21 / 113
第2章 少年期前編
第19話 シンVSシザースナイト
しおりを挟む
この世界には魔の眷属という者達がいる。
その存在は様々な言い伝えがある。
曰く、魔王が作り上げた僕である。
曰く、怨念の魂が集まり作り出された怨霊である。
曰く、魔物を倒し続け、その血を浴び過ぎた成れの果てである。
それらのどれが本当なのかはわからない。
しかし、その話には共通するモノがある。
曰く、その存在は滅びと恐怖を振りまく闇の使者。
決して対峙する事なかれ。
奴等は人の血肉を、魂を、その命を常に欲している。
それが世界に散らばる魔の眷属。
そして、俺の目の前にいるコイツもまた、魔の眷属の一人。
その力は魔物などとは比べ物にならない。
出会ったら死を覚悟するしかないと言われているコイツ等だが、決して不死身な訳ではない。
ただ手強い相手なのは事実。
おまけに今回は俺だけじゃない。
テントを見れば何事かとガウェンとサリアがテントから出てくる。
「一体何が……っ!?
ありゃ……なんだ!?」
ガウェンがシザースナイトを見て顔を強張らせる。
サリアもそれを見ると、直ぐに身構え警戒する。
「あれは……魔の眷属!?」
サリアはシザースナイトを睨みつけてそう問いかける。
それに答えるかのように、シザースナイトが地を駆け抜ける。
縮地によって瞬間的に急加速したシザースナイトは一気にサリアの目前へと迫る。
サリアも、そして周りの皆もその速度に反応すら出来ない。
シンだけを除いて。
シザースナイトの両腕の剣が大きく開かれ、そのまま交差するように振られ、サリアの胴体は両断されるかに見えた。
サリア自身、咄嗟に避けることも出来ず、覚悟を決めて目を閉じていた。
響き渡る金属音。
サリアを両断せんとするその剣は、シンの両手によって防がれる。
シンの開かれた両腕の手が、その剣を受け止め、そのまま握り締める。
ただの手の平で自分の刃が受け止められた事にシザースナイトは少なからず驚いた。
それを目撃した周りのリゼット達も同じである。
「う、そだろ……素手で止めやがった」
その言葉はサリアのすぐ脇にいたガウェンのもの。
ガウェンは目を見開いてその光景を見つめている。
当然、ただの素手で剣は止められない。
身体硬質の更に上、“身体金剛”。
それはもはや身体が鋼鉄をも凌駕する硬さを持ち、魔法にも物理にも絶対的な防御を誇る力である。
ただ、リゼットは剣を受け止めた事以上に驚いた事があった。
それはその移動速度だ。
気付いた時にはシザースナイトはサリアの目の前まで移動していた。
シンはそれに反応しただけでなく、地面スレスレを低空飛行し、サリアの下へと即座にシンは移動した。
そしてその両手を広げてシザースナイトの攻撃を防いだのである。
その判断力と行動力の速さがあまりにも異常過ぎたのだ。
俺が振り返ると、サリアがゆっくり閉じた瞳を開いていくところだった。
そして俺を見てサリアは驚く。
「え……っ!?
どうして、この子がここに……」
そう言って混乱しているサリアに俺は微笑みかける。
「すみませんね、ちょっと前を失礼します。
テントの近くに皆さんといてくださいね。
僕らはすぐに離れますので」
俺はそう言って地面を強く蹴り、力強く握り締めたシザースナイトの両腕の剣を引っ張り込む。
そのまま顔面に膝蹴りを放ち、次いで仰け反ったシザースナイトに片手をかざし、魔法陣を展開させる。
放たれるのはファイアボム・キャノンの強化版、デッドリー・キャノン。
貫通力を高め、バレットショットに近い形に仕上げたのだ。
砲弾がシザースナイトに着弾すると、迸る爆炎が辺りを照らし、爆音と爆風が巻き起こる。
俺はすぐに両手をグルリと目の前で大きく回転させ、爆風すら強靭な風魔法で押さえ込み、強烈な衝撃波として逆に撃ち放つ。
その衝撃でシザースナイトは見えなくなるまで遠くに吹き飛ばされた。
「君は……一体?」
サリアが後ろから小さく問いかけてくる。
「僕ですか?
