異世界転生した俺は最強の魔導騎士になる

ひとつめ帽子

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第4章 少年期後編

第92話 遥か遠いあの日

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 私は目の前で起きた出来事に、思考がついていかなかった。
あの王子が串刺しにされ、シンの片腕が焼き消され、そして——アネッサさんはその胸を貫かれた。
アネッサさんはピクリとも、動かない……。
そして今、シンも同じように胸を貫かれ、力無く崩れ落ちてしまった。

 それはほんの少しの出来事。
今はもう、誰も動かない。
その事が、あまりに非現実に感じてしまい、唯々呆然とする他になかった——。




「残るはお前だけか」

 褐色肌の男は私を見て眉をひそめる。

「……カスみたいな存在だな。
狐、お前に任せる」

 興味がない、といった口振りでそう言い放った褐色肌の男は私に背を向けて歩き出す。

「可哀想になぁ……。
一人残されて、目の前で人が死んで、それを最後まで見届けるんは辛かったんとちゃう?
ひょっとして、大切な人だったりしたん?
そやったらほんに辛いやろうね……。
でも、もう大丈夫やから。
うちが、すぐにその後を追わせたるからな」

 笑顔でそう言って、銀扇を私に向ける着物の女性。
私は、身動ぎ一つ出来ずにいた。
ただ、呆然とへたり込んだまま目の前で動かなくなったシンを見つめていた。

 ここで、ジッとしていれば、またシンに会えるのだろうか?

 そんな事を、考えていたその時。

「“世界の刻よ、静止せよインペンディメンティウム”」

 小さく響く、その詠唱。
次の瞬間、世界の時が止まる。
雨粒の一つ一つが宙に浮いたまま停止して、褐色肌の男も、着物の女性も、巨体の大男も、皆動きを止めた。

「え……?」

 私は何が起きたかわからずに立ち上がる。
触れた雨粒だけが身体を濡らしていく。

 一体、何が——?
まるで、私以外の世界が止まったかのよう。

「怖い思いをさせてゴメンね、リアナ」

 突然背後から声をかけられ、私は慌てた振り返る。
数えきらないほどの雨粒が浮かんでいる中、そこに一人の薄紫色の髪をした少女が立っていた。
艶やかで短い髪からは長い兎の耳を生やしている事から、獣人であることが見て取れる。

「貴方は……誰?
どうして、私の名前を……?」

 私は混乱しながらも問いかける。

「あぁ……そうだよね。
君とは初対面、になるんだよね。
本当に懐かしくて、自己紹介もせずに名前で呼んでしまったよ」

 懐かしい……?
意味がわからない……。
私は里からほとんど出た事がない。
まして、兎の獣人など、出会った記憶はない。

「混乱してるよね……。
リアナには悪いんだけど、詳しい説明までしている余裕は無いんだ。
そこの魔族、ギルディアは本当に強い力を持っていてね。
今、こうして時を止めているのも、きっと長くは保たない。
見た目以上に凄まじい抵抗を感じてるんだ」

 少女はそう話しながらゆっくりとこちらに近付いてくる。
そしてシンの目の前で片膝をつき、唇を噛みしめる。

「シン……。
そうか、君はこの時、これほどまでに傷付いていたんだね……。
ここまで傍観していた僕をどうか許しておくれ……」

 もはや意識のないシンに謝罪する少女。

「シンを知ってるの……?
シンは……まだ、生きて……生きてるのッ?」

 私が涙を流しながら問いかけると、少女は少し考え込み、一つ頷いた。

「……知っているよ。
君の事もね、リアナ。
そして、シンはまだ生きてる。
かなり危険な状態だけどね。
さぁ、時間が無い。
急ぐとしよう」

 少女はそう言って、ダボダボの真っ白い外套のポケットから懐中時計を取り出した。
それを私に差し出してくる。

「これを持っていて、リアナ」

 私は差し出された懐中時計を手に取る。
その懐中時計は内部の構造が透けて見えており、針の動きと共に歯車がいくつも動いていた。

「これは、何?」

「それは今の時空を刻み、これから向かう先を示してくれる大事な時計だよ。
しっかりと握り締めていてね」

 少女はそう言って両手を掲げる。

「ねぇ……シンは助かるの!?」

 私は懐中時計を握り締め、問い詰めるように尋ねる。
すると少女は微笑み、頷いた。

「大丈夫、助かるよ。
でも、助けるのは僕じゃない。
君が、シンを助けるんだ。
僕はその手伝いをするだけ。
君がこれからシンを支え、共に歩み、を……この日を目指すんだ」

 強い眼差しで少女がそう告げた。

「私が……助ける……?
無理だよ、私にはそんな力はないよ……。
……アネッサさん……アネッサさんなら!」

 私はそう言ってアネッサさんを見る。
アネッサさんはその瞳から光を失い、力無く仰向けに倒れている。

 シンが生きているのなら、アネッサさんも生きてるはずだ!

