異世界転生した俺は最強の魔導騎士になる

ひとつめ帽子

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第3章 少年期中編

第42話 死闘

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 しばし睨み合っていた二人であったが、動き出したのはほぼ同時。
シンは真横に駆け出し、片手を掲げて魔法陣を展開し、風雷の槍を五発続けて放つ。
対する半幻獣は避けることもせず真っ直ぐ突き進み、風雷の槍は煌めく結晶の領域に入ると四散してしまう。
シンは目を見開き驚くが、すでに半幻獣は目の前。

 振るわれる鋭い爪の一撃を辛うじて避け、腰を落として紅魔の籠手を構築し、拳を振るう。
半幻獣の脇腹を正確に狙ったのだが、神掛かった反応で半幻獣は身をよじって躱し、体を捻って回し蹴りを放ってくる。
その蹴りの速度はもはや避けきれるものではなく、左腕振り上げその蹴りをガードした途端、腕から骨が粉砕する音が聞こえて小柄のシンは吹っ飛ばされる。
ゴロゴロと地面を転がるも、右手と両足に力を込めて体勢を立て直す。
しかし、半幻獣は既に視界からは消えている。

 再び襲いかかってくる半幻獣の気配を真上から感じて、雷を纏い雷速で距離を取る。
自分の元いた場所に半幻獣の両爪が振り下ろされ、その斬撃による衝撃で地面が割れ、大きく切り裂かれる。
半幻獣は着地と同時に地面を蹴りつけ急加速し、直ぐ様シンに追従する。
それを見てシンも冷や汗をかきながら分析する。

 攻撃力は俺より上。
身体金剛を纏い、あのシザースナイトの刃をも防いだ腕を軽々とへし折る威力。
その上雷速の動きについてくるこの速度。
更に魔法が半幻獣まで届かないというおまけ付き。

 シンはその現実に顔をしかめる。
続け様に雷速で距離を取っても追い続けてくる半幻獣。
こちらの移動は一直線の移動を繰り返すしかできないが、相手は高速で縦横無尽に駆け回っている。
しかも、回復魔法を腕にかけようもしても、半幻獣が近付くと魔法が発動しなくなる。
つまり、接近戦をすれば魔法も使えない。
けれど、距離をとろうと思っても直ぐ様追いつかれる。

 半端じゃないな、コイツ……。

 それでも高速自然治癒により、粉砕骨折程度なら数十秒で完治し、両腕が自由になる。

 これだけ早くに追いつかれるなら、接近戦でやり合うしかないと悟り、両手に風刃の刀、“嵐丸”を構築する。
知覚速度を最速まで引き上げ、相手の動きを予測し刀を振るう。
剣術を進化させ、剣豪の域に達したその太刀筋は鋭く、目にも留まらぬ速さで振り抜かれる。
しかし、いとも容易く半幻獣はその刃を受け止め、そのまま握りしめて粉砕する。
驚くシンに急接近した半幻獣は口を大きく開き、シンの肩を噛み砕く。

「うっぐ——ッ!!」

 小さく呻き、再度雷速で距離をとるが、痛みで移動距離が伸びず、即座に追いつかれる。
再度身体を紫電に変貌させるが、本来捉えられない実態を半幻獣の拳が捉え、顔面を殴打され再度吹っ飛ばされる。
雷化が強制的に解かれ、大木にぶち当たって視界が明点し、意識が一瞬持ってかれる。

 崩れ落ちそうになる俺は震える膝に無理やり力を入れ、ゆっくり立ち上がる。
そんな俺に悠然と歩いて近付いてくる半幻獣。
半幻獣は呆れたような顔で声を掛けてくる。

「おいおい、小僧。
威勢が良かった割に大したことないではないか。
これではさっきの猫の方がまだマシだぞ。
しかもお前、私の力もろくに理解せずに立ち向かってきたようだな?
全くお笑い種だ。
それで私に勝てるとでも思ったのか?」

 そう言いながら嘲笑う半幻獣。

「……正直、こんなにヤバイ相手だとは思ってなかったよ……。
そもそも、幻獣のお前は明日の晩に目を覚ますんじゃねぇのかよ?」

 忌々しげに俺が問いかけると、半幻獣は鼻で笑って答える。

「ハッ!知識不足も甚だしいな。
確かに、明日の晩は完全なる幻獣化となるが、既に今晩の月もほぼ真紅の満月に近い状態。
完全じゃなくとも、本来の能力の半分くらいは引き出せる。
故に、今夜の私にすら劣勢のお前では明日の晩は万に一つも勝ち目なんかない。
そもそも、お前は今夜すら乗り越えられん。
お前の命は今夜で終わりだ。
血肉を散らして死ね」

 そう言い放ち、ゆっくりと歩き出した半幻獣がシンに迫る。

「……仮にもアネッサの姿で、そういう事言われると、精神的にくるもんがあるっての……」

 ボソりと呟き、シンは冷静に片手を掲げ、魔法陣を展開させる。
正面に出来上がるのは分厚く巨大な氷壁。
しかし半幻獣の拳が触れただけでその氷壁は砕け散る。
こうなる事は承知の上。
欲しかったのは少しの時間。
シンは抉り取られた肩に片手を当て、傷を完治させる。
更に意識を集中させて烈風迅雷の魔巧の極大魔法を展開させる。

 シンの周囲を吹き荒れる稲妻の大嵐、雷神の大嵐ライジングテンペスト
吹き荒れる風雷の烈刃は近付く者を切り刻み、尽く消滅させるのだが半幻獣は表情一つ変えずに歩みを止めず突き進む。
半幻獣を囲う煌めく結晶の輝きは増し、魔法を完全に無効化させているようだった。

 しかし、この極大魔法も効かないのはわかっている。
ようは時間稼ぎ。
魔法を放ちながら、別の術式が頭の中を巡る。
頭がかち割れそうになる作業だが、相手が余裕を持ってる隙を逃す訳にはいかない。
そして、ようやく一つの術式が完成する。
片手を胸に当て、術式を解放する。

「……そんじゃあやり合おうか、フェンリルッ。
“烈風迅雷の夜叉”ッ!!」

 直後、シンの身体が変貌する。
紫電を纏った雷化とも違う、もはや別の存在への変化。
それは二つの属性魔法の魔導を鍛え上げ、極地に到達したシンが編み出した固有魔法。
もはやそれは身体強化というより、進化に近い。

 シンの髪の毛は白く色が変わり、瞳は真っ赤に染まる。
鼻から額までを覆う面が構築され、それには鋭い二本の漆黒の角が長く伸びている。
着ていたローブも真っ白に変わり身体からは雷と風が迸る。
その変化に警戒したのか、半幻獣は瞬動で距離を一気に詰め、鋭い爪撃が首元を狙う。

 爪が首を跳ねる前に、僅かに屈んだシンは拳を振るう。
半幻獣の爪が届くより先にシンの拳が顔面と腹部を乱打する。
その数は実に十五発。
それをほぼ一瞬で放ち、半幻獣が後方へと吹き飛ばされる。

 さっきまでは反応すら一苦労の半幻獣の動きをようやく対応出来るようになる。
こちらの速度はさっきまでとは次元が違う。
常時雷速化しているその身体はその身体能力を十全に発揮出来るよう最速の知覚能力も併用して使っている。
故に、この状態は長くは保たない。
制限時間は僅か二分弱。
その僅かな時間に全てを込める。

 吹き飛んだ半幻獣は宙を蹴り上げ、上空へと舞い上がる。
そして片手を天に掲げると、実に三○本の結晶槍が周囲を取り囲む。

「貫けッ!!」

 半幻獣の鋭い一声を皮切りに、結晶槍が放たれ、同時に半幻獣もジグザグに突撃してくる。
俺は四方八方から飛んでくる結晶槍を躱して宙へと舞い上がり、轟音を上げて振るわれる両腕の爪撃をも避け、すれ違い様にその背中に手刀を叩き込む。
激しい雷撃が迸り、衝撃と暴風が半幻獣を地面に叩きつけた。
地面は砕け、大きく地割れが起こり半幻獣はめり込んでクレーターを作り、瓦礫に埋もれていく。




 シンは上空から警戒を緩めず巨大なクレーターに目を向ける。
恐らく、ダメージとして伝ったのは物理的なダメージのみだろう。
魔法の威力はほぼ殺されているはず。
で、あるならば致命傷とは言えないはず。

 シンが瞬時に地面に着地するのと同時に、瓦礫が吹き飛び埋もれていた半幻獣が姿を見せる。
構える半幻獣が咆哮するように叫ぶ。

「“本能覚醒”ッ!!!」

 その直後、半幻獣の姿が変貌する。
シンは何が起こるかはわからなかったが、危険を察知し完全にその姿が切り替わる前に決着をつけるべく地面を蹴りつける。
しかし、振るわれるシンの拳は半幻獣の手の平に受け止められる。
その姿は既に全身が銀の体毛に包まれ、至る所から鋭い結晶が突き出し煌めいている。

 それは銀色の人狼ワーウルフの姿。
金色に輝く両眼は鋭くシンを睨みつけ、両手両足の爪がシンを襲う。
目にも留まらぬその斬撃をシンは超人的な反応速度で避け、反撃するが今度は覚醒した半幻獣も回避してくる。
その当たらない攻撃の応酬はただ大気を切り裂き、天と地を割っていく。

「ハ……ハハッ!アハハッ!!
お前は最高だな、小僧ッ!!
よもや私にここまで食い下がるとはッ!」

 その言葉に応える余裕はシンには無い。
ただ、この“烈風迅雷の夜叉”を持ってしても互角というのは嫌気がさす。
時間はもうほとんど残っていない。
渾身の力を拳に込め、振り抜くとその拳が半幻獣の頬を捉えた。
手応えを感じたのと同時に、胸に鋭い痛みが走る。
こちらの胸にもまた、半幻獣の鋭い結晶爪が突き刺さっていた。
直後、互いに吹き飛ぶ二人。

 後方に吹っ飛びながら、シンの身体が元に戻るのを感じた。

 時間切れというのもあるが、恐らく結晶爪の一撃が身体に付与した魔導術式を破壊したな……。

 そんなことを考えながら、地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がるシン。
霞んだ視界で半幻獣が立ち上がるのを見た。

 ヤベェなぁ……。
マナ切れとか何年ぶりだよ……。
もう、指先すら動かねぇ……。

 ゆっくり闇に落ちていくシンの耳に近付く足音が聞こえた。
そして、か細い悲鳴にも似た声が届いた。

「……シン様……ッ。
死なないでっ!シン様ッ!!」

 その声を聞き、安堵した俺の意識は今度こそ暗闇に落ちていく。
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