今はただの旅人の魔法使いですよ」
そう答えてニコリと笑う。
そしてすぐに真顔に戻り、片手を掲げる。
「させないよ」
掲げた手の平から光星魔法によって構築された光の閃光が一筋地面を走る。
それはリゼットさんの真横を走り抜けた。
シザースナイトが突っ込んできた時に闇に紛れたナイトメアハウンドの居場所を正確に見抜ぬき、浄化の閃光によってその身体を消滅させる。
リゼットさんはナイトメアハウンドが消滅してようやく近付かれていた事に気付く。
さて、残りはシザースナイトだけ。
アイツはまだ生きているだろう。
あれくらいで魔の眷属はくたばったりしない。
“身体昇華”。
身体から力が漲ってくる。
もはやそれは強化ではなく、進化とも言えるほどに身体能力が引き上がる。
身体強化の上位版。
それはただ身体能力を強化するだけに止まら無い。
つまり、新たなスキルが発現する。
その一つ。
“魔導の包含”。
それは魔法の属性そのものを体内に取り込み、身体を変質させる極意。
この感覚は何度やってま慣れやしない。
身体が溶け出すような、形を保てなくなるような、消えてしまうような感覚。
腕や足を見れば俺の身体から雷撃が迸るのが見える。
シザースナイトの現在位置を確認。
座標を指定。
身体の魔素分解、変換、再構築。
それらの術式を同時に行う。
脳が焼き切れそうだ。
あー、頭が痛ぇ。
身体を雷を纏うのではなく、身体そのものが雷に変貌していく。
そして、紫電だけが残ってシンの姿は搔き消える。
残されたリゼット達はそれを見て言葉も出ない。
再構築される身体。
雷速で移動した先は倒れ込むシザースナイトの目の前。
雷と一体化した俺は雷速で動けるようになり、そのままシザースナイトを蹴り上げたが、寸前で躱される。
逆に俺の蹴り上げた隙を見て、飛び起きたシザースナイトに足が切り裂かれたが、雷と一体化した俺をそう傷付けることも出来ない。
しかし、若干心に小々波が起きた。
今のは吸魂の刃の効果か?
そして、宙をクルクル回転して着地したシザースナイトはまた鎧をガタガタ震わせ始めた。
その仮面の中から声を上げながら。
「ギ……ギギ……っ!
ギギッ!ギヒッ、ギヒヒッ!
ギギギギヒヒヒギギギギヒヒッ!」
もはや笑い声とは思えないその甲高く不快な笑い方を発し、全身を震わせるシザースナイト。
直後、その上半身の鎧がガラガラと地面に落ちる。
鉄仮面も一緒に地面に落ちた。
褐色肌のその男の目は大きく窪み、穴が空いていた。
瞳の代わりに紫の炎が形を変えながら揺らめいている。
その口元は笑っていた。
そして、突如その口が大きく開かれ、大きく叫ぶ。
突如襲い掛かる心の騒めき。
湧き上がる恐怖。
噴き上がる怒り。
燃え上がる殺意。
なるほど、これが“狂乱の宴”の精神異常、“狂気”か。
身体金剛によって精神異常に対する耐性も上がっているが、それでも心乱されるものがある。
俺は一人納得するが、すぐにリゼットさんらの方向を振り向く。
この影響はどの範囲までだ?
わからないが、彼等も影響を受けてるとみた方がいいな。
即座に俺は目を閉じて片膝をついて地面に手を置く。
少し距離はあるが、彼等のいるテントを中心とし、魔法を構築する。
テントを中心として魔法陣が地面に浮かび上がる。
そしてまるで太陽のような眩しい光が魔法陣の中を照し出す。
聖域。
魔法やスキルによる干渉を遮断し、物理攻撃も魔法攻撃も消し去る聖域の結界である。
シザースナイトを見ると、片腕を自分の剣で跳ね飛ばした。
流石にその行為には俺も驚く。
シザースナイトはそれでも笑みは崩さない。
むしろ大口を開けて悲鳴のような笑い声を上げている。
そしてその足元には魔法陣が出来上がる。
こいつ、あえて自分で血を流してまで使うのか。
奴が扱うのは血塊魔法。
それは自分や他者の血液を媒体とし、構築する魔法。
腕からドバドバと溢れ出る血は形を成していき、新しい腕が出来上がる。
それは巨大な大鎌がある腕だった。
さらに足元の魔法陣の色が変化し、シザースナイトの身体から赤黒いオーラが立ち上る。
代わりに、シザースナイトの痩せ細ったその身体が崩壊し始める。
皮が剥がれ出し、腐敗が進み始める。
完全に狂っている。
奴が使ったのは闇魔法の禁呪文。
サクリファイス・アニマ。
本来は誰かを生贄に捧げ、自身の力を強化させる禁呪である。
しかし、アイツは自分を生贄にして自分を強化してやがる。
つまり、その身体はもう長くはない。
恐らく俺を殺すためだけの、自滅覚悟の特攻である。
迷惑な奴だ。
もうその姿は最初に見た騎士の姿とはまるで別物になっている。
腐り始めたその身体は魔法の無理な強化により筋肉が皮を破って膨張し、新しい血の腕は巨大化が進む。
その新しい腕は大鎌のようになっていた。
突如走り出すシザースナイト。
ひと蹴りで地面が割れ、空高く飛び上がる。
そして虚空移動によって空を縦横無尽に駆け回り、空から血の刃がいくつも作り出す。
そしてそのまま刃と共にシザースナイトはこちらへ真っ直ぐ向かってくる。
振り上げられる巨大な腕と、そこから伸びる大鎌。
四方から迫る血の刃。
目にも留まらぬ速さで轟音と共に大鎌が振るわれるが、呆気なく空を切る。
血の刃も魔力感知で全ての位置を把握しているため、雷速で動く俺を掠める事も出来やしない。
俺はそのままシザースナイトの背後を取り、そのボロボロの背中に手を置く。
「もういいだろ。
眠っとけ」
俺はそう言ってトドメの魔法を構築する。
二重の魔法陣が展開し、掲げた俺の腕は輝きを増し、その光は竜の顎門へと形を変える。
シザースナイトは振り返り様に残った腕の剣を振るうが、先にこちらの魔法が発動する。
“烈風迅雷の魔巧”、風雷竜の咆哮。
竜の顎門から放射される稲妻を帯びた竜巻はシザースナイトと共に地面も抉り、巻き込んでその身体を消滅させる。
これで、敵の気配は無くなった。
また身体から力が湧き立つのを感じる。
掲げた片手を下ろし、空を見れば薄っすらと明るくなり始めていた。
もうすぐ夜明けである。
テントの前に戻ると、リゼットさん御一行は全員目を覚ましていた。
そりゃ真近であんなド派手に魔法を放てば起こしてしまうよね。
申し訳ない事をしまったな。
でも全員無傷のご様子。
それが何よりである。
「無事に討伐完了しました」
とりあえず俺は敬礼してリゼットに報告した。
あれ?そういやザドがおらんな。
……あいつまさか……。
まだ寝てるのか!?
信じられねぇ。
「この坊や、魔の眷属をたった一人で片付けちまったよ。
お前達、私は夢でも見てんのかね?」
「夢じゃないでしょう。
ただ、この子の力はあまりにも現実離れしていますけど。
この子はただの護衛の器ではないですよ」
そう言ってローラはリゼットに答える。
「確かに、魔の眷属を倒せる魔法使いとか、まるで魔導騎士団の精鋭みたいだぜ。
なぁ?」
ガウェンは興奮気味に周りに同意を求める。
サリアはそれを無視して俺の前まで歩いて、しゃがみ込む。
「君に命を救われたわ。
ありがとう」
そう言って微笑むサリア。
キツイ人かと思っめたけど、そんな事もないかも。
「うぅ、僕は見逃してしまいましたぁ……」
嘆いているのはラント。
テントから出てくるのは遅かったもんな。
怖い思いしなくて済んだからいいと思うけどね。
「私も出遅れました。
キミは怪我はしてない?」
心配そうにセリーヌが尋ねてくる。
「問題ないです。
皆さんも怪我してませんか?」
「坊やのお陰で皆無傷だよ。
途中、心が乱されたけれど、坊やが結界まで施したんだろう?
戦闘しながらこちらの守りまで同時にこなすなんて。
そんな何でも出来る魔法使いは見た事ないね」
そう言って笑うリゼットさん。
「やはり、ここまでアイツのスキルは影響していたのですね。
それにしても、皆さん錯乱せずに済んだのは幸いです」
俺は安堵したように言う。
やはり念の為の結界だったが、張っておいて正解か。
「セリーヌがガウェンの異変に気付いて魔法壁、リフレクションの結界を張ってくれたからね。
それがなければあんたの結界が張られるまで仲間割れが起きてたかもしれないわ」
なるほど。
優秀な人達が揃ってて俺も助かった。
「ちなみにザドさん見かけました?」
俺が尋ねると皆さん顔を見合わせる。
次いでこめかみに青筋を浮かべるリゼットさん。
あぁ、やっぱ寝てんのか。
その後、リゼットさんの鉄拳がザドの頭に炸裂し、穏やかな朝焼けの空に悲鳴が響く。
俺は大欠伸をしながらその光景を眺めていた。
ホント、なんでザドは行商人やってて生き残れていたのやら。
その存在は様々な言い伝えがある。
曰く、魔王が作り上げた僕である。
曰く、怨念の魂が集まり作り出された怨霊である。
曰く、魔物を倒し続け、その血を浴び過ぎた成れの果てである。
それらのどれが本当なのかはわからない。
しかし、その話には共通するモノがある。
曰く、その存在は滅びと恐怖を振りまく闇の使者。
決して対峙する事なかれ。
奴等は人の血肉を、魂を、その命を常に欲している。
それが世界に散らばる魔の眷属。
そして、俺の目の前にいるコイツもまた、魔の眷属の一人。
その力は魔物などとは比べ物にならない。
出会ったら死を覚悟するしかないと言われているコイツ等だが、決して不死身な訳ではない。
ただ手強い相手なのは事実。
おまけに今回は俺だけじゃない。
テントを見れば何事かとガウェンとサリアがテントから出てくる。
「一体何が……っ!?
ありゃ……なんだ!?」
ガウェンがシザースナイトを見て顔を強張らせる。
サリアもそれを見ると、直ぐに身構え警戒する。
「あれは……魔の眷属!?」
サリアはシザースナイトを睨みつけてそう問いかける。
それに答えるかのように、シザースナイトが地を駆け抜ける。
縮地によって瞬間的に急加速したシザースナイトは一気にサリアの目前へと迫る。
サリアも、そして周りの皆もその速度に反応すら出来ない。
シンだけを除いて。
シザースナイトの両腕の剣が大きく開かれ、そのまま交差するように振られ、サリアの胴体は両断されるかに見えた。
サリア自身、咄嗟に避けることも出来ず、覚悟を決めて目を閉じていた。
響き渡る金属音。
サリアを両断せんとするその剣は、シンの両手によって防がれる。
シンの開かれた両腕の手が、その剣を受け止め、そのまま握り締める。
ただの手の平で自分の刃が受け止められた事にシザースナイトは少なからず驚いた。
それを目撃した周りのリゼット達も同じである。
「う、そだろ……素手で止めやがった」
その言葉はサリアのすぐ脇にいたガウェンのもの。
ガウェンは目を見開いてその光景を見つめている。
当然、ただの素手で剣は止められない。
身体硬質の更に上、“身体金剛”。
それはもはや身体が鋼鉄をも凌駕する硬さを持ち、魔法にも物理にも絶対的な防御を誇る力である。
ただ、リゼットは剣を受け止めた事以上に驚いた事があった。
それはその移動速度だ。
気付いた時にはシザースナイトはサリアの目の前まで移動していた。
シンはそれに反応しただけでなく、地面スレスレを低空飛行し、サリアの下へと即座にシンは移動した。
そしてその両手を広げてシザースナイトの攻撃を防いだのである。
その判断力と行動力の速さがあまりにも異常過ぎたのだ。
俺が振り返ると、サリアがゆっくり閉じた瞳を開いていくところだった。
そして俺を見てサリアは驚く。
「え……っ!?
どうして、この子がここに……」
そう言って混乱しているサリアに俺は微笑みかける。
「すみませんね、ちょっと前を失礼します。
テントの近くに皆さんといてくださいね。
僕らはすぐに離れますので」
俺はそう言って地面を強く蹴り、力強く握り締めたシザースナイトの両腕の剣を引っ張り込む。
そのまま顔面に膝蹴りを放ち、次いで仰け反ったシザースナイトに片手をかざし、魔法陣を展開させる。
放たれるのはファイアボム・キャノンの強化版、デッドリー・キャノン。
貫通力を高め、バレットショットに近い形に仕上げたのだ。
砲弾がシザースナイトに着弾すると、迸る爆炎が辺りを照らし、爆音と爆風が巻き起こる。
俺はすぐに両手をグルリと目の前で大きく回転させ、爆風すら強靭な風魔法で押さえ込み、強烈な衝撃波として逆に撃ち放つ。
その衝撃でシザースナイトは見えなくなるまで遠くに吹き飛ばされた。
「君は……一体?」
サリアが後ろから小さく問いかけてくる。
「僕ですか?
今はただの旅人の魔法使いですよ」
そう答えてニコリと笑う。
そしてすぐに真顔に戻り、片手を掲げる。
「させないよ」
掲げた手の平から光星魔法によって構築された光の閃光が一筋地面を走る。
それはリゼットさんの真横を走り抜けた。
シザースナイトが突っ込んできた時に闇に紛れたナイトメアハウンドの居場所を正確に見抜ぬき、浄化の閃光によってその身体を消滅させる。
リゼットさんはナイトメアハウンドが消滅してようやく近付かれていた事に気付く。
さて、残りはシザースナイトだけ。
アイツはまだ生きているだろう。
あれくらいで魔の眷属はくたばったりしない。
“身体昇華”。
身体から力が漲ってくる。
もはやそれは強化ではなく、進化とも言えるほどに身体能力が引き上がる。
身体強化の上位版。
それはただ身体能力を強化するだけに止まら無い。
つまり、新たなスキルが発現する。
その一つ。
“魔導の包含”。
それは魔法の属性そのものを体内に取り込み、身体を変質させる極意。
この感覚は何度やってま慣れやしない。
身体が溶け出すような、形を保てなくなるような、消えてしまうような感覚。
腕や足を見れば俺の身体から雷撃が迸るのが見える。
シザースナイトの現在位置を確認。
座標を指定。
身体の魔素分解、変換、再構築。
それらの術式を同時に行う。
脳が焼き切れそうだ。
あー、頭が痛ぇ。
身体を雷を纏うのではなく、身体そのものが雷に変貌していく。
そして、紫電だけが残ってシンの姿は搔き消える。
残されたリゼット達はそれを見て言葉も出ない。
再構築される身体。
雷速で移動した先は倒れ込むシザースナイトの目の前。
雷と一体化した俺は雷速で動けるようになり、そのままシザースナイトを蹴り上げたが、寸前で躱される。
逆に俺の蹴り上げた隙を見て、飛び起きたシザースナイトに足が切り裂かれたが、雷と一体化した俺をそう傷付けることも出来ない。
しかし、若干心に小々波が起きた。
今のは吸魂の刃の効果か?
そして、宙をクルクル回転して着地したシザースナイトはまた鎧をガタガタ震わせ始めた。
その仮面の中から声を上げながら。
「ギ……ギギ……っ!
ギギッ!ギヒッ、ギヒヒッ!
ギギギギヒヒヒギギギギヒヒッ!」
もはや笑い声とは思えないその甲高く不快な笑い方を発し、全身を震わせるシザースナイト。
直後、その上半身の鎧がガラガラと地面に落ちる。
鉄仮面も一緒に地面に落ちた。
褐色肌のその男の目は大きく窪み、穴が空いていた。
瞳の代わりに紫の炎が形を変えながら揺らめいている。
その口元は笑っていた。
そして、突如その口が大きく開かれ、大きく叫ぶ。
突如襲い掛かる心の騒めき。
湧き上がる恐怖。
噴き上がる怒り。
燃え上がる殺意。
なるほど、これが“狂乱の宴”の精神異常、“狂気”か。
身体金剛によって精神異常に対する耐性も上がっているが、それでも心乱されるものがある。
俺は一人納得するが、すぐにリゼットさんらの方向を振り向く。
この影響はどの範囲までだ?
わからないが、彼等も影響を受けてるとみた方がいいな。
即座に俺は目を閉じて片膝をついて地面に手を置く。
少し距離はあるが、彼等のいるテントを中心とし、魔法を構築する。
テントを中心として魔法陣が地面に浮かび上がる。
そしてまるで太陽のような眩しい光が魔法陣の中を照し出す。
聖域。
魔法やスキルによる干渉を遮断し、物理攻撃も魔法攻撃も消し去る聖域の結界である。
シザースナイトを見ると、片腕を自分の剣で跳ね飛ばした。
流石にその行為には俺も驚く。
シザースナイトはそれでも笑みは崩さない。
むしろ大口を開けて悲鳴のような笑い声を上げている。
そしてその足元には魔法陣が出来上がる。
こいつ、あえて自分で血を流してまで使うのか。
奴が扱うのは血塊魔法。
それは自分や他者の血液を媒体とし、構築する魔法。
腕からドバドバと溢れ出る血は形を成していき、新しい腕が出来上がる。
それは巨大な大鎌がある腕だった。
さらに足元の魔法陣の色が変化し、シザースナイトの身体から赤黒いオーラが立ち上る。
代わりに、シザースナイトの痩せ細ったその身体が崩壊し始める。
皮が剥がれ出し、腐敗が進み始める。
完全に狂っている。
奴が使ったのは闇魔法の禁呪文。
サクリファイス・アニマ。
本来は誰かを生贄に捧げ、自身の力を強化させる禁呪である。
しかし、アイツは自分を生贄にして自分を強化してやがる。
つまり、その身体はもう長くはない。
恐らく俺を殺すためだけの、自滅覚悟の特攻である。
迷惑な奴だ。
もうその姿は最初に見た騎士の姿とはまるで別物になっている。
腐り始めたその身体は魔法の無理な強化により筋肉が皮を破って膨張し、新しい血の腕は巨大化が進む。
その新しい腕は大鎌のようになっていた。
突如走り出すシザースナイト。
ひと蹴りで地面が割れ、空高く飛び上がる。
そして虚空移動によって空を縦横無尽に駆け回り、空から血の刃がいくつも作り出す。
そしてそのまま刃と共にシザースナイトはこちらへ真っ直ぐ向かってくる。
振り上げられる巨大な腕と、そこから伸びる大鎌。
四方から迫る血の刃。
目にも留まらぬ速さで轟音と共に大鎌が振るわれるが、呆気なく空を切る。
血の刃も魔力感知で全ての位置を把握しているため、雷速で動く俺を掠める事も出来やしない。
