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11.愛ある恋人とは2
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夕食を食べてくるという手紙を出して、塔の入口に向かう。アンリ殿下と一緒に。
アンリ殿下も今から帰るそうで、外に馬車を待たせているのだとか。
戻ってきて早々帰るなんて、だいぶ疲れたのだろう。アンリ殿下の苦労が偲ばれる。
そうして外に出ると、私を待っていたノエルがちらりとこちらを見た。
「お待たせいたしました」
「いえ、それほど待ってはいないので……アンリ殿下も今から帰られるところですか。魔物が目撃されたとかで、確認しに行かれたとお聞きしましたが、いかがでしたか?」
「ああ……痕跡はあったが、あまり大きな魔物ではなそうだ。兵を向かわせれば十分だろう。申請書はすでに提出してある」
「かしこまりました。それでは、本日はお疲れ様です。また明日もご苦労おかけすると思いますが、ジルの弟子となったのが運のツキと思って諦めてください」
「ああ……そうだな」
アンリ殿下の苦労は塔全体に周知されているのだと、淡々と告げるノエルの言葉が物語っている。
それに乾いた笑いを返すと、アンリ殿下はそれではと言って去ろうとして――何故か、足を止めた。
「ああ、そうだ。……ノエル、彼女は俺の大切な妹弟子だから、くれぐれも傷つけるようなことはしないように」
「肝に銘じておきます」
それだけ言って、今度こそアンリ殿下は馬車に乗って去っていった。
馬車の姿が完全に見えなくなると、ノエルはくるりと私のほうに向きなおった。
「ずいぶんと大切にされているようで」
「二人しかいない弟子ですので」
「そういうものですか……。フロランのところも、もう少し弟子が定着するようになれば、その気持ちもわかるようになるかもしれませんね」
それについては、大変申し訳なく思う。
激務の一端にジルがあるので、その弟子として謝罪したい気持ちでいっぱいになった。
「……まあ、言ってもしかたのないことです。それよりも本日の食事ですが……希望はありますか?」
「好き嫌いはこれといってありませんので、お任せします」
「なるほど……。それではどうぞ、こちらに」
ノエルがそう言うと、馬車が一台走ってきた。御者席には誰もいない。無人の馬車はフロランの発明した魔術のひとつだ。
あれこれと飛び回ることもあるので、一々御者なんて待っていられるか、という理由で手綱が自動で馬に指示を送る。
すごいのはすごいのだが、やはりなんというか、地味だ。道行く人は御者席なんて注視しない。
馬がいなければ目立つかもしれないが、馬は必要だ。人ひとり分の食事やら賃金を減らせることぐらいしかメリットがなく、手綱の操作には絶えず微量の魔力を長さなければいけないので、繊細な技術が必要になるため、使用者はほとんどいない。
そんな神経を使う魔術を使役するぐらいなら、普通に御者を雇う人が大半だった。
つまり、労力に見合っていない魔術だということ。
「……フロラン様の魔術を使役できるなんて、さすが長年弟子をしているだけはありますね」
「お褒めにあずかり光栄です」
先に乗ったノエルの手を借りて、馬車に乗りこむ。ふかふかのクッションに包まれていると、馬車が動き出したのを感じた。
「……揺れが少ないのですね」
「静音や振動の削減の魔術を取り入れてありますので。魔道具に落としこめられれば、流通も可能だと思います」
「そちらも、フロラン様の発明で?」
「はい。あの人は馬車が苦手なようで……どうにか快適に過ごせないかを模索しているのですよ」
フロランは基本的に塔の中にこもりきりなので、この魔術が公表されたとしても、その恩恵に預かれるのはフロラン以外の人だろう。
いや、馬車に乗る機会が少ないからこそ、苦手なのかもしれない。慣れればこういうものだと諦めもつく。
「それはともかく……先日、あなたの婚約者が心変わりしたとお聞きしました」
「ええ、まあ、そうですね。お恥ずかしながら」
「ひとつ伺いますが……その方を愛していたのですか?」
真剣な色を湛えた水色の瞳に見据えられ、慌てて首を横に振る。
おかしな勘違いはしてほしくなかったから。
「愛を語らうには、過ごした時間が短すぎました。あの人は学園に、私は塔に進みましたから」
「見せつけてやりたいなどといった私怨が含まれていないのなら、構いません」
「……見せつけてやろうとは微塵も考えていませんでした」
そももそも、見せつける場所がない。
「そうですか。それならなんの心配もいりませんね。明日、王城で夜会が開かれるのはご存じですよね。そちらに僕のパートナーとして出席していただきたい」
「パートナー……として、ですか?」
「はい。縁談がくるのを避けたいということでしたら、参加したほうが有意義だと思いますが……どうしますか?」
これまで、社交の場でノエルを見たことは一度もない。
だけど夜会に参加するということは招待状が来ているということで。
でも普通、魔術師本人には送っても、魔術師の弟子に招待状は送らない。すぐにやめたりする人もいるので、送ってもしかたないからだ。
