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第4章 少年期後編
第68話 銀狼の警告
しおりを挟むその後、俺達は泉から離れて里へと戻る。
とは言えまだ時刻は日がようやく登り始めた頃。
里の皆も起きていない。
ミーシャさんはリアナを家に送り届け、一人で出歩かないように、と念押ししていた。
一人で外にいたのは家で泣いていると家族が心配するからだろうか?
詳しくはわからないが、話をする機会は次になりそうだ。
それより……。
「リアナに何か変な事してないだろうな?」
俺はシュヴァインを睨みつけながら問いかける。
「リアナ……あの仔猫ちゃんの事かい?
転移した近くにたまたまあの仔猫ちゃんが泣いていたから、慰めてあげていたのさ。
何があったのかわからないが、あんな可愛らしい娘が涙する姿を見たら胸が痛むだろ?」
シュヴァインは近くの木にその身体を預け、逆に俺に同意を求めてくる。
「知らねぇよ。
ロリコンか、お前」
冷たく言い放つ俺に対して首を傾げるシュヴァイン。
「ロリ……?
なんの言葉だい?
それにしても、畏る必要はないとは言ったものの、王族に対して君は随分な態度だね。
無礼というか、遠慮がないというか。
さっきまでは王族だと知らなかったものの、今はそれがわかった上でのその物言い。
いくら子供と言えど、王国内ならその言動だけで大問題なんだけどね?」
シュヴァインは溜息混じりに言ってくる。
「ジノから言われてんだよ。
よそ者には気をつけろ、ってな」
「ふぅん。
それと無礼な発言をする事とは繋がらない気もするけど。
こちらからも言わして貰えば、欲望の権化とも言える人族の方が警戒しておきたいね。
それと、野性味溢れ理性に欠ける獣人族も、ね」
それを聞いて隣に立つアネッサも目を細めて目つきを鋭くする。
「お前とは絶対に仲良くなれなさそうだ」
俺は吐き捨てるように言い放つ。
「奇遇だね。
僕もエルフの民以外と仲良くなるのは御免だよ。
他の劣等種族と肩を並べるなんて吐き気がする」
崩れぬ笑顔でそう宣うクソ王子。
確かにこんな奴が王様にならなくて正解だ。
にしても、エルフ以外は劣等だと決め付けてるとか、人種差別も甚だしいな。
どこの世界もそういう差別はあるものなのだろうが、仮にも一国の王子がそれでいいのか?
外交とかに問題出そうなもんだが。
そうこうしてるうちにリリアさんとルーカスさんに話をしてきたミーシャさんが戻ってくる。
「殿下。
この里には殿下に満足頂ける宿はありませんが、構いませんか?
事情はよくわかりませんが、滞在なさるのでしょう?」
「構わないよ。
屋根がついてベッドがあれば眠れるから。
馬小屋は勘弁だけどね。
なんなら貴女の家でも構わないけれど?」
コイツ、初対面の人の家に転がり込もうとするとかどんだけ厚顔無恥なんだよ。
いっそミーシャさんの手料理食って昇天しろッ。
何故かミーシャさんは俺の方をギロッと睨み、シュヴァインに向き直ると首を横に振る。
「殿下の女癖の悪さはこの耳に入ってますよ。
生憎、そのような噂の立つ人と同じ屋根の下で眠る事は出来かねます」
「誰がそんな噂を流したのやら。
それに、美しいものを愛でる事の何が罪だと言うのか、僕には理解しかねるよ」
やれやれ、と首を振りながら呆れたように言うシュヴァイン。
メチャクチャ評判悪いのな、この人。
性格が捻じ曲がりすぎな上に女癖も悪いとかむしろ良いところって顔だけなんじゃ?
……あぁ、でも……。
もう一つコイツの凄みはある、か。
「里の宿はこちらです。
シンとアネッサも一度家に戻りなさい。
後で話をしに行くから」
この厄介王子を顔色一つ変えずに対応するミーシャさん、超大人。
そして煽るだけ煽ってしまった俺、超子供。
流石姉御、昔も今も尊敬しております。
料理以外は。
「わかりました。
アネッサ、行こう」
「……はい」
アネッサは去っていくシュヴァインとミーシャさん——いや、シュヴァインを鋭く睨みながら答える。
「……クソ野郎だとは俺も思うけど、あんまり睨みすぎるなよ。
あとで難癖つけられると余計に腹が立ちそうだ」
「……いえ、そうではなく……。
……ともかく、戻りましょうか」
アネッサはそう言って言葉を濁し、視線を外すと歩き出した。
俺は疑問顔のままそれに続く。
「どうかしたのか?
