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第5章 遥か遠いあの日を目指して
第96話 生まれ故郷
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修道院から飛び出した俺は民家の屋根に飛び乗り、家々の屋根を飛び渡る。
風のように駆け抜ける俺は一番近くに建っている櫓を目指した。
常人離れした跳躍にて櫓の中に飛び込むと、中にいた自衛団の青年が飛び退いて驚いた。
「な、なんだッ!?
き、君……今どっからやって来たんだ!?」
「コボルトは何処ですか?
見えるところにいますか?」
俺は青年の問いかけを無視して村の周囲を見回しながら逆に問いかける。
度肝を抜かれた青年は混乱しており、俺の問いかけにも答えれずに固まっていた。
俺は再び青年を見やり目力を強めると、ようやく青年は素直に応じて遠くを指差した。
「ま、まだ遠いが、向こうに五、六匹見える。
多分……村の存在にも気付いているはずだ。
奴等が森に戻って群れを連れてくる前に仕留めておかないと……」
そう青年は言いながらも、その表情からは恐れが見て取れた。
村の門の前にも自衛団の男達が数人集まってはいるものの、それぞれ難しい顔つきのまま何やら話し合っているだけで攻撃を仕掛ける様子はない。
戦い慣れていないのから彼等も少し怯えた表情をしていた。
出来る事なら、戦闘は避けたい。
それが彼等の本音なのだろう。
攻撃を仕掛ければ、間違いなく相手も向かってくる。
そうなれば当然、村が確実に標的となる。
ここを目指して、攻めてくる。
その引金を自分で引くのが恐ろしいのだ。
「自衛団の方々には村の守りを固めるように言ってください。
此処さえ守ってもらえれば、構いませんから」
そう言って俺は木製の手摺に飛び乗った。
「え……?
おいおいッ!君は一体何をするつもりだ!?」
青年は動揺しながらも俺の行動を止めようとしてくる。
「下級の魔物程度なら、今の僕でも問題ないですから」
俺は振り返って微笑みそう告げると、手摺を蹴って大きく跳躍した。
子供とは思えない跳躍力にて村を囲う丸太の壁を飛び越える。
背後から俺を止めようとする声が聞こえたが、俺は聞かなかったことにした。
急降下しながらも体勢を整え、地面を転がりながら着地する。
風魔法で衝撃を緩和させたり、宙を飛べない事に不便さを感じつつ、すぐ様俺は立ち上がって草原を疾走する。
櫓に残された青年は信じ難いモノを見たかのように、目を丸くしてそれを眺めていたのであった。
コボルトは犬のような頭をした人型の魔物だ。
獣の魔物とは言え少しばかりの知恵はあり、ゴブリンから奪ったと見られる石斧や石槍を手に持っている。
そんなコボルト達は急速に近付いて来た俺に対して即座に反応し、臨戦態勢に入る。
コボルトは獣特有の勘の良さに加え、鼻や耳が良い事から危険をいち早く察知してくるのだ。
村の自衛団が怖気付いていたのも、背丈の変わらぬ獣が武器を持っているのだから無理もない。
複数人で一匹のコボルトを取り囲んでも、誰もが無傷で済む保証は無いのだ。
しかし、それでも所詮は下級の魔物。
魔力が使えないこんな身体でも、負ける道理などありはしない。
コボルトの数は計六匹。
地面を強く蹴って一気に距離を詰めつつも拳を構え、先ずは最も近いコボルトの懐に入り込む。
そのあまりの速さにコボルトは反応すら出来ず、その大きな下顎を拳で打ち抜かれる。
宙に高々と浮くその身体から石斧が手放され、スルリと零れ落ちる。
