[R18]空き缶太郎のBL短編集 1冊目

空き缶太郎

文字の大きさ
49 / 55
俺のNTR対策/幼なじみ+バイト先輩×おつむよわよわ大学生/総受け

3

しおりを挟む
 

…2週間後。

俺はなんやかんやあって恋人(偽)の犬飼先輩と水族館デートに来ていた。

いくらフリとはいえ男2人でデートなんて俺は嫌だったんだが…犬飼先輩に『偽の恋人関係でもデートの実績があった方がいい』『口だけの関係だと怪しまれるから』と丸め込まれたのが原因である。

…それとメシ奢ってくれるって言われたのもあるけど。


「雅人~。ほらほら、餌やりしてる~!」
「はぁ…犬飼先輩。男2人で魚見て何が楽しいんです?」

場所は家族連れやカップルで賑わう水族館の大水槽前。
中で餌やりをする飼育員さんに手を振る子供たちに混ざり、大の大人である犬飼先輩が楽しそうにはしゃいでいた。

「ムードないなぁ。せっかくデートに来たのに…」
「いやムードって…犬飼先輩、これもあくまで作戦の………」

と、俺が大きくため息をつくと犬飼先輩は無言で俺の方に駆け寄ってくる。

「ん?犬飼先輩、何か……」
暁斗あきと
「え?」
「俺の名前!…いつまでも苗字呼びは他人行儀だし…こういう時ぐらいは名前で呼んで欲しいな♡」

急に頬を膨らませたかと思えば名前呼びの要求。
これが女の子なら可愛いと思うけど…生憎、犬飼先輩は俺より背が高い立派な成人男性だ。

「いやでも……」
「最終的には幼なじみ君と対面してギャフンと言わせる作戦なんだから、いざって時に苗字呼びだったら怪しいでしょ?」
「そ、そうですけど……」

ぐぬぬ、最もらしいことを……

俺は少々…いや、かなり渋りながらも将来幸せな結婚生活を手に入れるため、意を決して先輩の名前を呼んだ。

「………あ、暁斗…先輩?」
「んー、『先輩』も無くていいけど…これはこれで需要あるしOK♡」
「どこ需要ですか」

可愛らしく指でOKサインを作る犬飼…じゃなくて、に思わずツッコミを入れる。
が、当の先輩は1ミリも気にする様子を見せず楽しそうに俺の手を握った。

「じゃあそろそろ時間だし、次はイルカショー見に行こうか。最前列で!」
「えぇー…服濡れるの嫌なんですけど」
「まぁまぁ、いいからいいから」

そう言うと暁斗先輩は俺の手を引きイルカショーの会場へと足を向ける。


…最初こそ男2人のデートは周囲の目を引くのではと不安な俺だったが、無邪気にはしゃぐ先輩の姿に段々と恥じらいが薄れて行くのを感じた。



(……よくよく考えたら、先輩はわざわざ俺のために偽恋人役なんかやってくれてるんだよなぁ)

水族館の後、繁華街のゲーセンでUFOキャッチャーと格闘する暁斗先輩の背中を見つめながらふと思う。

『バイト先の先輩』という薄い繋がりにも関わらず、あの幼なじみヤリチンを改心させるために一肌脱いでくれたのは正直ありがたい。

……まぁ、先輩側の動機としては『面白いから』ってのがメインなんだろうけど。

「雅人~!見てみて!キーホルダー取れた!」
「ん?…え、海老天…?」

嬉しそうな声にハッとして顔をあげれば、そこにはよく分からない海老の天ぷららしきキーホルダーを2つ手にした暁斗先輩。

「いやぁ、1個目は割とすんなり取れたんだけど…もう1個取ろうと思ったらトータル5000円ぐらいかかっちゃって……」
「ごっ…!?な、なんで2個も取ろうとしたんですか…」

あまり高くはないバイト代。
それを5000円も注ぎ込んでしまって大丈夫なんだろうか…?

俺は少し暁斗先輩が可哀想になり、思わず哀れみの目を向けたが……


「これ…今日の、俺と雅人の初デートの記念にと思って」
「え…?」

せっかくゲットした海老天キーホルダーを1つ…俺の手に握らせながら微笑む暁斗先輩。

その表情に先程までのおちゃらけた様子はなく、俺は思わずゴクリと息を飲んだ。

「あ、きと…せんぱ……」
「雅人…」

普段のバイトではほとんど見たことがない、暁斗先輩の真剣な眼差し。
俺はそんな瞳から目をそらすことが出来ず……


「あ!思い出した!」
「ぅえっ!?」

突如大声を出した暁斗先輩。
雰囲気に呑まれかけていた俺は思わず声を上げ、キーホルダーを強く握っててしまう。

「な、なんですか急に…マジでびっくりしたんですけど…」
「ごめんごめん。晩御飯、お店予約してたの思い出して…いやぁ、思い出せて良かった」
「晩飯?いや、そこまでしてもらわなくても…」

恋人関係を箔付けするためのデートならこれで充分だろう。
しかし暁斗先輩は引く気がないようで……

「まぁまぁそう言わずに!今から帰ってぼっち飯もお互い悲しいじゃん?予約したお店も普通に居酒屋だし…」
「えぇ~…まぁいいですけど…」

…なんか、また丸め込まれてる気がする。

そう思いながらも、俺は大人しく暁斗先輩について行くことにするのであった。



………………


………………………



「…いやぁ…いくら何でもこれは……」

初デートと称してバイト先の後輩、雅人と遊び回っていた暁斗。
最後に居酒屋で夕食を済ませてから解散しようとしていたのだが……そう上手く事が運ぶことは無かった。

なぜなら…


「むにゃ…ぐぅ」
「まさか雅人がこんなに酒に弱いなんて……」

頭を抱える暁斗の前には完全に寝落ちした雅人。
その脇にはカクテルのグラスが一つだけ置かれていた。

(カシオレ1杯で寝落ちって…あーあ、俺雅人の家知らないから送っていくことも出来ないし…)

むにむに

「んむぅ」

頬をつつかれても雅人に目を覚ます様子はない。

暁斗はまた大きなため息を吐くと、先に会計を済ませてから雅人の体をゆっくりと抱き上げた。

「よっこい…しょ。じゃ、ご馳走様で~す」
「すぅ…すぅ…」
「雅人?まーさーとー。……ダメだこりゃ」

夜風に当たっても雅人は目を覚まさず、それどころか暁斗に密着する始末。
そんな後輩の顔を見つめながら、暁斗は僅かに目を細める。


「……そんな無防備でいたら、俺みたいなに襲われちゃうよ?」


小声で囁きながら暁斗が歩を進めるその先には…これみよがしにネオンが輝くラブホテル。


「今夜はちゃんと家に返してあげるつもりだったんだけど……ごめんね」




 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...