72 / 113
第4章 少年期後編
第66話 旅立つ者
しおりを挟む
「リアナッ!」
走り出すリアナに俺は声をかけたが、それに構わず走り去っていく。
そして派手に前のめりに転んでしまう。
だ、大丈夫か!?
しかし、リアナは意に介さず再び立ち上がり、また走り出す。
「あーあ、リアナを泣かせるなんて罪な男ね、あんた」
ミーシャさんはジト目で俺を見てくる。
ま、待て……泣かせるつもりは無かったんだ……。
「ちょ、ちょっと、行ってきます!
ジノ、お前も皆に謝っておけよッ!
ミーシャさん、アネッサの事頼みますッ!」
そう言って俺も駆け出した。
「シン様、私も行きましょうか?」
アネッサも付いていこうとするが、その肩をミーシャがガシッと掴む。
「やめときなさいって!
あんたが行くとややこしくなるから。
それよりー、シンとの関係について教えなさいよー」
そう言って細い腕をアネッサの首に回すミーシャさん。
その顔には満面の笑みを浮かべていた。
少し不安ではあるが、ミーシャさんにアネッサを任せ、俺はリアナの後を追う。
子供の足だ。
そう遠くへは行けないはず。
しばらく走っていると、泣き声が微かに聞こえてきた。
リアナの声である。
その方向へ近付いて行くと、泉の畔でへたり込み、大声で泣いているリアナがそこにいた。
「……リアナ」
俺が声をかけると、我に返ったようにこちらを見やるリアナ。
顔は涙と鼻水でグシャグシャだった。
せっかくの可愛い顔が台無しである。
「その……ゴメンよ……。
泣かせるような事を言ってしまって……」
俺は頭を下げる。
それを聞いたリアナはプイッとまたそっぽを向いて服の袖でくしゃくしゃの顔を拭う。
「……ない……」
何かボソッと呟いているが、上手く聞き取れない。
「え?」
俺は聞き返しながら近づくと、勢いよく立ち上がったリアナは振り返って口を開く。
「わかってないッ!」
その気迫に思わず一歩後ずさる。
相手はまだ十二歳の子供。
こちらは幾度も死線を潜り抜けた猛者の中の猛者。
にも関わらず強い意志と想いを込めて睨むそのリアナの気迫は鬼気迫るものがあった。
「シンは何にもわかってないッ!
私は……私はッ!!
ずっと、シンだけを……ッ!」
ギリっと歯を噛みしめるリアナ。
流石の俺もここでリアナの言いたい事を理解する。
リアナ、俺の事が異性として好き。
俺、また会う約束はしたものの、異性としては捉えられず。
リアナ、離れてる間も俺の事を想い続ける。
俺、それを鑑みず、久々に再会したら別の女と同居を公言。
……俺クズじゃんッ!
いや、待て!
待て待て待てッ!
リアナはまだ十二歳だ!
前の世界で言えばまだ小学校六年生くらいだぞ!?
色恋沙汰が引き起こるには早過ぎるだろうがッ!
ましてや二年前はもっと幼い!
そんなリアナにゾッコンなら俺はロリコン確定じゃねぇかッ!!
しかし、目の前のリアナは今まで見たことないくらい怒ってる。
母親似の美しいプラチナブロンドの髪が重力に逆らいそうな勢いである。
そんなリアナは突然睨むのを止め、またそっぽを向き膝を抱えて座り込む。
俺は未だ大混乱中の上、この現状をどう打破するべきか冷や汗をダラダラかきながら模索し続ける。
「……シンと、あの人はどんな関係なの……?」
「うぇ?」
うぉ、突然の問いかけに変な声が出ちまった。
ど、どんな関係、か。
アネッサは……。
……俺の奴隷である。
いや!いやいやいや!
そんな事を言えば余計に話が拗れる!
事実だけど……。
えーっと、使用人……か?
でも俺の使用人というだけならわざわざ里にまで連れてくるか?って話しだ。
お前どんだけ身の回りの事出来ないクズ野郎だよ、って話になる。
う、うーん……。
恋人……でもない……よな。
よくよく考えれば、アネッサが俺の事を異性としてどう捉えているのかしっかり聞いたことが無い。
嫌われてはいないし、好かれてはいると思うけど……。
逆に俺はアネッサをどう思ってるんだ?
えーっと……大切な人……?
大事な仲間……。
異性としては……?
