何万回囁いても

水城ひさぎ

文字の大きさ
35 / 38
この想いが届きますように

2

しおりを挟む
***


 大事な話があるから会いたい。

 思い切って結衣ちゃんにメールしたら、わかりました、と返事がかえってきた。

 指定したレストランへ、約束の時間より遅れてやってきた結衣ちゃんは、気まずそうに頭をさげた。

 そっと微笑むと、結衣ちゃんも笑顔を見せてくれた。

 今日は杉田さんが転勤で行ってしまう日だから来ないかと思っていた。だけど俺は、雅也から聞いたことを伝えなければならないと思っていた。

 それは杉田さんがいなくなる今日でなければならないとも思っていた。

「急に呼び出したりしてごめんね」
「全然。芳人さん、だいぶ待ちましたよね」
「気にしないで」

 向かい合って座り、飲み物だけ注文する。
 笑顔を見せてはくれるものの、結衣ちゃんはやはり元気がない。

「今日呼び出したのは、すごく大切な話をしたいと思ったからなんだ」
「はい……」
「結衣ちゃんと俺の今後にも関わる問題だと思う」
「芳人さん、あの……」
「わかってる」

 結衣ちゃんは俺の気持ちを知っている。今はそんな気持ちになれないだろうことは、俺も知っている。

「今から話すことを聞いて、それでも杉田さんを信じられないというなら……」

 俺の口から何が語られるのかと困惑する結衣ちゃんの瞳をじっと見つめる。

「結衣ちゃん、俺と付き合って欲しいんだ」

 一瞬、結衣ちゃんの顔に緊張が走る。しかしすぐに目を伏せ、ゆっくりと、すごくゆっくりとだけど、確実にうなずいた。

 注文していた飲み物が届き、結衣ちゃんは俺のすすめで少しだけ口をつけた。落ち着いてくれただろうか。

「俺が今から話すことは雅也から聞いたことなんだ」
「雅也さんから?」
「そう。雅也が結衣ちゃんを杉田さんに紹介した理由だよ」
「そんなの……」
「聞かなくてもわかる?」

 結衣ちゃんはこくんとうなずく。

 結衣ちゃんが聞きたくないというならそれでいい。俺は結衣ちゃんが欲しい。そして幸せにする自信がある。

「でもね、俺も知ったからにはフェアでいたいんだ」
「フェア?」
「きっと結衣ちゃんを泣かせてしまうな、俺」

 雅也が自分から話すと言ったことを遮ってまで、俺は自分の口から話したいと思った。

 結衣ちゃんを苦しみから救ってやりたい。と思うと同時にそれは、俺が苦しむ結果を生むかもしれない。それでも俺は結衣ちゃんが好きだから、話をしようと思う。

 君はそんなことって言うかな。
 俺も聞いた時は唖然としてしまったよ。
 そんなこと……って、笑ってしまったよ。

「あのさ、結衣ちゃん」
「はい」

 結衣ちゃんは覚悟を決めた顔で俺を見上げる。

「結衣ちゃんと雅也はコンパで知り合ったんだよね?」
「あ、はい……、そうです」
「本当はあの日、雅也じゃなくて杉田さんが行く予定だったんだってさ」
「……え」
「仕事の都合で行けなくなって、代わりに雅也が行ったらしいよ」
「じゃあ……」

 結衣ちゃんはちょっと身を乗り出した。

「佑樹が来る予定だったから、雅也さんは私を佑樹に紹介したの?」

 それだけのこと?って、結衣ちゃんは力が抜けたように椅子に背をもたれさせた。

「結衣ちゃん、それとね……」
「あ、やっぱり結衣だっ」

 俺が身を乗り出した時、結衣ちゃんの後ろに一人の青年が姿を見せた。

 見知らぬ若い青年だ。彼は大きなキャリーバッグを持ったまま軽い足取りで寄ってくると、気安げに結衣ちゃんの肩に触れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...