたちが守るから。ねっダンクス」
「ああ、それは任せてくれ」
「お願いします」
不安そうにしているのはいジマリートの奥さん、それに対して大丈夫というシュンナとダンクスである。
このメンバーで訪問となる。
どうしてこのメンバーなのか、ジマリートはわかるものの子供たちや奥さんまでいるのかとなるわけだが、これにもちゃんと理由がある。
ジマリートだけを連れて行ったところで、魔族のおっさんの例を出すだけ。おっさんじゃそこまで安全性とかそういったことを示すにはちょっと弱い。そこで魔族もちゃんと家族がいて普通に過ごしているということを示すことで、『ああ、魔族も同じなんだな』と思わせることができるかもしれないという打算だ。また、訪問先には王太子や王女という王族の若者もいる。ジマリートの子供たちはちょうど同じ世代、次世代同士でもあるから仲良くなってくれたらという思いもある。まぁ、若者といったら俺やシュンナ、ダンクスもそうなんだけど、シュンナとダンクスは護衛だし、俺は相手のおっさんたちの相手をしなくちゃいけないからな。うわっ、そう考えると途端に行きたくなくなってきたな。
「いかがいたしました。陛下」
「あっ、いや何でもない。それじゃ、そろそろ行くぞ」
「はい」
というわけでコルマベイント王国、王都王城に”転移”したのだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「ようこそ、お待ちしておりました」
転移先につくといきなりそんな声をかけられた。驚いたがこのじかんにこの場所に転移することは伝えていたので、考えてみると全くおかしくない。
ところで、本来こうして王城に直接”転移”することは許されることではない。また、正式に国としてコルマベイント王から認められた国の王である俺が訪れる際はもっと派手に配下などを引き連れてパレードでやりながらやってくるのが普通だ。俺としてはやりたくないが様式美というものがあるから仕方ない。ではなぜそれをせずにこうしてこそこそとやってきたのかというと、その理由こそジマリート一家を連れてきたことにある。魔族である彼らを堂々と民衆にさらすわけにはいかない。そんなことをすれば確実にパニックになる。それは俺もコルマベイント王も本意ではない。何より今回の目的は貴族たちに、魔族とは何かということを示すためだということがある。だからこそこうして”転移”で王城内へとやってきたというわけだ。
「ああ、ええと待たせたか?」
「いえ、時間通りでございます」
俺を迎えたのは執事、しかしさっきからこの執事俺しか見ておらず、ちっともジマリートたちを見ようともしない。あっ、今ちらっと見たみたいだ。びくっとしたぞ。
「それではご案内します」
「ああ、頼む」
執事の態度は普通であれば許されることではないし、王城に勤めている執事にとってはあるまじきものだろう、何せやってきた客、それも他国の重鎮であるジマリートに全く挨拶どころか目すら合わせないんだからな。しかし、この態度の理由を俺たちはよくわかっているために特に気にせず後をついていく。
そうして連れてこられたのは何やら豪華な部屋だ。
「こちらにてお待ちください。では、失礼いたします」
「ああ」
執事が部屋を去ったのを見たシュンナが言った。
「あの人すごいね」
「さすが王城に勤めるだけあるな」
「確かにな。でも、俺しか見てなかったけどな」
「ああ、それはあるね。でも、それは仕方ないよ」
「違いない」
シュンナたちは執事を称賛している。
「改めて人族が我々にどういった思いを持っているのかが分かりました」
「はい、かつての魔王様の行いがここまで恐れられているとは思いませんでした」
「お、俺もそう思います」
続いて人族の魔族に対するイメージというのもを痛感しているジマリート一家だった。
「この訪問で多少なりともわかってもらえたらいいけどな」
「そうね」
「はい、そう願いたいものです」
魔族は安全であり同じ人間であるという真実を多少でもわかってもらえたら、国交もうまくいくようになるだろうし何より攫われている国民を救出することも容易になる。尤もほんとに長い間に染み付いたイメージをかあ依然させるというのはかなり大変だと思う。
さて、どうなろものやら、そんな思いを持ったまま呼びがかかるのを待った。
それから少しして先ほどの執事がやってきたので、そのあとについてぞろぞろと王城内を歩いていく。
そうして、たどり着いたのはなんとも巨大な扉前、こういうのは魔王城にもありその先にあるのは謁見の間。そう、これから俺たちはっコルマベイント王と謁見することになっている。
「テレスフィリア魔王陛下のおなりである」
そんな宣言とともに扉が開けられていく。
謁見の間に足を踏み入れると、周囲には大量のおっさん、彼らは貴族だろう。俺を見て嘲るような表情をしている。しかし、その後ろからやってきたジマリート一家を見て顔を引きつらせている。
そして、正面を見るとそこには一段高いところに玉座が鎮座し、そこにコルマベイント王が威厳たっぷりに座っている。こういうのを見ると俺もこんな風に玉座に座らないといけないんだなぁ思ってしまうな。
さて、そんなあちこち見ている場合ではない。しっかりと正面を見据えて堂々と歩く。そうしないとまるで俺がコルマベイント王の下にいるように思わせてしまうからだ。
所定の位置についたところでジマリートたちとシュンナ、ダンクスはその場で跪くが俺はそのまま立っている。これもまた俺が王だからだ。
「よくぞ来てくれた。テレスフィリア王」
「お招き、ありがとうございます。コルマベイント王」
ここで1つ、コルマベイント王は俺に対しても尊大な言葉遣いをしており、俺は敬語を使っている。これは別に俺がコルマベイント王の下という意味ではなく、単純に俺が年下だからだ。
「さて、まずは紹介してもらえるかな」
「はいもちろんです。ジマリート」
「はっ」
「このものはジマリート、我が国において議会議長の任に就いております」
「うむ、ジマリート殿表を上げよ」
コルマベイント王に言われてジマリートが顔を上げる。すると王は何とかこらえたが王の隣にいた王妃やそのお子供たちが少し引いた。
「なるほど、確かに物語で語られている通りの姿、まさしく魔族、か」
「はい、残念ながら私はその物語を知ることはできませんでしたが、知る仲間たちからもそのように聞いております。しかし、物語で語られているように凶悪で残忍な存在ではなく、我々と同じく善良な心の持ち主たちです」
これは重要なことなのではっきりという必要がある。
「善良とな」
コルマベイント王は俺の言葉を聞いてジマリートをじっと見たが、周囲にいた貴族たちからはそんな馬鹿なとか嘘に決まっているなどいろいろと言葉が出てきた。
「鎮まるがよい」
コルマベイント王が厳かな声でそういうと一気に静まり返った。こういうところも見習わないといけないんだけど、残念ながら俺にはこういう雰囲気は無理だな。
「さて、テレスフィリア王よ。1つ尋ねたい。これはここにいる者たちが聞きたいことであろう」
「どうぞ」
「ふむ、貴殿は魔王として、われら人類の敵となる存在であるか」
魔王というのは人類の敵、これが人族全部が考える共通認識だ。
「いいえ、そのような予定は一切ありません。魔族たちは先代の暴挙より約1万年に及び、長らく森の奥に街を形成し隠れ住んでおりました。その名もアベイル、古い魔族の言葉で隠れ里という意味ですが、そこからわかる通り彼らには以前のような考えはありません。今はとにかく平和に過ごしたいと考えております。それにご覧の通り魔王たる私は人族であり、何よりここコルマベイントの出身。確かにこの国にいた際にあまりいい思い出はありませんが、それでも故国に弓を弾くつもりは毛頭ありません。また、最後に皆様方の誤解を1つ解きたく存じますがよろしいですか?」
「誤解とな」
「はい、皆さまの認識では魔族とは邪悪なる神が作った悪魔のような存在であり、魔物と同等の存在といわれているとのことですが」
「うむ、昔からそういわれておる。われも幼いころ乳母からそう教わっていた」
そうなんだよな。人族はそういって幼いころから魔族は恐ろしいものだと教育をしてきている。それも1万年も、それはとてつもなく長く俺が何を言ったところで無駄に思える長さだ。でも、だからといって告げないわけにもいかない。
「私は先ほども言ったようにそれを教わる機会がありませんでしたが、その状態で彼らと出会いふれあい、語り合いました。そして彼らは決して悪魔のような存在ではなく我々と同様人間であると確信しております。おそらくですが、かつて魔族の行いがあまりにも非道だったこと、またはその力が圧倒的に凌駕していたことに恐怖した人々がそのようなことを言ったものと考察しております」
俺の言葉を聞いたその場の人々が大いに騒ぎ出した。それはそうだろう俺の言葉はまさに常識を覆しそうなものだからだ。尤もそれを信じるかどうかは別問題だけどな。実際、俺の話を聞いても信じられるかといっている人も多い。
「なるほど、確かにそれも一理ある。しかし、われらは長らくそう教わってきた。此度の邂逅によりそれを確かめることとしよう」
「お願いいたします」
それからいくらかの言葉を交わしたのちやっとこさ謁見は終わったのだった。人と話すのが苦手な俺としてはかなりきつかったが、これも魔王としての仕事、仕方ないと踏ん張ろうと思う。とはいえ次はさらに厄介な仕事が待っているから、気合入れていかないとな。
とはいえ、いまだ国交と呼べることは何もしていない。
それというのもやはり俺が魔王だからだろう。
テレスフィリア側としては俺の故国であり、俺が決めたことだからと俺に対する信用から交易がおこなわれた場合に備えてすでに話し合いが行われている。
しかし、コルマベイント側がかなりもめているらしい。まず相手が魔王を名乗る人物であり、それが魔族の王というのだからこれを問題視しない人族はいないだろう。人族にとって魔族というのはキリエルタ教以前から長らく悪魔的な存在であり、魔物の親戚、邪心が生み出したものというイメージが強くある。シュンナやダンクスですら最初はかなり怖がっていたことからもそれはよくわかるというものだ。ちなみに父さんと母さんも怖がっていたがやはり俺と同じで神様とあっていることと、俺から魔族の真実を聞いた事で比較的恐怖心は小さかったようだ。
それはともかく、そんな魔族と取引をするなどと、多くの貴族がコルマベイント王の正気を疑ったの言うまでもない。実際聞いた話だといくらかの貴族が結託し王を廃し、嫡男の王太子に新たな王となるように打診したという。尤も、その王太子も相手の魔王が俺、つまりスニルバルドの末裔であることや、伯母である枢機卿から俺に関すること魔王とは、魔族とは何ぞやということを聞いていたこともありその打診を一切効かなかったことでその帰属の計画はとん挫した。そこで終わればよかったんだが、ある貴族は何を思ったのか兵を挙げ打倒王家を掲げたというから驚いた。まぁ、それらはすぐに国軍により押さえつけられたみたいだけど……
というのがここ2か月のコルマベイントでの流れとなる。ほんと、これだけでも人族にとって魔族とはどうイメージしているのかがよくわかるというものだ。
そんな状態では国交どころではない。というかそれが決まらないと奴隷解放からの返還にたどり着けない。
そこで、コルマベイント王とのやり取りをしてあることを決めた。
ああ、コルマベイント王とのやり取り方法は、伯母さんに渡した転移門を使った転移装置、あれのちょっと小型版を作って渡してある。小型版にした理由は単純に手紙だけのやり取りができるようにだ。
閑話休題。
さて、決めたことだが、それは一度貴族たちに魔族とは何ぞやということを見せようというものだ。
そう、つまり今日、これから俺は魔族を数名引き連れてコルマベイント王の元へ向かおうというわけだ。
「ジマリート、準備はいいか?」
「は、はい問題ありません」
俺の問に若干緊張しているのは現議会議長のジマリートだ。ジマリートを選んだ理由は人族である俺を魔王にと推薦したことからわかるように、人族に対してあまり忌避感がないということと、何より議長という肩書が日本で言うところの総理大臣に位置しているからというのが大きい。
「お前たち、向こうについてもはしゃぐんじゃないぞ」
「はい」
「わかってます。お父様」
ジマリートの言葉に答えたのは緊張の面持ちを隠せていない魔族の若者。まっジマリートの子供たちなんだけどね。
「不安ねぇ」
「心配いらないわよ。何かあったらあたしたちが守るから。ねっダンクス」
「ああ、それは任せてくれ」
「お願いします」
不安そうにしているのはいジマリートの奥さん、それに対して大丈夫というシュンナとダンクスである。
このメンバーで訪問となる。
どうしてこのメンバーなのか、ジマリートはわかるものの子供たちや奥さんまでいるのかとなるわけだが、これにもちゃんと理由がある。
ジマリートだけを連れて行ったところで、魔族のおっさんの例を出すだけ。おっさんじゃそこまで安全性とかそういったことを示すにはちょっと弱い。そこで魔族もちゃんと家族がいて普通に過ごしているということを示すことで、『ああ、魔族も同じなんだな』と思わせることができるかもしれないという打算だ。また、訪問先には王太子や王女という王族の若者もいる。ジマリートの子供たちはちょうど同じ世代、次世代同士でもあるから仲良くなってくれたらという思いもある。まぁ、若者といったら俺やシュンナ、ダンクスもそうなんだけど、シュンナとダンクスは護衛だし、俺は相手のおっさんたちの相手をしなくちゃいけないからな。うわっ、そう考えると途端に行きたくなくなってきたな。
「いかがいたしました。陛下」
「あっ、いや何でもない。それじゃ、そろそろ行くぞ」
「はい」
というわけでコルマベイント王国、王都王城に”転移”したのだった。
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転移先につくといきなりそんな声をかけられた。驚いたがこのじかんにこの場所に転移することは伝えていたので、考えてみると全くおかしくない。
ところで、本来こうして王城に直接”転移”することは許されることではない。また、正式に国としてコルマベイント王から認められた国の王である俺が訪れる際はもっと派手に配下などを引き連れてパレードでやりながらやってくるのが普通だ。俺としてはやりたくないが様式美というものがあるから仕方ない。ではなぜそれをせずにこうしてこそこそとやってきたのかというと、その理由こそジマリート一家を連れてきたことにある。魔族である彼らを堂々と民衆にさらすわけにはいかない。そんなことをすれば確実にパニックになる。それは俺もコルマベイント王も本意ではない。何より今回の目的は貴族たちに、魔族とは何かということを示すためだということがある。だからこそこうして”転移”で王城内へとやってきたというわけだ。
「ああ、ええと待たせたか?」
「いえ、時間通りでございます」
俺を迎えたのは執事、しかしさっきからこの執事俺しか見ておらず、ちっともジマリートたちを見ようともしない。あっ、今ちらっと見たみたいだ。びくっとしたぞ。
「それではご案内します」
「ああ、頼む」
執事の態度は普通であれば許されることではないし、王城に勤めている執事にとってはあるまじきものだろう、何せやってきた客、それも他国の重鎮であるジマリートに全く挨拶どころか目すら合わせないんだからな。しかし、この態度の理由を俺たちはよくわかっているために特に気にせず後をついていく。
そうして連れてこられたのは何やら豪華な部屋だ。
「こちらにてお待ちください。では、失礼いたします」
「ああ」
執事が部屋を去ったのを見たシュンナが言った。
「あの人すごいね」
「さすが王城に勤めるだけあるな」
「確かにな。でも、俺しか見てなかったけどな」
「ああ、それはあるね。でも、それは仕方ないよ」
「違いない」
シュンナたちは執事を称賛している。
「改めて人族が我々にどういった思いを持っているのかが分かりました」
「はい、かつての魔王様の行いがここまで恐れられているとは思いませんでした」
「お、俺もそう思います」
続いて人族の魔族に対するイメージというのもを痛感しているジマリート一家だった。
「この訪問で多少なりともわかってもらえたらいいけどな」
「そうね」
「はい、そう願いたいものです」
魔族は安全であり同じ人間であるという真実を多少でもわかってもらえたら、国交もうまくいくようになるだろうし何より攫われている国民を救出することも容易になる。尤もほんとに長い間に染み付いたイメージをかあ依然させるというのはかなり大変だと思う。
さて、どうなろものやら、そんな思いを持ったまま呼びがかかるのを待った。
それから少しして先ほどの執事がやってきたので、そのあとについてぞろぞろと王城内を歩いていく。
そうして、たどり着いたのはなんとも巨大な扉前、こういうのは魔王城にもありその先にあるのは謁見の間。そう、これから俺たちはっコルマベイント王と謁見することになっている。
「テレスフィリア魔王陛下のおなりである」
そんな宣言とともに扉が開けられていく。
謁見の間に足を踏み入れると、周囲には大量のおっさん、彼らは貴族だろう。俺を見て嘲るような表情をしている。しかし、その後ろからやってきたジマリート一家を見て顔を引きつらせている。
そして、正面を見るとそこには一段高いところに玉座が鎮座し、そこにコルマベイント王が威厳たっぷりに座っている。こういうのを見ると俺もこんな風に玉座に座らないといけないんだなぁ思ってしまうな。
さて、そんなあちこち見ている場合ではない。しっかりと正面を見据えて堂々と歩く。そうしないとまるで俺がコルマベイント王の下にいるように思わせてしまうからだ。
所定の位置についたところでジマリートたちとシュンナ、ダンクスはその場で跪くが俺はそのまま立っている。これもまた俺が王だからだ。
「よくぞ来てくれた。テレスフィリア王」
「お招き、ありがとうございます。コルマベイント王」
ここで1つ、コルマベイント王は俺に対しても尊大な言葉遣いをしており、俺は敬語を使っている。これは別に俺がコルマベイント王の下という意味ではなく、単純に俺が年下だからだ。
「さて、まずは紹介してもらえるかな」
「はいもちろんです。ジマリート」
「はっ」
「このものはジマリート、我が国において議会議長の任に就いております」
「うむ、ジマリート殿表を上げよ」
コルマベイント王に言われてジマリートが顔を上げる。すると王は何とかこらえたが王の隣にいた王妃やそのお子供たちが少し引いた。
「なるほど、確かに物語で語られている通りの姿、まさしく魔族、か」
「はい、残念ながら私はその物語を知ることはできませんでしたが、知る仲間たちからもそのように聞いております。しかし、物語で語られているように凶悪で残忍な存在ではなく、我々と同じく善良な心の持ち主たちです」
これは重要なことなのではっきりという必要がある。
「善良とな」
コルマベイント王は俺の言葉を聞いてジマリートをじっと見たが、周囲にいた貴族たちからはそんな馬鹿なとか嘘に決まっているなどいろいろと言葉が出てきた。
「鎮まるがよい」
コルマベイント王が厳かな声でそういうと一気に静まり返った。こういうところも見習わないといけないんだけど、残念ながら俺にはこういう雰囲気は無理だな。
「さて、テレスフィリア王よ。1つ尋ねたい。これはここにいる者たちが聞きたいことであろう」
「どうぞ」
「ふむ、貴殿は魔王として、われら人類の敵となる存在であるか」
魔王というのは人類の敵、これが人族全部が考える共通認識だ。
「いいえ、そのような予定は一切ありません。魔族たちは先代の暴挙より約1万年に及び、長らく森の奥に街を形成し隠れ住んでおりました。その名もアベイル、古い魔族の言葉で隠れ里という意味ですが、そこからわかる通り彼らには以前のような考えはありません。今はとにかく平和に過ごしたいと考えております。それにご覧の通り魔王たる私は人族であり、何よりここコルマベイントの出身。確かにこの国にいた際にあまりいい思い出はありませんが、それでも故国に弓を弾くつもりは毛頭ありません。また、最後に皆様方の誤解を1つ解きたく存じますがよろしいですか?」
「誤解とな」
「はい、皆さまの認識では魔族とは邪悪なる神が作った悪魔のような存在であり、魔物と同等の存在といわれているとのことですが」
「うむ、昔からそういわれておる。われも幼いころ乳母からそう教わっていた」
そうなんだよな。人族はそういって幼いころから魔族は恐ろしいものだと教育をしてきている。それも1万年も、それはとてつもなく長く俺が何を言ったところで無駄に思える長さだ。でも、だからといって告げないわけにもいかない。
「私は先ほども言ったようにそれを教わる機会がありませんでしたが、その状態で彼らと出会いふれあい、語り合いました。そして彼らは決して悪魔のような存在ではなく我々と同様人間であると確信しております。おそらくですが、かつて魔族の行いがあまりにも非道だったこと、またはその力が圧倒的に凌駕していたことに恐怖した人々がそのようなことを言ったものと考察しております」
俺の言葉を聞いたその場の人々が大いに騒ぎ出した。それはそうだろう俺の言葉はまさに常識を覆しそうなものだからだ。尤もそれを信じるかどうかは別問題だけどな。実際、俺の話を聞いても信じられるかといっている人も多い。
「なるほど、確かにそれも一理ある。しかし、われらは長らくそう教わってきた。此度の邂逅によりそれを確かめることとしよう」
「お願いいたします」
それからいくらかの言葉を交わしたのちやっとこさ謁見は終わったのだった。人と話すのが苦手な俺としてはかなりきつかったが、これも魔王としての仕事、仕方ないと踏ん張ろうと思う。とはいえ次はさらに厄介な仕事が待っているから、気合入れていかないとな。
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