そりゃあ、好きじゃない訳がない。
見た目もさる事ながら、毎日俺に献身的に尽くしてくれる。
優しいし気がきくし、見てて癒される。
でも、一人の女性として好きなのか、と問われると、答えに詰まる。
恋とは何か。
愛とは何か。
もはや哲学である。
前の世界で恋愛偏差値が低すぎた事がこんな所で影響が出るなんてッ。
クソッ、正解の言葉が見つからんッ!
俺は知覚を最速化させ、頭の中でグルグルと考えなんとか言葉をひねり出す。
「アネッサは、俺にとって……大切な人だ。
とても、大切な人だ」
俺は覚悟を決めたようにカラカラの喉から声を出す。
「……それは、私よりも?」
ええええええ!?
なんだその二択!?
どっちを選んでも地雷じゃありません!?
「比べるようなものじゃない。
リアナも俺にとって大切だし、アネッサも俺にとって大切だ。
リアナだって大切な人は沢山いるだろう?」
その言葉にリアナはしばし沈黙する。
そしてゆっくり立ち上がり、振り返ると俺をジッと見つめてくる。
そしてリアナは儚げに笑ってこう言った。
「そうだね……。
大切な人は沢山いるわ。
でも、私にとってシンは特別だったの。
本当に、特別、大切だったの……」
そう言い残し、俺の横をすり抜けて広場の方へとゆっくり歩き出していった。
残された俺はその言葉がいつまでも頭の中で鳴り響き、ただ呆然としていた。
「おい、コイツはどうしたのだ?」
里の皆に一通りの事情を説明し終えたジノが帰ってくると、机の上に突っ伏して抜け殻状態の俺を指差してアネッサに尋ねる。
「そ、その……わかりませんが、帰ってきてからこの調子で……」
アネッサも困ったような顔でそんな俺を見守っていた。
「まったく。
お前という奴は。
これから私がいなくなるというのに。
しっかりしろ、おい」
ガクガクと俺の肩を揺するジノだが変わらず遠い目をしている俺。
「はぁ……。
アネッサ君。
済まないがコイツの事を頼めるか」
溜息をついてアネッサに頼むジノ。
「はい。シン様の事はお任せ下さい」
キリッと顔を引き締めて力強く返事をするアネッサ。
その顔を見て微笑むジノ。
「頼もしい限りだ。
家の日課はこいつも知っているが、一応説明しておこう。
外にある花壇の水やりは泉から汲んでやってくれ。
あの泉は聖樹ユルダの力を受けて特殊な力が宿っている。
それを朝夕日に二回。
やり過ぎは注意だ。
根が腐る。
それにあの本棚の整理はしなくていい。
後でどこに何があるのかわからなくなっては事だ。
あとは……」
「姑かよ、ジノ……」
俺がボソリと呟くとガシッと頭を鷲掴みにされる。
「お前がしっかりしていればそれで済むのだ。
いつまでも呆けている場合ではないぞ」
「だ、大丈夫です。
きちんと覚えますので」
慌てて止めに入るアネッサ。
一度言われた事は忘れない。
超優秀なアネッサである。
しばらく面倒臭い姑の如く、細かい日課をアネッサに言い伝えるジノ。
それを嫌な顔せずウンウン、と頷きながら頭に叩き込むアネッサ。
いつかジノが窓枠とか棚とかを指でスッとして「ここに埃があるんだが?」とか言わないよな。
「おい、シン。
ルナの話ではエルフ王国からここを守る精鋭が来るという話だ。
だが、聖樹ユルダには絶対触れさせるな。
あの大樹は見た目以上に脆い。
私が幾十も重ねて結界を張っているから問題は無いはずだが、万が一もあり得る。
警戒しておけよ」
「ここを守る奴らなんだろー……。
そんな事しないだろー……」
俺が気の抜けた声でそう答えると胸倉を掴まれる。
「シンッ!
