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第4章 少年期後編
第87話 リアナ・クリスターナ②
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気がつけば、私は知らない場所にいた。
こじんまりした部屋の中で、長椅子に座っている。
隣を見ればお母さんとお父さんが不安気な顔付きで座り込んでいる。
「お母さん?」
私がその顔を覗き込むように声を掛けると、お母さんはハッと顔を上げ、私を見て抱きしめてきた。
「リアナ……ッ!
もう大丈夫なの?なんともない?」
「気がついたんだな、リアナ。
本当に良かった」
お母さんとお父さんはとても安堵した顔付きになる。
一体……何が起きたのか。
私は額に片手を当てて思い出そうとする。
その時、自分の手が……いや、身体が淡い光を帯びてるのに気付く。
その瞬間、モヤがかかった記憶が蘇る。
◇◇◇
「シンとアネッサさん、大丈夫かな?」
私はミーシャさんと共に里へ向かう道中、後ろを振り返りつつそう尋ねる。
「あの二人なら大丈夫。
ジノとまではいかなくても、物凄い力を持ってる人達だから。
ホント、生意気だけど」
ミーシャさんは笑みを浮かべながらそう答える。
「そう、だよね。
二人なら、大丈夫……だよね」
私は自分に言い聞かせるように、何度か頷いた。
結局、私が立ち入る隙は無いのかもしれない。
あの二人が立つ舞台と、私とではまるで違うのだから。
赤ん坊の頃から同じ場所で過ごし、共に育ってきた私達だったが、歩んできた道はあまりに違いすぎた。
もう、この道がシンと交わることは無いのだろうか?
そう考えると涙が出そうになる。
あれだけキッパリとシンから気持ちを告げられても、心は未だに割り切る事など出来ない。
そんな事を考えてるうちに、里の門に辿り着き門がゆっくり開いていく。
中に入れば、大きな広場に里のみんなが集まっているのが見えた。
「……何かあったのかしら?」
ミーシャさんは訝しげな顔をしつつそこへ近づいてく。
里の皆が集まった先には巨大な鳥……のような生き物が五匹地面に座っていた。
鳥……に見えるのは頭と翼、そして鋭い爪が見える手足くらいなもの。
その胴はまるで獅子のようで、短く艶やかな毛をして長い尻尾がある生き物だった。
頭は鷲のような形をして、首元までは白い羽毛に包まれている。
「グリフォン……騎兵団……。
もう来たの?」
ミーシャさんが小さく呟く。
私はその圧倒的な存在に見て目を見開く。
これがグリフォン。
童話や絵本で見たように、本当に大きくて猛々しい。
けれどとても静かに五匹のグリフォンは地面に鎮座していた。
その脇には青銀の鎧と白いマントを羽織った騎士の男達が里の皆に話しかけていた。
そんなざわめきが起こる中、空からゆっくりと降下してきたのはエルフ王国のシュヴァイン王子。
「やぁやぁ、遠路はるばる来てもらって申し訳ない。
君達の力がどうしても必要になってね」
シュヴァイン王子は笑顔で騎兵団の男達に話しかける。
しかし、話しかけられた騎兵団の男は顔付きを険しくして口を開く。
「シュヴァイン王子ッ!
貴方はまた勝手にあの国宝を持ち出したのですか!?
あれはこのような場所で見せびらかすものでは無いのですよッ!!」
騎兵団の中でも強面の男がズンズンとシュヴァイン王子に近寄りながらそう声を上げる。
「勝手が過ぎます!
今、世界がどのような状況なのか理解していないのですか!?」
それを聞いて片手を出して宥めるシュヴァイン王子。
「カエサル団長。
そうがなり立てるな。
今は口論してる場合ではない。
叱責は帰ったらいくらでも聞くよ。
だから今は、彼等を王国まで連れ行く道中の護衛を頼む」
そう言ってシュヴァイン王子は里のみんなをぐるりと見回す。
「なッ!?
本気で仰っておられるのですか!?
まさかその為に秘宝である“スキッドブラドニール”を持ち出したのですか!?」
「その通りだ。
君達が着いたのなら、もはや猶予はない」
覚悟を決めたようにそう宣言するシュヴァイン王子。
「里の皆さん。
申し訳ありませんが、時間切れです。
貴方がたの意思は出来うる限り尊重したいのですが、今回は身の安全を優先させてもらいます。
全員、あの巨大艦艇スキッドブラドニールに乗船してもらいます」
有無を言わせず言い切るシュヴァイン王子。
それには里のみんなは勿論、ここに到着したばかりの騎兵団の皆も驚きが隠せないでいた。
「王子ッ!
