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9 取り返しのつかない過ち
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◆◆
あれからシリルは一向に目を覚ます気配がない。
薬を飲ませた上に、レーリオまで媚薬の影響を受けて性欲が収まらず、宣言通りシリルを抱き潰してしまった。恋人同士の時にはこんなに無理をさせたことなど一度もない。
レーリオは意識を失ったままのシリルを屋敷から自分の家へと連れ帰っていた。
このベッドにシリルが寝ていると、まるで一緒に暮らしていたころのに戻ったかのような錯覚を覚える。
だがもう昔には……二度と戻れない。
レーリオはあることに気付いてから、自分の無思慮な行動を後悔していた。
薬の力を持ってしても、シリルの中は全くこなれていなかった。中は狭く、収めるのさえ一苦労した。
あんなに身体が強張らせていたのは、もう長い間男に抱かれていなかったからで、ロメオとは肉体関係を持っていないのではないか?
今になって……じわじわとその意味を理解すると、自分の犯した過ちが許されないものだと悟る。
(——嫉妬に狂って俺はなにをした?)
嫌がるシリルを伯爵の前で無理矢理犯しただけでなく、ロメオにまでその姿を見せてしまった。
この仕事をする前にシリルは言っていたではないか……。
『このことは絶対ロメオには黙っておいてくれ』
仕事のために抱かれることを、ロメオにだけは知られたくなかったのだろう。言葉通りレーリオは部屋にシリルがいることを黙っていた。
そして最悪のタイミングで、二人は対面した。
ロメオに気付いた時のシリルの顔が今でも目に焼きついている。
絶望に見開かれた瞳は、この世の終わりのような色をしていた。
その後シリルは恐慌をきたし、媚薬によって強制的に起こされた快感との間で泣き叫んでいた。
それなのに自分は、心無い言葉をかけて追い詰めてしまった。
『この淫乱めっ。若い男だけじゃ物足りないんだろ?」
『…違うっ…ちがう……違うからぁっ……』
そう……シリルはずっと行為の間じゅう、ロメオとの関係を否定していたじゃないか。
精神的にも肉体的にもこれ以上ないほど傷つけてしまった。
シリルが目を覚ましても、あんな非道いことをした後では、あわせる顔がない。
しかし、その時はやってくる。
お昼過ぎになりシリルはやっと目を覚ました。
「……っ…」
瞬きを繰り返し淡藤色の瞳がうっすらとひらく。
「大丈夫か?」
「……どう…し……てっ……」
声を出そうとするが、掠れて上手く喋れないようだ。
あれだけ叫んだら喉も痛めるだろう。
咳き込むシリルの背をこすろうとすると、いきなり左頬に衝撃がはしった。
「ぐっ……」
「…触る…な……」
渾身の力で殴られ、レーリオは思わずのけぞった。
シリルはこう見えても武術の心得があった。油断していたら痛い目にあう。
たぶんロメオなどは、足元にも及ばないだろう。
「……うっ……」
シリルは呻き声を上げて身を起こすと、眉をしかめながらもどうにか歩いて部屋を出ていこうとする。
さきほど身体を支えようとして拒絶されたので、レーリオはただ見守るしかできない。
シリルが部屋を出ていく前に、無粋な質問だと思われようがこれだけは聞いておきたかったことがある。
「お前……ロメオに抱かれてなかったのか?」
「……クソ野郎っ!」
普段ぜったい口にしない下品な言葉と、テーブルの上に置いてあった分厚い本が、レーリオに向かって投げつけられた。
それが答えだろう。
(——俺はたぶんクソ野郎以下の存在だ……)
レーリオはまだ温もりの残る寝台に仰向けに倒れ、殴られた頬をさすった。
あれからシリルは一向に目を覚ます気配がない。
薬を飲ませた上に、レーリオまで媚薬の影響を受けて性欲が収まらず、宣言通りシリルを抱き潰してしまった。恋人同士の時にはこんなに無理をさせたことなど一度もない。
レーリオは意識を失ったままのシリルを屋敷から自分の家へと連れ帰っていた。
このベッドにシリルが寝ていると、まるで一緒に暮らしていたころのに戻ったかのような錯覚を覚える。
だがもう昔には……二度と戻れない。
レーリオはあることに気付いてから、自分の無思慮な行動を後悔していた。
薬の力を持ってしても、シリルの中は全くこなれていなかった。中は狭く、収めるのさえ一苦労した。
あんなに身体が強張らせていたのは、もう長い間男に抱かれていなかったからで、ロメオとは肉体関係を持っていないのではないか?
今になって……じわじわとその意味を理解すると、自分の犯した過ちが許されないものだと悟る。
(——嫉妬に狂って俺はなにをした?)
嫌がるシリルを伯爵の前で無理矢理犯しただけでなく、ロメオにまでその姿を見せてしまった。
この仕事をする前にシリルは言っていたではないか……。
『このことは絶対ロメオには黙っておいてくれ』
仕事のために抱かれることを、ロメオにだけは知られたくなかったのだろう。言葉通りレーリオは部屋にシリルがいることを黙っていた。
そして最悪のタイミングで、二人は対面した。
ロメオに気付いた時のシリルの顔が今でも目に焼きついている。
絶望に見開かれた瞳は、この世の終わりのような色をしていた。
その後シリルは恐慌をきたし、媚薬によって強制的に起こされた快感との間で泣き叫んでいた。
それなのに自分は、心無い言葉をかけて追い詰めてしまった。
『この淫乱めっ。若い男だけじゃ物足りないんだろ?」
『…違うっ…ちがう……違うからぁっ……』
そう……シリルはずっと行為の間じゅう、ロメオとの関係を否定していたじゃないか。
精神的にも肉体的にもこれ以上ないほど傷つけてしまった。
シリルが目を覚ましても、あんな非道いことをした後では、あわせる顔がない。
しかし、その時はやってくる。
お昼過ぎになりシリルはやっと目を覚ました。
「……っ…」
瞬きを繰り返し淡藤色の瞳がうっすらとひらく。
「大丈夫か?」
「……どう…し……てっ……」
声を出そうとするが、掠れて上手く喋れないようだ。
あれだけ叫んだら喉も痛めるだろう。
咳き込むシリルの背をこすろうとすると、いきなり左頬に衝撃がはしった。
「ぐっ……」
「…触る…な……」
渾身の力で殴られ、レーリオは思わずのけぞった。
シリルはこう見えても武術の心得があった。油断していたら痛い目にあう。
たぶんロメオなどは、足元にも及ばないだろう。
「……うっ……」
シリルは呻き声を上げて身を起こすと、眉をしかめながらもどうにか歩いて部屋を出ていこうとする。
さきほど身体を支えようとして拒絶されたので、レーリオはただ見守るしかできない。
シリルが部屋を出ていく前に、無粋な質問だと思われようがこれだけは聞いておきたかったことがある。
「お前……ロメオに抱かれてなかったのか?」
「……クソ野郎っ!」
普段ぜったい口にしない下品な言葉と、テーブルの上に置いてあった分厚い本が、レーリオに向かって投げつけられた。
それが答えだろう。
(——俺はたぶんクソ野郎以下の存在だ……)
レーリオはまだ温もりの残る寝台に仰向けに倒れ、殴られた頬をさすった。
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