秘密結社盗賊団のお仕事

無一物

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8 悪夢への扉 ※

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◆◆

「シリルに迷惑をかけたくなかったら自分で落とし前をつけろ」

 仕事に失敗した後日、レーリオから呼び出され、ロメオはそう告げられた。

「……わかった」

 自分が引き起こしたことでシリルまで迷惑をかけるわけにはいかない。
 これ以上足をひっぱっては、一人の男として自分を見てもらえないままだ。

 ロメオは目の前へ立つ男にどうしても負けたくなかった。
 シリルの元恋人は、ロメオでさえ見惚れてしまうほど、男として完璧な容姿の人物だ。
 ロメオのことは子供扱いばかりして全く男として見てくれない。シリルの目の前でわざと下着一枚でウロウロしてもすぐ目を逸らしてどこかへ行ってしまう。

(——そんなに俺の裸は見苦しいか?)

 ロメオは早くシリルに一人前の男として自分を見てほしかった。
 それなのに失敗を犯し、きっとシリルは自分に失望しているのだろう。このままコンビが解消になってしまうことだけはどうしても避けたかった。

 上部へ報告しない代わりに、レーリオから提示された条件はこうだった。

『ある貴族の屋敷に忍び込み、地下室にある燭台を盗んで偽物を代わりに置いてこい』

 目的の物がある部屋は特殊な作りになっていて、主が中に入っている時でないと入ることができないらしい。
 レーリオが主と一緒に部屋へ入って注意を引きつけておくので、その間にロメオが忍び込んで燭台を盗み出す算段だ。どういった方法で注意を引くのか詳しいことまでは聞いていないが「やれ」と言われたらやるしかない。
 

 当日の夜、目的の屋敷の前にロメオは待機していた。
 暫くすると一台の馬車が門の前で停まり、中から二人の人物が降りてきた。一人はすっぽりとケープのフードを被っていて全く顔が見えないが、もう一人は身なりを整えたレーリオだった。貴族のような服装で、それがまた憎たらしいくらいに似合っている。

(あの二人が主の注意を引く役なのか?)

 二人が屋敷の中に入っていくと、ロメオも後を追って中へと忍び込む。
 部屋の中は嘘みたいに静まり返っていた。使用人たちの姿が一切見えない。まるで人払いでもしてあるかのようだ。
 ロメオにとっては好都合だったが、この地下でいったいなにが行われるのだろうか?

 地下室へと繋がる階段を探して下りていくと、おどろおどろしい赤い光に照らされた廊下の先には、黒い鉄の扉があった。

(あの中か……)

 扉には何やら、薄い鉄の板が差し込んであり、それが鍵代わりになっているらしい。

『俺たちが入って少し待ってから入るんだぞ。中でなにが行われていようとも、絶対に音をたてるなよ。今度失敗したら、お前は組織から消されることになるからな』

 言われた通りに柱の影に隠れて暫く待つ。

(——もうそろそろいいか……?)

 そっと、鉄の扉に手をかけ少し押すが、意外と静かにそれは開いた。
 だが中から聞こえてきた声に、ロメオは驚愕する。

『うわっ……イソギンチャクみたいに吸い付いて来てる』
『ああっ……あっ……お願いっ……とって…もう……ダメ……』

 部屋の中でなにを行っているか、まだ経験の浅いロメオでもわかった。
 しかも、相手は女の声ではない。

(レーリオは男を抱いているのかっ!?)

 喘ぎ声と、レーリオの発する言葉の淫猥さに、ロメオは顔を真っ赤に染める。
 二人の男が絡む天蓋付きの寝台の前では、老人が食いつくように二人の様子を見ていた。

(これなら俺が今入っても気付かないな……)

 頭を振って雑念を振り払い、ロメオは扉の影からそっと室内へと足を踏み入れた。

『エリオット、イキたいなら中に入れて下さいってお願いしないと駄目だろ、ほらっ』

 見ないようにと、寝台から目を逸らしていたが、若い好奇心が首をもたげ、ロメオは寝台の人物に視線を動かす。
 そこには……思いがけない人物がいて、ロメオは凍りつく。

(——シリルっ_!?_)

 いつもより高くうわずっていて、名前も違ったので声だけでは気付かなかった。
 寝台の上で大胆に足をひらき、レーリオを誘うかのように腰を振っているシリルがそこにいた。

『あっ……ダメッ……中にっ……いれ…てくだ…さ…い……』

 普段のシリルからは想像もできない言葉がその口から溢れている。まるで甘えるかのような口調に、ロメオはギリリと唇を噛みしめた。

(シリルが自分から男を誘うなんてっ!)

『淫乱め。ほら、お前の欲しい物をくれてやるよっ』

 レーリオ越しに、淡藤色の瞳がロメオの存在に気付く。
 その目はまるで悪事を暴かれた罪人みたいだ。

『いやぁぁぁぁぁぁっっ!』

 ジャラジャラと鎖が鳴る音がしたかと思うと、そのままレーリオがシリルを押し倒した。
 後ろから見えるのは肩の上に乗せられた膝から先で、ビクビクと白い足が痙攣を繰り返す。

『うっ……こいつ……入れただけでイキやがった。とんだスキモノだな……ほらほら、もっとヨガってるところを見てもらえよっ』
『……うぁ……ダメッ…ダメッ…動かないで…イッてるからぁ……うあっっっっ』
『凄い光景だ、突くたびに精子が吹き出してる』

 見たくないのに、声のするほうに視線が吸い寄せられる。

(ダメだ集中しろっ!)

 シリルがあんなことになっていて集中できるはずないが、課せられた仕事をやり遂げないと組織から消されてしまう。
 寝台の反対側に目を遣ると、チェストの上に目的の燭台があった。幸いにも天蓋付きのベッドから死角になっている。

『あんっ……あっ…また来るっ…もうダメッ…やめろッ…っぁぁぁぁぁっ』
『やべっ、そんなに締めるなっ……おうっ……クソッ持ってかれるっ…ぐっ…うっ……』

 獣みたいな声を横で聞きながら、ロメオは身を低く屈めてチェストへと近付いていく。
 チェストの上には燭台の他にも調度品が飾ってあるが、ここの主はこの燭台にそこまでの価値があるとは思っていなさそうだ。偽物と入れ替えてもきっと気付かないだろう。

『泣くほど気持ちいいのかい? まさか君がこんなに乱れるなんて思ってもいなかった』

 本当に老人の言う通りだ。まさかシリルが浅ましく人前で抱かれるような人間だったなんて心外だ。

『違うっ…もうっムリッ…抜いてっ……』
『嘘つくなッ……ここはきゅんきゅん吸い付いてくるぜっ……まだまだこれからだろっ』
『…違うからっ…お願いッ…オカシクなるっ……っあ……ぁっ…ひぃッ……』
『ほら、ここが好きだろ?』
『あっあっあっッッ……いぁぁぁぁぁっっ……』
『こいつまたイキやがった』

 燭台を入れ替えると元いた所に走って戻り、ロメオは地獄の饗宴が続くこの部屋から逃げ出すべく、鉄の扉へと手をかける。

 噛みしめたその唇には、廊下の悪趣味な夜光石と同じ、赤い血が滲んでいた。
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