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第3章 少年期中編
第38話 砦の罠
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目を覚ますと、いつの間にかベッドで横になっていた。
辺りを見回せば、そこはまだ見慣れぬ自分の家。
着ていたローブや上着が無くなっており、砂埃で汚れた肌着とズボンだけになっている。
体を起こし、片手を額につけてこの家に着いてからの事を思い出す。
ここに帰って来てから、俺はどうした……?
俺が家に帰ると、まだ朝日も昇ってない時間なのにアネッサが出迎えてくれたはずだ。
家で彼女が待っていてくれた事に、とても安堵したのは覚えてる。
その後、話をして……待て、アネッサは?
俺は顔を上げ、ベッドを飛び降りて一階に降りる。
アネッサの気配がない。
ふとテーブルを見れば、紙切れにメッセージが残されている。
『明後日には帰ります』
短く、綺麗な字でそう記されていた。
その紙切れにそっと手を置く。
馬鹿か……俺は……。
アネッサはちゃんと俺の帰りを待っていてくれていたのに、当の俺が寝入ってしまうなんて……っ。
俺は慌てて外に飛び出すが、アネッサの向かった先が検討もつかない。
ただ、間違いなくこの街にはいないだろう。
そして広い外の世界を闇雲に探し回っても、埒が明かない。
自分の不甲斐なさに腹が立つが、ここで癇癪を起しても何も解決しない。
俺は深呼吸し、両頬をパシリッと叩く。
落ち着け。
冷静に考えろ。
焦れば視野は狭まり、考えも浮かばない。
俺は一度家に戻り、椅子に腰掛け考える。
俺がアネッサなら……どこに向かう?
目線は木製の棚へと走り、地図を見る。
棚に駆け寄りその地図を手に取り、テーブルに広げる。
まず考えるのは街や村から離れる事。
それが大前提。
とすると、街や村が近くに無い広い平原か森か山……。
広い平原は沢山あるが、平原にはいくつも道が通って、行商人達が行き来している。
急いでる行商人によっては夜も動く者もいた。
人が通る可能性のある平原でアネッサが待機するとは思えない。
ならば、山ならどうか。
山は人が通らないが、その道は険しく平坦な道と違って登るのに時間がかかるはず。
いくら獣人族の高い身体能力があれど、空を飛べないアネッサはそこを目指すだろうか……。
何より、見渡しの良い場所にいたら、万が一幻獣化した時に目についた村や人を襲う場合も考えるはず。
地を駆け抜けれて、村からも人の通りからも離れ、尚且つ視界を遮るモノが多いのは森だ。
彼女が保護された場所が森だったのも同じ理由のはず。
だとすれば、大森林となると三つに絞られる。
北のジュラの森林。
西のリンゲンの森。
そして南西にあるシャーウッドの樹海だ。
高位の魔物が多く生息してるのはジュラの森。
けれど、それ故に冒険者が腕試しに来る事もあると聞く。
それに、森を抜けて二時間程進めば村もある。
それは割と近いと言える。
近くに村がなく、広い森ならシャーウッドの樹海だ。
低位から上位の魔物までいるが、広い樹海の為人は迷い易いとも聞く。
行商人もそこを通るのは嫌がっていた。
人が立ち入り難い場所ならまずここだ。
……しかし、そこに彼女が行った確証はない。
下手に向かって、違う場所なら明日の晩などすぐに過ぎてしまう。
今日ですら、もう昼前だ。
確証が欲しい。
そこに居るという確証が。
おまけに、俺は盗賊のいた砦で一人取り逃がしている。
これは単なる勘ではあるが、アイツは厄介な奴だった気がするのだ。
それも放ったらかしたままだ。
まずは……リンデント侯爵に事情を伝えるべきか?