帰ってくるまでずっと黙り込んでたけど」
家に帰ってくると俺はアネッサに問いかける。
帰る道中もアネッサは険しい顔つきのままだった。
「シン様、フェンリルが話があるそうです」
アネッサが単刀直入にそう告げてきた。
「え!?ここでかよ!
おい、ちょっと待て!この家はヤバイッ!」
慌てふためく俺。
こんなボロい小屋ならフェンリルのクシャミですら吹き飛びそうだッ!
「慌てるな、小僧。
暴れたりはしない」
声色が変わるアネッサ。
いや、フェンリルだ。
振り返るとアネッサの瞳孔が狼のそれになり、鋭い牙が口から見てとれた。
「あの生意気なエルフから魔境の臭いが尋常でない程放たれている。
あれはもはやただのエルフではあるまい」
いつになく落ち着き払ってそう告げるフェンリル。
椅子に腰を下ろして足を組むと鋭い牙をギリッと歯軋りさせて忌々しく続ける。
「あの臭いを放つのは……ダークエルフだからだろうな。
それもダークエルフでいながら元のエルフに姿を戻せているあたり、非常に高い力を持っている。
まさに貴様の父親が言っていた警戒すべき危険な輩、だな」
マジかよ……。
こういう時、フェンリルは魔境の連中への鼻が効くから頼りになる。
「って事は……魔将の息がかかってる奴か」
「その可能性は極めて高いな。
すぐにでも八つ裂きにしたい所だが……。
この器は大したものよ。
飛び出そうとした私を懸命に押し留めたのだからな」
やるおるわ、と口元に笑みを浮かべるフェンリル。
やりおるわ、じゃねぇよ。
険しい顔つきをアネッサがしてたのはそのせいか。
「里の中で暴れんなよ、フェンリル。
にしても……。
相手はエルフの王族ってのは厄介だな。
相手が動いて悪人の証拠が掴めたのならともかく、こちらから一方的に襲いかかったらそれこそ大問題だ」
フン、と鼻を鳴らしてフェンリルは椅子に腰掛けて足を組む。
普段のアネッサなら絶対こんな事しないな……。
「悠長な事を言ってる場合か?
直ぐにでも対処せねば後手に回って取り返しがつかなくなるぞ。
なんなら私が奴の寝首を切り裂いても構わんぞ?」
フェンリルが鋭い爪を尖らせ、ペロリと舐める。
「止めろっつの。
んな事したらアネッサが捕まっちまうだろ。
他種族の王族殺害とか大事件じゃねぇか。
アイツは俺が見張っておく。
くれぐれも先走って暴れるなよ、フェンリル」
「つまらん小僧だ。
む……小娘がまた抑え込もうとしておる……。
仕方ない、警告はしたからな。
後で後悔せぬよう精々気を引き締めておけ」
そう言って目を閉じ、しばらく間をあけて再び目を開くといつものアネッサの瞳に戻り、牙も短くなっていった。
組んでいた足も直ぐに正し、一呼吸おいて口を開く。
「フェンリルは抑え込むのが大変です……」
そう言って額に手を置き溜息をつくアネッサ。
「だろうな……。
正直アネッサはよくやってるよ」
そう言って俺はアネッサの対面の椅子に腰掛ける。
「……厄介な人が来ましたね……」
「あぁ、そうだな。
でも、ジノにここを守ると約束したからな。
あのクソ王子には好き勝手させないようしっかり見張っておくさ。
アネッサはミーシャさんと外を見回る時、出来るだけ広範囲の索敵を頼む。
他にも厄介な奴が潜んでいる可能性もある」
「はい、お任せ下さい」
疲れ顔のアネッサだが、直ぐに顔を引き締めて答える。
頼りになるよ、ホント。
しかし、あのクソ王子の目的は何だ?
やはりあの聖樹が狙いか?
それとも、別の何かなのか。
フェンリルの言うように、後手後手に回ると取り返しがつかなる可能性もある。
相手の実力は未知数。
こりゃあ予想以上に難儀な留守番になりそうだ……。
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