33 / 99
旅路編
11
しおりを挟む
*
夜明けとともに地底湖を出発したレオナたちを待ち受けていたのは、先の見えない三叉路だった。しかし、一度通った道を記憶しているのか、レイヴンは迷わず真ん中の道を選んだ。半信半疑な様子のセリオスも、その確信に満ちた歩みを信じて進み、前方に明るい光を見つけると感心したようなうなり声をあげた。
洞窟を抜けると、眼下には深い谷が広がっていた。谷底には霧が漂い、遠くからは渓流の音がかすかに聞こえた。本当に、オルパソ渓谷を越えたのだ。
ここへ来るまで、レイヴンの道案内は的確だった。彼がいなかったら、広くて深い洞窟を何日もさまよったかもしれない。セリオスの目にももう、猜疑心は浮かんでいなかった。
「ここはモンリス山の中腹でしょう。まずは峠を目指します」
レイヴンは山頂の方を指差す。その先には暗い空が広がっている。王都の宿から見たときも不気味な雲が垂れ込めていたが、山頂には雪が積もっているのではないだろうか。
「山頂まではどのぐらいかかるのでしょうか?」
レオナが心配そうに尋ねると、レイヴンは一行を振り返った。
「山頂までは行きません。半日ほどあれば、峠まで行けるでしょう」
「今日はそこで休息を取るのですか?」
「そのつもりです。しばらくは足場の悪い道が続きますが、意外とリーヴァ側は道がなだらかになっているのですよ。少し先まで行けば、馬に乗ったまま移動できるでしょうから、明日には峠を越えて下山できるはずです」
「そうなのですね」
レオナはほっと胸をなでおろす。
「最初から険しい道が続いていたら、私もこの山を越えようなんて思いませんでしたよ」
レイヴンは苦笑する。それほど、王都から見えるモンリス山は険しいのだろう。しかし、逆に言えば、峠まで行けば、比較的安全な道が続いているということだ。
「私はオークに追いかけられ、無我夢中で下ってきましたが、みなさんがいれば、あの程度の魔物でしたら、倒しながらこのけもの道を登っていけるはずです」
レイヴンは前方の道ならぬ道を指差す。落石が散らばり、岩が露出していたが、人が並んで歩けるほどの広さはあった。
「レイヴンの言う通りに進もう」
セリオスは即答した。時間を惜しむ気持ちもあっただろうが、レイヴンの提案に信頼を置いたのだろう。ルドアースもベリウスも反論はしなかった。
「レオナはイリスに乗っていけ。手綱はベリウスに引かせる」
セリオスはレオナを抱き上げると、イリスの背に乗せた。イリスは落ち込むような目でレオナを見た。昨日、レオナが落下したのを申し訳なく思っているのかもしれない。
「頼むぞ、イリス」
とセリオスが首筋をなでると、イリスの目に力強さが宿る。今度こそ、レオナを守り通すと決意した光に見えた。
ベリウスの馬はレイヴンが引くことになった。セリオス、レオナとベリウス、レイヴン、ルドアースの順に、足場の悪い細い道を縦一列になって慎重に進む。
上空からひんやりと冷たい風が吹いてくる。今は晴れているが、雨が降ってこないか心配だ。無事に峠までいけるだろうか。
レオナの胸に次々と不安が浮かぶ。何より、オークという魔物が出るというではないか。ゴブリンよりも強いのだろうか。セリオスたちがいれば大丈夫だとわかっていても、足手まといにはなりたくない。
レオナがぎゅっとイリスに抱きつくと、ベリウスが話しかけてくる。
「昨夜はよく眠れましたか?」
「え、えぇ。気を失っていたみたいでごめんなさい」
「いえ、俺もうかつでした。大群のゴブリンを見たのは初めてで、レオナ様を危険にさらしてしまい、申し訳なく思っています」
ベリウスは後頭部に手を置いてあたまをさげた。イリスから落ちたのはレオナが手を滑らせたからなのに、責任を感じていたようだ。
「危険だなんてとんでもない。それはそうと、ゴブリンはあんなにもいないものなのですか?」
「少なくとも、あれほどの群れで行動するゴブリンを俺は知りませんね。モンリス山に人間が立ち入らないから異常に増えたのか、司令塔のような魔物がゴブリンを操っているのか……」
夜明けとともに地底湖を出発したレオナたちを待ち受けていたのは、先の見えない三叉路だった。しかし、一度通った道を記憶しているのか、レイヴンは迷わず真ん中の道を選んだ。半信半疑な様子のセリオスも、その確信に満ちた歩みを信じて進み、前方に明るい光を見つけると感心したようなうなり声をあげた。
洞窟を抜けると、眼下には深い谷が広がっていた。谷底には霧が漂い、遠くからは渓流の音がかすかに聞こえた。本当に、オルパソ渓谷を越えたのだ。