だが、そんな時間すら今は惜しい……。
そんな事を考えていると、コンコンと玄関扉がノックされる。
俺は振り向き、僅かな期待を込めて扉を開くが、そこに立っていたのはサリアさんとガウェンさんだった。
二人とも顔付きがいつになく険しい。
「おはよう、シンくん。
ちょっと話があ……って……。
……なんかすごく落ち込んだ顔されたけど、私何かしたかな?」
シュンとなるサリアさん。
「いえ、そんな事ありません……。
おはようございます、サリアさん、ガウェンさん。
申し訳ないのですが、少し立て込んでいて……」
俺は一言詫びてそう言うと、サリアさんが俺の顔を覗き込んできた。
「顔色悪いよ、シンくん。
御飯食べた?ちゃんと眠ったの?
それに、服も随分汚れてるじゃない」
「それに、わずかに血の跡もあるな。
なにかあったのか?シン」
サリアさんとガウェンさんが心配そうにそう聞いてきた。
「昨晩は盗賊のアジトを襲撃して、盗賊を討伐してきたのです。
夜明け前に帰ってきたのですが、少し疲れて寝てしまって。
それで……その……起きたらアネッサが、いなくて……」
俺はどう説明するべきか、悩みながら口ごもる。
「シンくんの傍から自ら離れるなんて。
まったく、考えられないわ!」
一人鼻息荒くするサリアさん。
「サリア、深刻な話みたいだから茶化すな。
アネッサってのは最近雇った奴隷……というか、使用人の事だよな?
行先に心当たりは?」
俺は黙って首を横に振る。
「使用人が勝手に家をあけるとか、何を考え━━」
「アネッサの事は悪く言わないで下さい」
俺はサリアさんを真っすぐ見つめて、静かに力を込めてそう言い放つ。
その眼差しに、その悲痛な表情に、サリアは気圧される。
あの娘は悪くない。
傍にいると約束したのに、それを守れなかった俺が悪い……。
「……シンくん……」
そう呟き、サリアさんも今にも泣きそうな顔をする。
「おいおい、二人共そんな顔すんな。
どっちもそんな顔は似合わねぇだろ。
いつもの俺みたいな顔しやがって、まったく。
立場が変わると調子狂うぜ」
そう言ってガウェンさんがばつの悪そうな顔をして頭を掻きながらそう言った。
「シン、その娘を探してんのか?
人を探すなら当てはあるぞ」
ガウェンさんの言葉に俺は目を見開く。
「本当ですか!?」
「あぁ、知り合いの婆さんに占い師がいてな。
……おい、そんな如何わしい顔すんな。
一級品の未来視を持った婆さんなんだからよ」
俺が隠すこともなくジト目で見つめていると、心外だと言わんばかりの反応をするガウェンさん。
「リンエイ婆ちゃんね。
あの人なら、確かに人探しには適任だわ。
ちょっと……いや、かなり偏屈なお婆ちゃんだけど……」
そう言って苦笑いするサリアさん。
「未来視で、アネッサの行先がわかるのですか?」
「わかるはずだ。
確かにレベルが低い未来視じゃ大したモノが見えないし、未来記視ってのはそのスキルそのものを鍛えるのが難しいそうだがな。
最初は予知夢とか、そういうので出るらしくてな。
最初は自分の意思で使えないって話だ。
だが、長年鍛えた人は離れた相手の未来も見透かせるらしい。
魔道具も併用すりゃ、過去すら見れるって話しだ。
会ってみる価値はあるだろ?」
ガウェンさんの問いかけに俺は大きく頷く。
「はい、是非会わせて下さい」
「わかった。
だが、俺達がシンを訪ねて来たのは勿論別件でな。
シンも討伐に向かったようだが、その盗賊の話だ。
とは言え、シンも急いでるようだから、歩きながら話そうか」
そう言って先導しようとするガウェンさんの肩をガシッとサリアさんが掴む。
「その前にっ!
