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第4章 少年期後編
第81話 白銀の騎士
しおりを挟む「この世界?」
どういう意味だ?
その言葉の意味を考え、ある答えが頭に浮かぶ。
でも、それは……あり得るのか?
「御託は結構。
私達の邪魔をする、という事は結界を破壊し得る存在と私達の事を判断した訳でしょう?
正直破壊出来るかはまだわからなかったのですが、貴女が立ちはだかる事でそれが可能であると証明してくれたようなもの……。
そこには感謝しましょう」
考え込む俺をよそにアネッサが好戦的な物言いでそう言い放つ。
「とは言え、シン様を狙った先程の攻撃は看過しがたい。
シン様を傷付けようとする者は何人たりとも——」
鉤爪を構え、鋭い眼光で相手を睨むアネッサ。
「容赦はしませんッ」
「……容赦をしないというのはこちらの台詞ですよ。
アーヴァインの邪魔はさせません。
“霊装召喚”」
エルフの女性——シャーロットがそう言い返し、続けて詠唱するとその身体が光り輝き出す。
何かが起こる前に決着をつける為か、それを見たアネッサが地面を砕かんとする勢いで蹴りつけ一気に加速する。
アネッサの絶魔の鉤爪がシャーロットへと電光石火で迫るが、その一撃は甲高い金属音と火花を散らして受け流される。
シャーロットの姿は瞬時に白銀の騎士へと変わり、両手に白銀に輝くエストックを握りしめ、アネッサの斬撃を受け流したのだった。
その姿はまるで先程まで戦っていた青黒い甲冑騎士と対をなすかのよう。
流麗な身のこなしでアネッサの連撃をいなし、距離をとって身構える白銀の騎士。
対するアネッサもまた自分の爪撃が悉く受け流された事でシャーロットの実力を評価し直す。
ただ、それは決して強敵としての評価にまではには至らない。
それでも自分とやり合える事自体に驚きと高揚感を感じていた。
そんなアネッサの口角がゆっくり上がり始め、鋭い犬歯がギラリと覗かせる。
戦闘大好きの荒くれ狼の我慢が限界になってきたか?
半幻獣になったら相手を圧倒出来そうではあるが、その後始末がやや難儀だな。
アネッサがすぐに戻って来れば良いけど……。
そんな事を考え溜息をつく俺の頭をめがけて今度は漆黒のエストックが後方から飛んできた。
無論、俺は警戒を怠ってなどいない。
即座に反応した俺は嵐丸でそれを弾き飛ばし、そちらを見やる。
太い木の枝の上に、エストックを放ったであろう弓を構えている青黒い甲冑騎士が再びこちらを狙っていた。
「……へぇ、分身と同時に戦えるのか」
感嘆の声を漏らした俺の身体からは紫雷を迸らせ、夜叉の姿へと変貌させる。
自分の中で飛躍的に身体能力と魔力が引き上がったのを感じつつ、青黒い騎士を真っ直ぐに見据える。
「あの存在はこの結界の一部ですよ。
何処にでも存在しますし、いつでも消滅できる。
そんな自分の影と共闘しているのは、何とも複雑な気持ちですが、ね——ッ!」
アネッサと激しい攻防を繰り広げながら、こちらの問いかけに反応する余裕があるシャーロット。
アネッサの攻撃は決して緩くはない。
接近戦においては無類の強さを誇り、幻魔の術式無しなら俺を軽く凌駕する。
ただ、アネッサは相手の魔法や魔力を絶つ事でよりその力を発揮するタイプでもある。
だからこそ魔法使いたる俺の天敵なのだが、シャーロットと名乗るエルフの場合はどうやら魔法に頼っている訳ではないので、その力が及ぶ事は無かった。
構築し全身に纏っている白銀の甲冑鎧も魔力を行使して作ったわけではない。
しかも身体強化や昇華を使わず、あのアネッサの動きについてきている。
それは正直、笑えない。
俺は雷速で青黒い甲冑騎士に詰め寄り、嵐丸を振り抜く。
甲冑騎士は即座に反応して漆黒のエストックで嵐丸を受け流さんとするが、刃が触れた瞬間に周囲に旋風が巻き起こる。
受け流すどころか突風によって巻き上げられたエストックは宙を舞い、隙だらけの甲冑騎士の胴を斬り上げる。
途端に煙へと変貌し姿が搔き消える甲冑騎士。
俺は即座に踵を返し、片手を掲げるとアネッサとシャーロットの足下に大きな魔法陣を作り上げる。
それが何なのか、即座に察したアネッサは大きく飛び退き魔法陣の外へと逃れる。
その直後に術式を発動させ、逃げるのが遅れたシャーロットに光のリボンが巻き付き始める。
みるみる四肢が拘束され、その身体の自由を奪い取る。
しかし、シャーロットは動じる事もなく、頭を覆う兜の中からくぐもった声で不敵に話し掛けてくる。
「これは、先程使っていた魔法ですね。
同じモノを見せるのは浅はかではありませんか?」
シャーロットは咎めるようにそう言った直後、漆黒のエストックが魔法陣を構築した地面に突き刺さり、魔法陣ごと地面を崩壊させる。
「へぇ、即座に対応してくるってのは大したもんだ」
「二対一では流石に分が悪い相手のようですから」
シャーロットがそう言って新たに白銀のエストックを構築し、滑らかな動きで身構える。
その隣に漆黒の甲冑騎士が巨木の枝から飛び降りて、漆黒のエストックを両手に構える。
「まるで二対二なら俺達と渡り合えるような言い草だな。
どう思う?アネッサ」
俺は片手を真横に伸ばすとその手の平に一際激しい雷撃が迸り、柄の長い大きな斧、裂雷を構築させる。
それを肩に担だ俺は目を細めてシャーロットと甲冑騎士を見据える。
「私が少しばかり実力を抑えていたので甘く見られてしまったのでしょうか?
もしそうならば……」
隣に並んだアネッサは冷たく笑い、両手の鉤爪を構える。
「謝らなければいけませんね」
そう言ってギラついた目付きに変わり、アネッサの手足が銀の獣毛で覆われる。
半幻獣化したアネッサの周囲にはダイヤモンドダストのような細かな結晶が広がり煌きだす。
アネッサとシンは互いにその力を解き放ち、肩を並べて何かと対峙する場面など今まで皆無であった。
それはどちらも人外の力を身に付けたが故に共闘する必要も無かったからだ。
そんな二人が肩を並べて身構えている。
その威圧たるや、常人であれば腰を抜かす程。
「これ以上チンタラするつもりはない。
あんたには悪いが、格の違いってのを教えてやるよ」
俺のその宣言を皮切りに、強大過ぎる力を持つ存在が二つ、敵を討たんと駆け出した。
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