ここへ来るまで、レイヴンの道案内は的確だった。彼がいなかったら、広くて深い洞窟を何日もさまよったかもしれない。セリオスの目にももう、猜疑心は浮かんでいなかった。
「ここはモンリス山の中腹でしょう。まずは峠を目指します」
レイヴンは山頂の方を指差す。その先には暗い空が広がっている。王都の宿から見たときも不気味な雲が垂れ込めていたが、山頂には雪が積もっているのではないだろうか。
「山頂まではどのぐらいかかるのでしょうか?」
レオナが心配そうに尋ねると、レイヴンは一行を振り返った。
「山頂までは行きません。半日ほどあれば、峠まで行けるでしょう」
「今日はそこで休息を取るのですか?」
「そのつもりです。しばらくは足場の悪い道が続きますが、意外とリーヴァ側は道がなだらかになっているのですよ。少し先まで行けば、馬に乗ったまま移動できるでしょうから、明日には峠を越えて下山できるはずです」
「そうなのですね」
レオナはほっと胸をなでおろす。
「最初から険しい道が続いていたら、私もこの山を越えようなんて思いませんでしたよ」
レイヴンは苦笑する。それほど、王都から見えるモンリス山は険しいのだろう。しかし、逆に言えば、峠まで行けば、比較的安全な道が続いているということだ。
「私はオークに追いかけられ、無我夢中で下ってきましたが、みなさんがいれば、あの程度の魔物でしたら、倒しながらこのけもの道を登っていけるはずです」
レイヴンは前方の道ならぬ道を指差す。落石が散らばり、岩が露出していたが、人が並んで歩けるほどの広さはあった。
「レイヴンの言う通りに進もう」
セリオスは即答した。時間を惜しむ気持ちもあっただろうが、レイヴンの提案に信頼を置いたのだろう。ルドアースもベリウスも反論はしなかった。
「レオナはイリスに乗っていけ。手綱はベリウスに引かせる」
セリオスはレオナを抱き上げると、イリスの背に乗せた。イリスは落ち込むような目でレオナを見た。昨日、レオナが落下したのを申し訳なく思っているのかもしれない。
「頼むぞ、イリス」
とセリオスが首筋をなでると、イリスの目に力強さが宿る。今度こそ、レオナを守り通すと決意した光に見えた。
ベリウスの馬はレイヴンが引くことになった。セリオス、レオナとベリウス、レイヴン、ルドアースの順に、足場の悪い細い道を縦一列になって慎重に進む。
上空からひんやりと冷たい風が吹いてくる。今は晴れているが、雨が降ってこないか心配だ。無事に峠までいけるだろうか。
レオナの胸に次々と不安が浮かぶ。何より、オークという魔物が出るというではないか。ゴブリンよりも強いのだろうか。セリオスたちがいれば大丈夫だとわかっていても、足手まといにはなりたくない。
レオナがぎゅっとイリスに抱きつくと、ベリウスが話しかけてくる。
「昨夜はよく眠れましたか?」
「え、えぇ。気を失っていたみたいでごめんなさい」
「いえ、俺もうかつでした。大群のゴブリンを見たのは初めてで、レオナ様を危険にさらしてしまい、申し訳なく思っています」
ベリウスは後頭部に手を置いてあたまをさげた。イリスから落ちたのはレオナが手を滑らせたからなのに、責任を感じていたようだ。
「危険だなんてとんでもない。それはそうと、ゴブリンはあんなにもいないものなのですか?」
「少なくとも、あれほどの群れで行動するゴブリンを俺は知りませんね。モンリス山に人間が立ち入らないから異常に増えたのか、司令塔のような魔物がゴブリンを操っているのか……」
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
その出会い、運命につき。
あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~
紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。
「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。
だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。
誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。
愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる