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第11章 戦争
18 教会の改革
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1か月の月日が流れた。
あれから西側諸国は相も変わらずで、大賢者を中心に一生懸命にテレスフィリアの結界の破壊を試みている。いい加減無理だってあきらめてほしいところだ。
さて、一方でアリシエーラ枢機卿をはじめとした教会攻略組はというと、少し前に報告が上がってきている。
「教会は順調みたいだな」
「はい、すでに民衆はこちらに傾いてきているとのことです」
執事との会話をしつつ、報告書を読んでいく。
まず、枢機卿たちが行ったのは講演である。
「……この碑文にはこのように書いてあります。これらのことから、現在の教義にはいくらか伝聞による間違いが存在していると考えられます。わたくしはそれを正すべく、神より碑文を読み解くお力をいただきました」
枢機卿は碑文を読む力を神から与えられたと宣伝した。枢機卿がそういうわけだから、当然それを聞いていた民衆は半信半疑となったのだった。
とまぁ、そんな講演を碑文のある各地、および聖都でも何度か行ったようだ。そうなるともちろん教会も無視はできなくなり、飛んできた。
「このような戯言は聞いてはならない。アリシエーラ枢機卿は現在魔王により魅了され、乱心成されている。強化に名においてこのような事実などありません」
などどいって反論の講演を行っているという。しかし、そこで登場するのが麗香たち、いや、孝輔と那奈の勇者、聖女コンビである。
「この碑文は僕たちも読むことが出来ます。それによりアリシエーラ枢機卿の言葉が正しいことを証明します」
勇者と聖女はすでに聖都で披露が行われており、その場にいる民衆も2人のことを知っていた。その結果、勇者と聖女が保証するのならと再び信じ始める民衆。しかし、ここで教会側は2人もまた俺の信奉者であると断言した。また、2人は俺から”洗脳”を受けていると言い出した。
「それはありえません。私たちが持つ勇者と聖女には状態異常無効がありますから、たとえ魔王さんが”洗脳”を使ったとしても効くことはありません」
勇者と聖女は神聖魔法に強い適性を持つために、状態異常系魔法が一切効くことはないし、聖女であればすぐに解除も可能だ。つまり、教会側が言っている魔王に”洗脳”されているということは、ありえない事実である。
「で、ですが、勇者様と聖女様が魔王信奉者であることは事実、なればこそそのお言葉は信に値しないのです」
なおも食い下がる教会側、彼らも必死だ。ここでアリシエーラ枢機卿に民衆が付けば現教皇の立場が揺らぎかねない。そうなれば、こうして飛んできた奴も危うくなる。
「そもそも、その魔王さんはとてもいい人です。決してあなた方が思っているような存在ではありません」
あまりにも俺を悪くいうモノだからか、那奈がここで叫びながらそう言った。俺としては、なんとも無図が酸いところではあるが、この那奈の発言はちょっとした論争になる。そりゃぁ、魔王といえば絶対悪と思っている連中に、魔王はいい人といったわけだから。
「いいですか、聖女様、魔王を始め魔族は邪神が生み出し、その剣族です。そのようなものが善良であるはずがありません」
教会側の発言としてはこういったものだ。これは、この世界に広がる魔王と魔族に対する常識。でも、真実としては全く違い、まず邪神なんてものは存在しない。この世界の神は、俺をここに呼んだ神様以外は存在しないが、残念ながらこの世界の陣るはそれを知らないために、こうした想像してしまうというわけだ。
「何を言い出すかと思えば、現在の魔王陛下は我らと同じ人族です」
「そして、わたくしが弟として世話をしていた子の子供、つまりわたくしにとっては甥同然の存在です。もちろん弟も我々と同じ人であり、前教皇聖下によりますと、甥は聖人ダンクス様の末裔であるとのことが判明しております」
おばさんがこの事実を話すと教会側が焦った。前教皇が魔王を名乗る俺を、よりにもよって聖人ダンクスの末裔であると認めてしまったこと、そもそもこれが前教皇が排斥された理由となっているが、これは当然民衆には知らされていなかった。
「そ、それは、前教皇聖下の混乱による間違いです。そのようなことは決してありません。それよりもダンクス様の末裔が魔王などと、無礼にもほどがありますぞ」
そう言って怒り出す教会側、しかし、その態度こそが怪しいと感じて者たちは、これが真実であると理解することになる。
「甥は、幼いころに両親を亡くし、引き取った者たちによってひどい虐待を受けておりました。そのためキリエルタ教の教義も魔族についても教育を受けることが出来なかったのです」
それから、おばさんは俺の反省について語った。これにはさすがにここにいるものすべてが俺に対して同情の心を持った。まぁ、2歳の子供が虐待を受け続けて、最後に奴隷として売られたと聞いて同情しないような奴は相違ない。俺だって、同情はしなくともそれをやった奴らを許せないという感情ぐらいは出る。ちなみに、おばさんはこの話をするつもりは当初なかった。それというのも、身内である俺が虐待を受けていたにもかかわらず、伯母さんは何もしていなかった。それは己の恥じをさらすことになるからだ。それでも、俺という人間を話すにはこの話をすることは必須と考えたらしい。
「お聞きの通り、甥の幼少期はひどいものでした。それでも甥は人を憎まず、人を愛することを忘れてはいません。いえ、むしろ甥はこれまで多くの人々を助けてきました。まず、行ったことは、孤児院です」
「孤児院? それが一体なんだと」
「わたくしが現在務めさせていただいております街の孤児院は……」
おばさんはカリブリンの孤児院で俺がしたことを説明していった。
「……このように多くの子供たち、孤児院を出た子たちが救われております。そのような子が歴史に言われる魔王の所業を行うとお思いですか?」
伯母さんはそういって締めくくった。これには多くの民衆がなびいてきた。子供を救うということは、民衆の興味を引く一番の方法だろう。ほら、前世でもニュースで何らかの事件、災害でもわざわざ子供を含むなどといって興味を引いている。おばさんはそれを知らずにここで実践したということだろう。
「それだけではありません。魔王さんはあなたたち人族と争うつもりはないのです」
「今、魔王さんが王を務めているテレスフィリアは大陸西側諸国の連合軍と対峙しています。しかし、魔王さんは戦うことなく説得を試みています」
「ですが、西側諸国は全く聞く耳を持たないとのことです」
那奈と孝輔、麗香の3人がここで加わり、現在の俺の状況説明していく。
「ここにその証拠もあります」
そう言って、孝輔が最終兵器を投入した。
兵器といっても、何も殺傷力のあるものではなく、単なるスマホだ。それと、魔道具を1つ、これは3人に頼まれて俺が開発した魔法をドワーフが魔道具化したものだ。それは何か、なんてことない空中にプロジェクションするもの、そして、スマホから流れるのは、西側諸国と対峙する俺、という映像である。
空中にいきなり映像が流れるものだから、民衆も教会側も絶句、意味が分からないという表情をしている。それはそうだろう、この世界にはまず写真技術が存在しない。そんなところに空中に映像を出すという明らかなオーバーテクノロジーを理解しろちうのが無理だ。
「これは、俺たちが居た世界ではごく当たり前の技術で撮影したものです」
「映っているのは、西側諸国連合軍、そして、それに対峙するのが魔王さんです」
勇者と聖女が異世界から召喚されるというのは有名、というか召喚され紹介されたときにも聞いていたためにこの説明で納得しつつ、異世界の技術力に驚愕する民衆。そして、そのあとにやってくるのは映像に移っている光景、そこに映る100万以上の兵士と、対峙する子供にしか見えない存在とこの世の者とも思えないほどの美しさを持つ女性、その背後に控える数名の魔族。
「こ、子供じゃないか」
民衆が映る俺を指さしてそういった。
「この人が魔王さんです」
「子供の姿で姿を現すなど卑怯」
俺の姿を見た教会側がそう叫ぶ。
「いいえ、魔王陛下はこの姿こそ本来の姿。偽りではありません」
アリシエーラ枢機卿がすかさず反論。
「確かに一見子供ですが、魔王さん、スニルバルドさんは15歳でこの世界では成人しています」
「彼の姿が小さいのは、先ほどフェリシアさんがおっしゃったように幼いころの虐待が原因です。食事をほとんどもらえなかったそうです」
那奈が俺の年齢を伝え、麗香がその理由を説明していくがその表情は悲痛なものである。まぁ、俺のことを知っているとはいえ、知り合いが虐待を受けていたというのは普通そうなる。
「……」
麗香の説明に同じく表情を暗くする民衆と、俺が卑怯だと叫んだ教会側を非難する目が飛び交った。中には俺が受けたであろうことを想像し涙する人すらいた。
「ゴホンッ、ま、魔王の容姿に関してはいいでしょうですが、これがなんだというのです」
