異世界転生した俺は最強の魔導騎士になる

ひとつめ帽子

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第4章 少年期後編

第75話 あの頃と変わらない形

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 吹き抜ける風が俺の頬を撫で、リアナの透き通るような髪を揺らす。
しばしの沈黙の後、俺は口を開く。

「リアナの気持ちは、凄く嬉しいよ。
それに、自分の気持ちを真っ直ぐに伝える事が出来るその勇気も、尊敬するくらいだ」

 リアナの気持ちは、言葉は——。
とても真っ直ぐで、揺るぎなく、俺の心に届いた。
だから。
だからこそ——。

「だから、俺は……その気持ちには、応えられない」

 そう言って俺は深々と頭を下げる。
下げたまま、俺は目と閉じて歯をくいしばる。
その体勢のまま、時が止まったように感じた。
呼吸すら、ほんの少しの間止まったかのような感覚すら覚えた。

「……どうして、って、聞いてもいい?」

 僅かに震えた声で尋ねるリアナ。
俺は頭を上げて、リアナを見る。
リアナは、泣いてはいなかった。
けれど、涙を必死に堪えてるかのように悲痛に顔を歪めていた。

「……俺がここに連れてきた人は、色んなモノを乗り越えて今がある。
いや……今も、毎日必死に乗り越えようともがいてる。
アイツは出会った頃は俯いてばかりで、自分の事を殺したいくらい嫌っていた。
毎日が辛くて、訪れる恐怖の夜に怯えていた。
だから、もう俯かなくて良いように、笑って生きていけるように、アイツの側にいる事を約束したんだ」

 俺の話を黙って聞いているリアナ。
俺もまた真っ直ぐに視線を逸らさず、続けた。

「きっと、リアナの想いとも俺の想いは違うと思う。
でも、これも俺なりに覚悟を決めた事でさ。
リアナの気持ちが揺るがないように、俺の約束した気持ちも変わる事はない。
そんな約束をした俺が、俺の事を本気で想ってくれている人を側になんて置くわけにはいかない。
俺は不器用だから、同時に二人を幸せには出来ないと思う。
そして、どちらかが不幸になる姿も見たくはない。
だから、リアナの気持ちには、応えられない」

 そう言って、俺は頭を下げる。

「だから、ごめんなさい」

 俺は頭を下げたまま目を閉じる。
リアナの強い想いは俺の中の深くに残っている。
これ程強く、人を想えるリアナは本当に良い女になると思う。
だからこそ、そんな人を受け容れておいて傷付けるなんて出来ない。
絶対に、しちゃいけない。

「……ぐす……ぅ……うぇえ……」

 慌てて俺は頭を上げると、顔をくしゃくしゃにしたリアナがしゃくり上げていた。

「ぐす……バカ……ッ!
シンのバカッ!
ぐす……私の事……また迎えに来るって……言ったのにッ!」

 そ、それは……少しばかり誤解が……。

 と思ったが、そんな事は言える訳もない。
俺は、ゴメン、と静かに告げる。
そんな俺の胸に頭を押し当て、弱々しく拳を叩き付けながら涙するリアナ。
そんなリアナを抱きしめようと腕を伸ばしたが、途中で止めて唇を噛み締め上げた腕を下ろした。

 そんな事をする権利はない。
そんな優しさを与える事を、俺は自分で捨てたのだ。
彼女の気持ちを傷付けた俺に、安易に優しくする権利はない。




 一頻り泣き腫らしたリアナはゆっくりと俺の胸から頭を離す。

「……ぐす…………から……」

 か細く、リアナが俯いたまま何かを呟く。
え?と俺が聞き返すと、リアナが顔を上げる。

「……ここに、残るから、私」

 涙で頬を濡らし、目を赤くして瞼もはらした顔なのに、覚悟を決めたようにそう言ったリアナ。

「お、おい……。
ここは危ないんだぞ?
その……今、振っちまった俺が言えたもんじゃないけど、残る理由はもう——」

「もう理由がないなんて、言わないで」

 俺の言葉を遮り、リアナはピシャリと告げる。

「何度も……言わせないでよ……。
私はシンの事が好きなの。
振られたから、嫌いになると思う?
そんな簡単に心が変わるなら、私はこんなに苦しくないよ。
嫌いになんてなれない。
大切だから、好きだから、その人を守りたい。
その人が守りたいと思うものを、一緒に守りたい」

 迷いなく、リアナはそう言った。
その言葉に、俺は思わず目を丸くする。

「……わかる?シン。
これが、人を好きになる、って事なの。
苦しくて、悲しくて、切なくて……それでも、気持ちは変わらないの」

 そう言って儚げに笑い、俺の胸に拳をぶつけるリアナ。
それはとても弱々しかったけど、俺の胸の深い所にまで届く一撃だった。
だから、俺は思わず笑ってしまった。

「まったく、敵わないよ、リアナには。
リアナは絶対に良い女になる。
俺が保証する」

 俺はそう言って微笑んだ。
それを見たリアナも微笑む。

「そうだよ。
私は良い女になって、絶対にシンを後悔させてあげるんだから。
覚悟しておいてね」

 そう言って笑うリアナ。

 ほんと、敵わないな。
俺よりずっと幼い少女は、俺よりずっと大人だった。
きっと、母親に似てめちゃくちゃ美人な人になるだろう。
真っ直ぐで、心優しく、暖かい人になるだろう。
そして間違いなく俺は後悔するんだろう。
でも、それで良い。
リアナには、幸せになって欲しい。
幸せな未来が、待っていて欲しい。
その為に、この子の事は絶対に守る。
傷一つつけさせやしない。