シンくん、まずは着替えてらっしゃい。
その恰好じゃあまりにあんまりよ。
不審に思った警備兵や自衛団の人に声かけられて無駄な時間を食っちゃうわ」
そう俺に言うサリアさん。
確かに、俺の服装はひどいものだった。
「そう、ですね。
すぐに着替えてきます。
少しだけ待っていて下さいっ」
そう言って俺は家の奥へと小走りに向かい、着替えを持って風呂場に入る。
興奮気味な自分の頭を冷やす為にも、裸になって冷水を浴びる。
そして乾いたタオルで身体を拭き、新しい衣服を着こむ。
そして風呂場を出て、着替えを取りに行く時に見た干してある上着とローブを手に取った。
アネッサ……。
あいつだってすぐにここを飛び出したかったろうに、ちゃんと洗ってくれてたんだな……。
俺はその上着とローブを一度大事そうに抱きしめ、袖を通す。
そして力強く玄関を開け、待ってる二人のもとへと向かう。
必ず手掛かりを見つけると強い想いを胸に抱いて、俺は歩き出す。
占い師のリンエイ婆ちゃんと呼ばれる人物のもとへ向かう道中、ガウェンさんが口を開く。
「先発した傭兵団の連中が幾人かがジーナスに帰ってきたんだが、ヒドイ有様だったらしくてな」
苦虫を噛んだような顔で話すガウェンさん。
「なんでも、一つ目の砦の方は全員が内部に入って奥へと進むと砦中に猛毒の霧が溢れ出したそうだ。
生き残ったのは解毒の道具や魔法が使える者達だけ。
信じられないのは盗賊もその猛毒の霧に巻き込まれ、どちらも大勢の犠牲になったって話だ」
「もう一つの砦に向かった討伐隊は、日帰りの行商に向かってた私達と道中で鉢合わせたの。
私達は村に残ってたんだけど、砦から帰ってきた傭兵達はボロボロでね。
セリーヌは夜通し彼らの治療に追われてた。
その砦は魔物を呼び寄せる香油の入った樽がいくつもぶちまけられ、近くの山岳地帯から魔物の群れが襲いかかってきたそうよ」
まったく、信じられない事するものよ
、と静かに怒るサリアさんは続ける。
「そっちも盗賊もろともやられたそうでね。
団長のフレデリック率いる精鋭が何とか魔物を返り討ちにしたようだけど、被害者は多数。
怪我人を引き連れて命からがら村まで戻ってきたみたい。
やってる事が無茶苦茶だけど、フレデリックさん曰くギルバートって奴なら考えそうな事らしいわ」
……どこの砦もそんな事があったのか。
「僕の向かった砦も、危うく洞窟の中で生き埋めにされる所でした。
僕だったから死なずに済みましたが、大人数で行ったらまず大勢の犠牲者が出ていた事でしょう。
それらを考えると、今回の討伐隊が向かってくる事は事前に予測されており、入念な準備がされたいたと考えるべきでしょうね」
「同感だ。
リゼットさんもフレデリックさんもそう言ってた。
もっとも、盗賊達の命は使い捨てのようにしている節はあるが。
だから、ジーナスに戻ってシンと合流し、情報交換をして早急に対応策を考えよう、ってのが本当の要件だったが……シンはそれどころじゃなさそうだな」
そう言って苦笑いするガウェン。
「申し訳ありません。
どうしても、今日明日はアネッサの傍にきたいのです。
それが出来ないで一人にさせている自分が不甲斐なく思うばかりですが……」
そう言って俯く俺。
そんな俺を熱い視線で見てくるサリアさん。
「言われてみたい、その言葉……。
あの娘に対する嫉妬心が物凄い勢いで高まってるんだけど、どうすれば良い?ガウェン」
「知らねぇよ……。
日記にでも思いの丈を書き綴っときゃいいだろ」
「……あんた、最近シンくんに鍛えてもらって少しばかり強くなったから調子乗ってるでしょ?そうなんでしょ!?」
「鬱陶しいなぁ。
今晩お前の愚痴は腐る程聞いてやるから今は黙っとけって」
煩わしそうに言うガウェンさん。
そして頬を膨らませるサリアさん。
いつもの二人を見て、少しだけ俺の気持ちも和んだ。
「一つ、大事な情報があります。
一人、盗賊……なのかはわかりませんが、向かったん砦で待ち構えてた奴を取り逃がしました。
テレポートのスクロールを持っていたので、逃げられまして……。
今も奴は何処かで息を潜めている、というのは脅威です」
その言葉にガウェンさんは何かを考え込む。
「フレデリックさんも同じ証言をしてた。
テレポートで逃げようとした奴がいた、と。
って事は、奴等は何処かに集まってるのか?」
「かもしれません……。
ただ、向かった先もわかりません。
だから手の打ちようが——」
無い、と俺がそう言おうとしたが、ガウェンさんがまだ開かれていないスクロールを一つ懐から取り出した。
「フレデリックさん達がスクロールを使う前に奪ったものらしい。
これはリゼットさん曰く、間違いなくテレポートのスクロールだと言っていた。
これも君に渡す為に俺達は来たんだが、もう頼めそうにも無いけれど……。
だが、これを使えば逃げたそいつの場所へ辿り着けるかもしれない」
確かに、可能性は高い。
しかし、俺が今そのテレポートの先へと向かえばアネッサのもとに向かう事はまず出来なくなる。
「シンくんと同じくらいの実力がある人がいれば任せられるんだけど、そんな人いないものね」
サリアさんは困り顔でそう言った。
その話し聞いて、俺はハッとする。
「一人……いや、一匹心当たりがあります」
その俺の呟きに二人は顔を見合わせて首を傾げる。
「一匹?」
サリアさんが不思議そうに聞き返してくる。
俺は二人を真っ直ぐに見つめ、口を開く。
「俺と同じく、一人で盗賊の砦を請け負った凄腕がいるんです。
あまり認めたくないですけど、実力は僕と同等と言えます」
その言葉に信じられない、といった顔をして目を見合わせるガウェンさんとサリアさんだった。
辺りを見回せば、そこはまだ見慣れぬ自分の家。
着ていたローブや上着が無くなっており、砂埃で汚れた肌着とズボンだけになっている。
体を起こし、片手を額につけてこの家に着いてからの事を思い出す。
ここに帰って来てから、俺はどうした……?
俺が家に帰ると、まだ朝日も昇ってない時間なのにアネッサが出迎えてくれたはずだ。
家で彼女が待っていてくれた事に、とても安堵したのは覚えてる。
その後、話をして……待て、アネッサは?
俺は顔を上げ、ベッドを飛び降りて一階に降りる。
アネッサの気配がない。
ふとテーブルを見れば、紙切れにメッセージが残されている。
『明後日には帰ります』
短く、綺麗な字でそう記されていた。
その紙切れにそっと手を置く。
馬鹿か……俺は……。
アネッサはちゃんと俺の帰りを待っていてくれていたのに、当の俺が寝入ってしまうなんて……っ。
俺は慌てて外に飛び出すが、アネッサの向かった先が検討もつかない。
ただ、間違いなくこの街にはいないだろう。
そして広い外の世界を闇雲に探し回っても、埒が明かない。
自分の不甲斐なさに腹が立つが、ここで癇癪を起しても何も解決しない。
俺は深呼吸し、両頬をパシリッと叩く。
落ち着け。
冷静に考えろ。
焦れば視野は狭まり、考えも浮かばない。
俺は一度家に戻り、椅子に腰掛け考える。
俺がアネッサなら……どこに向かう?
目線は木製の棚へと走り、地図を見る。
棚に駆け寄りその地図を手に取り、テーブルに広げる。
まず考えるのは街や村から離れる事。
それが大前提。
とすると、街や村が近くに無い広い平原か森か山……。
広い平原は沢山あるが、平原にはいくつも道が通って、行商人達が行き来している。
急いでる行商人によっては夜も動く者もいた。
人が通る可能性のある平原でアネッサが待機するとは思えない。
ならば、山ならどうか。
山は人が通らないが、その道は険しく平坦な道と違って登るのに時間がかかるはず。
いくら獣人族の高い身体能力があれど、空を飛べないアネッサはそこを目指すだろうか……。
何より、見渡しの良い場所にいたら、万が一幻獣化した時に目についた村や人を襲う場合も考えるはず。
地を駆け抜けれて、村からも人の通りからも離れ、尚且つ視界を遮るモノが多いのは森だ。
彼女が保護された場所が森だったのも同じ理由のはず。
だとすれば、大森林となると三つに絞られる。
北のジュラの森林。
西のリンゲンの森。
そして南西にあるシャーウッドの樹海だ。
高位の魔物が多く生息してるのはジュラの森。
けれど、それ故に冒険者が腕試しに来る事もあると聞く。
それに、森を抜けて二時間程進めば村もある。
それは割と近いと言える。
近くに村がなく、広い森ならシャーウッドの樹海だ。
低位から上位の魔物までいるが、広い樹海の為人は迷い易いとも聞く。
行商人もそこを通るのは嫌がっていた。
人が立ち入り難い場所ならまずここだ。
……しかし、そこに彼女が行った確証はない。
下手に向かって、違う場所なら明日の晩などすぐに過ぎてしまう。
今日ですら、もう昼前だ。
確証が欲しい。
そこに居るという確証が。
おまけに、俺は盗賊のいた砦で一人取り逃がしている。
これは単なる勘ではあるが、アイツは厄介な奴だった気がするのだ。
それも放ったらかしたままだ。
まずは……リンデント侯爵に事情を伝えるべきか?
だが、そんな時間すら今は惜しい……。
そんな事を考えていると、コンコンと玄関扉がノックされる。
俺は振り向き、僅かな期待を込めて扉を開くが、そこに立っていたのはサリアさんとガウェンさんだった。
二人とも顔付きがいつになく険しい。
「おはよう、シンくん。
ちょっと話があ……って……。
……なんかすごく落ち込んだ顔されたけど、私何かしたかな?」
シュンとなるサリアさん。
「いえ、そんな事ありません……。
おはようございます、サリアさん、ガウェンさん。
申し訳ないのですが、少し立て込んでいて……」
俺は一言詫びてそう言うと、サリアさんが俺の顔を覗き込んできた。
「顔色悪いよ、シンくん。
御飯食べた?ちゃんと眠ったの?
それに、服も随分汚れてるじゃない」
「それに、わずかに血の跡もあるな。
なにかあったのか?シン」
サリアさんとガウェンさんが心配そうにそう聞いてきた。
「昨晩は盗賊のアジトを襲撃して、盗賊を討伐してきたのです。
夜明け前に帰ってきたのですが、少し疲れて寝てしまって。
それで……その……起きたらアネッサが、いなくて……」
俺はどう説明するべきか、悩みながら口ごもる。
「シンくんの傍から自ら離れるなんて。
まったく、考えられないわ!」
一人鼻息荒くするサリアさん。
「サリア、深刻な話みたいだから茶化すな。
アネッサってのは最近雇った奴隷……というか、使用人の事だよな?
行先に心当たりは?」
俺は黙って首を横に振る。
「使用人が勝手に家をあけるとか、何を考え━━」
「アネッサの事は悪く言わないで下さい」
俺はサリアさんを真っすぐ見つめて、静かに力を込めてそう言い放つ。
その眼差しに、その悲痛な表情に、サリアは気圧される。
あの娘は悪くない。
傍にいると約束したのに、それを守れなかった俺が悪い……。
「……シンくん……」
そう呟き、サリアさんも今にも泣きそうな顔をする。
「おいおい、二人共そんな顔すんな。
どっちもそんな顔は似合わねぇだろ。
いつもの俺みたいな顔しやがって、まったく。
立場が変わると調子狂うぜ」
そう言ってガウェンさんがばつの悪そうな顔をして頭を掻きながらそう言った。
「シン、その娘を探してんのか?
