なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優

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30.ほんの少しでいいから1

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 じっと、水色の瞳が私を見つめる。そうして小さく首を傾げた。

「好きになることに理由がいりますか?」
「どこが好きとか、そういうのはあると思います」
「強いてあげるのなら、全部ですかね。あなたの髪も目も肌も頭のてっぺんから足の先まで。そして内面も……ジルに振り回されながらも楽しそうにしている胆力や突拍子もなく求婚してきた奇天烈さも好ましく思っていますよ」

 眉ひとつ動かさず語るノエルに、頬に熱が集まる。
 聞いたのは私だけど、だけど、まさか全部と返ってくるとは思っていなかった。内面のほうは褒め言葉なのか悩むところだけど、それでも好ましいと思ってくれていることに変わりはないわけで。

「あなたのどこが素晴らしいのか語るには、ここは適切ではありませんね。二人になれる場所でなら、あなたが満足するまで愛の言葉を捧げますよ」

 優しく握りこまれた手が、彼の口元まで運ばれる。手の甲に落ちた柔らかな口づけに、表情筋が保てそうにない。
 照れやら恥ずかしさやらがまざり、羞恥をごまかすための笑みを浮かべそうになるが、今この状況ではにやけ面にしかならない。それを瞬時に察知して、口元に力をこめる。

「ああ、そういえば。家具を見に行く前に家の内装を確認するべきでしたね。今からでも見に行きますか?」
「いえ、今は、ちょっと」

 この話の流れで家――二人きりになれる場所は、なんか色々と危険だ。何がと具体的には言えないけど、危険だ。

「そうですか。ではまた後日誘いますね。ならそろそろ塔に戻りますか。ジルが脱走を試みる頃合いだと思うので」

 こくこくと全力で頷く。握られた手はそのままに、ノエルが馬車に呼んだ。
 さすがに握ったままでは馬車に乗れない。手をはなしてノエルが先に馬車に乗り、どうぞ、と言うように手の平が差し出された。

「ありがとうございます」

 馬車に乗るためのエスコートだと思い、差し出された手に自らの手を添えて、馬車に乗りこむ。
 向かい合うように座ると同時に、馬車が出発する。
 水色の瞳は窓の外を見ている。その横顔を観察するように見つめるが、やはりいつも通りだ。頬には赤みひとつさしていない。

 あれで、ノエルにとっては平常運転だということなのだろう。
 いつも事務的で、淡々としていたから婚姻という名の契約を結ぶのに申し分ないと思い、彼に結婚を前提にしたお付き合いを申し込んだ。

 だから、彼がこういう人だというのは、わかっていたはずだ。
 それなのに、彼の表情がまったく動かないことを少しだけ、寂しく思ってしまう。

 私が羞恥に殺されそうになっている十分の一でいいから、ノエルの顔に変化が生じればいいのにと、思ってしまう。

「どうかしましたか?」

 私に見られていることに気づいたのだろう。ノエルが窓から私に視線を移し、首を傾げた。
 肩にかかっていた黒髪が揺れて落ちる。湖のような瞳は相変わらず波打つことすらしていない。

「くすぐってもいいですか?」

 ほんの小さな波紋でもいいから、起こしてみたい。
 そう思ってしまったばっかりに、とんでもない言葉が口を衝いて出た。
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