それをすかさず身体を翻し、右手でキャッチして素早く投擲。
後方にいるコボルトの頭に石斧がめり込み吹っ飛ばされる。
それを確認する事もなく、続けて宙に浮いたコボルトの片足を握りしめ、ジャイアントスイングのように回転させて放り投げる。
投げ飛ばされた仲間に即座に反応できた二匹は回避したものの、俺に向かって来た二匹はまとめて吹っ飛ばされる。
あっという間に四匹のコボルトが崩れ落ちると、それを見た残りの二匹が怒り狂う。
雄叫びを上げ、武器を捨ててコボルト達は同時に飛びかかってきたのだ。
鋭い爪が、牙が眼前に迫る中、俺は落ち着いてその猛攻を片手で捌き、身軽な身のこなしで躱していく。
すると勢い余った一匹が体勢を崩して前のめりになる。
即座にその頭を右手で引き寄せ膝蹴りを胴体へ叩き込む。
そのたった一撃でコボルトは身体をくの字に曲げ、白目をむいて失神してしまう。
あっという間に片付けられた仲間のコボルトを見て、残された一匹は戦慄する。
もうどいつもこいつも動く気配は無い。
それを悟ると即座に踵を返して逃げ出すコボルト。
どう足掻いても敵う相手でもは無い、とようやく力の差を理解したらしい。
とは言え、このままコボルトを逃す訳にはいかない。
逃したら、仲間を大勢引き連れて再び村を襲撃してくる可能性もあるのだ。
俺は迷わずコボルトが手放した石槍を走りながら拾い上げ、即座に大きく振りかぶる。
コボルトとの距離はあっという間に四○メートルは開いていた。
けれど、ここは障害物のない広々とした草原。
俺は遠く離れて行く獲物に向けて、一気に右腕を振り抜いて石槍を投擲する。
真っ直ぐに放たれた石槍は風切り音を上げて飛び抜ける。
俺はふと、あのいけ好かない精霊猫が言っていた事を思い出しつつ、コボルトに背を向ける。
『狙って投げるニャんて二流以下だニャ。
狙わニャくても、投げりゃあ当たる。
それが一流ニャんだニャッ。
ちニャみに、オイラは必ず急所に当てれる上に、得物が手元に戻ってくるから超一流ニャッ!』
ふざけた戯言だが、ようはスキルの補正があれば狙う必要などない、って話だ。
故に、俺も投げた石槍が当たるかどうかなど、わかりきっていた。
俺が背を向けて歩き出すと同時に、遠くでコボルトの短い悲鳴が空にこだました。
風が吹き抜け、静まり返った草原を俺は歩き出す。
その刹那——。
まだ息のある一匹のコボルトが草原の中から飛び掛かってきた。
コイツッ、息を潜めていたのか!?
素早く身を躱したものの、左肩が鋭い爪が僅かに触れて切り裂かれる。
「——ッ!」
鋭い痛みが肩に走ったが、擦り傷だ。
俺はグルンと体を捻り、薙払いのような回し蹴を放ち、コボルトの頭を捉える。
首の骨がへし折れる音が響き、体を回転させながら吹っ飛ぶコボルト。
再度周囲を警戒したが、どうやら流石にもう立ち上がるコボルトはいないようだ。
俺はタラタラと血が流れる右肩を押さえつつ、村に戻っていった。
その日の晩、孤児院の一室にて俺はベッドに座り込んで困った顔をしていた。
その隣には俺の右肩に包帯を巻くリアナがいたが、その顔付きは不機嫌そのものである。
「無茶しないで、って言ったのにッ」
ギュッと包帯を締め付けるリアナ。
「いててッ、悪かったって!
でも、あのままコボルトを自衛団の人達だけに任せたら他の人が怪我してたかもしれないしさ」
「あのね、シン。
他の人なら、私の治癒魔法で怪我をしても治せるの。
でも、シンの怪我はどんなに小さなモノでも治癒魔法が効かないんだよ?
