先輩はわがまま

joker

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「なんで居るんですか……」

「なんでって、迎えに来たのよ、嬉しいでしょ?」

 俺はバイト先まで俺を訪ねて来たという相手と、店のテーブルで顔を合わせた。
 案の定、その相手は俺の予想通り先輩だった。
 俺はその人の顔を見た瞬間、溜息を吐き回りを見る。
 バイトの同僚、店にいた客、すべての人間が先輩に視線を向けていた。
 まぁ、性格をしらなければ、見てくれだけはこの人はピカイチだからな……。

「こう言うのは、今度からやめて下さいよ」

「なんで? もう恋人同士なんだから別に良いでしょ?」

「先輩が来ると目立つんですよ! 俺はそれが嫌なんです!」

「仕方ないでしょ? 私が可愛いんだから」

「はぁ……ホントにこの人は……」

 どんだけ自分が大好きなんだよ……。
 俺は溜息を吐きながら、席を立つ。

「とりあえず、ここで待ってて下さい。着替えて来るんで」

「早くしてね、待つのとか私苦手だから」

「はいはい」

 俺は先輩にそう言って、スタッフルームに戻った。
 早く着替えて、先輩をこの店から遠ざけよう。
 そう考えながら、スタッフルームのドアを開けると、そこにはまだ愛実ちゃんが居た。

「あれ? まだ居たの?」

「はい、それより先輩、知り合いって誰だったんですか?」

「あぁ……大学の先輩……」

「あ! もしかしてあの苦手な先輩ですか! なんなら、私が一言言ってやりましょうか?」

「いや、大丈夫……多分、ややこしい事になるから……」

 俺は更衣室に入り、素早く着替えを済ませ、コートを着る。

「じゃあ、俺は今日は帰るから、愛実ちゃんも気を付けてね」

 いつもは一緒に上がる時は、愛実ちゃんと一緒に帰るのだが、今日は先輩が来ているため、一緒には帰れない。
 
「あ、はい……あの、どんな人か見ても良いですか?」

「え? 見ても面白くなんか無いよ?」

「いえ、なんだかバックヤードの人たちがすっごい美人が先輩を尋ねて来たって、盛り上がっているので……」

 あいつら……。
 正直先輩とこの可愛い後輩である愛実ちゃんは合わせたく無い。
 先輩は、俺と他の女の子が仲良くなるのを良く思って居ない。
 前に仲良くなった女の子達も、先輩にバレた瞬間に邪魔をされ、俺から距離を置いて疎遠になって行った。
 愛実ちゃんは本当に良い子だし、先輩に誤解されて、疎遠になるのは少し嫌だ。
 下心とかでは無く、純粋にこの子は良い子なので、友人として関係を長く続けて行きたいと思っていた。
 なので俺は、愛実ちゃんの為に言う。

「い、いや、大した人じゃないし、愛実ちゃん早く帰らないと、お母さんも心配するから……って居ねーし!」

 話しをしている間に、愛実ちゃんはスタッフルームからバックヤードを通って、店内のフロアに先輩を見に行ってしまった。

「すいません、愛実ちゃんは?」

「あぁ、岬か。お前やるなぁ~あんな美人な彼女が居たなんてよ~」

「そんな事より、愛実ちゃんは?」

「あぁフロアに出て行ったぞ? お前、二股はやめておけよ、痛い目見るぞ?」

 バイト先の先輩である大道寺(だいどうじ)さんに愛実ちゃんが向かった場所を聞き、俺は荷物を持って先輩の元に向かう。
 すると、そこには先輩と向かい合う愛実ちゃんが居た。
 それを見た瞬間、俺の本能が愛実ちゃんを守らなくてはと思い、急いで先輩の座る席に向かう。

「せ、先輩! お、お待たせしました! ささ、帰りましょ! あ、愛実ちゃんお疲れ~」

 俺は先輩の背中を押し、無理矢理帰ろうとするが、先輩が笑顔のまま全く動こうとしない。 そんな時、先輩が恐ろしい笑顔で、俺に尋ねてきた。

「次郎君、この子は誰? 急に私に貴方は先輩のなんなんですか? って言ってきたんだけど? それはこっちの台詞なんだけど」

「私は先輩のバイト先の後輩で、石川愛実って言います。貴方と先輩はどう言う関係なんですか? 良く先輩から、大学で困った先輩が居るって話しを聞くんですけど……」

「へぇ……そうなんだぁ……」

「い、いや……先輩の事じゃ無いですよ……はい」

 恐い、本当に恐い。
 愛実ちゃんが遠回しに、俺に迷惑を掛けてるのは貴方じゃないんですか?
 的な事を言うから、先輩は黒い笑顔で俺を見てくる。
 俺はこの状況をなんとかしようと二人の間に入る。

「ま、愛実ちゃんごめんね! ちょっと急いでるから! 先輩! 行きますよ!」

 俺はそう言って先輩の手を取り、店を後にした。
 先輩は何故か顔を頬を赤らめ、俺に引っ張られて店を出る。

「はぁ……よかった……」

「何が?」

「こっちの話しですよ……言っておきますけど、あの子はバイトの後輩で、凄く良い子なんですから、ちょっかい出さないで下さいよ」

「ふぅ~ん、でも仲良いのね、大学の困った先輩って誰かしらねぇ~?」

「は、早く帰りますよ!」

 俺はこれ以上ここに居るのはまずいと思ったのと、これ以上詮索されるのも面倒なので、先輩の手を離して歩き始める。

「あ、待ちなさいよ!」

「早く行きますよ……寒くなって来ましたし」

「そうじゃ無くて……手」

「手? 手が何か?」

 先輩はそう言って、俺に手を差し出して来る。

「恋人同士は繋ぐでしょ……もう馬鹿…」

「な……いや、それは恥ずかしいと言うか……」

「何よ、私とは繋げないって言うの?」

「いや、そうじゃなくて……付き合ってまだ二日目ですよ?」

「関係無いわよ! 兎に角、私が繋ぎたいから繋ぐの!」

 そう言って先輩は俺の手を取り、歩き始める。
 先ほどは急いでいて気がつかなかったが、先輩の手は柔らかくて小さかった。
 手を繋ぎ、前を歩く先輩の横顔を見ると、先輩の頬は赤くなっていた。
 なんだよ……自分も恥ずかしいんじゃん……。
 俺はそんな先輩の横に並び、家に帰宅する。

「で、困った先輩って、誰の事かしら?」

「あ、はい……すいません」

 やっぱり愛実の言葉を忘れたわけでは無かったらしい。
 先輩は家に帰ってきた瞬間、俺を壁際に追い詰めて、黒い笑顔で尋ねる。
 今日もなかなか眠れそうにはなかった。
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