「ああ、言い忘れていました」
そんな私の疑問に気付いたのか、ノエルが何の気なく言う。
「僕はフロランの弟子ではありますが、魔術師ノエルとしても登録されています」
アンリ殿下も今から帰るそうで、外に馬車を待たせているのだとか。
戻ってきて早々帰るなんて、だいぶ疲れたのだろう。アンリ殿下の苦労が偲ばれる。
そうして外に出ると、私を待っていたノエルがちらりとこちらを見た。
「お待たせいたしました」
「いえ、それほど待ってはいないので……アンリ殿下も今から帰られるところですか。魔物が目撃されたとかで、確認しに行かれたとお聞きしましたが、いかがでしたか?」
「ああ……痕跡はあったが、あまり大きな魔物ではなそうだ。兵を向かわせれば十分だろう。申請書はすでに提出してある」
「かしこまりました。それでは、本日はお疲れ様です。また明日もご苦労おかけすると思いますが、ジルの弟子となったのが運のツキと思って諦めてください」
「ああ……そうだな」
アンリ殿下の苦労は塔全体に周知されているのだと、淡々と告げるノエルの言葉が物語っている。
それに乾いた笑いを返すと、アンリ殿下はそれではと言って去ろうとして――何故か、足を止めた。
「ああ、そうだ。……ノエル、彼女は俺の大切な妹弟子だから、くれぐれも傷つけるようなことはしないように」
「肝に銘じておきます」
それだけ言って、今度こそアンリ殿下は馬車に乗って去っていった。
馬車の姿が完全に見えなくなると、ノエルはくるりと私のほうに向きなおった。
「ずいぶんと大切にされているようで」
「二人しかいない弟子ですので」
「そういうものですか……。フロランのところも、もう少し弟子が定着するようになれば、その気持ちもわかるようになるかもしれませんね」
それについては、大変申し訳なく思う。
激務の一端にジルがあるので、その弟子として謝罪したい気持ちでいっぱいになった。
「……まあ、言ってもしかたのないことです。それよりも本日の食事ですが……希望はありますか?」
「好き嫌いはこれといってありませんので、お任せします」
「なるほど……。それではどうぞ、こちらに」
ノエルがそう言うと、馬車が一台走ってきた。御者席には誰もいない。無人の馬車はフロランの発明した魔術のひとつだ。
あれこれと飛び回ることもあるので、一々御者なんて待っていられるか、という理由で手綱が自動で馬に指示を送る。
すごいのはすごいのだが、やはりなんというか、地味だ。道行く人は御者席なんて注視しない。
馬がいなければ目立つかもしれないが、馬は必要だ。人ひとり分の食事やら賃金を減らせることぐらいしかメリットがなく、手綱の操作には絶えず微量の魔力を長さなければいけないので、繊細な技術が必要になるため、使用者はほとんどいない。
そんな神経を使う魔術を使役するぐらいなら、普通に御者を雇う人が大半だった。
つまり、労力に見合っていない魔術だということ。
「……フロラン様の魔術を使役できるなんて、さすが長年弟子をしているだけはありますね」
「お褒めにあずかり光栄です」
先に乗ったノエルの手を借りて、馬車に乗りこむ。ふかふかのクッションに包まれていると、馬車が動き出したのを感じた。
「……揺れが少ないのですね」
「静音や振動の削減の魔術を取り入れてありますので。魔道具に落としこめられれば、流通も可能だと思います」
「そちらも、フロラン様の発明で?」
「はい。あの人は馬車が苦手なようで……どうにか快適に過ごせないかを模索しているのですよ」
フロランは基本的に塔の中にこもりきりなので、この魔術が公表されたとしても、その恩恵に預かれるのはフロラン以外の人だろう。
いや、馬車に乗る機会が少ないからこそ、苦手なのかもしれない。慣れればこういうものだと諦めもつく。
「それはともかく……先日、あなたの婚約者が心変わりしたとお聞きしました」
「ええ、まあ、そうですね。お恥ずかしながら」
「ひとつ伺いますが……その方を愛していたのですか?」
真剣な色を湛えた水色の瞳に見据えられ、慌てて首を横に振る。
おかしな勘違いはしてほしくなかったから。
「愛を語らうには、過ごした時間が短すぎました。あの人は学園に、私は塔に進みましたから」
「見せつけてやりたいなどといった私怨が含まれていないのなら、構いません」
「……見せつけてやろうとは微塵も考えていませんでした」
そももそも、見せつける場所がない。
「そうですか。それならなんの心配もいりませんね。明日、王城で夜会が開かれるのはご存じですよね。そちらに僕のパートナーとして出席していただきたい」
「パートナー……として、ですか?」
「はい。縁談がくるのを避けたいということでしたら、参加したほうが有意義だと思いますが……どうしますか?」
これまで、社交の場でノエルを見たことは一度もない。
だけど夜会に参加するということは招待状が来ているということで。
でも普通、魔術師本人には送っても、魔術師の弟子に招待状は送らない。すぐにやめたりする人もいるので、送ってもしかたないからだ。
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