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第4章 少年期後編
第79話 幻想結界
しおりを挟む甲冑騎士はギリギリと力を込めて光のリボンから逃れようとしているが、その拘束力は尋常では無い。
手足も胴もキツく締め上げられ、その自由を完全に奪い取る。
身動き一つとれないその身体を俺は改めてジッと見つめる。
不気味な黒に近い青の全身を覆う西洋甲冑。
頭を全て覆った兜から伸びる長い髪と、唯一肌が見えるエルフ独特の長い耳。
身に付けた西洋甲冑以外の耳や髪ですら漆黒の色をしている。
漆黒……というか、影というか。
黒い霧のような、モヤのような、とてもあやふやな存在に見える。
生きているモノとは……到底思えない。
しかし不思議な事にアンデッドという訳でも無さそうだ。
「アンタは何なんだ?」
間近まで迫って問いかける。
甲冑騎士は身体を震わせながら力を込めているばかりで何も答えない。
「此処は何処だ?
そして不思議なこの空間は何なんだ?」
しばし返答を待つが、やはり答えようとしない。
俺は腕組みをして一つ溜息をつく。
コイツが唯一の手掛かりなんだがな……。
だんまりを決め込まれると困ってしまう。
何か情報を聞き出さればと思ったんだが……。
「……アンタと……シュヴァインは関係してるのか?」
その言葉に甲冑騎士がピタリと動きを止める。
反応があった事に俺とアネッサは少しばかり驚いた。
すると、ボソボソと小さく甲冑騎士が囁き始める。
それはあまりに小声で聞き取れない。
「……なんだって?」
甲冑騎士はずっと囁き続けている。
俺には聞き取れなかったが、耳の良いアネッサは聞き取れたようで顔色を変えている。
俺はその甲冑騎士に一歩二歩と近寄り、顔を寄せると少しづつその声が、言葉が聞こえ始める。
「……ナイ……セナイ……カセナイ……」
なんだ?
何か同じ言葉を繰り返してる?
「イカセナイ……イカセナイイカセナキイカセナイイカサナイイカセナイ……。
ココカラサキヘハ……イカセナイイカセナイイアセナイイカセナイ……」
——ッ!!
思わず飛び退いた俺は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
それはまるで呪詛のように、しかし何の感情も篭ってない冷たい口調で、壊れた機械のように繰り返し続ける甲冑騎士。
そして、その声から相手は女性であったのだと理解する。
すると、突然煙のようにまた甲冑騎士は消えていってしまった。
残された光のリボンは拘束対象を失い、こちらも魔法陣と共に掻き消えていく。
「……ここから……先には行かせない、か。
この先に何かあるのか?」
俺は森の奥を見据えて疑問を口にする。
「いえ、この先も森が続くばかりで何がある訳ではありません」
「そうなのか?」
「先程話したように、森の中を一定距離進むとあの場所に……即ちあの墓石の付近に戻されてしまうようなのです。
謂わば此処は……箱庭のような世界、とでも言いましょうか」
もとの場所に戻される、箱庭のような世界……。
俺はそれに思い当たる知識があり、ハッと顔を上げる。
昔、ジノから教わった結界の一つ。
「幻想結界……」
「幻想結界?
何ですか、それは?」
幻想結界——。
それは数ある結界術式の中でもかなり異質で、高度な技術と魔力が必要な秘術。
その術を扱う者の深層風景を投影し、その世界に対象を閉じ込める事が出来る代物。
「……でもこの世界が結界なら、幻魔の術式を解放して結界もろとも破壊するのが手っ取り早いな」
俺はそう言って腕まくりする。
そんな俺にアネッサが近付き、俺の前で首を横に振った。
「シン様、私はそれには反対です」
「え、なんでさ?」
「シン様はここ数日幻想魔導術式を立て続けに行使しているでしょう?
あの術式は絶大な力をもたらしますが、シン様の身体への負担があまりにも大き過ぎます。
日をあけて使うならまだしも、これほど連日立て続けに使用していてはシン様の身体が持ちません」
アネッサは俺の手を握って今にも泣きそうな顔になる。
「シン様は……自分の身体をもっと大切にすべきです。
いつも無茶ばかりで、私は……とても心配なのです……。
シン様にもしも何かがあったら……。
そう思うと不安でたまらないです」
懇願するように、絞り出すようにアネッサはそう言った。
こんなにも心配かけさせていたのは、申し訳ないな……。
きっと、ここに来る事にアネッサがどうしても付いて来ると言い張ったのも、俺一人ではまた無茶をすると思ったからだろう。
俺は握られた手にもう片手を重ね、アネッサの手を優しく撫でる。
「……悪いな、アネッサ。
心配ばっかかけちまって……。
確かに、安直にこの力を使ってた節もあるし、そこは反省するよ。
とは言え、幻想魔導術式無しでこの結界を破るってのは出来るかどうか……」
「……そうですね。
ですが、一つ試したい事があります。
というより、気になった事、と言いますか。
付いてきてくれますか?」
俺は頷くとアネッサは先導して歩き出す。
不思議な事に、先程あの甲冑騎士が消えてからというもの、襲撃がピタリと止んだのだった。
さっきまでの繰り返された奇襲を思えば、逆にそれが不気味に感じられた。
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