だから、こんな擦り傷でも自然に治すしかないんだからッ」
ふんふん、と鼻息荒くプンスカ怒るリアナ。
そして、ソッと包帯の巻かれた肩に手を置いて切なそうに俺を見てくる。
「……私は、シンには今まで以上に身体を大切に扱って欲しいの。
せめて自衛団の人達と協力して戦う事だって出来たでしょう?」
うぅ、そんな顔で見ないでくれ……。
罪悪感で押しつぶされそうだ。
「そりゃあ……まぁ、そうかもだけどさ。
村の目と鼻の先までコボルトは迫ってたんだ。
取り逃せば、もっと大きな危険が村を襲ったかもしれないしさ」
「だとしても、こうして怪我をしたシンを見るのはやっぱり辛いよ……」
リアナのその一言は、俺の胸にグサリと刺さる。
戦いは命の取り合いだ。
ほんの少しの油断が死に直結する。
例え、どんな格下の相手でも、油断をすれば
痛手を受ける。
そして今のこの身体では、その傷を満足に治すことも叶わない。
ジノも言っていたが、小さな傷でも直ぐに治療をしなければ命に関わる事もあるのだ。
治癒魔法が効かないこの身体では、衛生面すら気を使わねば身体はすぐにダメになるやもしれない。
そう考えれば、リアナの言う通りなのだ。
「……お願いだから……無茶はしないで……。
シンに万が一の事があったら、私はここで独りぼっちになっちゃうんだよ?」
リアナはそう言って包帯の巻かれた肩をそっと撫でる。
「……悪ぃ……。
油断したのは事実だ。
戦いでは気を引き締めるし、無茶もしない。
負ける事だって、もう二度と……ッ!」
突如、ズキッと突き刺すような頭痛が俺を襲う。
あまりの痛みに額に手を置くが、痛みは次第に収まっていく。
「シン……?大丈夫?」
顔をしかめる俺を覗き込むように見てくるリアナは不安気な顔つきをしていた。
俺は微笑んで顔を上げると、大丈夫だ、と伝える。
「……それより、今日も遠くの街まで行ってきたんだってな。
お疲れさん」
俺が話を変えて問いかけると、リアナは笑顔になる。
「大分長い間飛べるようになってきたよ?
荷物が重いのはキツいけどね」
そう言って舌を出して笑うリアナ。
「それとね、今日行った街には、図書館があったの。
シンが言ってた通り、地図もあったわ。
一応、模写してみたけど、あんまり上手じゃないかも……。
簡単に描いただけだから、見にくかったらゴメンね」
リアナはそう言って苦笑いして一枚の羊皮紙を広げた。
「助かるよ、リアナ。
地図を見つけただけでも大手柄だ」
俺は顔を輝かせてリアナの頭に手を置いて撫でる。
リアナは恥ずかしそうに顔を伏せた。
俺は改めてリアナの模写した地図を見つめ、そこに描かれた地形と街や村の名前を確認していく。
「地形は少しばかり変わっている上に、街や村の名前も殆ど聞いたことがないものばかりなの。
それにね、王都やエルフ王国も無かったわ。
どういう事だろ?」
リアナは疑問顔でそう尋ねてくる。
そして俺はある村を見つけて目を大きくさせた。
「……一つ、見覚えのある村がある」
俺はそう言って手書きの地図に載っている一つの村を指差した。
「ラムリカ村?
そんな村、私は知らないけど……」
「リアナは知らないと思う。
なにせ、俺達が大きなった頃にはその村は地図にも載ってなかったからな。
でも、この地図にはその村がある」
俺の言葉の意味を理解しかねるリアナは小首を傾げる。
「……つまり、俺達が来たのは未来じゃなく、過去なんだ。
しかも、ほんの数年とかじゃない。
最低でも十年以上……。
見知らぬ街や村が多くある事や、王都も無い事からも考えて、何百年も前に飛んでる可能性もあり得る」
その推測に、リアナは絶句する。
「何百年も……?」
そう、ここは過去。
しかも、恐らくは遥か遠い過去に飛ばされている可能性が高い。
なのに、村の生活水準がそこまで変わっていないのが不思議ではあるが……。
俺は“ラムリカ村”と書かれた文字をそっと撫でる。
まさか、俺が生まれた村が残っている時代に飛ばされるなんて——。
感慨深い想いを胸に抱き、俺はその地図を見つめていたのであった。
風のように駆け抜ける俺は一番近くに建っている櫓を目指した。
常人離れした跳躍にて櫓の中に飛び込むと、中にいた自衛団の青年が飛び退いて驚いた。
「な、なんだッ!?