そのようは事が許される訳がない!
貴方にはそのような権限もないッ!
それにここには聖樹もあるのですよ!?」
騎兵団長は語気を荒げるように言い放つ。
「その聖樹を守る為に彼等を犠牲にする訳にはいかないんだ。
団長、責任はすべて僕が取る。
君は僕の命令に従っただけ。
後生だ、頼む」
そう言って頭を下げるシュヴァイン王子。
その真摯な態度に流石の騎兵団長も僅かにたじろぐ。
「……殿下、申し訳ないけれど、私はここに残ります」
ミーシャさんは前に出てそう告げる。
シュヴァイン王子は顔を上げ、やれやれと肩を落とす。
「すまないが、君を説得する時間もないんだ。
少し強引ではあるが、納得してもらうよ?」
そう言い切り、ミーシャさんを見つめるシュヴァイン王子。
その目が、なんだか不思議な色を帯びていたような気がした。
すると、ミーシャさんの顔付きが変わってしまう。
先程まで刺すようにシュヴァイン王子を睨んでいたのに、今は遠い目をしてどこを見てるのかもわからない。
「スキッドブラドニールに乗ってもらう。
……いいね?」
シュヴァイン王子がそうミーシャさんに命ずると、ミーシャさんは遠い目をしたまま頷いた。
そしてゆっくりとあの空に浮かぶ艦艇の方へと向かって歩き始めた。
「ミーシャさん……?ミーシャさん!」
それに異変を感じ、私はミーシャさんを追いかけてその袖を引っ張ったが、足を止めないミーシャさん。
一体、どうしたというのか!?
私はミーシャさんから離れ、今度はシュヴァイン王子のもとへ駆け寄って行く。
「ミーシャさんに何したの!?」
私が掴みかからんとする勢いで駆け寄るとお父さんとお母さんが慌てて私を止める。
騎兵団の一人も王子と私の間に割って入り、王子を守ろうとしていた。
しかし、シュヴァイン王子はそれを手で制し、私に近寄ってくる。
「不安にさせてすまない。
彼女なら王国に着く頃には意識も戻ってるはずだから心配はいらない。
今は時間がなくて、君達全員に納得する形がとれないが、きっとこれが正しかったのだとわかる時が来る。
必ずだ、約束する」
「ミーシャさんに何かしたのね……。
ミーシャさんを元に戻して!」
私が声を上げるとお父さんが「やめなさい、リアナ」と止めてくる。
知らない。
相手が王子だろうと、何であろうと、こんな勝手は許されない!
そんな私を諭すように微笑んでいたシュヴァイン王子だったが、顔付きを冷たく変える。
「……君も聞き分けが無いのなら、同じようにするしかない。
でもこれが、君の為でもあるんだ」
そう言って、シュヴァイン王子は私の瞳をジッと見つめてくる。
その直後、頭がボーッとして働かなくなる。
まるで意識にモヤがかかったような、夢見心地な気分になる。
「スキッドブラドニールに乗りなさい。
いいね?」
シュヴァイン王子がそう告げると、私は何も答えず頷いた。
そんな事、したくないのに。
身体が言うことを利かなくなっている。
そして、勝手に動き出した身体はゆっくりとあの巨大艦艇へと近づいていってしまった——。
◇◇◇
「思い出した……。
ここは、あの船の中?」
私は顔を上げてお母さんに尋ねる。
「その通りよ。
シュヴァイン王子に何かされたようだけれど、直ぐに戻るから心配はいらいって言われてて……。
本当に良かったわ」
お母さんはそう言って抱きしめてくる。
「……シンは?
シンはここにいるの?」
私が問いかけると、お母さんとお父さんは目を伏せる。
「まさか、いないの?
置いてきたの!?
シンとアネッサさんを、置き去りにしたの!?」
声を荒げる私にお父さんが肩を掴んで私を見つめてくる。
「リアナ、あの二人なら大丈夫だ。
私達のような一般人とは違う。
強い力を待った人達だ。
心配はいらない」
お父さんがそう諭してくるが、私は肩に置かれた手を振り払って一歩二歩と後退る。
「まだ……きっと、シンは戦ってる。
助けにいなきゃ……」
私がそう呟くと、お母さんが両肩を握りしめて首を横に振る。
「リアナッ!