これ以上俺が幼いことであるということを追及することをやめた教会側であるが、麗香たちがこの映像を流した意図をつかめずにいた。というのも確かに何かが行われているのはわかるものの、残念ながら西側諸国の言語でやり取りしているために、この場にいるもの達ではそれを解することはできない。
「何か会話してるみたいだけどなに話してんだ。お前分かるか?」
「いや、まったく、どこの言葉だ」
民衆たちもまた言葉が分からず困惑している。
「そこのあなた。確か貴方は西側のご出身でしたね」
その時アリシエーラ枢機卿が今日側に立つ聖騎士の1人を指示して問うた。
「えっ、はっ、その通りでございます。覚えていてくださり光栄です」
その騎士は以前アリシエーラ枢機卿の傍で護衛をしていたことがあり、その騎士が西側諸国出身であると覚えていた。
「あなたには、これらの言葉をわたくしたちにも理解できる言葉に変換していただきたいのです。また、その際正確に変換することを神、キリエルタ様に誓っていただきます」
つまりは翻訳を依頼したというわけだ。そして、このキリエルタに誓うというのは、キリエルタ教の人間にとっては、破ることは神に反逆することになってしまい、普通はこれを破ることはありえない。
「タラエルーテク卿、よろしいでしょうか?」
タラエルーテクというのは教会側からやってきている枢機卿であり、その聖騎士の主でもある。
「わかりました。それで構いません」
こうして、聖騎士の1人が俺と西側食連合軍との会話を翻訳していくわけだが、それは間違いなく一言一句正しく略されていた。
「聞いてもらった通り、魔王さんは西側諸国と争う気なんてありません。最初からずっと説得をしてきました」
「ですが、相手の方々は一切効く耳を持たず、魔王さんを見るない攻撃をする。これを繰り返しています」
「どうでしょうか、これではまるで西側の方々の方が野蛮な人たちに見えませんか?」
区切りのいいところで、孝輔、那奈、麗香の順に言葉を並べる。一見子供にしか見えない俺や絶世の美女たるシュンナ、そして数名の魔族を相手に100万の兵が問答無用で攻撃を入れているのだから、民衆もぐうの音も出なくなってしまった。
このあたりまでくると、もはや民衆は俺たち側、つまりアリシエーラ枢機卿の側につき始め、教会側、つまり教皇の立場は危うくなってくる。
とまぁ、以上が俺が今受け取っている報告書の内容となる。
「あと少しってとこか、それにしてもやっぱりプロジェクターは使ったか」
「そのようでございます。陛下の正当性を訴えるにはうってつけの魔道具です」
執事の言う通り、俺が安全安心な魔王であるというのを証明するには、こうして実際の映像を見せるのが一番。
「百聞は一見に如かずか、んで、その後はどうなっている」
「はっ、現在は民衆のほとんどがアリシエーラ様になびいているようです。ですが」
ここで執事は言いよどむが、答えはわかっている。
「それでも、現教皇の支持者は多いってことだろ」
「はい、やはり魔王というものがネックとなっている模様です」
たとえ俺が安全安心であったとしても魔王を名乗っている時点で、人族にとっては本能的に拒絶反応が出る。それほど魂の奥底にまで、しっかりと教育されているということだろう。
「幼心ってやつは重要だな。サーナは気を付けておかないといけないな」
幼いころに受けた教育などは大人になっても忘れないもの、特に恐怖やトラウマといったものは生涯忘れないし、その後の人生に大きく影響が出るものだ。実際俺も前世で長にころに受けたトラウマによって、異性を好きになるという心を失っていた。また、それ以外にもいくつかのことから彼女もいない友達もいないというさんざんな目にあってきた。まぁ、今世でもかなりひどい目にあってはいるが、それは僕の方が受け持ったことで、現在はなりを潜めてくれている。そんな俺だからこそサーナにはそんなトラウマのようなことが起きないようしっかりと気を付けてやる必要があるだろう。
「はい、心してサーナ様をお育ていたします」
サーナの世話は主にメイドたちの仕事ではあるが、この執事はうちの使用人の統括もしているので、間接的にサーナを世話していることでの発言だ。
「頼むぞ。さて、それじゃ、今日もそろそろ顔出してくるか」
「行ってらっしゃいませ」
ここのところの日課となった西側諸国に顔を出し、説得を試みるという作業を今日も行うために”転移”で現地へと飛んだのだった。
「あら、スニル今日もやるの?」
「面倒だけどな。やらないってわけにもいかないだろ。まぁ、教会もあと少しみたいだから、これもそう長くやる必要はないだろ」
「それは僥倖ね」
「んじゃ、行くか」
こうして、俺は今日も西側諸国の攻撃を結界で防ぎつつ説得を試みるのであった。
あれから西側諸国は相も変わらずで、大賢者を中心に一生懸命にテレスフィリアの結界の破壊を試みている。いい加減無理だってあきらめてほしいところだ。
さて、一方でアリシエーラ枢機卿をはじめとした教会攻略組はというと、少し前に報告が上がってきている。
「教会は順調みたいだな」
「はい、すでに民衆はこちらに傾いてきているとのことです」
執事との会話をしつつ、報告書を読んでいく。
まず、枢機卿たちが行ったのは講演である。
「……この碑文にはこのように書いてあります。これらのことから、現在の教義にはいくらか伝聞による間違いが存在していると考えられます。わたくしはそれを正すべく、神より碑文を読み解くお力をいただきました」
枢機卿は碑文を読む力を神から与えられたと宣伝した。枢機卿がそういうわけだから、当然それを聞いていた民衆は半信半疑となったのだった。
とまぁ、そんな講演を碑文のある各地、および聖都でも何度か行ったようだ。そうなるともちろん教会も無視はできなくなり、飛んできた。
「このような戯言は聞いてはならない。アリシエーラ枢機卿は現在魔王により魅了され、乱心成されている。強化に名においてこのような事実などありません」
などどいって反論の講演を行っているという。しかし、そこで登場するのが麗香たち、いや、孝輔と那奈の勇者、聖女コンビである。
「この碑文は僕たちも読むことが出来ます。それによりアリシエーラ枢機卿の言葉が正しいことを証明します」
勇者と聖女はすでに聖都で披露が行われており、その場にいる民衆も2人のことを知っていた。その結果、勇者と聖女が保証するのならと再び信じ始める民衆。しかし、ここで教会側は2人もまた俺の信奉者であると断言した。また、2人は俺から”洗脳”を受けていると言い出した。
「それはありえません。私たちが持つ勇者と聖女には状態異常無効がありますから、たとえ魔王さんが”洗脳”を使ったとしても効くことはありません」
勇者と聖女は神聖魔法に強い適性を持つために、状態異常系魔法が一切効くことはないし、聖女であればすぐに解除も可能だ。つまり、教会側が言っている魔王に”洗脳”されているということは、ありえない事実である。
「で、ですが、勇者様と聖女様が魔王信奉者であることは事実、なればこそそのお言葉は信に値しないのです」
なおも食い下がる教会側、彼らも必死だ。ここでアリシエーラ枢機卿に民衆が付けば現教皇の立場が揺らぎかねない。そうなれば、こうして飛んできた奴も危うくなる。
「そもそも、その魔王さんはとてもいい人です。決してあなた方が思っているような存在ではありません」
あまりにも俺を悪くいうモノだからか、那奈がここで叫びながらそう言った。俺としては、なんとも無図が酸いところではあるが、この那奈の発言はちょっとした論争になる。そりゃぁ、魔王といえば絶対悪と思っている連中に、魔王はいい人といったわけだから。
「いいですか、聖女様、魔王を始め魔族は邪神が生み出し、その剣族です。そのようなものが善良であるはずがありません」
教会側の発言としてはこういったものだ。これは、この世界に広がる魔王と魔族に対する常識。でも、真実としては全く違い、まず邪神なんてものは存在しない。この世界の神は、俺をここに呼んだ神様以外は存在しないが、残念ながらこの世界の陣るはそれを知らないために、こうした想像してしまうというわけだ。
「何を言い出すかと思えば、現在の魔王陛下は我らと同じ人族です」
「そして、わたくしが弟として世話をしていた子の子供、つまりわたくしにとっては甥同然の存在です。もちろん弟も我々と同じ人であり、前教皇聖下によりますと、甥は聖人ダンクス様の末裔であるとのことが判明しております」
おばさんがこの事実を話すと教会側が焦った。前教皇が魔王を名乗る俺を、よりにもよって聖人ダンクスの末裔であると認めてしまったこと、そもそもこれが前教皇が排斥された理由となっているが、これは当然民衆には知らされていなかった。
「そ、それは、前教皇聖下の混乱による間違いです。そのようなことは決してありません。それよりもダンクス様の末裔が魔王などと、無礼にもほどがありますぞ」
そう言って怒り出す教会側、しかし、その態度こそが怪しいと感じて者たちは、これが真実であると理解することになる。
「甥は、幼いころに両親を亡くし、引き取った者たちによってひどい虐待を受けておりました。そのためキリエルタ教の教義も魔族についても教育を受けることが出来なかったのです」
それから、おばさんは俺の反省について語った。これにはさすがにここにいるものすべてが俺に対して同情の心を持った。まぁ、2歳の子供が虐待を受け続けて、最後に奴隷として売られたと聞いて同情しないような奴は相違ない。俺だって、同情はしなくともそれをやった奴らを許せないという感情ぐらいは出る。ちなみに、おばさんはこの話をするつもりは当初なかった。それというのも、身内である俺が虐待を受けていたにもかかわらず、伯母さんは何もしていなかった。それは己の恥じをさらすことになるからだ。それでも、俺という人間を話すにはこの話をすることは必須と考えたらしい。
「お聞きの通り、甥の幼少期はひどいものでした。それでも甥は人を憎まず、人を愛することを忘れてはいません。いえ、むしろ甥はこれまで多くの人々を助けてきました。まず、行ったことは、孤児院です」
「孤児院? それが一体なんだと」
「わたくしが現在務めさせていただいております街の孤児院は……」
おばさんはカリブリンの孤児院で俺がしたことを説明していった。
「……このように多くの子供たち、孤児院を出た子たちが救われております。そのような子が歴史に言われる魔王の所業を行うとお思いですか?」
伯母さんはそういって締めくくった。これには多くの民衆がなびいてきた。子供を救うということは、民衆の興味を引く一番の方法だろう。ほら、前世でもニュースで何らかの事件、災害でもわざわざ子供を含むなどといって興味を引いている。おばさんはそれを知らずにここで実践したということだろう。
「それだけではありません。魔王さんはあなたたち人族と争うつもりはないのです」
「今、魔王さんが王を務めているテレスフィリアは大陸西側諸国の連合軍と対峙しています。しかし、魔王さんは戦うことなく説得を試みています」
「ですが、西側諸国は全く聞く耳を持たないとのことです」
那奈と孝輔、麗香の3人がここで加わり、現在の俺の状況説明していく。
「ここにその証拠もあります」
そう言って、孝輔が最終兵器を投入した。
兵器といっても、何も殺傷力のあるものではなく、単なるスマホだ。それと、魔道具を1つ、これは3人に頼まれて俺が開発した魔法をドワーフが魔道具化したものだ。それは何か、なんてことない空中にプロジェクションするもの、そして、スマホから流れるのは、西側諸国と対峙する俺、という映像である。
空中にいきなり映像が流れるものだから、民衆も教会側も絶句、意味が分からないという表情をしている。それはそうだろう、この世界にはまず写真技術が存在しない。そんなところに空中に映像を出すという明らかなオーバーテクノロジーを理解しろちうのが無理だ。
「これは、俺たちが居た世界ではごく当たり前の技術で撮影したものです」
「映っているのは、西側諸国連合軍、そして、それに対峙するのが魔王さんです」
勇者と聖女が異世界から召喚されるというのは有名、というか召喚され紹介されたときにも聞いていたためにこの説明で納得しつつ、異世界の技術力に驚愕する民衆。そして、そのあとにやってくるのは映像に移っている光景、そこに映る100万以上の兵士と、対峙する子供にしか見えない存在とこの世の者とも思えないほどの美しさを持つ女性、その背後に控える数名の魔族。
「こ、子供じゃないか」
民衆が映る俺を指さしてそういった。
「この人が魔王さんです」
「子供の姿で姿を現すなど卑怯」
俺の姿を見た教会側がそう叫ぶ。
「いいえ、魔王陛下はこの姿こそ本来の姿。偽りではありません」
アリシエーラ枢機卿がすかさず反論。
「確かに一見子供ですが、魔王さん、スニルバルドさんは15歳でこの世界では成人しています」
「彼の姿が小さいのは、先ほどフェリシアさんがおっしゃったように幼いころの虐待が原因です。食事をほとんどもらえなかったそうです」
那奈が俺の年齢を伝え、麗香がその理由を説明していくがその表情は悲痛なものである。まぁ、俺のことを知っているとはいえ、知り合いが虐待を受けていたというのは普通そうなる。
「……」
麗香の説明に同じく表情を暗くする民衆と、俺が卑怯だと叫んだ教会側を非難する目が飛び交った。中には俺が受けたであろうことを想像し涙する人すらいた。
「ゴホンッ、ま、魔王の容姿に関してはいいでしょうですが、これがなんだというのです」
これ以上俺が幼いことであるということを追及することをやめた教会側であるが、麗香たちがこの映像を流した意図をつかめずにいた。というのも確かに何かが行われているのはわかるものの、残念ながら西側諸国の言語でやり取りしているために、この場にいるもの達ではそれを解することはできない。
「何か会話してるみたいだけどなに話してんだ。お前分かるか?」
「いや、まったく、どこの言葉だ」
民衆たちもまた言葉が分からず困惑している。
「そこのあなた。確か貴方は西側のご出身でしたね」
その時アリシエーラ枢機卿が今日側に立つ聖騎士の1人を指示して問うた。
「えっ、はっ、その通りでございます。覚えていてくださり光栄です」
その騎士は以前アリシエーラ枢機卿の傍で護衛をしていたことがあり、その騎士が西側諸国出身であると覚えていた。
「あなたには、これらの言葉をわたくしたちにも理解できる言葉に変換していただきたいのです。また、その際正確に変換することを神、キリエルタ様に誓っていただきます」
つまりは翻訳を依頼したというわけだ。そして、このキリエルタに誓うというのは、キリエルタ教の人間にとっては、破ることは神に反逆することになってしまい、普通はこれを破ることはありえない。
「タラエルーテク卿、よろしいでしょうか?」
タラエルーテクというのは教会側からやってきている枢機卿であり、その聖騎士の主でもある。
「わかりました。それで構いません」
こうして、聖騎士の1人が俺と西側食連合軍との会話を翻訳していくわけだが、それは間違いなく一言一句正しく略されていた。
「聞いてもらった通り、魔王さんは西側諸国と争う気なんてありません。最初からずっと説得をしてきました」
「ですが、相手の方々は一切効く耳を持たず、魔王さんを見るない攻撃をする。これを繰り返しています」
「どうでしょうか、これではまるで西側の方々の方が野蛮な人たちに見えませんか?」
区切りのいいところで、孝輔、那奈、麗香の順に言葉を並べる。一見子供にしか見えない俺や絶世の美女たるシュンナ、そして数名の魔族を相手に100万の兵が問答無用で攻撃を入れているのだから、民衆もぐうの音も出なくなってしまった。
このあたりまでくると、もはや民衆は俺たち側、つまりアリシエーラ枢機卿の側につき始め、教会側、つまり教皇の立場は危うくなってくる。
とまぁ、以上が俺が今受け取っている報告書の内容となる。
「あと少しってとこか、それにしてもやっぱりプロジェクターは使ったか」
「そのようでございます。陛下の正当性を訴えるにはうってつけの魔道具です」
執事の言う通り、俺が安全安心な魔王であるというのを証明するには、こうして実際の映像を見せるのが一番。
「百聞は一見に如かずか、んで、その後はどうなっている」
「はっ、現在は民衆のほとんどがアリシエーラ様になびいているようです。ですが」
ここで執事は言いよどむが、答えはわかっている。
「それでも、現教皇の支持者は多いってことだろ」
「はい、やはり魔王というものがネックとなっている模様です」
たとえ俺が安全安心であったとしても魔王を名乗っている時点で、人族にとっては本能的に拒絶反応が出る。それほど魂の奥底にまで、しっかりと教育されているということだろう。
「幼心ってやつは重要だな。サーナは気を付けておかないといけないな」
幼いころに受けた教育などは大人になっても忘れないもの、特に恐怖やトラウマといったものは生涯忘れないし、その後の人生に大きく影響が出るものだ。実際俺も前世で長にころに受けたトラウマによって、異性を好きになるという心を失っていた。また、それ以外にもいくつかのことから彼女もいない友達もいないというさんざんな目にあってきた。まぁ、今世でもかなりひどい目にあってはいるが、それは僕の方が受け持ったことで、現在はなりを潜めてくれている。そんな俺だからこそサーナにはそんなトラウマのようなことが起きないようしっかりと気を付けてやる必要があるだろう。
「はい、心してサーナ様をお育ていたします」
サーナの世話は主にメイドたちの仕事ではあるが、この執事はうちの使用人の統括もしているので、間接的にサーナを世話していることでの発言だ。
「頼むぞ。さて、それじゃ、今日もそろそろ顔出してくるか」
「行ってらっしゃいませ」
ここのところの日課となった西側諸国に顔を出し、説得を試みるという作業を今日も行うために”転移”で現地へと飛んだのだった。
「あら、スニル今日もやるの?」
「面倒だけどな。やらないってわけにもいかないだろ。まぁ、教会もあと少しみたいだから、これもそう長くやる必要はないだろ」
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優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
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