 俺はそう硬く決意し、拳を握りしめた。




 泉に着く頃には昼過ぎになってしまった。
あれから、俺達はそれぞれの過ごしてきた二年半の話をした。
ジノとの特訓の日々や、リリアさん直伝の料理の話。
ミーシャさんが作った焼肉パーティの話や、ミーシャさんとジノとの距離の話など、色々とリアナが話してくれた。
俺がいない間にも、里では色々とあったようだった。
そんな話を笑いながらできる事が、俺は何よりも嬉しかった。



「でもさ。
一つ聞いて良い?シン」

 ふと、思い立ったようにリアナが尋ねてくる。
俺は首を傾げてリアナを見る。

「アネッサさんって、結構年上でしょ?
なのに、シンは呼び捨てだしさっきは“アイツ”呼ばわりしてたじゃない?
仕事仲間なのはわかったし、アネッサさんの恩人なのもわかったけど、シンにしては年上相手に随分と遠慮がないというか。
割とシンはそういうのしっかりしてるのに、どうして?」

 あー、えーっと……。
実のところ、アネッサが奴隷として雇った事は流石に伏せておいてあるのだ。
そして、俺が転生している事も。
アネッサとはあくまで仕事仲間として知り合った事にして、家事手伝いをしてくれているという説明にしていたので、疑問が生まれたのだろう。

「……年上が好みで、自分が上の立場の関係が築ける相手が良い、とか?」

 なんか俺の好みがあらぬ方向へと向かっていきそうである。
リアナが引き気味な目をしている。
そんな危ない奴を見る目で俺を見るな。

「いやいや、そういうんじゃなくて。
……うーん……。
もしかしたら、これを聞いたら俺を見る目が変わるかもしれないけど、良いか?」

「もう既に少し変わりつつあるけど」

「早いだろッ!?」

 俺が間髪入れずに突っ込むと、リアナは冗談冗談、と笑う。
そして半分ね、と付け足した。
半分て……。
おいぃ……。

 俺は意を決して口を開く。

「実はな……。
俺は、見た目は子供だが、中身は大人なんだ」

 俺は真顔でそう告げる。
リアナはキョトンとした顔で俺を見つめている。

「……え?それだけ?
ていうか、どういう意味?」

 リアナの頭の中はクエスチョンマークが浮かび上がりまくってるようだ。
首を傾げて今俺が言った事を必死に理解しようとしている。

「つまりだな。
俺は、転生してるんだ。
前の世界では三十手前まで生きて、死んだ。
そしてその記憶を持ったまま、この世界で生を受けたんだ」

 俺が説明すると、リアナはポカンと口を開いたままになる。
しばし間を開けて、リアナは吹き出した。

「もー、真顔で何を言うのかと思ったら。
そんな冗談誰も信じないよ?」

 やめてよー、と笑うリアナ。
しかし俺は真顔のまま続ける。

「いや、冗談じゃないんだ。
本当の話だ」

 俺の頑なな態度に流石のリアナも戸惑い始める。

「……ほ、本当なの?」

「本当だ」

 俺が迷わず答えると、リアナは視線を上にして考え込む。

「じゃ……じゃあ、シンは……もう四十過ぎのおじさ——」

「言うなッ!それだけは言うなッ!!」

 俺は片手を伸ばして待ったをする。

「シンはおじさんだったの!?」

「おじさんって言うなァ!!」

 俺は頭を両手で抱えてイヤイヤをする。
それを見てクスクス笑うリアナ。

「冗談だよ、シン。
中身はそうだとしても、見た目はやっぱり子供だし。
シンはシンだよ。
それに変わりはないと思う」

 膝をついて項垂れる俺にそう優しく声を掛けるリアナ。

「そう言ってくれると、俺は本当に救われるよ……」

 項垂れる俺に近寄りしゃがみ込むリアナ。

「シンがホントは大人って知ってるのは、ジノさん?」

「そうだよ。
あと、アネッサも知ってる。
アイツを呼び捨てにしてるのも、本当は俺のが年上だからだ。
だから、これを話すのはリアナが三人目だな」

「そっか……。
里にいる時に話してくれれば良かったのに……。
そしたら、私が二番目になれたのに」

 そう唇を尖らせ拗ねるリアナ。

「そうは言っても、ちょっと信じ難い話だからな……」

 俺は地面に座り込んでため息混じりにそう言った。

「でも、そっか。
だからなんだね」

 と、リアナはうんうんと頷く。
俺は何がだ?と問いかける。

「シンは里にいた頃は自分の事僕って言ってたのに、ジノさんの前だと俺って言うじゃない?
なんで使い分けているのかなぁ、って思ってたの。
そして、今は俺になってるし。
もともとは自分の事、俺って言ってたんじゃない?」

 そ、そんな細かいところまで気にしてたのか、リアナ!
てか、そっか……。
リアナの前でも僕だったのに、一人称俺に戻してたっけか。
自分でも気づかなかった。

「ねぇシン。
前の世界の記憶が、あるんだよね?」

 リアナは興味深げに聞いてくる。

「あぁ、こことは全然違う世界だけどな」

「聞かせて、シンが前にいた世界の事」

 前のめりで目を輝かせて聞いてくるリアナ。
俺は頭を片手で掻き、仕方ないな、っと言って話し始める。



 仲睦まじく話し合う二人のその姿は、かつて里で過ごした頃と何も変わっていなかった。
一つの恋は終わってしまったけれど、変わらない信愛がそこにあった。
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