大事な話だ、よく聞け。
里の者以外を信用するな。
常に警戒しておけ。
アネッサ君は特例だが、外からやってくる連中に魔将の息がかかってないとも限らんのだ。
私が他でもないお前を選んだ意味を良く考えろ」
その真剣な言葉に流石の俺も息を吹き返す。
「……わかってるよ、ジノ。
この里は俺が責任を持って守る。
そこは任せておけ」
ジノは目を細めてその意思を確かめるような眼差しでしばし見つめ、手を離す。
「わかっているなら、それで良い」
そう言ってジノはローブを纏い、荷物を肩から引っ提げる。
「私はそろそろ行かねばならん。
あまり遅くなってはルナが激怒するからな」
そう言って玄関扉を開くジノ。
「ジノ、お前に言う必要は無いと思うが、死ぬなよ」
俺がその背中に声をかけると、ジノがゆっくり振り返る。
「……死ぬつもりはない。
だが、かなり苛烈な戦になるはずだ。
油断は出来ん」
険しい顔つきでジノは言う。
そして俺をジッと見つめて、しばらく押し黙り、再び口を開く。
「……いつか、お前には話そうと思っていた。
お前には、本当に感謝しているのだ」
「おい、お前に似合わないフラグを立てるのは止めろ」
俺がすかさず突っ込むが、意味が伝わらないジノは小首を傾げるだけだった。
「相変わらずよくわからん事を。
真面目な話だ、よく聞け。
お前が私に約束した事は覚えているか?」
んー?
約束した事?
あれか、魔導騎士になるってやつか?
「覚えてるぞ」
「本当か?
お前は勘違いしてそうだな。
なんにせよ、私はその言葉に救われたのだ」
「え?俺が魔導騎士になるとお前救われるの?」
俺の素っ頓狂な発言にジノは素早いチョップを顔面に放つ。
「戯けッ。
その後だ。
ええい、調子が崩れる。
忘れているならもう良い。
私は行く」
呆れた顔をして背を向けるジノ。
俺は、はて?と記憶を手繰り寄せようとする。
そんな俺を余所に、ジノは外に出ると、一枚の巻物を開いていく。
するとジノの足元に魔法陣が出来上がる。
「シン……。
後は……お前に任せたぞ」
ジノは顔だけ振り返り、俺にそう告げた。
その顔は、何処かもの悲しげに見えた。
「ん?おお。任せとけ」
俺は考えるのを止めて胸を叩いて返事をする。
それを見たジノは優しく微笑み、その姿が掻き消える。
転移魔法によって場所を変えたのだろう。
俺は再び記憶を手繰り寄せながら、玄関の扉を閉めた。
こうして、呆気なく俺とジノは別れを迎えた。
そして、ジノの最後の言葉の意味を知るのは、もう少し先になる。
アイツは……。
ジノは、多くの想いを込めて最後の言葉を俺に伝えたのだ、と。
その時の俺にはわからなかった。
何も、わかっていなかった。
走り出すリアナに俺は声をかけたが、それに構わず走り去っていく。
そして派手に前のめりに転んでしまう。
だ、大丈夫か!?
しかし、リアナは意に介さず再び立ち上がり、また走り出す。
「あーあ、リアナを泣かせるなんて罪な男ね、あんた」
ミーシャさんはジト目で俺を見てくる。
ま、待て……泣かせるつもりは無かったんだ……。
「ちょ、ちょっと、行ってきます!
ジノ、お前も皆に謝っておけよッ!
ミーシャさん、アネッサの事頼みますッ!」
そう言って俺も駆け出した。
「シン様、私も行きましょうか?」
アネッサも付いていこうとするが、その肩をミーシャがガシッと掴む。
「やめときなさいって!
あんたが行くとややこしくなるから。
それよりー、シンとの関係について教えなさいよー」
そう言って細い腕をアネッサの首に回すミーシャさん。
その顔には満面の笑みを浮かべていた。
少し不安ではあるが、ミーシャさんにアネッサを任せ、俺はリアナの後を追う。
子供の足だ。
そう遠くへは行けないはず。
しばらく走っていると、泣き声が微かに聞こえてきた。
リアナの声である。
その方向へ近付いて行くと、泉の畔でへたり込み、大声で泣いているリアナがそこにいた。
「……リアナ」
俺が声をかけると、我に返ったようにこちらを見やるリアナ。
顔は涙と鼻水でグシャグシャだった。
せっかくの可愛い顔が台無しである。
「その……ゴメンよ……。
泣かせるような事を言ってしまって……」
俺は頭を下げる。
それを聞いたリアナはプイッとまたそっぽを向いて服の袖でくしゃくしゃの顔を拭う。
「……ない……」
何かボソッと呟いているが、上手く聞き取れない。
「え?」
俺は聞き返しながら近づくと、勢いよく立ち上がったリアナは振り返って口を開く。
「わかってないッ!」
その気迫に思わず一歩後ずさる。
相手はまだ十二歳の子供。
こちらは幾度も死線を潜り抜けた猛者の中の猛者。
にも関わらず強い意志と想いを込めて睨むそのリアナの気迫は鬼気迫るものがあった。
「シンは何にもわかってないッ!