人を探すなら当てはあるぞ」
ガウェンさんの言葉に俺は目を見開く。
「本当ですか!?」
「あぁ、知り合いの婆さんに占い師がいてな。
……おい、そんな如何わしい顔すんな。
一級品の未来視を持った婆さんなんだからよ」
俺が隠すこともなくジト目で見つめていると、心外だと言わんばかりの反応をするガウェンさん。
「リンエイ婆ちゃんね。
あの人なら、確かに人探しには適任だわ。
ちょっと……いや、かなり偏屈なお婆ちゃんだけど……」
そう言って苦笑いするサリアさん。
「未来視で、アネッサの行先がわかるのですか?」
「わかるはずだ。
確かにレベルが低い未来視じゃ大したモノが見えないし、未来記視ってのはそのスキルそのものを鍛えるのが難しいそうだがな。
最初は予知夢とか、そういうので出るらしくてな。
最初は自分の意思で使えないって話だ。
だが、長年鍛えた人は離れた相手の未来も見透かせるらしい。
魔道具も併用すりゃ、過去すら見れるって話しだ。
会ってみる価値はあるだろ?」
ガウェンさんの問いかけに俺は大きく頷く。
「はい、是非会わせて下さい」
「わかった。
だが、俺達がシンを訪ねて来たのは勿論別件でな。
シンも討伐に向かったようだが、その盗賊の話だ。
とは言え、シンも急いでるようだから、歩きながら話そうか」
そう言って先導しようとするガウェンさんの肩をガシッとサリアさんが掴む。
「その前にっ!
シンくん、まずは着替えてらっしゃい。
その恰好じゃあまりにあんまりよ。
不審に思った警備兵や自衛団の人に声かけられて無駄な時間を食っちゃうわ」
そう俺に言うサリアさん。
確かに、俺の服装はひどいものだった。
「そう、ですね。
すぐに着替えてきます。
少しだけ待っていて下さいっ」
そう言って俺は家の奥へと小走りに向かい、着替えを持って風呂場に入る。
興奮気味な自分の頭を冷やす為にも、裸になって冷水を浴びる。
そして乾いたタオルで身体を拭き、新しい衣服を着こむ。
そして風呂場を出て、着替えを取りに行く時に見た干してある上着とローブを手に取った。
アネッサ……。
あいつだってすぐにここを飛び出したかったろうに、ちゃんと洗ってくれてたんだな……。
俺はその上着とローブを一度大事そうに抱きしめ、袖を通す。
そして力強く玄関を開け、待ってる二人のもとへと向かう。
必ず手掛かりを見つけると強い想いを胸に抱いて、俺は歩き出す。
占い師のリンエイ婆ちゃんと呼ばれる人物のもとへ向かう道中、ガウェンさんが口を開く。
「先発した傭兵団の連中が幾人かがジーナスに帰ってきたんだが、ヒドイ有様だったらしくてな」
苦虫を噛んだような顔で話すガウェンさん。
「なんでも、一つ目の砦の方は全員が内部に入って奥へと進むと砦中に猛毒の霧が溢れ出したそうだ。
生き残ったのは解毒の道具や魔法が使える者達だけ。
信じられないのは盗賊もその猛毒の霧に巻き込まれ、どちらも大勢の犠牲になったって話だ」
「もう一つの砦に向かった討伐隊は、日帰りの行商に向かってた私達と道中で鉢合わせたの。
私達は村に残ってたんだけど、砦から帰ってきた傭兵達はボロボロでね。
セリーヌは夜通し彼らの治療に追われてた。
その砦は魔物を呼び寄せる香油の入った樽がいくつもぶちまけられ、近くの山岳地帯から魔物の群れが襲いかかってきたそうよ」
まったく、信じられない事するものよ
、と静かに怒るサリアさんは続ける。
「そっちも盗賊もろともやられたそうでね。
団長のフレデリック率いる精鋭が何とか魔物を返り討ちにしたようだけど、被害者は多数。
怪我人を引き連れて命からがら村まで戻ってきたみたい。
やってる事が無茶苦茶だけど、フレデリックさん曰くギルバートって奴なら考えそうな事らしいわ」
……どこの砦もそんな事があったのか。
「僕の向かった砦も、危うく洞窟の中で生き埋めにされる所でした。
僕だったから死なずに済みましたが、大人数で行ったらまず大勢の犠牲者が出ていた事でしょう。
それらを考えると、今回の討伐隊が向かってくる事は事前に予測されており、入念な準備がされたいたと考えるべきでしょうね」
「同感だ。
リゼットさんもフレデリックさんもそう言ってた。
もっとも、盗賊達の命は使い捨てのようにしている節はあるが。
だから、ジーナスに戻ってシンと合流し、情報交換をして早急に対応策を考えよう、ってのが本当の要件だったが……シンはそれどころじゃなさそうだな」
そう言って苦笑いするガウェン。
「申し訳ありません。
どうしても、今日明日はアネッサの傍にきたいのです。
それが出来ないで一人にさせている自分が不甲斐なく思うばかりですが……」
そう言って俯く俺。
そんな俺を熱い視線で見てくるサリアさん。
「言われてみたい、その言葉……。
あの娘に対する嫉妬心が物凄い勢いで高まってるんだけど、どうすれば良い?ガウェン」
「知らねぇよ……。
日記にでも思いの丈を書き綴っときゃいいだろ」
「……あんた、最近シンくんに鍛えてもらって少しばかり強くなったから調子乗ってるでしょ?そうなんでしょ!?」
「鬱陶しいなぁ。
今晩お前の愚痴は腐る程聞いてやるから今は黙っとけって」
煩わしそうに言うガウェンさん。
そして頬を膨らませるサリアさん。
いつもの二人を見て、少しだけ俺の気持ちも和んだ。
「一つ、大事な情報があります。
一人、盗賊……なのかはわかりませんが、向かったん砦で待ち構えてた奴を取り逃がしました。
テレポートのスクロールを持っていたので、逃げられまして……。
今も奴は何処かで息を潜めている、というのは脅威です」
その言葉にガウェンさんは何かを考え込む。
「フレデリックさんも同じ証言をしてた。
テレポートで逃げようとした奴がいた、と。
って事は、奴等は何処かに集まってるのか?」
「かもしれません……。
ただ、向かった先もわかりません。
だから手の打ちようが——」
無い、と俺がそう言おうとしたが、ガウェンさんがまだ開かれていないスクロールを一つ懐から取り出した。
「フレデリックさん達がスクロールを使う前に奪ったものらしい。
これはリゼットさん曰く、間違いなくテレポートのスクロールだと言っていた。
これも君に渡す為に俺達は来たんだが、もう頼めそうにも無いけれど……。
だが、これを使えば逃げたそいつの場所へ辿り着けるかもしれない」
確かに、可能性は高い。
しかし、俺が今そのテレポートの先へと向かえばアネッサのもとに向かう事はまず出来なくなる。
「シンくんと同じくらいの実力がある人がいれば任せられるんだけど、そんな人いないものね」
サリアさんは困り顔でそう言った。
その話し聞いて、俺はハッとする。
「一人……いや、一匹心当たりがあります」
その俺の呟きに二人は顔を見合わせて首を傾げる。
「一匹?」
サリアさんが不思議そうに聞き返してくる。
俺は二人を真っ直ぐに見つめ、口を開く。
「俺と同じく、一人で盗賊の砦を請け負った凄腕がいるんです。
あまり認めたくないですけど、実力は僕と同等と言えます」
その言葉に信じられない、といった顔をして目を見合わせるガウェンさんとサリアさんだった。
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敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
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88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
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