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第09章 勇者召喚

02 パーティーとあいさつ

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 コルマベイント王との謁見が終わり、控室に戻ってきた。

「はぁ、無駄に疲れたぁ」

 控室にあったソファに倒れこむ俺。

「はははっ、お疲れ」
「スニルにはかなりきつかったんじゃないか」
「まったくだ。ほんとなんで俺がしゃべんないといけねぇのかってことだよなぁ」

 思わず愚痴りたくもなる。以前にもいったかもしれないが、俺は別に人前で話すこと自体には慣れている。しかし、それが人と話すということになると別だ。しかしあの場で王と話ができるのが俺しかいなかった。というのも謁見の間で言葉を発することができる存在というのが王侯貴族のみ、それは当然他国の人間でも当てはまるらしい。そんで、俺たちの中でその王侯貴族となると、俺しかいない。いやま、一応シュンナとダンクスは俺の身内ということで公爵を与える予定なんだが、まだいろいろあって2人には授爵していない。またジマリートをはじめとして議長経験者一族なども何か爵位を与えたいんだけど、それはどこまで与えていいのかがまだわからず話し合っている最中なんだよな。そんなわけで、俺たち側で王侯貴族確定しているのが魔王である俺だけとなってしまう。

「それは仕方ないでしょ。それよりジョアンナたちを呼んできてよ」
「ああ、そうだった」

 ジョアンナというのは魔王城に勤めるメイド長のことだが、なぜシュンナが呼んで来いといっているのかというと。答えは着替えるためだ。本来であれば最初から連れてきたいところなんだが、何分ここは人族の国、そんなことろに魔族とは言え非戦闘員を連れてきて、もし襲撃で設けた日には最悪。そういうわけでこれから俺が用があるときに迎えに行く必要があるというわけだ。

「陛下、申し訳ありません」

 ジマリートが申し訳なさそうに頭を下げてきた。

「いや、いいって事前に決めてたことだしな。さて、それじゃちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃいませ陛下」

 というわけでテレスフィリアに”転移”した。




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「陛下、お待ちしておりました」

 ”転移”するとそこにはすでにジョアンナが数名にメイドを引き連れた状態で立っていた。この時間この場所に”転移”してくるということは話していたための状況だ。

「ね、ねぇ、スニル、ほんとに私も行っても大丈夫なの?」

 ジョアンナの隣ですでにドレスに着飾ったポリーがかなり不安そうな表情でそう聞いてきた。

「言ったろ、パーティーに俺だけ相手がいないのはまずいって」

 今回行われるパーティーには当然ながらパートナー同伴となっている。ジマリートには当然奥さんがおり、その子供たちもちょうど男女のために兄妹となるが問題ない。シュンナとダンクスもセットになる。ここでシュンナが俺のパートナーでいいのではとなるが、ここでシュンナの持つたぐいまれなる美貌が面倒を呼び込む。俺のパートナーとすると有象無象がシュンナによって来ることになる。というのもシュンナは小柄といっても俺よりも身長があるしすでに子供の領域をわずかに出ている美女になりかかっている。それに比べて俺は明らかな子供、これでは組み合わせとしてどう見ても姉弟。それに対してダンクスは巨漢強面、シュンナのそばにおいておけば誰も怖くて近づけないからな。俺だってダンクスを知らなかったら近づかない。
 そんなわけで俺が余ってしまう、だからこそ両親から嫁扱いされ、使用人たちからも王妃扱いをされ、それを徐々に受け入れているポリーにお鉢が回ったというわけだ。

「そうだけど、私どう考えても場違いな気がするんだよね」
「それを言ったら、俺だって魔王だってことを除けば場違いだろ、それよりシュンナたちも待ってるからさっさと行くぞ」
「う、うん」
「そっちも準備はいいか」
「はい」
「おう、それじゃ”転移”っと」

 というわけでコルマベイント王城へとんぼ返りである。



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「あっ、おかえり」
「ただいま」

 シュンナに返事をしている間にジョアンナたちが部屋の中に入り、隅に置いてあった背の高い衝立を手に持つと素早く設置していく。

「皆様準備が整いましてございます」
「えっ、あっうん待って」

 あまりの素早さにシュンナですら驚いている。
 それからシュンナをはじめとしたジマリートの奥さんのリリス、娘のサリフィアがその奥へと消えていった。

「それじゃ、私も行ってくるね」
「おう」

 そのあとに続いてポリーもまた衝立の向こうへ入っていくわけだが、ポリーはすでに着替えているから行かなくともいいのではと思う。しかし、外側は俺たち男が着替えるわけで、そんなところに14歳の少女を置いておくわけにもいかない。

「陛下の衣装はこちらにございます」
「お、おう頼む」

 女性陣のドレスもそうだが俺たち男の衣装も1人で着替えられない代物のため俺たちもまたメイドの手伝いが入る。
 というか特に俺の衣装はごてごてとしていて訳が分からない。

