何万回囁いても

水城ひさぎ

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この想いが届きますように

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「やっぱ、結衣じゃん。外から見えたからさ」

 久しぶりに聞くその声に驚いて、肩に触る青年を見上げた。

「なにやってんの? 結衣」
「なにって……、拓也こそ」
「俺?」

 そう言って、拓也はバッグを指さす。

「今、帰ってきたとこ」
「それは見ればわかるけど」

 拓也の視線が私から離れ、同席している芳人さんに移る。

「誰?」

 拓也がちょっと眉をよせる。拓也は私と佑樹が別れたことを知らない。

「結衣ちゃん、この方は?」

 芳人さんも拓也に興味があるみたいだった。
 私はどちらを先に紹介しようかと迷う。迷ってるうちに、拓也が口を開く。

「俺、結衣の弟」

 拓也は断りもなく私の隣へ座ると、無遠慮にじろじろと芳人さんを眺めた。

「誰?」
「松田芳人です」

 芳人さんが名乗る。

「あのね、雅也さんのお友だちなの。拓也も知ってるでしょ。佑樹の友達の雅也さん」
「知ってるけど?」

 そう言いながらも、拓也は芳人さんから視線を外さない。なんだか機嫌が悪そう。

「佑樹さん、このこと知ってるわけ?」
「あのね、拓也」
「はん?」
「ちょっと事情があるのよ。拓也は海外に行ってて何も知らないと思うけど」
「ああ、知らない」
「いろいろあったのよ」
「結衣が佑樹さん以外の男と二人で会うなんてよっぽどだろ。いろいろってなんだよ」

 拓也は芳人さんをにらみつけたまま、私の話に耳を傾けてる。

 確実に誤解しているのはわかるけど、もたもたと話してるうちに拓也はどんどん話を進めてしまう。

「ごめんなさい、芳人さん。この子、あんまり礼儀がなくて」

 私が謝ると、芳人さんはふっと笑った。

「結衣ちゃんがお姉さんってあんまりイメージないから、びっくりしたよ」

 私って、すごく頼りなく見えるみたい。

「まあそうだ。結衣はとろいからな。だから姉さんなんて呼ぶ気も起きない」

 拓也は一つ年下で、ずっと名前で呼びあってきた。それは年が近いからだと思っていたけど、違ったみたい。

「なんかうじうじ悩んでんだろ、どうせ」
「……」

 否定は出来ない。

「そんなん、スパッといやあいいんだよ」

 それが出来たら、こんなに悩んだりしない。

「それよりさ、俺、佑樹さんに会いに来たんだけど」

 拓也は空気を読まないタイプの人間だ。

「佑樹はもう駅じゃないかな?」
「駅?」

 私は、佑樹が転勤になったこと、今日転勤先へ行くのだと、拓也に話して聞かせた。みるみるうちに拓也の顔が険しくなる。

「じゃあ、なんで結衣はこんなとこにいるんだよ。さっさと駅に行けよ」
「だから事情があって」
「あんた、芳人さんだっけ?」

 私の言葉なんて聞いてない拓也は、芳人さんを指さした。
 失礼なことしないの、と叱るすきさえ与えてくれない拓也は、さらに失礼なことを言う。

「あんた、車ある? あるなら、俺たち連れて駅まで行ってよ」

 芳人さんはクスっと笑って立ち上がる。

「結衣ちゃんの弟さんには負けるな」
「芳人さんっ?」
「駅まで送るよ」
「あんた、話わかるじゃん」

 拓也はにやって笑って、私にウィンクまでして見せた。

 拓也に腕を引かれた私は、駐車場に停めてあった芳人さんの車に押し込まれる。

 今さら佑樹にどんな顔して会えるというのだろう。困るけど、拓也のペースにあらがえない。

 芳人さんが車を発進させると同時ぐらいに、拓也は私のかばんを取り上げた。

「ちょっ……、拓也」
「悪い。貸して」

 いきなり私のかばんから拓也はスマホを取り出し、耳にあてる。

 しばらく難しい顔をしてから、またスマホを操作して耳にあてる。

「あっ、つながった」

 拓也はちょっと明るい声を出した。

「佑樹さん? 俺、拓也」

 その言葉を聞いて、芳人さんは軽くブレーキを踏んだ。
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