砂色のステラ

水城ひさぎ

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旅路編

20

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 王都に次ぐ大都市リーヴァは、エルアルムにある主要な交易路の交差点であり、商業が盛んな街として発展し続けるにぎやかな街だった。

 美しい娘たちが商店で宝石を買い、勇敢な男たちが武器屋で豪華な剣を買う。見たことのないようなフルーツや、色とりどりの花が店先に並ぶ。異国のものらしき言葉が飛び交い、見るものすべてが新鮮で、レオナはきょろきょろと辺りを見回しながら歩いた。

「それほど物珍しいか?」

 後ろでくすりと笑い声が聞こえる。世間知らずを笑われたようだったが、そんなことは気にならないぐらい、レオナは興奮していた。

「は、はい。このような街を見るのは、初めてです」
「クレストル領にも大きな街はあるだろう」
「私はあまり出かけることがなかったので、このような光景は見ているだけで楽しいです」
「リーヴァには異国から珍しいものがたくさん入る。王都にないものが見られるだろう」
「街を見て回ってもいいのですか?」
「アメリアたちが到着するにはまだ数日かかる。バルターの動きも把握できている。常にベリウスをそばにつかせるが、宿に戻るまでは自由に過ごせ」

 後ろを振り返ると、少し離れた場所からついてくるベリウスが見えた。目が合うと、ベリウスは柔らかくほほえんで、頭をさげる。

「セリオス様はこれからどうされるのですか?」

 リーヴァへ到着するなり、ルドアースは宿の手配を命じられ、フリントはオリビアとともにどこかへ行き、レイヴンは王都で購入した魔石を持って先をどんどん歩いていくから見失ってしまっていた。

「オリビアが戻り次第、ミラージュ侯に会ってくる。レオナは日が暮れる前にベリウスとともに宿へ戻ればよい」

 セリオスがセシェ島にいる間、フォルフェスの団員はオリビアの父であるミラージュ侯爵が面倒を見ていたと言っていたのだったか。

「フォルフェスのみなさんは今、どこにいらっしゃるのですか?」
「二年前、反乱を恐れた国王は身寄りのある騎士を実家へ戻し、領土からの出入りを禁じた。そのほかの団員はミラージュ侯の管理下に置かれ、リーヴァにいる。アメリアたちの到着に間に合う団員のみで王都へ向かうが、数日あれば、半数以上は集結できるはずだ」

 ダムハート国王が崩御したことにより、各地の領土から出入りできるようになった団員は皆、リーヴァを目指しているところのようだ。それでも、フォルフェスの半分が伯爵家の護衛に回るなら、王都へは無事に到着できるのだろう。

「レオナ、この先の広場にフィリス教皇像がある。そのような銅像が見られるのは、リーヴァだけだ。見ておくか?」

 セリオスが唐突にそう言う。たしか、レイヴンもそのようなことを言っていた。リーヴァの民はステラサンクタを敬愛していると。

「はい、見てみたいです」

 レオナがうなずいたとき、人混みの中からオリビアが現れた。彼女はこちらに気づくと、足早に駆け寄ってくる。

「団長、お待たせしました。準備が整いましたので、屋敷へご案内いたします」
「ミラージュ侯の好意に感謝する」
「恐縮です。レオナ様はどうなさいますか? 父はお会いしたいようですが」
「いや、どこからレオナの情報が漏れるかわからない。ミラージュ侯にこれ以上の迷惑がかからないよう、バルターの件が解決してからあらためて紹介するつもりだ。事情は俺から話そう」
「はっ!」

 オリビアは敬礼したあと、レオナに屈託のない笑みを見せる。

「リーヴァは王国屈指の美しい街です。どうぞ、お楽しみください」
「あ、ありがとうございます」
「では団長、参りましょう」
「レオナ、またあとで」

 セリオスはそっとレオナの肩に触れると、オリビアを連れて歩き出す。その後ろ姿はすぐに人の波にまぎれて見えなくなった。

 レオナも広場を探して歩き出したとき、店らしき建物から出てきたレイヴンを見つけた。彼はポケットに何かをねじ込むと、手持ち無沙汰に辺りを見回す。そして、レオナに気づいて、こちらへ向かってくる。

「レオナさん、おひとりですか?」
「いえ、離れたところからベリウス卿が見守ってくださってます」

 レイヴンはレオナの後ろへ目をやり、「なるほど」とつぶやく。

「このままレオナさんをさらっても、すぐに捕まりそうですね」

 冗談なのかわからないようなことを真顔で言う彼を困り顔で受け止めて、レオナはすぐに彼の手もとへ目を向ける。

「魔石はどうされたのですか?」

 二箱に分けて入れられていた魔石は、とてつもなくたくさんあるように見えたけれど、今のレイヴンは何も持っていない。

「ああ、魔石屋で売りました」
「買ったばかりなのに、売ってしまったのですか?」

 レオナは驚いて声をあげた。

「旅を続けるにはお金がいりますから。セリオス殿はいくらでも魔石を買っていいと言いましたので、王都へ戻ったら、また珍しい魔石を買わせてもらいますよ」

 しれっと言うから、レオナは少々あきれてしまったが、それよりも何よりも彼の言葉に驚いていた。

「レイヴンも、王都へまた一緒に行ってくれるのですか?」
「言ったでしょう。セリオス殿に雇われていれば、レオナさんとともに行動できます。楽園へ行くまではお供いたします」

 あくまでも、目的のためだというが、レイヴンは不義理をしない人で、セリオスが心配しているような悪い人ではないのだろう。

「なぜ、そこまでして楽園へ行きたいのか、聞いてもよいですか?」
「それはですね……」

 レイヴンは少し間をおくと、いたずらを思いついた子どものように目を細める。

「楽園には、ユーラスでしか手に入らない魔石があるのですよ」
「魔石……ですか?」
「それはそれは美しい宝石のような石だとか」

 それは、どのようなものなのだろう。レオナは楽園の風景を思い出そうとした。しかし、優しい母の顔が浮かぶだけで、魔石のようなものを幼いころに見た記憶はよみがえらなかった。
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