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第5章 遥か遠いあの日を目指して
第97話 問題点
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ラムリカ村を目指すにあたって問題点がいくつかある。
一つは移動手段だ。
言わずもがな俺は今飛ぶことができない。
故に陸を地道に進んで移動するしかないのだ。
そこで孤児院にいる修道女のメアリーさんから話を聞いてみたが、どうやら馬を使ってもラムリカ村まで三日はかかる距離がある、との事だった。
ついでに言えば俺は馬に乗れない。
今は片手が無いってのもあるが、空を飛んで移動していた俺は馬に乗る練習などした事が無かった。
「私は乗れるよ?」
俺が問題点の一つ目をリアナに話した時、平然とリアナは答えたのであった。
「え?乗れるの?」
「ミーシャさんに教わったの。一緒に里の外に出掛ける時に乗れた方がいいから、って」
そういやミーシャさんは馬にも乗ってたな。
俺は空から移動してたから教わる事も無かったけど、何事も経験しておくべきだった訳か……。
「とは言え、数日がかりの長旅だから荷物もあるし、荷物に加えて俺たち二人が乗ったら馬の疲労は半端ないだろ?」
「それは確かにそうかも」
「そうなると三日どころじゃ済まなくなるかもな……」
となると、やはり行商人に護衛がてら同伴するのが良いのかもしれないが、運良くラムリカ村に向かう人などそうそういる訳もない。
うーん、と腕組みをして悩んでいた俺はハッと閃いた。
「荷物は俺が曳けば良いか」
手を打って俺がそう言う俺を見てリアナは首を傾げる。
「うん?ちょっと言ってる意味がよくわからないんだけど……」
「いや、荷車借りてさ。俺が曳いて荷物を運ぶって話」
「……シンが荷車を……え?冗談だよね?」
しばし考え込んだ後、若干引き気味でそう尋ねてくるリアナ。
しかし俺は本気である。
片手だからバランスは取りにくいかもしれないが、引っ張るだけだ。
なんてったって俺の筋力と俊敏は二万前後。
少し重たい荷物を長距離曳くぐらい訳ない話だ。
むしろ本気で曳けば荷車が保たないだろう。
「それで二つ目の問題点だが——」
「えッ、一つ目の問題点はそれで良いの!?決定なの!?」
ちょっと待って、と止めようとするリアナを取り敢えず静かにさせて話を進める。
「あの森を超えないといけない」
「あの森……って……えっと、確か〝静寂の森〟?」
聞き返されたその言葉に俺はこくりと頷いて肯定する。
静寂の森——。
それは単に静かな森、という意味ではない。
聞いた話では、そこに住む一際獰猛な神獣が眠っているらしく、音を立てると襲いかかってくるそうだ。
そこには神獣……もとい、恐らくフェンリルのような幻獣が何年も前から住み着いたらしい。
そいつは一年のうち殆ど眠っているらしく、その睡眠を妨害すると烈火の如く怒り狂う凶暴な存在だとか。
なんとか生き延びた商人の証言により、静寂の森には近付かないように、と言われるようになったとの事。
森は険しい山々に挟まれており、そこを抜けねばラムリカ村には辿り着けない。
故に、その森をどうしても抜けたい場合は声を潜め、音を立てずに進む事が必須らしい。
商人はもうあの森を抜けるのは断念しているらしいが、そこを行き来する旅人もいるそうな。
ちなみにその神獣が兎なら、あのアルミラージかと期待したが聞いた話では大熊らしい。
別名——〝憤怒の暴君〟だ。
「神獣って、アネッサさん……というより、フェンリルさんみたいな凄い存在なんだよね?」
「もし幻獣のことを指してるならそうなんだろうな。暴君ってくらいだから関わるべきじゃないんだろうけど……」
地図を見た限り、そこそこ広い森だ。
その神獣とやらがどこまで過敏な奴かは不明だが、遭遇しなければそれまでと言うならそこまで心配する必要もないかもしれない。
実際行き来してる人も少なからずいるのだ。
とは言え、出会した時は細心の注意が必要だろうが……。
あのフェンリルと同等の存在となれば今の俺では到底太刀打ちできない。
「……やっぱり、万が一の事を考えればリアナはここに残——」
「残らないからね」
俺の言葉が終える前にピシャリと遮られる。
その瞳には強い意志が見て取れた。
「危険は承知してる。自分の実力が不足してるのもわかってる。でも、そんな私でも少しくらい役に立てると思うよ?それに——」
少し俯いて、噛み締めるようにリアナを唇を結んで再び口を開く。
「私の知らない所で、シンがいなくなっちゃったら私は後悔してもしきれないよ……」
そう言って俺の服の先をキュッと摘んだ。
一人で行かないで、と訴えるかのように。
俺は頭を掻いて一つ頷くと、わかったよ、と一言告げる。
「わかったよ。リアナの事は俺が全力で守る。だから、リアナの力も貸してくれ」
そう告げると、笑顔でリアナは頷いた。
「最後に一つ、問題がある」
「まだあるの?」
人差し指を立てて告げた俺にリアナは聞き返してくるが、俺は黙って頷いて続ける。
「孤児院の子達にしばらく留守にする事を伝えなければならん」
「あー……うん、そだねぇ……」
多分、子供達は泣き付いてくる。
なだめるのが大変なのは容易に想像がつく。
「と言う訳で、そこはリアナ、任せた」
「私!?」
肩をポンと叩く俺を非難するような目で見るリアナ。
