俺「が」守りたいのは俺「を」守りたい推しヒロイン〜全クリしたゲームに転生した俺は才能ゼロの推しヒロインに守られるフリに徹します〜

長縄 蓮花

文字の大きさ
57 / 63

57話 ドSな幼馴染

しおりを挟む

 部屋から出てきたエマに声をかける。

「奥様だったんですね」

「――! シュント君……子供がこんな時間まで起きてるなんてだめじゃない。ま、君くらいになれば自己管理も完璧っぽいわね」

「たまたま目が覚めたので……」

「で? 何か言いたげだったけど?」

 ガーゼを三個も貼り付けたエマはしゃがみながら俺に目線を合わせる。

「ええ。実は以前ヴァニラ様から夜中になると枕元にお化けが出てくると聞いたことがあったのです。その為、ヴァニラ様は極度のお化け恐怖症になってしまったらしく……」

「まぁ! それは申し訳ないことを……! 実はデビスやファナが寝静まった後、あの子の寝顔を見るのが日課になっていたの。寝ていたら嫌われることもないだろうと思っていたけど……あの子には悪いことしたわ」

 ヴァニラの話をするエマの表情は以前とは違った。
 やっと娘と分かり合えたことに安堵しているようだった。

「――シュント君。今日……私が何をしたのか、あの子に何を言ったのか、家族に何をしたのか全て話してくれないかしら?」

 おそらく今日起きたことを話すとエマの心は大きく傷つき自責の念に駆られてしまうだろう。

「場所を変えましょう。ここではヴァニラ様を起こしてしますかもしれません」

「ええ。それじゃ私の好きな場所に行きましょう」

 俺たちは暗い廊下を歩き屋敷を出た。

 数時間前には決死の覚悟で逃げ込んだ葡萄畑だと思うとなんだか不思議な感覚に襲われる。

 そうして俺たちは月光に照らされた葡萄畑を一望できるベンチに腰掛ける。

「――それじゃあお願いしようかしら……」

 軽く握られた拳が小刻みに震えているのが分かる。

「分かりました。ではエリーモアであったことから説明します――」

 葡萄の芳醇な香りをのせた風が爽やかに吹き抜ける中、俺は今回起きたこと全てを話した。

「――そんな……私……なんてことを……。これじゃあヴァニラちゃんに何と詫びれば……」

 両手で顔を覆うエマにかけてあげられる言葉がなかなか見つからない。

「――子供を危険に晒すなんて……親失格もいいとこね……。あろうことか母親である私がデビスの将来を奪うなんて……」

「奥様……あれは超高度難度の呪縁魔法のせいです。奥様の本心はお優しい方だと私は理解しています」

「それでも……私が自覚していない心の奥底ではヴァニラちゃんを恨んでるんじゃないか、アクリシアの事を恨んでいたんじゃないかと不安になるの……」

 たしかに心の奥底なんて誰にも分からない。

 普段真面目に謙虚に生きてるサラリーマンが酒に飲まれて駅のホームで暴れ回るなんてのが良い例だ。

 酒という呪いで自分が認識していない自分の存在を知る。

 まさに今のエマと同じ状況だろう。

 その時、葡萄畑の中に小さな人影が見えた。

「――あれは……アスナカーレ……?」

 月夜に照らされた黒髪と伸びた背筋。
 しかし、その瞳にはいつもの冷徹さは感じられない。

「――! ちょうどよかった……」

 こちらに気づいたアスナカーレは俺たちの方に近づいてくる。

「奥様。お初にお目にかかります……私は時折エリクス様に聖魔法ご教授していただいているアスナカーレと申します。以後お見知り置きを」

 真面目すぎる性格から子供とは思えない堅苦しい挨拶をするアスナカーレ。

 エマは急いで涙を拭くと手を差し出す。

「私はエリクス様の妻のエマ。よろしくね」

 軽く握手を交わすとエマはベンチを立つ。

「――じゃ私はこれで……何か二人で話すこともあるようだし――」

 エマの表情は何とも悲しそうであったが、今の俺にどうすることも出来なかった。

「――で、何か御用ですか?」

 二人になった瞬間の出来事。 

 気がついたら俺は謎の力で宙に浮くとそのまま地面に叩きつけられた。

「アナタ。あの眼鏡に罪を償わせたいとか言ってなかったかしら?」

 そうだった……!
 ロリスの事すっかり忘れてた……。

 にしてもいきなり浮遊魔法からの衝撃魔法を使ってくるなんてどんだけSっけあるんだよ……。

「来なさい。アイツの罪とやらに興味がある……」

 アスナカーレの異常とも言える正義感はあの頃もままだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...