何万回囁いても

水城ひさぎ

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この想いが届きますように

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***


 拓也が叫ぶ。

「七緒ー、えっと……、しずか? そうそうそれっ、七緒静華っ!」

 私の胸は不安でいっぱいになる。佑樹と何の話をしてるんだろう、拓也は。

「あ、着いたみてぇ」

 拓也は「改札?」と言った後、スマホを切り、私に差し出してきた。

「佑樹さん、新幹線の改札口で待ってるって」

 私はちらりと芳人さんを見る。芳人さんは振り返りもしない。

「あの……芳人さん……」

 ためらいながら声をかけると、小さく息を吐いた芳人さんはゆっくり振り返り、口端をあげた。

「行っておいで」

 悲しそうな芳人さんは、いつも私の背中を押してくれる。

 私のために、怒ってくれた。
 私のために、こんなことまでしてくれた。
 こんなに優しい人、いない。

「ありがとう、芳人さん」

 それしか言えなくて、うなずく芳人さんに促され、私は車を飛び出した。

 佑樹に会いたい。
 私はあなたを傷つけてばかりだけど、今でも愛しているから、会いたい。

 私、誤解してたみたい。 
 佑樹のこと、ずっと誤解してた。

 静香さんと私の声が似てるから、雅也さんが私を佑樹に紹介したんだってずっと思ってた。

 でも違ってた。ただあの日、佑樹が来れなかっただけ。ちょっと出会う日が遅れただけだったんだね。ばかみたい、私。

「結衣っ」

 私は足をとめた。大きなかばんを抱えた青年が私の前で立ち止まる。

 青年の肩は激しく上下してる。佑樹も走ってきてくれたみたい。

「結衣っ」
「佑樹……」

 佑樹に駆け寄る。佑樹はかばんを下において、胸に飛び込む私を強く抱きしめてくれた。

「結衣、ごめん」
「私も、ごめんね」

 佑樹は私を確かめるように髪をなで、その大きな手で私の頬を包み込む。

「ごめんな。俺、なんにも気づいてやれてなかった」
「ううん……」
「七緒静華のファンだったの? 結衣」

 拓也との電話でそれを知ったのだろう。もう隠したって仕方ない。私はうなずく。

「高校の時からずっと」
「あの動画サイト見て、静香と俺のこと知ったの?」
「うん……」
「あの写真、別に大事にしてたわけじゃないよ」

 佑樹は写真のことも気づいてたみたい。私は問いただす勇気がなくて一人で悩んでた。そんな気持ちも、きっと気づいてくれてる。

「私ね、あのサイトを拓也に教えてもらって。拓也がね……」
「うん……」
「結衣と静香さんの声、似てるなって言ったから……勝手に誤解してた」

 私はぎゅっと、佑樹の腕を握りしめる。

「私、静香さんの身代わりだと思ってた」
「結衣……」

 佑樹は私を強く抱きしめる。

「そんなわけないだろ」

 耳元で囁くから、涙が込み上げる。

 佑樹は大きく息を吸って、私をさらに確かめようと頬に頬を寄せてくる。

「静香とはもう終わったことだよ」
「うん……」

 私は勘違いしてたことを伝えた。
 私と静香さんの声が似てるから、雅也さんは佑樹に私を紹介したんだって、勘違いしてたことを伝えた。

 佑樹は「ばかだな……」って、目尻をさげる。

「俺、結衣にひとめぼれしたんだ」

 佑樹はちょっと恥ずかしそうに言う。そしてスマホを取り出し、一枚の写真を見せてきた。

「なにこれ?」
「結衣の写真」

 それはわかる。私を斜め前からスマホで撮った写真。まるで隠し撮りみたい。

「俺、あのコンパ行けなくなって。まあ、あんま興味なかったし」

 そうだろう。佑樹はコンパなんて行かなくたって、彼女は出来ると思う。

「雅也がさ、女の子達の写真を撮って送ってくれたんだよね」

 それがこの写真って、私の写真をいくつか見せてくる。

「俺、一目でこの子だって思ってさ。雅也にすぐ連絡したんだ」
「……」
「この子に他の男、近づけんなって」

 佑樹を見上げると頬が少し赤くなってて、それを隠すように彼は私の肩に顔をうずめる。

「結衣が俺のこと好きになってくれて、うれしかった」

 佑樹は私を見つめて、ふわって笑った。あめ玉みたいな甘い微笑みだった。

「俺、こんな余裕のない恋したの、はじめて」

 佑樹の顔がそっと近づく。

「佑樹……、人、いっぱいだよ」
「関係ない」

 佑樹のシャツの裾をぎゅっと握る。

 重なる唇がいとしい。
 私も、まわりが見えなくなるぐらい佑樹が好き。

「結衣……」
「なに?」
「声を聞かせてくれる?」
「……うん」
「毎日だよ。毎日、電話するから」

 うん、って私はうなずく。

 佑樹についていきたい。でもこんなこと言うと、また困らせちゃうかなと思って言えない。

「いつか、耳元で聞かせて」
「佑樹も……ね」

 佑樹は私から離れるとかばんを持ち上げた。

 行っちゃうの?でも引きとめられない。

「すぐに会えるよね?」

 佑樹はそっと私を抱きしめて、耳元でささやいた。どきりとする。何も言えない私に微笑みかけて、彼は改札口へ向かって歩き出す。

「佑樹っ」

 さみしそうな背中に向かって叫ぶ。

「すぐに会いに行くねっ!」

 そう言ったら、佑樹は優しく微笑んだ。

 その笑顔が私を救う。いつでも佑樹は私を包み込み、優しい気持ちにしてくれる。

 耳に手を当てた。
 佑樹の声がまだ、耳の中をこだましてる。

「結衣、今度会うときはその美しい声を聞かせて欲しい。愛してる。俺も何万回だって言うよ、結衣を愛してるって」




【完】
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