私は……私はッ!!
ずっと、シンだけを……ッ!」
ギリっと歯を噛みしめるリアナ。
流石の俺もここでリアナの言いたい事を理解する。
リアナ、俺の事が異性として好き。
俺、また会う約束はしたものの、異性としては捉えられず。
リアナ、離れてる間も俺の事を想い続ける。
俺、それを鑑みず、久々に再会したら別の女と同居を公言。
……俺クズじゃんッ!
いや、待て!
待て待て待てッ!
リアナはまだ十二歳だ!
前の世界で言えばまだ小学校六年生くらいだぞ!?
色恋沙汰が引き起こるには早過ぎるだろうがッ!
ましてや二年前はもっと幼い!
そんなリアナにゾッコンなら俺はロリコン確定じゃねぇかッ!!
しかし、目の前のリアナは今まで見たことないくらい怒ってる。
母親似の美しいプラチナブロンドの髪が重力に逆らいそうな勢いである。
そんなリアナは突然睨むのを止め、またそっぽを向き膝を抱えて座り込む。
俺は未だ大混乱中の上、この現状をどう打破するべきか冷や汗をダラダラかきながら模索し続ける。
「……シンと、あの人はどんな関係なの……?」
「うぇ?」
うぉ、突然の問いかけに変な声が出ちまった。
ど、どんな関係、か。
アネッサは……。
……俺の奴隷である。
いや!いやいやいや!
そんな事を言えば余計に話が拗れる!
事実だけど……。
えーっと、使用人……か?
でも俺の使用人というだけならわざわざ里にまで連れてくるか?って話しだ。
お前どんだけ身の回りの事出来ないクズ野郎だよ、って話になる。
う、うーん……。
恋人……でもない……よな。
よくよく考えれば、アネッサが俺の事を異性としてどう捉えているのかしっかり聞いたことが無い。
嫌われてはいないし、好かれてはいると思うけど……。
逆に俺はアネッサをどう思ってるんだ?
えーっと……大切な人……?
大事な仲間……。
異性としては……?
そりゃあ、好きじゃない訳がない。
見た目もさる事ながら、毎日俺に献身的に尽くしてくれる。
優しいし気がきくし、見てて癒される。
でも、一人の女性として好きなのか、と問われると、答えに詰まる。
恋とは何か。
愛とは何か。
もはや哲学である。
前の世界で恋愛偏差値が低すぎた事がこんな所で影響が出るなんてッ。
クソッ、正解の言葉が見つからんッ!
俺は知覚を最速化させ、頭の中でグルグルと考えなんとか言葉をひねり出す。
「アネッサは、俺にとって……大切な人だ。
とても、大切な人だ」
俺は覚悟を決めたようにカラカラの喉から声を出す。
「……それは、私よりも?」
ええええええ!?
なんだその二択!?
どっちを選んでも地雷じゃありません!?
「比べるようなものじゃない。
リアナも俺にとって大切だし、アネッサも俺にとって大切だ。
リアナだって大切な人は沢山いるだろう?」
その言葉にリアナはしばし沈黙する。
そしてゆっくり立ち上がり、振り返ると俺をジッと見つめてくる。
そしてリアナは儚げに笑ってこう言った。
「そうだね……。
大切な人は沢山いるわ。
でも、私にとってシンは特別だったの。
本当に、特別、大切だったの……」
そう言い残し、俺の横をすり抜けて広場の方へとゆっくり歩き出していった。
残された俺はその言葉がいつまでも頭の中で鳴り響き、ただ呆然としていた。
「おい、コイツはどうしたのだ?」
里の皆に一通りの事情を説明し終えたジノが帰ってくると、机の上に突っ伏して抜け殻状態の俺を指差してアネッサに尋ねる。
「そ、その……わかりませんが、帰ってきてからこの調子で……」
アネッサも困ったような顔でそんな俺を見守っていた。
「まったく。
お前という奴は。
これから私がいなくなるというのに。
しっかりしろ、おい」
ガクガクと俺の肩を揺するジノだが変わらず遠い目をしている俺。
「はぁ……。
アネッサ君。
済まないがコイツの事を頼めるか」
溜息をついてアネッサに頼むジノ。
「はい。シン様の事はお任せ下さい」
キリッと顔を引き締めて力強く返事をするアネッサ。
その顔を見て微笑むジノ。
「頼もしい限りだ。
家の日課はこいつも知っているが、一応説明しておこう。
外にある花壇の水やりは泉から汲んでやってくれ。
あの泉は聖樹ユルダの力を受けて特殊な力が宿っている。
それを朝夕日に二回。
やり過ぎは注意だ。
根が腐る。
それにあの本棚の整理はしなくていい。
後でどこに何があるのかわからなくなっては事だ。
あとは……」
「姑かよ、ジノ……」
俺がボソリと呟くとガシッと頭を鷲掴みにされる。
「お前がしっかりしていればそれで済むのだ。
いつまでも呆けている場合ではないぞ」
「だ、大丈夫です。
きちんと覚えますので」
慌てて止めに入るアネッサ。
一度言われた事は忘れない。
超優秀なアネッサである。
しばらく面倒臭い姑の如く、細かい日課をアネッサに言い伝えるジノ。
それを嫌な顔せずウンウン、と頷きながら頭に叩き込むアネッサ。
いつかジノが窓枠とか棚とかを指でスッとして「ここに埃があるんだが?」とか言わないよな。
「おい、シン。
ルナの話ではエルフ王国からここを守る精鋭が来るという話だ。
だが、聖樹ユルダには絶対触れさせるな。
あの大樹は見た目以上に脆い。
私が幾十も重ねて結界を張っているから問題は無いはずだが、万が一もあり得る。
警戒しておけよ」
「ここを守る奴らなんだろー……。
そんな事しないだろー……」
俺が気の抜けた声でそう答えると胸倉を掴まれる。
「シンッ!
大事な話だ、よく聞け。
里の者以外を信用するな。
常に警戒しておけ。
アネッサ君は特例だが、外からやってくる連中に魔将の息がかかってないとも限らんのだ。
私が他でもないお前を選んだ意味を良く考えろ」
その真剣な言葉に流石の俺も息を吹き返す。
「……わかってるよ、ジノ。
この里は俺が責任を持って守る。
そこは任せておけ」
ジノは目を細めてその意思を確かめるような眼差しでしばし見つめ、手を離す。
「わかっているなら、それで良い」
そう言ってジノはローブを纏い、荷物を肩から引っ提げる。
「私はそろそろ行かねばならん。
あまり遅くなってはルナが激怒するからな」
そう言って玄関扉を開くジノ。
「ジノ、お前に言う必要は無いと思うが、死ぬなよ」
俺がその背中に声をかけると、ジノがゆっくり振り返る。
「……死ぬつもりはない。
だが、かなり苛烈な戦になるはずだ。
油断は出来ん」
険しい顔つきでジノは言う。
そして俺をジッと見つめて、しばらく押し黙り、再び口を開く。
「……いつか、お前には話そうと思っていた。
お前には、本当に感謝しているのだ」
「おい、お前に似合わないフラグを立てるのは止めろ」
俺がすかさず突っ込むが、意味が伝わらないジノは小首を傾げるだけだった。
「相変わらずよくわからん事を。
真面目な話だ、よく聞け。
お前が私に約束した事は覚えているか?」
んー?
約束した事?
あれか、魔導騎士になるってやつか?
「覚えてるぞ」
「本当か?
お前は勘違いしてそうだな。
なんにせよ、私はその言葉に救われたのだ」
「え?俺が魔導騎士になるとお前救われるの?」
俺の素っ頓狂な発言にジノは素早いチョップを顔面に放つ。
「戯けッ。
その後だ。
ええい、調子が崩れる。
忘れているならもう良い。
私は行く」
呆れた顔をして背を向けるジノ。
俺は、はて?と記憶を手繰り寄せようとする。
そんな俺を余所に、ジノは外に出ると、一枚の巻物を開いていく。
するとジノの足元に魔法陣が出来上がる。
「シン……。
後は……お前に任せたぞ」
ジノは顔だけ振り返り、俺にそう告げた。
その顔は、何処かもの悲しげに見えた。
「ん?おお。任せとけ」
俺は考えるのを止めて胸を叩いて返事をする。
それを見たジノは優しく微笑み、その姿が掻き消える。
転移魔法によって場所を変えたのだろう。
俺は再び記憶を手繰り寄せながら、玄関の扉を閉めた。
こうして、呆気なく俺とジノは別れを迎えた。
そして、ジノの最後の言葉の意味を知るのは、もう少し先になる。
アイツは……。
ジノは、多くの想いを込めて最後の言葉を俺に伝えたのだ、と。
その時の俺にはわからなかった。
何も、わかっていなかった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる