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リーヴァ編
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オリビアほど、セリオスに心酔する女性はこの世にいないのではないだろうか。そうでなければ、フォルフェス騎士団に身を置くはずがない。
思い切って、そう言ってみたのだが、オリビアは目を丸くすると、お腹に手をあてて笑う。
「何がおかしいのですか?」
「いえ。団長は素晴らしい方に間違いはありませんが、男としては傍若無人です。夫となると、別なのかと思っていたんですよ」
「オリビア卿……」
「オリビアでかまいませんよ」
「その……、オリビアさんはセリオス様との結婚を考えたことはなかったのですか……?」
嫉妬してると疑われるんじゃないかと心配しながら、レオナはおずおずと尋ねた。途端、オリビアの表情が固くなる。聞いてはいけなかったのでは、と戸惑うレオナに、彼女は淡々と答える。
「兄妹のように育ったとはいえ、私が望んではいけないご身分の方。父が望み、団長が望むなら断ることはありません。しかし、そのような機会は一度もありませんでした。団長にはずっと、想いを寄せる女性がいるのではないかと思っていましたが、今となってはレオナ様だったのだと納得しています」
「私ではないと思います……」
セリオスとはセシェ島で出会った。王宮のパーティーへ初めて出かけたときは、すでにセリオスは氷嶺監獄に投獄させられていたからだ。想いを寄せる機会などなかったことは断言できる。
落ち込むと、オリビアは困り顔を見せたが、彼女自身もはっきりとした確証があるわけではないのだろう、それ以上は言わず、口をつぐんだ。
着替えを済ませ、髪を結い終えたころ、セリオスが一人の商人らしき男を連れて戻ってきた。
商人はレオナの髪の色に目をとめると、まばゆいものを見たかのように目を細め、深々と礼をした。
リーヴァの民はステラサンクタを愛している。彼もまた、リーヴァ出身のものかもしれない。砂色の汚らしい髪であるのにもかかわらず、珍しい色には変わりないこの髪にまで、敬意を払ってくれているのだろう。
リーヴァに生まれていたら、何か違ったのだろうか。クレストル領では、ステラサンクタとして敬意を払われたことはなく、養女として肩身の狭い毎日を送っていたが、リーヴァでなら、誰の視線におびえることなくのびのびいられただろうか。そして、レイヴンの言ったように、楽園であれば、リーヴァよりももっと自由が得られたのだろうか。
「レオナ、好きな宝石を選ぶといい」
商人がテーブルの上に、大小さまざまな大きさのネックレスを並べていく。レオナはそれらをじっくりと眺めた。どれにも宝石をより輝かせる素晴らしい細工が施されており、レオナには不似合いなほど派手な装飾に見えた。
レオナがなかなか選ばないからか、しびれを切らしたようにセリオスが一つを選び取った。
「おまえにはこのルビーが似合うだろう」
メイドがネックレスを受け取り、レオナの首にそっと飾りつける。鏡をのぞき、レオナは浮かない顔をしてしまう。豪華すぎないだろうか。
「気に入らないのか? レイヴンのあれなんかよりは、ずっとよく似合っている。あれはサファイアでもない、ただの魔石だがな」
セリオスはベッド脇に置いたペンダントをいちべつする。その様子を見て、オリビアが笑いをかみ殺した。どうやら、セリオスはレイヴンの贈り物が気に入らないらしい。レオナは今さらそれに気づいて、ルビーのネックレスに手を添えた。
「ドレスの色によく合いますし、セリオス様が選んでくださるものに間違いはありません。こちらにします」
商人の男はうれしげにほおをゆるめ、手をすり合わせる。
「さすがはお目が高い。このルビーはリーヴァの名工が仕上げたものでございます。赤は大陸の熱き誇りを象徴しており、熱烈に愛するものへの贈り物としてよく選ばれております」
「熱烈に……?」
セリオスと目を合わせたら、恥ずかしくなってしまう。彼の愛情は疑っていないけれど、自覚させられるのはどうにも慣れない。レオナは居心地の悪さを隠すように、目の前にあるサファイアを指差した。
「サファイアにも何か意味があるのですか?」
「もちろんでございます。青は誠実さの象徴でございますから、一途に相手を想う永遠の愛を伝えるときに贈られるのです」
「そうなのですね」
では、緑はどうなのだろう。レオナが興味津々にエメラルドに指を伸ばしかけたとき、セリオスが面白くなさそうな声を発した。
「レイヴンは異国の者だ。意味合いなど、国によって変わる」
首をひねるレオナはハッとする。青い魔石にそのような意味があると誤解したのだろう。あれは、宝石ではなく魔石だと、ついさっき、嘲笑したのはセリオスなのに。
「レイヴンには、自国に想う人がいると思います」
とっさにそう言うと、セリオスは長い間を置き、「ほう」とだけつぶやいた。なぜ、それを知るのかと疑われたようで、レオナは失言したことに気づいたが、レイヴンが夢の中で愛する人を想っている話などできるはずもなく、「そう思うだけです」とごまかした。
思い切って、そう言ってみたのだが、オリビアは目を丸くすると、お腹に手をあてて笑う。
「何がおかしいのですか?」
「いえ。団長は素晴らしい方に間違いはありませんが、男としては傍若無人です。夫となると、別なのかと思っていたんですよ」
「オリビア卿……」
「オリビアでかまいませんよ」
「その……、オリビアさんはセリオス様との結婚を考えたことはなかったのですか……?」
嫉妬してると疑われるんじゃないかと心配しながら、レオナはおずおずと尋ねた。途端、オリビアの表情が固くなる。聞いてはいけなかったのでは、と戸惑うレオナに、彼女は淡々と答える。
「兄妹のように育ったとはいえ、私が望んではいけないご身分の方。父が望み、団長が望むなら断ることはありません。しかし、そのような機会は一度もありませんでした。団長にはずっと、想いを寄せる女性がいるのではないかと思っていましたが、今となってはレオナ様だったのだと納得しています」
「私ではないと思います……」
セリオスとはセシェ島で出会った。王宮のパーティーへ初めて出かけたときは、すでにセリオスは氷嶺監獄に投獄させられていたからだ。想いを寄せる機会などなかったことは断言できる。
落ち込むと、オリビアは困り顔を見せたが、彼女自身もはっきりとした確証があるわけではないのだろう、それ以上は言わず、口をつぐんだ。
着替えを済ませ、髪を結い終えたころ、セリオスが一人の商人らしき男を連れて戻ってきた。
商人はレオナの髪の色に目をとめると、まばゆいものを見たかのように目を細め、深々と礼をした。
リーヴァの民はステラサンクタを愛している。彼もまた、リーヴァ出身のものかもしれない。砂色の汚らしい髪であるのにもかかわらず、珍しい色には変わりないこの髪にまで、敬意を払ってくれているのだろう。
リーヴァに生まれていたら、何か違ったのだろうか。クレストル領では、ステラサンクタとして敬意を払われたことはなく、養女として肩身の狭い毎日を送っていたが、リーヴァでなら、誰の視線におびえることなくのびのびいられただろうか。そして、レイヴンの言ったように、楽園であれば、リーヴァよりももっと自由が得られたのだろうか。
「レオナ、好きな宝石を選ぶといい」
商人がテーブルの上に、大小さまざまな大きさのネックレスを並べていく。レオナはそれらをじっくりと眺めた。どれにも宝石をより輝かせる素晴らしい細工が施されており、レオナには不似合いなほど派手な装飾に見えた。
レオナがなかなか選ばないからか、しびれを切らしたようにセリオスが一つを選び取った。
「おまえにはこのルビーが似合うだろう」
メイドがネックレスを受け取り、レオナの首にそっと飾りつける。鏡をのぞき、レオナは浮かない顔をしてしまう。豪華すぎないだろうか。
「気に入らないのか? レイヴンのあれなんかよりは、ずっとよく似合っている。あれはサファイアでもない、ただの魔石だがな」
セリオスはベッド脇に置いたペンダントをいちべつする。その様子を見て、オリビアが笑いをかみ殺した。どうやら、セリオスはレイヴンの贈り物が気に入らないらしい。レオナは今さらそれに気づいて、ルビーのネックレスに手を添えた。
「ドレスの色によく合いますし、セリオス様が選んでくださるものに間違いはありません。こちらにします」
商人の男はうれしげにほおをゆるめ、手をすり合わせる。
「さすがはお目が高い。このルビーはリーヴァの名工が仕上げたものでございます。赤は大陸の熱き誇りを象徴しており、熱烈に愛するものへの贈り物としてよく選ばれております」
「熱烈に……?」
セリオスと目を合わせたら、恥ずかしくなってしまう。彼の愛情は疑っていないけれど、自覚させられるのはどうにも慣れない。レオナは居心地の悪さを隠すように、目の前にあるサファイアを指差した。
「サファイアにも何か意味があるのですか?」
「もちろんでございます。青は誠実さの象徴でございますから、一途に相手を想う永遠の愛を伝えるときに贈られるのです」
「そうなのですね」
では、緑はどうなのだろう。レオナが興味津々にエメラルドに指を伸ばしかけたとき、セリオスが面白くなさそうな声を発した。
「レイヴンは異国の者だ。意味合いなど、国によって変わる」
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「レイヴンには、自国に想う人がいると思います」
とっさにそう言うと、セリオスは長い間を置き、「ほう」とだけつぶやいた。なぜ、それを知るのかと疑われたようで、レオナは失言したことに気づいたが、レイヴンが夢の中で愛する人を想っている話などできるはずもなく、「そう思うだけです」とごまかした。
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