あなたとシンは違うのよ。
ジノさんの元に通わせたのも、あなたに無茶をさせる為じゃないのよ!?」
だから、ここで待て、と言うのだろうか?
あの里で、シンを待ち続けたように。
そうなれば、道はどんどん離れて行くだけなのに……。
けれど……その方が、良いのだろうか?
近くにいても、今の私はただのお荷物でしかない。
それなら、いっそ……。
ここで、シンと離れ離れになった方が……。
「……イヤだ……」
私は小さく、消え入るような声で呟く。
「嫌だッ!
私は、このまま離れ離れになるのだけは嫌!」
私はそう言ってお父さんとお母さんの脇をすり抜け、走り出した。
後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきたが、私は無視して走り続ける。
部屋を出たら長い廊下に出て、階段を見つけたらそこを駆け上がって行く。
すると広々とした甲板に出た。
巨大な艦艇は風を切り、空を突き進んでいる。
もう、里からどれだけ離れたんだろう?
私は甲板の端に駆け寄り、下を見る。
すると、遠くにエルフの里がある森が見えた。
このまま進めば、きっともう見えなくなる。
「リアナッ!待ちなさい!」
追い付いたお父さんが私に声を掛ける。
「リアナ、戻ろう。
戻って、王国へ行くんだ。
シンとはまた会える。
きっと会えるさ」
また……会える……。
また、とはいつだろう?
明日?明後日?
一ヶ月後?半年後?
一年後?二年後?
はたまた、十年後?
私は……。
私は——ッ!
「私は……今、会いたい」
そう言って、私は甲板から飛び降りた。
お父さんが私の名を叫びながら手を伸ばすのが見えた。
けれど、私はもう振り返らない。
初めて、お父さんやお母さんに反発した気がする。
聞き分けのない子でごめんなさい。
でも、どうか今日だけ。
この我儘だけは、許して下さい。
私は身体が急降下していくのを感じつつ、瞳を閉じる。
心は不思議と落ち着いている。
何をするかはわかってる。
頭の中で、術式を組み上げ、魔力を放出する。
「“飛翔”ッ」
私が唱えると、身体が浮き上がり宙を舞う。
目指すはエルフの里の森。
何ができるかはわからない。
でも、シンの為に、何かしたい。
もう、待つのは止めた。
私は、私の為に、この道を突き進むッ。
こじんまりした部屋の中で、長椅子に座っている。
隣を見ればお母さんとお父さんが不安気な顔付きで座り込んでいる。
「お母さん?」
私がその顔を覗き込むように声を掛けると、お母さんはハッと顔を上げ、私を見て抱きしめてきた。
「リアナ……ッ!
もう大丈夫なの?なんともない?」
「気がついたんだな、リアナ。
本当に良かった」
お母さんとお父さんはとても安堵した顔付きになる。
一体……何が起きたのか。
私は額に片手を当てて思い出そうとする。
その時、自分の手が……いや、身体が淡い光を帯びてるのに気付く。
その瞬間、モヤがかかった記憶が蘇る。
◇◇◇
「シンとアネッサさん、大丈夫かな?」
私はミーシャさんと共に里へ向かう道中、後ろを振り返りつつそう尋ねる。
「あの二人なら大丈夫。
ジノとまではいかなくても、物凄い力を持ってる人達だから。
ホント、生意気だけど」
ミーシャさんは笑みを浮かべながらそう答える。
「そう、だよね。
二人なら、大丈夫……だよね」
私は自分に言い聞かせるように、何度か頷いた。
結局、私が立ち入る隙は無いのかもしれない。
あの二人が立つ舞台と、私とではまるで違うのだから。
赤ん坊の頃から同じ場所で過ごし、共に育ってきた私達だったが、歩んできた道はあまりに違いすぎた。
もう、この道がシンと交わることは無いのだろうか?
そう考えると涙が出そうになる。
あれだけキッパリとシンから気持ちを告げられても、心は未だに割り切る事など出来ない。
そんな事を考えてるうちに、里の門に辿り着き門がゆっくり開いていく。
中に入れば、大きな広場に里のみんなが集まっているのが見えた。
「……何かあったのかしら?」
ミーシャさんは訝しげな顔をしつつそこへ近づいてく。
里の皆が集まった先には巨大な鳥……のような生き物が五匹地面に座っていた。
鳥……に見えるのは頭と翼、そして鋭い爪が見える手足くらいなもの。
その胴はまるで獅子のようで、短く艶やかな毛をして長い尻尾がある生き物だった。
頭は鷲のような形をして、首元までは白い羽毛に包まれている。
「グリフォン……騎兵団……。
もう来たの?」
ミーシャさんが小さく呟く。
私はその圧倒的な存在に見て目を見開く。
これがグリフォン。
童話や絵本で見たように、本当に大きくて猛々しい。
けれどとても静かに五匹のグリフォンは地面に鎮座していた。
その脇には青銀の鎧と白いマントを羽織った騎士の男達が里の皆に話しかけていた。
そんなざわめきが起こる中、空からゆっくりと降下してきたのはエルフ王国のシュヴァイン王子。
「やぁやぁ、遠路はるばる来てもらって申し訳ない。
君達の力がどうしても必要になってね」
シュヴァイン王子は笑顔で騎兵団の男達に話しかける。
しかし、話しかけられた騎兵団の男は顔付きを険しくして口を開く。
「シュヴァイン王子ッ!
貴方はまた勝手にあの国宝を持ち出したのですか!?
あれはこのような場所で見せびらかすものでは無いのですよッ!!」
騎兵団の中でも強面の男がズンズンとシュヴァイン王子に近寄りながらそう声を上げる。
「勝手が過ぎます!
今、世界がどのような状況なのか理解していないのですか!?」
それを聞いて片手を出して宥めるシュヴァイン王子。
「カエサル団長。
そうがなり立てるな。
今は口論してる場合ではない。
叱責は帰ったらいくらでも聞くよ。
だから今は、彼等を王国まで連れ行く道中の護衛を頼む」
そう言ってシュヴァイン王子は里のみんなをぐるりと見回す。
「なッ!?
本気で仰っておられるのですか!?
まさかその為に秘宝である“スキッドブラドニール”を持ち出したのですか!?」
「その通りだ。
君達が着いたのなら、もはや猶予はない」
覚悟を決めたようにそう宣言するシュヴァイン王子。
「里の皆さん。
申し訳ありませんが、時間切れです。
貴方がたの意思は出来うる限り尊重したいのですが、今回は身の安全を優先させてもらいます。
全員、あの巨大艦艇スキッドブラドニールに乗船してもらいます」
有無を言わせず言い切るシュヴァイン王子。
それには里のみんなは勿論、ここに到着したばかりの騎兵団の皆も驚きが隠せないでいた。
「王子ッ!
そのようは事が許される訳がない!
貴方にはそのような権限もないッ!
それにここには聖樹もあるのですよ!?」
騎兵団長は語気を荒げるように言い放つ。
「その聖樹を守る為に彼等を犠牲にする訳にはいかないんだ。
団長、責任はすべて僕が取る。
君は僕の命令に従っただけ。
後生だ、頼む」
そう言って頭を下げるシュヴァイン王子。
その真摯な態度に流石の騎兵団長も僅かにたじろぐ。
「……殿下、申し訳ないけれど、私はここに残ります」
ミーシャさんは前に出てそう告げる。
シュヴァイン王子は顔を上げ、やれやれと肩を落とす。
「すまないが、君を説得する時間もないんだ。
少し強引ではあるが、納得してもらうよ?」
そう言い切り、ミーシャさんを見つめるシュヴァイン王子。
その目が、なんだか不思議な色を帯びていたような気がした。
すると、ミーシャさんの顔付きが変わってしまう。
先程まで刺すようにシュヴァイン王子を睨んでいたのに、今は遠い目をしてどこを見てるのかもわからない。
「スキッドブラドニールに乗ってもらう。
……いいね?」
シュヴァイン王子がそうミーシャさんに命ずると、ミーシャさんは遠い目をしたまま頷いた。
そしてゆっくりとあの空に浮かぶ艦艇の方へと向かって歩き始めた。
「ミーシャさん……?ミーシャさん!」
それに異変を感じ、私はミーシャさんを追いかけてその袖を引っ張ったが、足を止めないミーシャさん。
一体、どうしたというのか!?