結局俺も引き連れられて二人で子供達とシスター達に事情を説明する事にした。
子供達は駄々をこねる子や泣き出す子もいたが、メアリーさんらがあやしてくれてなんとか事なきを得たのであった。
一つは移動手段だ。
言わずもがな俺は今飛ぶことができない。
故に陸を地道に進んで移動するしかないのだ。
そこで孤児院にいる修道女のメアリーさんから話を聞いてみたが、どうやら馬を使ってもラムリカ村まで三日はかかる距離がある、との事だった。
ついでに言えば俺は馬に乗れない。
今は片手が無いってのもあるが、空を飛んで移動していた俺は馬に乗る練習などした事が無かった。
「私は乗れるよ?」
俺が問題点の一つ目をリアナに話した時、平然とリアナは答えたのであった。
「え?乗れるの?」
「ミーシャさんに教わったの。一緒に里の外に出掛ける時に乗れた方がいいから、って」
そういやミーシャさんは馬にも乗ってたな。
俺は空から移動してたから教わる事も無かったけど、何事も経験しておくべきだった訳か……。
「とは言え、数日がかりの長旅だから荷物もあるし、荷物に加えて俺たち二人が乗ったら馬の疲労は半端ないだろ?」
「それは確かにそうかも」
「そうなると三日どころじゃ済まなくなるかもな……」
となると、やはり行商人に護衛がてら同伴するのが良いのかもしれないが、運良くラムリカ村に向かう人などそうそういる訳もない。
うーん、と腕組みをして悩んでいた俺はハッと閃いた。
「荷物は俺が曳けば良いか」
手を打って俺がそう言う俺を見てリアナは首を傾げる。
「うん?ちょっと言ってる意味がよくわからないんだけど……」
「いや、荷車借りてさ。俺が曳いて荷物を運ぶって話」
「……シンが荷車を……え?冗談だよね?」
しばし考え込んだ後、若干引き気味でそう尋ねてくるリアナ。
しかし俺は本気である。
片手だからバランスは取りにくいかもしれないが、引っ張るだけだ。
なんてったって俺の筋力と俊敏は二万前後。
少し重たい荷物を長距離曳くぐらい訳ない話だ。
むしろ本気で曳けば荷車が保たないだろう。
「それで二つ目の問題点だが——」
「えッ、一つ目の問題点はそれで良いの!?決定なの!?」
ちょっと待って、と止めようとするリアナを取り敢えず静かにさせて話を進める。
「あの森を超えないといけない」
「あの森……って……えっと、確か〝静寂の森〟?」
聞き返されたその言葉に俺はこくりと頷いて肯定する。
静寂の森——。
それは単に静かな森、という意味ではない。
聞いた話では、そこに住む一際獰猛な神獣が眠っているらしく、音を立てると襲いかかってくるそうだ。
そこには神獣……もとい、恐らくフェンリルのような幻獣が何年も前から住み着いたらしい。
そいつは一年のうち殆ど眠っているらしく、その睡眠を妨害すると烈火の如く怒り狂う凶暴な存在だとか。
なんとか生き延びた商人の証言により、静寂の森には近付かないように、と言われるようになったとの事。
森は険しい山々に挟まれており、そこを抜けねばラムリカ村には辿り着けない。
故に、その森をどうしても抜けたい場合は声を潜め、音を立てずに進む事が必須らしい。
商人はもうあの森を抜けるのは断念しているらしいが、そこを行き来する旅人もいるそうな。
ちなみにその神獣が兎なら、あのアルミラージかと期待したが聞いた話では大熊らしい。
別名——〝憤怒の暴君〟だ。
「神獣って、アネッサさん……というより、フェンリルさんみたいな凄い存在なんだよね?」
「もし幻獣のことを指してるならそうなんだろうな。暴君ってくらいだから関わるべきじゃないんだろうけど……」
地図を見た限り、そこそこ広い森だ。
その神獣とやらがどこまで過敏な奴かは不明だが、遭遇しなければそれまでと言うならそこまで心配する必要もないかもしれない。
実際行き来してる人も少なからずいるのだ。
とは言え、出会した時は細心の注意が必要だろうが……。
あのフェンリルと同等の存在となれば今の俺では到底太刀打ちできない。
「……やっぱり、万が一の事を考えればリアナはここに残——」
「残らないからね」
俺の言葉が終える前にピシャリと遮られる。
その瞳には強い意志が見て取れた。
「危険は承知してる。自分の実力が不足してるのもわかってる。でも、そんな私でも少しくらい役に立てると思うよ?それに——」
少し俯いて、噛み締めるようにリアナを唇を結んで再び口を開く。
「私の知らない所で、シンがいなくなっちゃったら私は後悔してもしきれないよ……」
そう言って俺の服の先をキュッと摘んだ。
一人で行かないで、と訴えるかのように。
俺は頭を掻いて一つ頷くと、わかったよ、と一言告げる。
「わかったよ。リアナの事は俺が全力で守る。だから、リアナの力も貸してくれ」
そう告げると、笑顔でリアナは頷いた。
「最後に一つ、問題がある」
「まだあるの?」
人差し指を立てて告げた俺にリアナは聞き返してくるが、俺は黙って頷いて続ける。
「孤児院の子達にしばらく留守にする事を伝えなければならん」
「あー……うん、そだねぇ……」
多分、子供達は泣き付いてくる。
なだめるのが大変なのは容易に想像がつく。
「と言う訳で、そこはリアナ、任せた」
「私!?」
肩をポンと叩く俺を非難するような目で見るリアナ。
結局俺も引き連れられて二人で子供達とシスター達に事情を説明する事にした。
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