 しかし、目の前の少女は首を横に振る。

「彼女の中には“フェンリル”がいる。
君達が向かう時代にも、フェンリルがいるんだ。
同じ存在は二つあってはならない。
もしそんな事があれば、その存在そのものが消えて無くなってしまう。
何より、彼女が事に、大きな意味があるんだ」

 少女は迷い無くそう答える。
けれど、私には……何一つわからない……。

「わからないよ……。
あなたが何を言ってるのか、どういう意味なのか、わからないよ!」

 兎の少女は申し訳なさそうに顔を俯かせる。

「そうだよね、ゴメン……。
でもいつか、きっとわかる。
全てを理解する日が、きっとくる。
だから、諦めないで。
自分を信じて。
リアナ、君は自分が思うより、ずっと強いんだからね」

 少女はそう言って優しく笑う。
そして、掲げた両手から魔力を放出し出す。

「“時よ、刻む針を遡り、彼等を導きたまえ”」

「待って……待ってよ……。
私なんかが、何かしてあげられる事なんて……」

 シンや、アネッサさんが目の前であんな酷い事をされていても、ただ眺めている事しか出来なかった。
止める事なんて、とても出来なかった……。
自分にできる事があるはずと飛び出した私は、何一つ力になんてならなかった。

「大丈夫だよ、リアナ。
君がシンを助けられる事を、
だから、自分を信じて。
さぁ、いくよ、リアナッ!
“悠久の時超え、かの場所へ運びたまえ。
遡及の魔刻リトラクト・テンプスクロック”ッ!!」

 眩い光が広がり、世界が光に包まれていく。

「リアナ、向こうの僕を探すんだ。
僕は時兎、アルミラージ。
君達を、必ずまた此処に運んであげるから!」

 眩い光の中、少女の声が響き、私は何かに吸い込まれていった。
そして、意識が薄っすらと遠のいていくのだった——。








 眩い光が収まると、止まっていた時間が再び動き出す。
宙を浮いていた雨粒は地面を叩き始め、褐色の男と着物の女、そして大男は一斉に少女を見やる。

「兎、てめぇ……。
何を勝手な事をしてくれてんだ?」

 褐色の男は即座に少女に詰め寄り、鳩尾に拳を叩き込む。
カハッと嗚咽を漏らして膝を折る少女。

「アルミラージはん……。
なんでギル様に楯突くなんて、そんな命知らずな事をするん?
うちはアルミラージはんはもっと賢い奴やと思ってたんやけどね」

 哀れむような眼差しで着物の女は少女を見てそうこぼす。

「お前ともあろう者が、馬鹿な事を」

 その隣で呆れるようにそう吐き捨てる大男。

「おい、兎。
てめぇあのカス共を何処にやった?」

 少女の胸ぐらを掴んで乱暴に引き上げ、褐色の男は問い詰める。

「はは……そりゃあ、君の手の届かない場所さ」

 少女はそう言って笑う。

「てめぇ——ッ!
誰に向かって口聞いてんのか、わかってんのか?
一度半殺しにされたくらいじゃ理解出来なかったか?
主従関係ってぇのがどんなものなのか、もう一度叩き込んでやろうか?」

 苛立たしげにそう声を上げる褐色の男。

「悪いけど……僕は彼等と違って君に忠誠を誓った事なんて一度も無いよ。
全ては、今日この日を目指す為。
君の下についたのも、死ぬ訳にはいかなかったからさ。
また僕が復活する間に、今日という日を過ぎて逃してしまうかもしれなかったからね」

 そう言って見下すように笑う少女。

「……そうかよ……。
よく、わかったよ。
テメェはもういらねぇよ。
ここで死ね」

 片手を大きく振り被る褐色の男は冷たくそう告げる。
しかし、少女はそれに臆することなく、ニヤリと笑う。

「……そりゃあ……無理だね」

 その視線を、褐色の男よりはるかに遠くへと向けて。

「君の負けだ、ギルディア」

 静かにそう告げる兎の少女。

「お前……何を——ッ!」

「ギル様ッ!」

 褐色の男が問いかけようとしたその刹那、着物の女が叫ぶのと同時に輝く光の極太の矢が突き抜ける。
間一髪でそれを躱す褐色の男は少女から手を離して距離を取る。
その直後、長く美しいプラチナブロンドの髪を揺らして疾走するエルフが少女を抱きとめ大きく飛翔する。

「ごめんね、アルくん。
遅くなっちゃった」

 美しいエルフははにかんだ笑顔でそう謝罪する。
少女は安心したように笑う。

「遅いよ、リアナ。
それと——」

 兎の少女はチラリと地面を見やる。
そこには、一人の青年が立っていた。

「遅くなったのは俺達のせいじゃないからな。
こちとら遥々からすっ飛んできたんだぞ?
どうなってんだよ、アルミラージ。
聞いてないぞ」

 漆黒の長いローブについた雪を払いながら、黒髪の青年がそうぼやく。

「シン、文句はアリシアに言っておくれ。
空間座標は彼女担当だ。
時間と日付は、バッチリだったろ?」

 少女は黒髪の青年にそう声を掛ける。

「違いないな。
感謝してるよ、本当に……」

 黒髪の青年はそう言ってアネッサの前で屈み込み、その身体を抱き締める。
そのは漆黒の包帯が巻かれ、覆われていた。

「ゴメンな……アネッサ……。
でも、お前を死なせやしない。
絶対に——ッ!!」

 そう力強く宣言すると、青年の首から下げた虹色に輝くペンダントの宝石が輝き出す。
そしてアネッサの身体が眩い光に包み込まれていく。

「テメェら……一体どこから湧いて出てきやがった!?」

 苛立たしげにそう言い放つ褐色の男。
アネッサを強く抱き締めた青年——シン・オルディールはギロリと褐色の男を睨む。

「お前にも、会いたかったよ、魔族。
リアナ、ウガルルムとキュウビは任せたぞ」

 シンがそう声を掛けると、リアナは力強く頷く。

「任せて。
“英霊換装・ヴァルキュリア”ッ」

 リアナが詠唱すると、その身体は白銀の鎧に包み込まれる。
片手に槍を、もう片手に盾を持ち、大きな純白の翼を広げ、身構える。

「俺はこの日、色んなものを奪われた……。
だから全部拾って来たよ。
そして、最後の一つをようやく取り戻した」

 桁違いの魔力を放出し、シンは言い放つ。

のリベンジマッチだッ!
覚悟しやがれッ!!」
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