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リーヴァ編
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レオナはまぶたをあげるなり、日差しのまぶしさに目を細めた。窓枠から見える空はすでに青く、今朝はいつもより遅く起きてしまったようだ。いつも隣にいるセリオスの姿がベッドにないと知ると、レオナは急に不安になった。
ここ数日、セリオスは眠っているレオナをかわいがることに熱心で、起きたときには唇が湿っていたり、むき出しにされた上半身に彼が顔をうずめていることがあたりまえだった。それがどうしたことか。今は唇が冷えていて、ナイトドレスにも乱れがない。
何かあったのだろうか。ストークス家の保護を目的にしていながら、バルターがまだリーヴァに到着していないからと、あまりにものんきな日々を送っていて、緊張感を忘れていたかもしれない。
あわててベッドからおりたとき、唐突にドアが開き、レオナは驚きで飛び上がった。
「せ、セリオス様っ、どこへ行かれたのかと心配しました」
「よく眠っていただろう。ほんの少し出ていただけで大げさな」
苦笑するから、レオナは赤くなる。そんな姿も愛おしそうに、セリオスは砂色の髪をゆるりとなでた。ずっと醜いと思っていた髪が、彼に触れられるだけで、なぜだか尊いものに感じられる。
「おまえにドレスを用意したのだ」
「ドレスですか?」
「ああ。ミラージュ候をあっと驚かせるほどに着飾るがよい」
セリオスが後ろを振り返り、「入ってこい」と言うと、オリビアが姿を現し、「おはようございます、レオナ様」と頭をさげる。そして、彼女に付き従うメイドらしき若い娘がドレスを抱えて一礼をした。
「これは何ごとなのですか?」
レオナが面食らうと、オリビアはあきれ顔でセリオスを見やる。
「団長はまだ何もお話してないのですか?」
「ぐっすり寝ていたからな。愛らしい寝顔を失わせてまで伝えることでもない」
ますますオリビアはあきれてため息をつくと、レオナに生真面目な顔を向ける。
「ストークス伯爵が本日、リーヴァに到着するとの伝令がありました。アラン殿にはすでに伝書を送り、我が父、ミラージュ侯爵の歓迎をお受けいただきましたので、レオナ様にもぜひ、ミラージュ家へお越しいただきたいのです」
「私がご一緒してもよいのですか?」
「当然です。父も、レオナ様に会いたがっているんですよ」
「……そうなのですか?」
初耳で驚く。
「心配だからと、団長が何かと理由をつけては父に会わせないので、お会いできるとなれば、盛大な歓待を受けるでしょう」
オリビアは大げさに言っているのではないか。ベネット公爵の娘だからといっても、それほど歓迎される理由もわからない。
困惑していると、セリオスがメイドからドレスを受け取る。
「さあ、レオナ。これに着替えるといい」
差し出されたのは、花の模様が金糸で繊細に施された深緑色のドレスだった。
「レオナ様によくお似合いになると思います。では団長、部屋を出てもらえますか?」
オリビアがセリオスを部屋から追い出そうとするが、彼は軽やかに後ろへさがり、不服そうに腕を組む。
「レオナの着替えには、なれている。今さら、遠慮する必要もない」
「正気ですか?」
オリビアが目を見開くから、レオナは恥ずかしくてたまらず、セリオスの腕を軽く押す。
「そ、そのような誤解を受けるようなことは言わないでください。いつも着替えはひとりでできています」
「何が誤解だ。夫に隠さねばならないようなものは何もないだろうに」
「そういう話ではありませんっ」
真っ赤になると、オリビアも加勢する。
「ご令嬢のたしなみをなんだと思ってるのですか。本当にそういうところは無粋な上に、気がきかないのですね。そろそろ宝石商が来ますから、そちらをお願いします」
「宝石か。そうだな」
セリオスはあっさりとうなずくと、部屋を出ていく。
「まったく、団長はレオナ様をほかのものに任せるのが相当気に入らないようですね」
ドアを閉めながら、オリビアは不満げに言うが、すぐに笑顔になって、深緑のドレスをレオナによく見えるように広げた。
「私がお選びしました。ほかにも何着かご用意しましたので、お気に召すものをお選びください」
「あの、そちらで大丈夫です。とても綺麗な刺繍がされているので気に入りました」
「光栄です。リーヴァの刺繍は貴族たちがこぞって身につけるほど、質の高い職人たちの手によって縫われたものなんですよ」
「そうなのですね。本当に綺麗です。着てみてもいいですか?」
「もちろんです。……それにしても、うわさに聞く公爵令嬢そのままの控えめな方ですね、レオナ様は。団長のような男でよかったのですか?」
メイドにドレスを着せるように指示しながら、オリビアは首をひねる。
「セリオス様ほど素晴らしい方はこの大陸にはおりません。オリビア卿もそう思われますよね?」
レオナはまぶたをあげるなり、日差しのまぶしさに目を細めた。窓枠から見える空はすでに青く、今朝はいつもより遅く起きてしまったようだ。いつも隣にいるセリオスの姿がベッドにないと知ると、レオナは急に不安になった。
ここ数日、セリオスは眠っているレオナをかわいがることに熱心で、起きたときには唇が湿っていたり、むき出しにされた上半身に彼が顔をうずめていることがあたりまえだった。それがどうしたことか。今は唇が冷えていて、ナイトドレスにも乱れがない。
何かあったのだろうか。ストークス家の保護を目的にしていながら、バルターがまだリーヴァに到着していないからと、あまりにものんきな日々を送っていて、緊張感を忘れていたかもしれない。
あわててベッドからおりたとき、唐突にドアが開き、レオナは驚きで飛び上がった。
「せ、セリオス様っ、どこへ行かれたのかと心配しました」
「よく眠っていただろう。ほんの少し出ていただけで大げさな」
苦笑するから、レオナは赤くなる。そんな姿も愛おしそうに、セリオスは砂色の髪をゆるりとなでた。ずっと醜いと思っていた髪が、彼に触れられるだけで、なぜだか尊いものに感じられる。
「おまえにドレスを用意したのだ」
「ドレスですか?」
「ああ。ミラージュ候をあっと驚かせるほどに着飾るがよい」
セリオスが後ろを振り返り、「入ってこい」と言うと、オリビアが姿を現し、「おはようございます、レオナ様」と頭をさげる。そして、彼女に付き従うメイドらしき若い娘がドレスを抱えて一礼をした。
「これは何ごとなのですか?」
レオナが面食らうと、オリビアはあきれ顔でセリオスを見やる。
「団長はまだ何もお話してないのですか?」
「ぐっすり寝ていたからな。愛らしい寝顔を失わせてまで伝えることでもない」
ますますオリビアはあきれてため息をつくと、レオナに生真面目な顔を向ける。
「ストークス伯爵が本日、リーヴァに到着するとの伝令がありました。アラン殿にはすでに伝書を送り、我が父、ミラージュ侯爵の歓迎をお受けいただきましたので、レオナ様にもぜひ、ミラージュ家へお越しいただきたいのです」
「私がご一緒してもよいのですか?」
「当然です。父も、レオナ様に会いたがっているんですよ」
「……そうなのですか?」
初耳で驚く。
「心配だからと、団長が何かと理由をつけては父に会わせないので、お会いできるとなれば、盛大な歓待を受けるでしょう」
オリビアは大げさに言っているのではないか。ベネット公爵の娘だからといっても、それほど歓迎される理由もわからない。
困惑していると、セリオスがメイドからドレスを受け取る。
「さあ、レオナ。これに着替えるといい」
差し出されたのは、花の模様が金糸で繊細に施された深緑色のドレスだった。
「レオナ様によくお似合いになると思います。では団長、部屋を出てもらえますか?」
オリビアがセリオスを部屋から追い出そうとするが、彼は軽やかに後ろへさがり、不服そうに腕を組む。
「レオナの着替えには、なれている。今さら、遠慮する必要もない」
「正気ですか?」
オリビアが目を見開くから、レオナは恥ずかしくてたまらず、セリオスの腕を軽く押す。
「そ、そのような誤解を受けるようなことは言わないでください。いつも着替えはひとりでできています」
「何が誤解だ。夫に隠さねばならないようなものは何もないだろうに」
「そういう話ではありませんっ」
真っ赤になると、オリビアも加勢する。
「ご令嬢のたしなみをなんだと思ってるのですか。本当にそういうところは無粋な上に、気がきかないのですね。そろそろ宝石商が来ますから、そちらをお願いします」
「宝石か。そうだな」
セリオスはあっさりとうなずくと、部屋を出ていく。
「まったく、団長はレオナ様をほかのものに任せるのが相当気に入らないようですね」
ドアを閉めながら、オリビアは不満げに言うが、すぐに笑顔になって、深緑のドレスをレオナによく見えるように広げた。
「私がお選びしました。ほかにも何着かご用意しましたので、お気に召すものをお選びください」
「あの、そちらで大丈夫です。とても綺麗な刺繍がされているので気に入りました」
「光栄です。リーヴァの刺繍は貴族たちがこぞって身につけるほど、質の高い職人たちの手によって縫われたものなんですよ」
「そうなのですね。本当に綺麗です。着てみてもいいですか?」
「もちろんです。……それにしても、うわさに聞く公爵令嬢そのままの控えめな方ですね、レオナ様は。団長のような男でよかったのですか?」
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