私はミーシャさんから離れ、今度はシュヴァイン王子のもとへ駆け寄って行く。
「ミーシャさんに何したの!?」
私が掴みかからんとする勢いで駆け寄るとお父さんとお母さんが慌てて私を止める。
騎兵団の一人も王子と私の間に割って入り、王子を守ろうとしていた。
しかし、シュヴァイン王子はそれを手で制し、私に近寄ってくる。
「不安にさせてすまない。
彼女なら王国に着く頃には意識も戻ってるはずだから心配はいらない。
今は時間がなくて、君達全員に納得する形がとれないが、きっとこれが正しかったのだとわかる時が来る。
必ずだ、約束する」
「ミーシャさんに何かしたのね……。
ミーシャさんを元に戻して!」
私が声を上げるとお父さんが「やめなさい、リアナ」と止めてくる。
知らない。
相手が王子だろうと、何であろうと、こんな勝手は許されない!
そんな私を諭すように微笑んでいたシュヴァイン王子だったが、顔付きを冷たく変える。
「……君も聞き分けが無いのなら、同じようにするしかない。
でもこれが、君の為でもあるんだ」
そう言って、シュヴァイン王子は私の瞳をジッと見つめてくる。
その直後、頭がボーッとして働かなくなる。
まるで意識にモヤがかかったような、夢見心地な気分になる。
「スキッドブラドニールに乗りなさい。
いいね?」
シュヴァイン王子がそう告げると、私は何も答えず頷いた。
そんな事、したくないのに。
身体が言うことを利かなくなっている。
そして、勝手に動き出した身体はゆっくりとあの巨大艦艇へと近づいていってしまった——。
◇◇◇
「思い出した……。
ここは、あの船の中?」
私は顔を上げてお母さんに尋ねる。
「その通りよ。
シュヴァイン王子に何かされたようだけれど、直ぐに戻るから心配はいらいって言われてて……。
本当に良かったわ」
お母さんはそう言って抱きしめてくる。
「……シンは?
シンはここにいるの?」
私が問いかけると、お母さんとお父さんは目を伏せる。
「まさか、いないの?
置いてきたの!?
シンとアネッサさんを、置き去りにしたの!?」
声を荒げる私にお父さんが肩を掴んで私を見つめてくる。
「リアナ、あの二人なら大丈夫だ。
私達のような一般人とは違う。
強い力を待った人達だ。
心配はいらない」
お父さんがそう諭してくるが、私は肩に置かれた手を振り払って一歩二歩と後退る。
「まだ……きっと、シンは戦ってる。
助けにいなきゃ……」
私がそう呟くと、お母さんが両肩を握りしめて首を横に振る。
「リアナッ!
あなたとシンは違うのよ。
ジノさんの元に通わせたのも、あなたに無茶をさせる為じゃないのよ!?」
だから、ここで待て、と言うのだろうか?
あの里で、シンを待ち続けたように。
そうなれば、道はどんどん離れて行くだけなのに……。
けれど……その方が、良いのだろうか?
近くにいても、今の私はただのお荷物でしかない。
それなら、いっそ……。
ここで、シンと離れ離れになった方が……。
「……イヤだ……」
私は小さく、消え入るような声で呟く。
「嫌だッ!
私は、このまま離れ離れになるのだけは嫌!」
私はそう言ってお父さんとお母さんの脇をすり抜け、走り出した。
後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきたが、私は無視して走り続ける。
部屋を出たら長い廊下に出て、階段を見つけたらそこを駆け上がって行く。
すると広々とした甲板に出た。
巨大な艦艇は風を切り、空を突き進んでいる。
もう、里からどれだけ離れたんだろう?
私は甲板の端に駆け寄り、下を見る。
すると、遠くにエルフの里がある森が見えた。
このまま進めば、きっともう見えなくなる。
「リアナッ!待ちなさい!」
追い付いたお父さんが私に声を掛ける。
「リアナ、戻ろう。
戻って、王国へ行くんだ。
シンとはまた会える。
きっと会えるさ」
また……会える……。
また、とはいつだろう?
明日?明後日?
一ヶ月後?半年後?
一年後?二年後?
はたまた、十年後?
私は……。
私は——ッ!
「私は……今、会いたい」
そう言って、私は甲板から飛び降りた。
お父さんが私の名を叫びながら手を伸ばすのが見えた。
けれど、私はもう振り返らない。
初めて、お父さんやお母さんに反発した気がする。
聞き分けのない子でごめんなさい。
でも、どうか今日だけ。
この我儘だけは、許して下さい。
私は身体が急降下していくのを感じつつ、瞳を閉じる。
心は不思議と落ち着いている。
何をするかはわかってる。
頭の中で、術式を組み上げ、魔力を放出する。
「“飛翔”ッ」
私が唱えると、身体が浮き上がり宙を舞う。
目指すはエルフの里の森。
何ができるかはわからない。
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