俺はそのままシザースナイトの背後を取り、そのボロボロの背中に手を置く。
「もういいだろ。
眠っとけ」
俺はそう言ってトドメの魔法を構築する。
二重の魔法陣が展開し、掲げた俺の腕は輝きを増し、その光は竜の顎門へと形を変える。
シザースナイトは振り返り様に残った腕の剣を振るうが、先にこちらの魔法が発動する。
“烈風迅雷の魔巧”、風雷竜の咆哮。
竜の顎門から放射される稲妻を帯びた竜巻はシザースナイトと共に地面も抉り、巻き込んでその身体を消滅させる。
これで、敵の気配は無くなった。
また身体から力が湧き立つのを感じる。
掲げた片手を下ろし、空を見れば薄っすらと明るくなり始めていた。
もうすぐ夜明けである。
テントの前に戻ると、リゼットさん御一行は全員目を覚ましていた。
そりゃ真近であんなド派手に魔法を放てば起こしてしまうよね。
申し訳ない事をしまったな。
でも全員無傷のご様子。
それが何よりである。
「無事に討伐完了しました」
とりあえず俺は敬礼してリゼットに報告した。
あれ?そういやザドがおらんな。
……あいつまさか……。
まだ寝てるのか!?
信じられねぇ。
「この坊や、魔の眷属をたった一人で片付けちまったよ。
お前達、私は夢でも見てんのかね?」
「夢じゃないでしょう。
ただ、この子の力はあまりにも現実離れしていますけど。
この子はただの護衛の器ではないですよ」
そう言ってローラはリゼットに答える。
「確かに、魔の眷属を倒せる魔法使いとか、まるで魔導騎士団の精鋭みたいだぜ。
なぁ?」
ガウェンは興奮気味に周りに同意を求める。
サリアはそれを無視して俺の前まで歩いて、しゃがみ込む。
「君に命を救われたわ。
ありがとう」
そう言って微笑むサリア。
キツイ人かと思っめたけど、そんな事もないかも。
「うぅ、僕は見逃してしまいましたぁ……」
嘆いているのはラント。
テントから出てくるのは遅かったもんな。
怖い思いしなくて済んだからいいと思うけどね。
「私も出遅れました。
キミは怪我はしてない?」
心配そうにセリーヌが尋ねてくる。
「問題ないです。
皆さんも怪我してませんか?」
「坊やのお陰で皆無傷だよ。
途中、心が乱されたけれど、坊やが結界まで施したんだろう?
戦闘しながらこちらの守りまで同時にこなすなんて。
そんな何でも出来る魔法使いは見た事ないね」
そう言って笑うリゼットさん。
「やはり、ここまでアイツのスキルは影響していたのですね。
それにしても、皆さん錯乱せずに済んだのは幸いです」
俺は安堵したように言う。
やはり念の為の結界だったが、張っておいて正解か。
「セリーヌがガウェンの異変に気付いて魔法壁、リフレクションの結界を張ってくれたからね。
それがなければあんたの結界が張られるまで仲間割れが起きてたかもしれないわ」
なるほど。
優秀な人達が揃ってて俺も助かった。
「ちなみにザドさん見かけました?」
俺が尋ねると皆さん顔を見合わせる。
次いでこめかみに青筋を浮かべるリゼットさん。
あぁ、やっぱ寝てんのか。
その後、リゼットさんの鉄拳がザドの頭に炸裂し、穏やかな朝焼けの空に悲鳴が響く。
俺は大欠伸をしながらその光景を眺めていた。
ホント、なんでザドは行商人やってて生き残れていたのやら。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる