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この想いが届きますように
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新幹線の改札口を通ろうとしたところで、スマホが震えていることに気づいた。
改札口から離れ、バッグを足元に置き、スマホをポケットから取り出す。
結衣から電話がかかってきている。
結衣の名前を見るだけで、胸が苦しくなる。俺は知らないうちに、どれほど結衣を傷つけてただろう。
昨夜のことだ。雅也から連絡をもらった。
「おまえ、静香の写真、大事にもってんじゃねーよっ」
珍しく荒々しい言葉で雅也に怒鳴られた。
結衣があの写真の存在に気づいていたことを知った。いつから気づいていたんだろう。知っていて、彼女は黙っていた。明らかに誤解していた証拠だ。そんなことすら、俺は気付けなかった。
雅也はむかつくから詳しくは話したくないって電話を切った。
ぼんやりしているうちに、結衣からの電話は切れた。
かけ直した方がいいだろうか。そう考えているうちに、またスマホが震えた。
結衣からだ。俺はスマホを耳に当てた。
「佑樹さん? 俺、拓也」
思わずスマホを落としそうになった。思いがけない青年からの電話だった。
「おぉ」
「あのさあ、今から結衣とそっち行くから」
あいかわらずの拓也に俺は苦笑する。
本当に姉弟かと思うほど、二人は対照的だ。拓也は人の意見に耳を貸さない。強引だが、意味のない行動をしない青年だということも俺は知っていた。
「結衣は?」
「男と一緒だったから、保護した」
「……そうか」
礼を言うべきかはわからない。一緒にいた男が誰かも想像はつく。
「それよりさ、何の用事?」
「え?」
「電話、しただろ。親から連絡もらってさ。スマホに佑樹さんから電話入ってるって。すぐに連絡できなくて悪かったよ」
「……あぁ」
そうだった。
すっかり忘れていた。
結衣の様子がおかしくなったのがお盆に自宅へ帰ってからだった。何があったのだろうと拓也に確認の電話をしたんだった。
「ちょっと聞きたいことがあってさ」
「なに?」
俺は迷う。拓也の近くには結衣がいるのだろう。拓也は俺の質問に正直に答えてくれるだろうか。
「俺さ、仕事でこっちに来たの。来週にはまた戻るからさ、聞きたいことあんなら今聞いて」
拓也はさっぱりとしている。勇気をもらった気がして、俺は電話の奥にいるだろう結衣を気遣いながら、「あのさ」とつぶやく。
「なに?」
「お盆に……」
「ん?」
「お盆に、結衣になんかあったかなと思ってさ」
「なんか?」
拓也は思案しているのか、沈黙する。
こういう沈黙は苦手だ。嘘をつかれるんじゃないかと不安になる。
「うーん」
拓也は本気で考え込んでいるみたいだった。
俺は辛抱強く待った。結衣に聞いても絶対言わないことだろうと思った。
「ない。ないな」
あっさりと拓也は言う。
「え?」
「ああ、ない。なんにもない」
「そんなことはないだろう」
俺は思わず叫んでいた。目の前を通りすぎるサラリーマンがじろりと俺をにらむ。ばつが悪い思いをしながら、声を押し殺す。
「結衣がお盆からちょっと元気なくてさ。なんかあったかなと思ってるんだよ」
「結衣が? あ、ああ、あれか」
拓也は何かを思い出したらしい。
そんなにすぐ思い出せないほど小さなことなのか?
そんな小さなことで、結衣はあんな風になってしまったのか?
「佑樹さんには全然関係ないことだと思うけど?」
拓也はいたって冷静だ。結衣はあんなに塞ぎ込んでいたのに。
「結衣、元気なかったからさ」
「は、まじ?」
拓也は笑った。
笑うようなことなのか?
「拓也、何の話?」
スマホの奥から不安そうな結衣の声がする。
結衣のあのかわいらしい声を聞くだけで、俺の胸はどうしようもなく高鳴る。
結衣に会いたい。
急激にその思いは募る。
新幹線の時間を確認する。もう行かないと間に合わない。だけど、結衣がこちらに向かっているのなら、俺は……。
「結衣さあ、ばかみてぇに大ファンの詩人がいんの」
拓也の言葉で、俺は我にかえる。
「今、なんて?」
「だからあ、その尊敬する詩人が亡くなってるって知って、ショック受けたわけ」
「詩人?」
「ああ、えーっと名前、なんだっけ? 結衣、あれ誰だっけ?」
結衣は沈黙しているみたいだ。しかし、拓也はハッとしたように叫んだ。
「そうそうっ、ななお、七緒なんとかだよっ!」
新幹線の改札口を通ろうとしたところで、スマホが震えていることに気づいた。
改札口から離れ、バッグを足元に置き、スマホをポケットから取り出す。
結衣から電話がかかってきている。
結衣の名前を見るだけで、胸が苦しくなる。俺は知らないうちに、どれほど結衣を傷つけてただろう。
昨夜のことだ。雅也から連絡をもらった。
「おまえ、静香の写真、大事にもってんじゃねーよっ」
珍しく荒々しい言葉で雅也に怒鳴られた。
結衣があの写真の存在に気づいていたことを知った。いつから気づいていたんだろう。知っていて、彼女は黙っていた。明らかに誤解していた証拠だ。そんなことすら、俺は気付けなかった。
雅也はむかつくから詳しくは話したくないって電話を切った。
ぼんやりしているうちに、結衣からの電話は切れた。
かけ直した方がいいだろうか。そう考えているうちに、またスマホが震えた。
結衣からだ。俺はスマホを耳に当てた。
「佑樹さん? 俺、拓也」
思わずスマホを落としそうになった。思いがけない青年からの電話だった。
「おぉ」
「あのさあ、今から結衣とそっち行くから」
あいかわらずの拓也に俺は苦笑する。
本当に姉弟かと思うほど、二人は対照的だ。拓也は人の意見に耳を貸さない。強引だが、意味のない行動をしない青年だということも俺は知っていた。
「結衣は?」
「男と一緒だったから、保護した」
「……そうか」
礼を言うべきかはわからない。一緒にいた男が誰かも想像はつく。
「それよりさ、何の用事?」
「え?」
「電話、しただろ。親から連絡もらってさ。スマホに佑樹さんから電話入ってるって。すぐに連絡できなくて悪かったよ」
「……あぁ」
そうだった。
すっかり忘れていた。
結衣の様子がおかしくなったのがお盆に自宅へ帰ってからだった。何があったのだろうと拓也に確認の電話をしたんだった。
「ちょっと聞きたいことがあってさ」
「なに?」
俺は迷う。拓也の近くには結衣がいるのだろう。拓也は俺の質問に正直に答えてくれるだろうか。
「俺さ、仕事でこっちに来たの。来週にはまた戻るからさ、聞きたいことあんなら今聞いて」
拓也はさっぱりとしている。勇気をもらった気がして、俺は電話の奥にいるだろう結衣を気遣いながら、「あのさ」とつぶやく。
「なに?」
「お盆に……」
「ん?」
「お盆に、結衣になんかあったかなと思ってさ」
「なんか?」
拓也は思案しているのか、沈黙する。
こういう沈黙は苦手だ。嘘をつかれるんじゃないかと不安になる。
「うーん」
拓也は本気で考え込んでいるみたいだった。
俺は辛抱強く待った。結衣に聞いても絶対言わないことだろうと思った。
「ない。ないな」
あっさりと拓也は言う。
「え?」
「ああ、ない。なんにもない」
「そんなことはないだろう」
俺は思わず叫んでいた。目の前を通りすぎるサラリーマンがじろりと俺をにらむ。ばつが悪い思いをしながら、声を押し殺す。
「結衣がお盆からちょっと元気なくてさ。なんかあったかなと思ってるんだよ」
「結衣が? あ、ああ、あれか」
拓也は何かを思い出したらしい。
そんなにすぐ思い出せないほど小さなことなのか?
そんな小さなことで、結衣はあんな風になってしまったのか?
「佑樹さんには全然関係ないことだと思うけど?」
拓也はいたって冷静だ。結衣はあんなに塞ぎ込んでいたのに。
「結衣、元気なかったからさ」
「は、まじ?」
拓也は笑った。
笑うようなことなのか?
「拓也、何の話?」
スマホの奥から不安そうな結衣の声がする。
結衣のあのかわいらしい声を聞くだけで、俺の胸はどうしようもなく高鳴る。
結衣に会いたい。
急激にその思いは募る。
新幹線の時間を確認する。もう行かないと間に合わない。だけど、結衣がこちらに向かっているのなら、俺は……。
「結衣さあ、ばかみてぇに大ファンの詩人がいんの」
拓也の言葉で、俺は我にかえる。
「今、なんて?」
「だからあ、その尊敬する詩人が亡くなってるって知って、ショック受けたわけ」
「詩人?」
「ああ、えーっと名前、なんだっけ? 結衣、あれ誰だっけ?」
結衣は沈黙しているみたいだ。しかし、拓也はハッとしたように叫んだ。
「そうそうっ、ななお、七緒なんとかだよっ!」
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