き、君……今どっからやって来たんだ!?」
「コボルトは何処ですか?
見えるところにいますか?」
俺は青年の問いかけを無視して村の周囲を見回しながら逆に問いかける。
度肝を抜かれた青年は混乱しており、俺の問いかけにも答えれずに固まっていた。
俺は再び青年を見やり目力を強めると、ようやく青年は素直に応じて遠くを指差した。
「ま、まだ遠いが、向こうに五、六匹見える。
多分……村の存在にも気付いているはずだ。
奴等が森に戻って群れを連れてくる前に仕留めておかないと……」
そう青年は言いながらも、その表情からは恐れが見て取れた。
村の門の前にも自衛団の男達が数人集まってはいるものの、それぞれ難しい顔つきのまま何やら話し合っているだけで攻撃を仕掛ける様子はない。
戦い慣れていないのから彼等も少し怯えた表情をしていた。
出来る事なら、戦闘は避けたい。
それが彼等の本音なのだろう。
攻撃を仕掛ければ、間違いなく相手も向かってくる。
そうなれば当然、村が確実に標的となる。
ここを目指して、攻めてくる。
その引金を自分で引くのが恐ろしいのだ。
「自衛団の方々には村の守りを固めるように言ってください。
此処さえ守ってもらえれば、構いませんから」
そう言って俺は木製の手摺に飛び乗った。
「え……?
おいおいッ!君は一体何をするつもりだ!?」
青年は動揺しながらも俺の行動を止めようとしてくる。
「下級の魔物程度なら、今の僕でも問題ないですから」
俺は振り返って微笑みそう告げると、手摺を蹴って大きく跳躍した。
子供とは思えない跳躍力にて村を囲う丸太の壁を飛び越える。
背後から俺を止めようとする声が聞こえたが、俺は聞かなかったことにした。
急降下しながらも体勢を整え、地面を転がりながら着地する。
風魔法で衝撃を緩和させたり、宙を飛べない事に不便さを感じつつ、すぐ様俺は立ち上がって草原を疾走する。
櫓に残された青年は信じ難いモノを見たかのように、目を丸くしてそれを眺めていたのであった。
コボルトは犬のような頭をした人型の魔物だ。
獣の魔物とは言え少しばかりの知恵はあり、ゴブリンから奪ったと見られる石斧や石槍を手に持っている。
そんなコボルト達は急速に近付いて来た俺に対して即座に反応し、臨戦態勢に入る。
コボルトは獣特有の勘の良さに加え、鼻や耳が良い事から危険をいち早く察知してくるのだ。
村の自衛団が怖気付いていたのも、背丈の変わらぬ獣が武器を持っているのだから無理もない。
複数人で一匹のコボルトを取り囲んでも、誰もが無傷で済む保証は無いのだ。
しかし、それでも所詮は下級の魔物。
魔力が使えないこんな身体でも、負ける道理などありはしない。
コボルトの数は計六匹。
地面を強く蹴って一気に距離を詰めつつも拳を構え、先ずは最も近いコボルトの懐に入り込む。
そのあまりの速さにコボルトは反応すら出来ず、その大きな下顎を拳で打ち抜かれる。
宙に高々と浮くその身体から石斧が手放され、スルリと零れ落ちる。
それをすかさず身体を翻し、右手でキャッチして素早く投擲。
後方にいるコボルトの頭に石斧がめり込み吹っ飛ばされる。
それを確認する事もなく、続けて宙に浮いたコボルトの片足を握りしめ、ジャイアントスイングのように回転させて放り投げる。
投げ飛ばされた仲間に即座に反応できた二匹は回避したものの、俺に向かって来た二匹はまとめて吹っ飛ばされる。
あっという間に四匹のコボルトが崩れ落ちると、それを見た残りの二匹が怒り狂う。
雄叫びを上げ、武器を捨ててコボルト達は同時に飛びかかってきたのだ。
鋭い爪が、牙が眼前に迫る中、俺は落ち着いてその猛攻を片手で捌き、身軽な身のこなしで躱していく。
すると勢い余った一匹が体勢を崩して前のめりになる。
即座にその頭を右手で引き寄せ膝蹴りを胴体へ叩き込む。
そのたった一撃でコボルトは身体をくの字に曲げ、白目をむいて失神してしまう。
あっという間に片付けられた仲間のコボルトを見て、残された一匹は戦慄する。
もうどいつもこいつも動く気配は無い。
それを悟ると即座に踵を返して逃げ出すコボルト。
どう足掻いても敵う相手でもは無い、とようやく力の差を理解したらしい。
とは言え、このままコボルトを逃す訳にはいかない。
逃したら、仲間を大勢引き連れて再び村を襲撃してくる可能性もあるのだ。
俺は迷わずコボルトが手放した石槍を走りながら拾い上げ、即座に大きく振りかぶる。
コボルトとの距離はあっという間に四○メートルは開いていた。
けれど、ここは障害物のない広々とした草原。
俺は遠く離れて行く獲物に向けて、一気に右腕を振り抜いて石槍を投擲する。
真っ直ぐに放たれた石槍は風切り音を上げて飛び抜ける。
俺はふと、あのいけ好かない精霊猫が言っていた事を思い出しつつ、コボルトに背を向ける。
『狙って投げるニャんて二流以下だニャ。
狙わニャくても、投げりゃあ当たる。
それが一流ニャんだニャッ。
ちニャみに、オイラは必ず急所に当てれる上に、得物が手元に戻ってくるから超一流ニャッ!』
ふざけた戯言だが、ようはスキルの補正があれば狙う必要などない、って話だ。
故に、俺も投げた石槍が当たるかどうかなど、わかりきっていた。
俺が背を向けて歩き出すと同時に、遠くでコボルトの短い悲鳴が空にこだました。
風が吹き抜け、静まり返った草原を俺は歩き出す。
その刹那——。
まだ息のある一匹のコボルトが草原の中から飛び掛かってきた。
コイツッ、息を潜めていたのか!?
素早く身を躱したものの、左肩が鋭い爪が僅かに触れて切り裂かれる。
「——ッ!」
鋭い痛みが肩に走ったが、擦り傷だ。
俺はグルンと体を捻り、薙払いのような回し蹴を放ち、コボルトの頭を捉える。
首の骨がへし折れる音が響き、体を回転させながら吹っ飛ぶコボルト。
再度周囲を警戒したが、どうやら流石にもう立ち上がるコボルトはいないようだ。
俺はタラタラと血が流れる右肩を押さえつつ、村に戻っていった。
その日の晩、孤児院の一室にて俺はベッドに座り込んで困った顔をしていた。
その隣には俺の右肩に包帯を巻くリアナがいたが、その顔付きは不機嫌そのものである。
「無茶しないで、って言ったのにッ」
ギュッと包帯を締め付けるリアナ。
「いててッ、悪かったって!
でも、あのままコボルトを自衛団の人達だけに任せたら他の人が怪我してたかもしれないしさ」
「あのね、シン。
他の人なら、私の治癒魔法で怪我をしても治せるの。
でも、シンの怪我はどんなに小さなモノでも治癒魔法が効かないんだよ?
