砂色のステラ

水城ひさぎ

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王都編

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『ようやくレオナに会える。今日という日をどれほど待ちわびていたか。夢の中でしかおまえに触れられず、苦悩の夜にため込んだこの思いをはやくおまえの……』

 長々と書き連ねられた整った文字の先へ目を移し、レオナは赤くなるとそっと閉じた。こちらを注視しているメイドが見守る中、とても読んでいられないような内容だった。

 レオナは軽く咳払いし、すぐに便せんを引き寄せると、万年筆で書き記す。

『私もはやく会いたいです。この砂色の髪は目立つでしょうが、誰よりもはやく私を見つけてください。……お会いできるのを心待ちにしています』

 レオナは手紙をくるくると丸めると、赤いリボンで結び、伝書鳩ですぐに王都にいるセリオスへ送るようにメイドに頼んだ。

 それからレオナはクラリスの用意した見事なドレスに袖を通し、星魔石で作ったペンダントを首にかけると、王都へ向かって出発した。

 長雨が終わるとともに喪は明けた。本日、ダムハート宮殿では、新しい国王の誕生に向けた新体制を祝う晩餐会が開かれる。晴れ渡る青空は、レオナを待つセリオスのいる宮殿まで、新たな門出を祝福するかのように清々しく続いていた。

「レオナ様っ、お久しぶりです。お元気そうで安心しました」

 宮殿の入り口で、レオナはオリビアに出迎えられた。彼女はおそらく、どの貴族の娘よりも美しい人であるのに、フォルフェス騎士団のマントを身につけていた。まるでそれが誇りであるかのように。

「オリビアさんも。今日のパーティーは参加されないのですか?」
「もちろん、レオナ様の護衛として参加しますよ。虫けら一匹近づけてはならないと、団長が仰せですから」

 からかうようにオリビアが言うから、レオナは困って赤くなってしまう。寄越した手紙だけでなく、周囲へもレオナに対する欲望を話しているのではないかと心配だ。

「さあ、参りましょう。金銀と輝く貴公子がレオナ様を取り囲むでしょうが、相手せずにお進みください」
「そんな、誰からも話しかけられないと思います」

 オリビアの背中を追いかけながら言うと、彼女はふふっと意味ありげに笑い、レオナを大広間へと導いた。

 大きな扉が開き、レオナは一斉に集まった視線に驚いて、身がすくみそうになった。しかし、どんなときでも堂々としているようにと叱咤するクラリスの怖い顔を思い出して、背筋を伸ばす。

 オリビアにエスコートされて場内に進み入る。すると、若い青年が代わる代わるやってきて、レオナをダンスに誘った。

 以前なら、そそくさと逃げ出していたかもしれないが、レオナは柔らかな笑みを浮かべて、「申し訳ありませんが、本日は踊るつもりがないのです」とやんわりと断った。青年たちは一様に、ほうけた顔でレオナを見送った。クラリスの言われたままにしただけだったが、うまく切り抜けられたようだ。

「ほら、レオナ様は人気でしょう。はやく結婚を公にしないと大変なことになりそうですね」
「それは私が決められることではありませんから」
「本当に、団長は何をやっているのでしょう」

 オリビアが腰に手をあてて不満そうに言ったとき、場内が異様なほどにざわついた。そのざわめきが波のように押し寄せてくる中、まるで潮が引くように人々が後ろへ身を引き、レオナの正面にじゅうたんを敷いたかのような道ができる。その道の先に、黒髪の青年がいる。その髪は、シャンデリアの光を受けて青色にも見え、神秘的な輝きを放っていた。

 その男が近づいてくるたび、レオナの心臓は指で弾かれたようにどきんどきんと高鳴った。ほんの三ヶ月……過ぎてしまえば、大したことのない日数だったかもしれない。けれど、こうして再会してみると、やはり三ヶ月はひどく長かったのだと知った。

「セリオス様……」

 涙が込み上げてくるのを感じながら、まっすぐ見つめてくるセリオスを、レオナは見つめ返した。

「レオナ・ベネット、どうか今夜は俺とダンスを踊ってくれないか」

 セリオスは静かに手を差し出す。

「あ、あの……」

 レオナはいよいよ緊張した。周囲の好奇の目が全身を突き刺すように集まっているのを感じる。

 セリオスはそんな彼女の様子を見て、ふっと笑った。そして、わざとらしく大きな声で言い放つ。

「どうやら気が進まないようだな。ならば、今夜のダンスは免除するとしよう」

 えっ? とレオナが驚く間もなく、セリオスは優雅に両手を広げた。

「代わりに、俺とふたりきりで過ごすのはどうだ?」

 この男には羞恥がないのだろうか。大勢の前でとんでもないことを言い放つ。場内のざわめきはいっそう大きくなり、レオナは呆気に取られたが、どうして彼の申し出を断れるだろう。

 レオナは気づくと彼へ手を差し伸べていた。次の瞬間、セリオスはしたり顔でレオナの腰を抱き寄せる。

「久しぶりに会ったのだ。今夜は俺のわがままを聞いてもらおう」

 セリオスは耳のそばでそっと語りかけてくると、周囲の視線をものともせず、レオナの腰を抱いたまま、悠然と歩き出した。
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