 そんなわけでメイドのなすが儘に着替えさせられていく、まるで気世界人形にでもなった気分だ。

「なれないよなぁ」
「俺は初めてだからなぁ。落ち着かねぇよ」

 魔王になってからこっちこれまで、いくらかこうやって着せ替え人形をやってきたがいまだに慣れない。一方でダンクスは初めての経験だからか緊張で固まっているようだ。そういえば俺も初めてなったときに同じように固まっていたものだ。まぁ、今も支持されるまでじっとしているけどね。

「ジマリートは落ち着いているな」

 ジマリートを見ると落ち着いて着替えさせられている。

「わたくしもそれほど経験はないのですが、年ですからな」

 ジマリートが言うには年齢的に緊張するほどのことではないということらしい。まぁ、どちらかというと俺たちは話せるだけまだましなんだろう。ジマリートの息子ジニアスは俺たち以上に緊張しているようでがちがちの状態でなおかつさっきから一言も話せずにいる。ていうか顔が真っ赤だな。これが若さゆえの初心さというわけか。俺も実年齢は若いが、中身がおっさんだからな。

 そうこうしている間に俺たちはあっという間に着替え終わり、それぞれが脱力している。

「やっぱり向こうは時間がかかるな」
「まぁ、いろいろあるみたいだからな」

 女性陣は着替えだけでなくメイクも変えたり、装飾品も選んでいる。その分時間がかかるというわけだ。

「スニルー、そっち終わったー」

 衝立の向こう側からポリーの声が響いた。

「終わったぞ」
「ほんとだ。わぁ、スニルすごい格好だね」
「似合ってないだろ」
「ううん、かっこいいよ」
「そうか、結構動きにくいけどな。これ」
「それは、そういう服なんでしょ」
「ていうかポリー、それ変えたのか?」

 よく見るとポリーの装飾品が変わっていた。

「うん、シュンナさんとお揃いにしてみたんだ」
「なるほどねぇ。まぁ、いいんじゃないか」
「ほんと、やったね」

 ポリーはシュンナに対してあこがれており、また姉妹のように仲がいいしなついている。だから、よく2人はお揃いを身に着けることがある。今回もシュンナが選んだ装飾品をまねしたようだ。

「お待たせーって。あっ、ほんとだスニルにあってるね」

 衝立からシュンナが出てくるなりそういった。というかシュンナはさすがだ。俺でも思わず見とれてしまったよ。危ない危ない。

「……やりすぎじゃないか?」
「これでも抑えたのよ。というかダンクスは似合ってないよね」
「悪かったな」

 シュンナはまさに絶世の美貌を持つため、着飾るとある種の凶器になる。あまりやりすぎると会場中の視線を集めてしまう。そのためある程度抑えめの衣装とメイクを施しているらしい。ていうかそれでこれかよ。これじゃ間違いなく目立つな。とはいえシュンナによるとこれ以上は抑えられないということで仕方ないとしておこう。

「それじゃ、とりあえずジョアンナたちを戻してくるか」
「申し訳ありません陛下」

 謝罪するジョアンナたちに気にするなといいつつ再びテレスフィリアに”転移”したのだった。


 テレスフィリアから戻ってから少ししたところで、部屋の扉がノックされた。

「失礼いたします。そろそろお時間ですがよろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない」
「それでは、こちらへどうぞ」
「……」

 案内役は同じ執事、どうやら俺たちの担当ということらしい。

 それから執事の後について王城内を歩いていくと、これまた謁見の間とは違うが大きな扉前に連れてこられた。

「テレスフィリア魔王陛下のおなーりー」

 そんな声を張り上げて扉を開け放つ執事。扉の先を見て人知れず感嘆の声が上がった。謁見の間も豪華絢爛って感じだったが、ここはさらにってところだ。ていうかキラキラとまぶしいんだけど……

 周りを見るとみんながみんな若干固まっていたが、すぐに持ち直してしっかりと前を見つめる。ここでいつまでも固まっているとテレスフィリア魔王国のそこが知れてしまうから精いっぱい虚勢を張る必要がある。これは事前に何度もお互いに確認してきたことだ。

「コルマベイント王、本日はお招きありがとうございます」

 テレスフィリア代表として当然俺がコルマベイント王に挨拶をする。

「テレスフィリア王、今宵は楽しんでほしい、さぁ、皆も大いに飲み、食い、楽しむがよい」

 この言葉によりパーティーが始まったのだった。

 とまぁ、始まったのはいいんだが、俺としてはちっとも楽しめない。それというのもジマリートとその奥さんのリリスを引き連れてコルマベイント王をはじめとした貴族たちへ挨拶周りをしなければならない。しかも挨拶の度に2人を紹介し、相手の恐れを払しょくしていかなければならない。おかげでこの短時間で前世も含めたこれまでの人生分以上にしゃべっている気がする。

「お初にお目にかかります。魔王陛下、わたくしはレイボルト・ド・フラワント伯爵と申します以後お見知りおきください」
「スニルバルド・ゾーリン・テレスフィリアだ、よろしく頼む」

 相手が年上なので敬語を使いたくなるが、一応俺はコルマベイント王が友好を結んだ相手国の王、立場上は俺が上なので尊大に答えなければならない。

「時に陛下にお尋ねしたいことがございますが、よろしいですか?」
「もちろんだ。何なりと聞いてほしい」

 このやり取りもさんざんやってきた。聞かれる内容はもちろんジマリートたちのことばかりだ。

「はいでは、そちらの魔族、ジマリート殿でしたが、本当に危険はないと」

 これも一番多い質問となる。みんな魔族が怖いから不安なんだろう。

「それに関しては問題ない。確かにかつて魔族は脅威ではあったが、その者たちはすでに召喚された勇者によって先代魔王とともに倒されている。今現在生き残る魔族はその際にいた非戦闘民たちの末裔、彼らに戦う力はほとんどない」
「それはまことにございますか」
「ああ、実際俺が魔王となるまで約1万年、彼らに魔王はいなかった」
「それはなぜでしょう?」
「魔王になるためには最低条件の規約がある。彼らではそれを満たせなかったというわけだ」
「なるほど、では我々人類の脅威にはならないということですか?」
「そうだな。そもそも長らく隠れ住んでいた彼らに争う意思はすでにないからな」
「それを聞き安堵いたしました。では、失礼いたします」
「ああ」

 今の伯爵は比較的物分かりがいい方で、短く済んで良かった。

 それからもいくらかの貴族と会話をしていると不意に1人の女性がやってきた。

「魔王陛下、突然のお声がけ失礼いたしますわ」
「いや、かまわない。あなたは……」

 俺はこの女性を知っていた。といっても知ったのはつい最近なんだけどね。

「わたくしをご存じで、光栄にございます。わたくしレミフェリア・ド・ドロッパス辺境伯と申します。陛下のご出身であるゾーリン村を納めさせていただいておりますわ」

 そう実はこの女性はゾーリン村の領主だったりする。まさか女性が領主だとは思わなかった。というか俺がこの人物を知ったのはさっきも言った通りつい最近、このパーティーが行われると聞いて慌てて村長に聞いた。まさかここで領主を知らないというわけにもいかないからだ。
 余談ではあるが、ゾーリン村はカリブリンの領主が納めているのではないかと思っていたと思うが、実際は隣の領地でこのドロッパス辺境伯の領地となる。そもそも俺がカリブリンに言った理由は、母さんが冒険者になる際に出た街だったからだ。本来ゾーリン村から街に出ようと思うとテッカラとなのだが、母さんが出ようとしたときにたまたまカリブリンに行く商人の馬車に乗せてもらったからな。さて、それでその領主の評判だが、村長によるとかなり良いとのことだった。税金も高くないし貴族としての権力を振りかざすようなこともしていないという。

「テレスフィリア魔王国魔王、スニルバルド・ゾーリン・テレスフィリアです」

 相手が領主ということもあり思わず敬語を使ってしまったが、まぁ許してもらおう。

「以前お名前をうかがった際にも思いましたが、お名前に出身地をお入れになるですね」
「ええ、これが魔王国では一般的なものですから」
「なるほど、陛下のお名前に収めている村の名が刻まれていることは光栄にございますわ」

 そう言った辺境伯ではあるが、魔王が名乗っているのだから不本意のような気がするんだけど、まぁここは社交辞令という奴だろう。

「そういっていただけるとありがたい」
「ところで陛下」
「はいなんでしょう?」
「実は陛下のご出身の村、ゾーリン村についてお尋ねしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

 村について聞きたいって何だろうか。

「かまいませんが」
「ありがとうございます。では、ここ2年ばかりですが、村に向かったものから変わった建物があるという報告を受けておりまして、しかもそこでは冬だというのに夏の野菜を収穫することができるらしいとお聞きしましたが、どういうことなのでしょうか?」

 ああ、確かに普通に考えたら不思議だよな。特に隠すことでもないために正直に話すことにした。

「それは温室での栽培を行っているからですね」
「温室? ですか」
「ええ、透明なガラスに囲まれた建物で、日中は太陽の光で室内の空気を温めることで、冬でも夏同じような環境を作ることができるのですよ。私が考案し村に設置したものです」
「まぁ、陛下が! なるほど陛下は聡明なのですね。それにしてもその温室というものは素晴らしいですわ。ぜひ、ほかの村にも設置したいですわ」
「それでしたら、いくらか材料が余っているはずですので、ポリーあったよな」
「う、うん、3棟分はあると思う、おじいちゃんに聞いてみないといけないけれど」
「まぁ、そうだよな」
「えっと、陛下その方は?」
「あっはい、彼女は今回私のパートナーとして連れてきましたが、ゾーリン村村長の孫でもあるのですよ」
「あら、そうでしたか、お初にお目にかかりますわ」
「あっはい、そ、そ、その、初めまして、領主様、そ、そのポリーとも、もうしましゅ」

 ポリーは領主が相手ということか緊張しまくりで最後噛んでしまったが、辺境伯は気にせず少しほほ笑んでいる。

「ああ、それともう1つよろしいですか?」
「はい」
「実は、陛下のお話を聞いてわたくしも失礼があってはいけないとゾーリン村について調べたのですが、現在ゾーリン村の人員に陛下のお名前がなかったのですが、これは一体?」

 辺境伯は不思議そうな顔でそう聞いてきた。
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