だから、こんな擦り傷でも自然に治すしかないんだからッ」
ふんふん、と鼻息荒くプンスカ怒るリアナ。
そして、ソッと包帯の巻かれた肩に手を置いて切なそうに俺を見てくる。
「……私は、シンには今まで以上に身体を大切に扱って欲しいの。
せめて自衛団の人達と協力して戦う事だって出来たでしょう?」
うぅ、そんな顔で見ないでくれ……。
罪悪感で押しつぶされそうだ。
「そりゃあ……まぁ、そうかもだけどさ。
村の目と鼻の先までコボルトは迫ってたんだ。
取り逃せば、もっと大きな危険が村を襲ったかもしれないしさ」
「だとしても、こうして怪我をしたシンを見るのはやっぱり辛いよ……」
リアナのその一言は、俺の胸にグサリと刺さる。
戦いは命の取り合いだ。
ほんの少しの油断が死に直結する。
例え、どんな格下の相手でも、油断をすれば
痛手を受ける。
そして今のこの身体では、その傷を満足に治すことも叶わない。
ジノも言っていたが、小さな傷でも直ぐに治療をしなければ命に関わる事もあるのだ。
治癒魔法が効かないこの身体では、衛生面すら気を使わねば身体はすぐにダメになるやもしれない。
そう考えれば、リアナの言う通りなのだ。
「……お願いだから……無茶はしないで……。
シンに万が一の事があったら、私はここで独りぼっちになっちゃうんだよ?」
リアナはそう言って包帯の巻かれた肩をそっと撫でる。
「……悪ぃ……。
油断したのは事実だ。
戦いでは気を引き締めるし、無茶もしない。
負ける事だって、もう二度と……ッ!」
突如、ズキッと突き刺すような頭痛が俺を襲う。
あまりの痛みに額に手を置くが、痛みは次第に収まっていく。
「シン……?大丈夫?」
顔をしかめる俺を覗き込むように見てくるリアナは不安気な顔つきをしていた。
俺は微笑んで顔を上げると、大丈夫だ、と伝える。
「……それより、今日も遠くの街まで行ってきたんだってな。
お疲れさん」
俺が話を変えて問いかけると、リアナは笑顔になる。
「大分長い間飛べるようになってきたよ?
荷物が重いのはキツいけどね」
そう言って舌を出して笑うリアナ。
「それとね、今日行った街には、図書館があったの。
シンが言ってた通り、地図もあったわ。
一応、模写してみたけど、あんまり上手じゃないかも……。
簡単に描いただけだから、見にくかったらゴメンね」
リアナはそう言って苦笑いして一枚の羊皮紙を広げた。
「助かるよ、リアナ。
地図を見つけただけでも大手柄だ」
俺は顔を輝かせてリアナの頭に手を置いて撫でる。
リアナは恥ずかしそうに顔を伏せた。
俺は改めてリアナの模写した地図を見つめ、そこに描かれた地形と街や村の名前を確認していく。
「地形は少しばかり変わっている上に、街や村の名前も殆ど聞いたことがないものばかりなの。
それにね、王都やエルフ王国も無かったわ。
どういう事だろ?」
リアナは疑問顔でそう尋ねてくる。
そして俺はある村を見つけて目を大きくさせた。
「……一つ、見覚えのある村がある」
俺はそう言って手書きの地図に載っている一つの村を指差した。
「ラムリカ村?
そんな村、私は知らないけど……」
「リアナは知らないと思う。
なにせ、俺達が大きなった頃にはその村は地図にも載ってなかったからな。
でも、この地図にはその村がある」
俺の言葉の意味を理解しかねるリアナは小首を傾げる。
「……つまり、俺達が来たのは未来じゃなく、過去なんだ。
しかも、ほんの数年とかじゃない。
最低でも十年以上……。
見知らぬ街や村が多くある事や、王都も無い事からも考えて、何百年も前に飛んでる可能性もあり得る」
その推測に、リアナは絶句する。
「何百年も……?」
そう、ここは過去。
しかも、恐らくは遥か遠い過去に飛ばされている可能性が高い。
なのに、村の生活水準がそこまで変わっていないのが不思議ではあるが……。
俺は“ラムリカ村”と書かれた文字をそっと撫でる。
まさか、俺が生まれた村が残っている時代に飛ばされるなんて——。
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