若い聖女が現れたから私はお役御免！？それならこっちから婚約破棄します！ ～今更私の力に気づいて戻ってきてと言ってももう遅いです～

お兄様と

私は部屋で、一人窓の外を眺める。
ルークが帰った後、何となく一人でいたくて窓越しに黄昏色の空を眺めていた。
そんな時、コンコンっとノックの音が聞こえて 私は扉の方に視線を向けた。
こんな時間に誰だろう……そう思いながらも返事をすると 扉が開いた。
「ルカ、今大丈夫かな？」
「お兄様！どうされたのですか？」
「ちょっと、ルカとお話がしたくてね」
そう言って、お兄様は私の隣に立つと窓の外を眺めた。
外はもう真っ暗で、何も見えないはずなのにお兄様はジッと暗闇を見つめていた。
「……ルカは、本当にこの国から出ていくのかい？」
「えっ……！？どうしてそれをお兄様が……」
「…………最近のルカの様子が少しおかしな、と思って少し調べたんだ、ごめんね……」
お兄様はそう言って私の方に顔を向けた。
そんなお兄様の顔は少し悲しそうで、私は気まずくて思わず顔を逸らした。
「ごめんなさい…………そのお父様とお母様には」
「安心して何も言っていないから、この話はルカが自分で伝えなきゃ駄目だからね」
そう言ってお兄様は優しく微笑んで、私の頭を撫でてくれた。
その優しい手つきに、私は少しだけ泣きそうになる。
けれど、グッと堪えて小さく頷いた。
「……別に、この国が嫌な訳じゃ無いんです。この国は本当に素敵な国で、この国に住む人達も本当に素敵で……でも、今の私の力で、この国を守る事なんて本当に出来るのかと、そんな不安が生まれました」
「うん……」
「北の国に行ったときに思ったのです、私の力もまだまだなんだと……
だから、他の国へ行き、力をもっと付けて、そしていつかこの国を守りたいんです」
そう言って私はお兄様の顔を見上げると、お兄様は優しく微笑みながら私を抱きしめて、頭を撫でてくれた。
その優しい温もりに思わず涙が溢れる。
私が泣くなんて情けないけれど……でもきっとこの涙は悲しみからくる涙ではない気がする。
「ルカが決めた事なら俺は反対しないよ、でも……危険な事だけはしないで ほしいな、ルカが傷付く所は見たくないから……」
そう言ってお兄様は私から離れて優しく微笑む。
そして私に手を差し出したので私はその手を掴んで立ち上がった。
そんな私の顔をお兄様が両手で包み込んだ。
その優しい温もりにまた涙が出そうになるが必死に堪える。
「ふふ、お兄様もルークと同じような事を言うのですね」
「えぇ……？」
そう言ってお兄様は少し困ったような表情を浮かべた。
そんなお兄様を見て思わず笑ってしまった。
「やっぱり、お兄様とルークは気が合うのかもしれませんね」
クスクスと笑いが止まらない私を見て、お兄様は困ったような表情を浮かべている。
「全く、こっちは真面目な話しをしてるのに……」
「でも、本当の事ですよ？それに……皆さんが付いているから、心配しなくても大丈夫です」
そう言って私はお兄様から離れてもう一度窓の外の暗闇を見つめた。
そんな私の後ろ姿を見ていたお兄様がまたポツリと話し始めた。
「わかっている……ルカの周りには、頼りになる人たちが沢山いる事ぐらい
でも……兄としては頼られないのは少し寂しいなって」
「お兄様……大丈夫です、お兄様にもちゃんと頼らせていただきますから」
私がそう言って微笑むと、お兄様は少し嬉しそうに微笑んだ。
そんな時、廊下が騒がしくなり私とお兄様は顔を見合わせて首を傾げる。
けれどその騒がしい声はこの部屋に向かって来ている様な気がする。
何かあったのかと思い、急いで扉の前まで行き聞き耳を立てた瞬間バンッ！と勢い良く扉が開いた。